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異郷より。 作者:TKミハル

『広い海と嵐と魔物と』

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流される

 それはない、と言い切ることはできず、シャロンは黙り込む。もし暴動が起こったらどうなるかはわからない。
「まあ、そうなったらなったで、相手すべてをボコるだけだけどな」
 酒の小瓶から一口ごくりと飲んでマーヤはあっさり宣言した。
「うう……マーヤ~頼んだよ~。船の上じゃ逃げるとこないんだからさー」
 アイラが若干涙目になってすがりつく。ええと……
「二人は、長いのか?」
「え?ええと……かれこれ二年ぐらいになるかなあ……。ほら、マーヤってとっつきにくいでしょ?なんかこう、遠巻きにされんだよねえ。反対にあたしは一人だと変なのから声かけられること多くって。ほら、あのジークとかさあ」
 女だからって嘗めて欲しくないよねえ、といい、
「ふふふ……今度来たら覚えとけよ男ども……!!」
何か嫌なことでも思い出したのか、その笑みが黒い。

 と、そんな話の最中に、ノックの音がして、シャロンいるか?とジークがドア越しに声をかけた。
「あ~……今行く……」
 二人の物問いたげな視線が突き刺さる中、シャロンがドアを開けると、ジークが室内の異様な雰囲気と酒気に気圧されつつも、
「船長が至急来てくれって呼んでる」
用件を告げたが、刺さる視線は強さを増しただけだった。

「まったく、真昼間から酒盛りかよ……」
 向かう途中の呆れたような問いかけに、自分はあまり飲んでない、だとか、他にすることあるのかとか、いくつかの反論が浮かんだが、藪蛇も嫌なので黙っていた。

 部屋には、表情の晴れないヒューイックとレイノルドがいて、シャロンとジークを認めると、ドアを閉めろと合図をして向き直った。
「わざわざ、悪いな。実は……シャロンにやってほしいことがある」
 ヒューイックが真剣な表情で、
「レイとも相談したんだが……それしか方法はない、と。おまけに他に頼める相手もいないからな」
「………何、を、しろと」
 シャロンの脳裏に先ほどの会話が蘇り、背筋が寒くなった。いや、それはない、はずだ。

 無意識にアルフレッドの姿を探したが、彼はいない。というか、なんだか自分のその行動にダメージを受けた。いやいや、別に頼ってるとかじゃないからな。

「すまないが……その剣を使って、できるだけこのまわりに立ち込める霧を払ってくれないか?」
「え、なんだ、そんなことか」
 ほっと息を吐く。変な前振りが長すぎだ!

 その返答にヒューイックが逆にびっくりしたように、
「おい、いいのか?力を使えば、それだけ疲弊する。それに……」
「それぐらいなら大丈夫だ。まさか倒れるまで続けさせるつもりもないんだろう?適度に休憩を挟めばいい」
「そうか。助かる」
 彼は安堵して肩の力を抜いた。
「いや、シャロンがジークやケインぐらいの性格だったら気軽に頼めたんだが」
「?」
「とにかく、時間が惜しい。すぐに来てくれ」
 ヒューイックがレイと先導し、舳先へと立つ。
「いいか、なるべく広範囲だ。めいっぱいやってくれ」
「了解」
 剣を抜き放ち、霧に覆われた前に立つ。集中して、振りかぶる。風が巻き起こり、辺りの霧がサアッと遠退いた。
「すごいな。もっと先、周辺の岩礁が見渡せるぐらいまで、いけるか?」
 レイの言葉に、さらに風の力を強めると、次第に海上と、岩が現れ始める。

「おい!霧が晴れ始めたぞ!」
 誰かの叫び声が上がり、甲板にわらわらと人が集まり、徐々にこちらへと……。
「シャロン、まだだ!もう少し先まで晴らさないと、船が危ない!!」
「いや、うん、わかってるんだが」

 さらに二三回剣を振ったところで、舳先は完全に人だかりができ、すげー、だの、おお、あれが魔具の力か……!!などと感心する声が近くで聞こえ……非常にいたたまれない。
「はいはい、これ以上近づくと危ないよ。見てる人はちゃんと離れて離れて」
 ジークがブロスリーなど数人の水夫たちと観光案内人よろしく、賑わう冒険者&傭兵の男たちを整理し始めた。
「……」
 なんの罰ゲームだこれは。
 シャロンは内心涙しつつ、霧が周辺から姿を消すまで、剣を振るい続けた。

 しばらく後。周辺の霧は晴れ、船は順調に進み始めたが、シャロンの心には以前として暗雲が居座っていた。

「おし、次はあそこに並べられた中の、右から三番目の木人形をやって見せてくれ」
「…………」
 なぜこんなことになったんだろう、と嘆きながらも、髭面の男に請われたとおり、並べられた中からその人形だけを風で真っ二つにしてみせる。おおおっとどよめきが上がり、別の男が、
「今度は誰かの頭の上に板を乗せろ!勇気のある奴はいないか!?」
そう言いだして、彼らの無邪気な要求は続く。

 何十回とやってみせたところで、もういい加減にしろ!と怒鳴って、その場の人波をくぐり抜け、船の端へと逃げてきた。
 いつのまにかついてきていたらしいアルが、憮然としてこちらを見下ろした。
「いくら僕が気をつけていても、君がそれを選んだら意味がないよ。もっとまわりを見ないと。常に状況は変化し、それに沿って思惑も変わる。……しばらくはシャロンがイケニエのまま、だろうね」
「イケニエ……」

 嫌な響きだ。いやむしろ、この場合は道化じゃないのか?

 シャロンはやっとこの段階になって、ヒューイックとレイノルドの思惑を、理解した。乗客の鬱憤を晴らせる何か。それはきっと、シャロンじゃなくても構わなかっただろうが……アルの言うとおり、意図せず自分で選んでしまった道だった。


 ヒューイックたちもいろいろ考えてるよ、という話。
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