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異郷より。 作者:TKミハル

『広い海と嵐と魔物と』

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速雨

 次の日は、朝から雲行きが怪しく、夕方になってザアッと雨が降ってきた。船の水夫たちは天の恵みとばかりに容器を甲板に並べ、真水確保に忙しい。

 光る巨大な魚(?)を追う、という目的は変わらないが、雨だと周辺の状況が分かりづらいため船のスピードは自然とゆっくりになっていく。

 昼前、ヒューイックは光るあの巨大な生物が一連の魔物騒ぎの原因かもしれないこと、事と次第によっては交戦となるかもしれないことを皆に説明し、同意を求めた。
 しかし、どうにも渋る人間が多く、あの時怪我を負い、癒された者はなおさら反対意見を主張する。

 その根拠がヒュドラの再生、というやや曖昧だったものの、船長の言うことなら、と同意した者も半数。しかしそれでも、自分たちで手を下すのはためらうようだった。

「……どうする?」
「とりあえず様子見、かな。あれだけの巨体……簡単に倒せるとは思えないし」
 下甲板で叩きつける雨音を聞きながら、シャロンはアルフレッドと言葉を交わす。なんだかこういう落ち着いた時間は久しぶりな気がした。まわりは同じように休憩する人でかなり騒がしくはあったものの。

「よお。ヒューから作戦のこと聞いたか?なんでも、砲弾使って追い込むらしいぞ」
 通りかかったジークが気づき、こちらのテーブルにやってくる。
「大砲を使うのか?」
「ああ。まわりから攻めて行動範囲を狭め、浅瀬へと追い込む」
「その後は」
「小舟で近づき、岩を渡りながら攻撃を加えるらしい。かなり大雑把な作戦だよな。まあ、ヒューの持つ武器っていうのは、もともと硬く防御力のある敵にかなり有効らしいから」
ジークはそう肩をすくめてみせた。
「で、俺はやるけど。そっちはどうする?」


 考えさせてくれ、と答えて、もう残り少ない酒をアルと飲み交わす。まだ大分早い時間だが、他にすることもない。
 危険が高く、そして相手が相手なので、討伐メンバーはひどく少なくなるだろうことが、簡単に予想できた。

 船は光る姿を追い、滑るように走っていく。岩礁地帯にとっくに踏み込んでいるせいで、水夫たちの水面を見張る目は厳しく、レイノルドとハリー、ブロスリーが中心となり、船の進行の微調整をしていた。辺りの魔物はそれほど多くはなく、たまに来てもせいぜい小物が二三匹。

 元気な者たちは、そいつらを斬り伏せたり、鍛錬をしたりと揺らぎなく動いてはいるものの、あの光る生物を討伐するのには否定的なようだ。それでも、短いあいだにヒューイックが信頼を得たせいか、表立っての暴動などはなく、見守る、という形をとっている。

 そして、光る巨大な魚(?)の姿の目撃情報が次第に増え、そろそろ決行に、という話になった。船長室に呼ばれたシャロンたちはそこで、驚くべきことを耳にする羽目になった。

「本当に、今のところ直接倒しに行くのがヒューイックとジークだけなのか!?」
「ああ。もっとも、追い込むところまでは協力してくれる者は大勢いる。浅瀬に入れちまえば、まあ、板の上の魚みたいなもんだろ」
 むしろ被害が少なくて済むんじゃないのか、とヒューイックは揺るぎない表情で笑う。
「だからといって……あれだけの巨体をか……」
「それで、おまえらはどうするんだ。強制はしないが、まあ来てくれると嬉しい」
「……わかった。危なくなったら、自分の身の安全を最優先にする、という条件なら」
 渋りつつもそう話すと、いや当然だろ、と驚いた顔をされた。ジークが首を傾げ、
「随分あっさり協力するんだな。……いいのか?神を殺すことになったら。しかも確実にここのメンバーの恨みを買うし」
「まあ、いいんだ。私は神なんて……ただ願いを叶えてくれる、そんな都合のいい存在じゃないとわかっているし、それに……ほっとくわけにもいかないじゃないか」

 若干照れたので早口で言った。ふぅん、変わってるなとジークが笑う。
「オレたちには正直助かるけど」
そう呟き、ヒューイックも頷いた。

 海はいつもと同じ鈍い灰色と濃紺の混じり合った色に輝き、時折そこへ白く光る巨大な物体が姿を現し、波間に消えていく。震えるような神秘的な光景で、今から自分たちがすることが、冒涜以外の何ものでもないように感じてしまう。

 遠望鏡に片目を当てていたヒューイックが、いいぞ、と下の水夫たちに声をかけ、ギリギリまで近づいてから、砲台で指示を待つ男たちに、叫んだ。
「今だ、撃て!!」
 轟音とともに弾が発射され、光る物体の近くに水柱が上がる。遠目からでもその混乱が見て取れ、ぐるぐると凄まじいスピードで泳ぎまわる姿が目に映った。
「次っ!」
 水夫たちは思うところもあるだろうに、全員が一糸乱れぬ動きで船長に従い、それを乗客が息を飲み見守っている。

 轟音、また轟音。それが何回も続き、白く光る巨体が空に跳ね、やがて砲弾のない方向へと泳ぎだした。
 しばらく経ち、やっと静かになったところでレイノルドが、
「いいぞ。あちらの環礁には機雷を撒いたから……うまい具合に行ってくれた」
とヒューイックに声をかけ、彼が真顔で頷いた。
「ああ。これからが本番だな。おい、ジーク。おまえは……」
「残れなんて言うなよヒュー」
「……わかってる。おまえのその一撃は軽いから、反撃に気をつけろ」
苦い表情でそう言って、また遠眼鏡を目に当てた。

 そして、遠くから爆発音が響く中、船はそちらへ慎重に進み、ある一定の距離まで近づくと、ヒューイックとジーク、それからシャロンとアルフレッド、というたった四人だけを乗せた小舟を下ろし、小舟は勢いよく波に乗り、あの白い巨魚が暴れる環礁地帯へと近づいていった。
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