挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
異郷より。 作者:TKミハル

『広い海と嵐と魔物と』

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

152/342

疾走

 前回を8月24日に改稿付け足ししました。それ以前に読まれた方はそちらを先に読んだ方がいいかも知れません。二度手間ですみません。
 それからの彼らの動きは早かった。

 昼頃には全員を集めて、例の光る物体を見つけた者、そのほか有益な情報を手に入れた者にはと褒賞の宣言。雲を掴むような話に思えなくもないが、ある程度の目撃情報だけで謝礼が出るとなれば、腕に覚えのある者でなくとも俄然色めき立つ。

 さらにヒューイックはその場ですべての者に対し、挑戦はいつでも受けて立つと豪語し、朝に彼に叩きのめされた男たちは、その言葉で闘志を燃やし、ギラつく眼差しで彼を睨みつけていた。

 そうして、光る魔物(?)探しと、船長への挑戦が始まり、丸二日経って気がつくと、自然とギスギスした空気は減り、まわりの男たちの話題は、どうやったら船長の鼻を明かせるか、というものや、豪華な褒賞を得たい、といった話ばかりになり、同時にあれほど挑戦を受けながら一歩も怯んだり、宣言を撤回する様子のないヒューイック自身にも、尊敬の念が集まり始めている。

「まったく、最初からこうしとけばよかったんだ」
 マーヤが久しぶりに船内の休憩室に姿を現し、やれやれといった風情でシャロンに零した。
「……まったく、何してたんだ」
「あんな悪状況の中で場に出るほど胆が据わっちゃいない。こっちはか弱い女性二人だぞ」
「まあ一応部屋で筋トレとかはしてたけどねー」
真顔のマーヤに続いてあっけらかんとアイリーン。

「…………そうか」
 いろいろ突っ込みどころはあったものの、言えば逆にやり込められそうなので流すことにした。
「で、シャロンは専属騎士アル君と進展はー?……なんてね、こんな場所じゃあるわけないか」
 う、流したのにわざわざ持ち出された、ので、
「何度も言うがアルとはただの気のおけない仲間、みたいなものだから。そんなことより、褒賞の話は聞いたか?」
「あー、うん。聞いたけど」
 アイリーンは、シャロンってごまかすの下手くそだよね、なんて言いつつ、
「今回は食べ物や酒も入ってるんだよね。やっぱ、狙うは高級酒でしょ」
と目を輝かせていた。

 夜、完全に日が落ちてもまだ、ランタンを持ってうろうろしている冒険者の姿が、甲板上のあちこちに見られる中。
 やっと状況が落ち着いたので、近況を聞こうと、アルフレッドに声をかけたシャロンは、舳近くの甲板へ一緒に向かっていた。
 道具点検をしていた水夫の一人が、けっ、という顔で嫌そうにその場を離れていく。

 弁明もさせず去っていった男をなんとなく哀愁を込めつつシャロンは見送り、続いて近くの手すりに腰掛けた。
「……アル。あのさ、最近その……様子はどうなんだ?光る物体は現れたのか?」
「…………あ、ああ、うん。たまに、その航跡を見かける。逐一報告してるから、今はそいつを追ってるはず」
「すごいな、それは。うまく、魔物大量発生の原因が見つかるといいな」
「……そうだね」

 しらけた顔で海を眺めるこいつの沈黙の間が長いのが気になるが……。まあ、付近をうろつく足音や、‘なんか見えるか?’‘いやよくわからん’といった掛け合いがそこここで聞こえるので、落ち着かないのかも知れない。

「シャロン、あそこ」
 アルがポンと肩を叩いたかと思うと、船の先、星影も見えない空と暗い海の境目を指差した。なんだか小さく薄く白いものが見えた気がしなくもない。
「かなりでかい。近づくのは容易じゃなさそうだ」
「うん、全然わからないから。誰もがおまえのような並外れた視覚を持つと思うなよ」
 笑顔で返事をしてやると、しばし考え、
「あれは……全体的につるっとしているこれまで見たこともないほど大きな白い体。おそらくこの船の半分ほど」
「……それはどうも」

 聞くんじゃなかった。

 シャロンはうんざりしつつ、しばらく同室の面々の様子などを聞いて、早々にアルフレッドにじゃあ、おやすみと挨拶し、再び自室へと戻っていった。

 また、幾日か過ぎた。光る物体の目撃情報は多くなり、同時にでかすぎるんじゃないのか、という不安げな声も上がってくる。

 ヒューイックは鍛錬が終わると、これまでとは違い、皆に今の状況の説明を逐一説明したり、またよく船内で食事を取っている男たちから様子を訊いたりしてしっかりと船長の役割を果たしている。

 彼が前に出て話し始めれば、自然とその場は静まり、他の者たちは黙ってその言葉を聞き漏らさないようにしている、という変わり具合。

 いつのまにかヒューイックを中心に、個々の集団が一つの目的に向かって動いていて、シャロンは初めて彼の、その人心掌握の度合いにわずかに怖れを抱いた。

 その日船長室では、もう何度目か知れない集まりがあり、ヒューイックが光る物体、巨大な魚に似た何かに大分近づいた、これから各自警戒を怠らないでくれと一同に告げた。
「アルフレッドの話ではまわりにちらほらと大きな魔物の影も見えるらしい。やはり一筋縄でいかなさそうだ」
 そう言って眉間にしわを寄せるヒューイックに、
「しかし、なんだかここ数日で随分船長らしくなったな」
とシャロンが率直に言うと苦笑し、
「ああ。これまで大分、時間を無駄にし過ぎた。まあ、猿山のトップなんて気を抜けばすぐに入れ代わるが、今の時点でそれが起これば、この船は終わる」
 隣ではヒューイックの活躍とは裏腹に、ここ数日空を仰いでそのまま突っ立っていたり、海の中をじっと見て半日を過ごしたり、何かと奇行が目立つレイノルドが、やつれた顔、隈のある目を海図から離さず頷いた。

 ジークも疲れた様子で高級な木の椅子に遠慮もせずどっかりと腰を下ろしているが……こっちは別件だろうか。

「ジークまでぐったりとしているのは珍しいな」
 シャロンが尋ねると、
「あ゛ー……長旅だからな。出るんだよ、ヤツらが。……ここ二、三日棍棒持って追いかけまわしっぱなしだよ。あいつらすばしこいのなんのって。知らずに増えてて鶏まで噛み殺されそうになった」
そうため息を吐いて椅子の背にもたれかかった。

「レイはどうしたんだ。まさか一緒になってネズミを追いかけまわしたわけじゃないだろう」
「なんというか……睡眠不足」
そのままな答えが返ってきた。

「レイには、今相当負担がかかっていてな。この辺りの岩の磁力で、羅針盤が使えず、かといって太陽・月・星のどれもが隠れていては方角に見当をつけることもできない。レイノルドの観察眼と水夫たちの尽力によって、海の中の状態、岩の張り出し具合の情報をまとめてやっと、安全に進む方向を決定しているんだ」
「…………」
 唖然とし、肝心なことを秘密にしていたヒューイックとレイノルドを交互に見やる。我に返り非難めいた言葉を口にしかけた時。

 ドォンッと船に衝撃が走り、ギシギシ軋む音とともに非常事態を知らせる鐘の音が、カンカンカンと響き渡った。

「おい!何事だッ」
 まずヒューイックが扉を開け、叫ぶと、すぐに近くにいたらしいハリーが、
「魔物に追突しました!!なお悪いことに、舳先からよじ登り絡みつこうとしてます!!」
そう叫び返してくる。

 船長室前に立つシャロンたちの視界に、探すより先に、うねうねと巨大な体を絡みつかせ大蛇の首を何本ももたげている奇妙な魔物の姿が飛び込んできた。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ