挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
異郷より。 作者:TKミハル

『広い海と嵐と魔物と』

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

155/346

波間を往くもの

 少々グロい表現あり。ご注意ください。
 皆の健闘あってか、十ほどあったヒュドラの首は半分以下に減っていた。

 アイリーンは船長室からレイノルドの許可を得て高価な酒を何本も火炎瓶に改良し、持ち去っていく。

 気を取り直したヒィロがその姿を見つけ、一本貰うと、蛇を翻弄しまさに戦いの最中であるリューリクとソーマに声をかけ、ソーマがタイミングを計り、リューリクが蛇の大口にほぼ飲み込まれんばかりにして剣を突き立て、同時にヒィロが火をつけた瓶を投げ、ソーマはその瓶を蛇の口へと放り込む。

 叫びつつリューリクが口を切り裂き、同時に炎がジュウジュウと蛇の肉を焦がす。

 事態は徐々に収束に向かうかに見えた。シャロンとマティルダが対峙していた蛇も、シャロンがその鼻先から口にかけてを捕らえ、マティルダがそこから口を裂いて振り飛ばす。すると、どこからともなくボウガンの矢が突き刺さり、その蛇の傷口を焼き尽くした。

 それを見ていたのか、いくつかの蛇はマストに体当たりし、ケインは慌てて張られていた網やロープを伝い、下の安全な場所へと降りていく。マストの柱にはヒビが入リ始めたが、被害はひどくなる前に、そこを捕らえたヒューイック、アルフレッドによって斬りつけられる。

 本体はその痛みにが甲板の上で身を捩り、近くで攻撃していた者を跳ね飛ばした。やがて、その体が制止したかと思うと、蛇の頭がムクリと首をもたげ、声高に鳴き叫び始める。

 ギュィイイイイッ 

 ギュィイイ、ギュィイイイイと残りの頭もそれに答え、共鳴する。

 様子を窺っていたヒューイックははっと何かに気づき、急いで叫んだ。
「全員、避けろッ!」
 ヒューイックが床に伏せたその瞬間、蛇の頭がその上を薙ぎ、手近な者の体に食らいついた。ぶんぶん振り回して咬み千切り、すぐに次の獲物を狙う。その体に斧で斬りつけるも、先ほどより明らかに斬り口が鈍くなっている。

「クソッたれがぁッ」
 離れたところで戦っていたデュサクの仲間は襲い来る牙となんとか斬り結ぶも、肩の一部を砕かれ跳ね飛ばされた。たまたま近くにいて、慌ててその男を回収しようとしたハリーにも、牙は襲い掛かり、その足を捉えた。

「あ、ああああぁあッ」
「ハリー!」
 叫んだものの、場所が遠い。ヒューイックは、ハリーの足を食い千切りさらに頭を狙う蛇目掛け斧を投げた。

 その斧は狙い違わず蛇の頭蓋を打ち砕いたが、すぐにその肉は蠢き再生しようとしてくる。そこに急ぎきたアルフレッドが、床に転がる剣を左手で拾い、自分の剣と合わせてうねる蛇の体を斬り捌き、簡単には再生できなくし、続いて蒼褪めつつも油瓶を持ってきた水夫からそれを奪うと火をつけ投げ込んだ。

 蛇の一部は奇妙な行動を見せ、わざと自分の体、本体を傷つけたかと思うと、そのぱっくりと開いた傷口からニュッと蛇の頭が生え、すぐに近くの獲物へとその首を伸ばしていった。

「くそ……埒があかない」
 ヒューイックは蛇の体液がこびりついた髪をうっとおしく思いながら、水夫たちに運ばれたハリーの方を見やり呟いた。

 その頃、レイノルドは斬撃の音や悲鳴が響く中、船長室で火薬を使った道具の制作に没頭していた。飾り樽や壺、枠のあるものに火薬を調合して詰め、導火線を立てる。
「できたぞ、俺の最高傑作が」
 誰にともなく呟き、ドアを開けると、
「ヒュー、こんなものを作ってみたから、使え!!」
と言ったはいいが、まわりの惨状に唖然として声が出なくなった。

「引っ込んでろよ、戦えねえんだから!!」
 その姿を見たケインが叫び、レイノルドが戸惑いながらも頷くと、抱えていた爆弾を頼んだ、とケインに放る。そして彼が嫌だと断る前に、部屋に引っ込んだ。

「まったく……」
 ブツブツ言いながらもケインは斧を拾いあげたヒューイックの元に、それを届けるとレイからだと告げたきり何も言わずすぐに立ち去った。

「これは……!いける」
 ヒューイックがアルフレッドを呼び、樽と壺の爆弾を見せて即席の打ち合わせをすると二手に分かれた。

 本体に向かう二人の姿を目にしたシャロンも、人を襲う蛇の頭を牽制しつつもじりじりとそちらに向かう。 

 ヒュドラの本体は、相変わらずぐねぐねと蛇の胴体がいくつも取り巻き、蠢いていた。そこにアルフレッドが斬りつけるが、分厚く通った様子がないどころか、すぐさま蛇の頭が視線をこちらに向け襲ってくる。
「クソッ、もう一人呼んでくるか」
 それと斬り結びながらヒューイックが舌打ちしたところでシャロンが来て、ちょうどいいと手でちょいちょいと合図する。
「シャロン、こいつを頼む。あの分厚い肉をこれからなんとかするからそこにありったけ突っ込め」
 ぽいっと渡された六個の爆弾を慎重に受け止め、シャロンは頷いた。その様子ににやっと笑いつつ、ヒューイックは懐から女神型火つけ道具を取り出し、彼女に渡すとすぐさま向かおうとする蛇に斬りつけた。

「じゃあ、いくぞ」
 アルフレッドと声をかけあい、その斧を振りかぶると、ドシャリと蛇に突き立てた。

「うげっ」
 すぐに肉と肉がくっつきそうになるのを気持ち悪く思いながら、下から上へと斧で斬り裂き、同時に甲板を蹴り、続いて蛇の頭を台に跳んだアルフレッドが上から剣を突き立て自分の体重を利用して切り開いていく。
「おい逃すな!」
 シャロンは頷き、予め火をつけておいた爆弾を四つ中へ放った。

 なぜ全部入れなかったのかは、彼女自身にもわからない。

 爆弾はぶつかり合い、二つは中へ埋まったが二つは離れ――――――シャロンはすぐさま風を広げて使い、ヒュドラの体内へと爆弾を押し込み、不思議とそうした方がいいような気がして、アルフレッドとヒューイックを強力な風で吹き飛ばす。

 次の瞬間、内部で大きな爆発と同時に、蛇の体から爆炎が上がる。

「…………」
「…………どこまで危険なブツを作った、あいつは」
 強力な風で吹き飛ばされたもののすぐ起き上がり、ヒュドラが燃える様子を見つめながら、ヒューイックが零す。
 アルフレッドはあまり頓着せず、嬉々として(?)ビッタンビッタンと跳ねる蛇の頭の生き残りに止めを差している。

 ヒュドラを倒したというのに歓声は上がらず、まわりをぐるりと見渡せば、甲板のあちこちでは呻き声が響き、手を食いちぎられた者、かろうじて繋がっている足を引きずり這っている者、内臓がはみ出しもう死を待つばかりの者たちで溢れていた。

「勝ったはいいが……これでは」
「おい、何かがこっちにくるぞ!」
 ヒューイックの呟きは、怖れと絶望の入り混じった叫び声に掻き消された。

 遠くから白い光が近づいてきたかと思うと、船と同じかそれよりはひとまわり小さいであろうか。

 真っ白な巨体が海の、ちょうど船の真下を通り、ゆっくりと過ぎ去っていく。辺りは一面淡い光りで包まれ、おい、見ろ!と感極まった震え声にまわりをもう一度確認すると、すべての者の傷は癒え、信じられない、といったように自らで立ち上がっていた。

 光の名残りは消え去り、ヒューイックは再び信じられない光景を目にすることとなった。

 あのヒュドラの肉片が集まり、すでに頭が再生しかけている!

 その速さは尋常ではなく、すぐにアルフレッドも気づいてその肉の塊に剣を突き立てるが、致命傷には程遠い。
 焦りながらも、冷静に、と自分に言い聞かせてまわりを見れば、そう遠くない場所に、壺型爆弾が二個ぽつんと置いてあった。

 なんだか知らないが、ありがたい。

「シャロン、火は!」
 口を開け頭だけで甲板をくねる蛇を剣で床に縫い付けたシャロンが、慌てて女神の火つけ像を投げてよこし、アルフレッドの斬り裂く手元に合わせて爆弾を内部に放り投げ、同時に彼が蛇を蹴って遠ざかり――――――狙い違わず爆発によってヒュドラの体はバラバラに弾け飛ぶ。

 今度こそまわりからは歓声が上がり、やったぜ、と喜ぶ声と、さほど信心深い者が乗っていたわけでもないのに神に祈り、讃える声が聞こえてくる。

 その歓喜の声を背景に聞きながら、ヒューイックは一人苦く悟っていた。


 あの、白い怪物こそが、この魔物発生のすべての原因に間違いない――――――と。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ