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異郷より。 作者:TKミハル

『広い海と嵐と魔物と』

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水面下

※前回を7月17日午前1時改稿&付け足ししたため、それ以前に閲覧した方はそちらを先にお願いします。申し訳ありません。
 引き続き戦闘シーンあり。シャロン寄り視点。
 魔物は少しずつその数を減らし、海鳥もさすがに学んだのか次第に襲撃が間遠になっていった。

 それを見たレイノルドがハリーを呼び、何やら指示を出している。遠目にはヒューイックが、幾人かの壮年の男たちが、高足蜘蛛なのか蟹なのかよくわからない魔物を攻めあぐねているところへ、手助けに入っていた。そのタイミングは絶妙で、シャロンは感心しつつ、思わず声を洩らす。
「……すごいな、あれは」
「何が?」
 一人言に返事が返り、思わずビクッとして後ろを振り向いた。
「アル……!なんでわざわざ気配消してくるんだ」
「驚かせたかったから。で、何がすごいって?」
 シャロンは半目になり、最近おまえなんか私へのあたりがきつくないか、とかブツブツ言いつつ、
「ヒューイックのことだよ。地味だけれど必ず手薄なところにフォローに入ってる。さすがだな、と思って」
「…………シャロンは、優しいね」
 その声にやや呆れを感じとり、思わず顔を上げると、ポスッと髪に手を置かれ、
「あいつの動きはこの際どうでもいい。問題は水夫たちだ。これだけの魔物に襲撃され、危険に身をさらしながら、水夫たちは誰一人動揺せず、淡々と役割をこなしている。マストや他の重要場所へ近づかないような誘導、怪我人の搬送、戦う者へのフォロー」
 ふっと息を吐いて、
「ヒューイックはその中心にいて、常に他の乗客の目を逸らし続けている。この旅は、あるかどうかもわからない、魔物発生の原因を探すためのもの。まだ、とっかかりすら見つけてはいない。ここで士気が下がれば、結果は明らかだ」
彼はすべての責を負う。失敗したらそこでお終いなんだよ、と呟いた。

 そうしているあいだにも、また新たに二体出現した。どうやらこれで頭打ちのようだったが、その船が傾きそうなその巨大さに、まわりが二の足を踏む。その魔物は別々に動き、片方がメインマストへ向かったので、ヒューイックと何人かが血相を変えて足止めに入った。

 さすがにリューリクたちにも疲れが出てきたのか、別の一体に対峙するも、魔物の焦げ茶のまだらの足に薙ぎ払われ、たたらを踏む。

「アル、行こう」
 そこへ近づこうとしたものの、人ぐらいの大きさの小蜘蛛(?)の群れにアイリーンたちが苦戦していたので、大きいのはアルに任せてそちらへ手助けにまわる。

 小蜘蛛(?)はそれほど硬くなく、三人の手によってじりじりとその数を減らしていく。

 その先ではヒィロやソーマが疲れた体に鞭打つように剣を振り、魔物のバランスを崩している。その最中で彼らは、満身創痍でふらつきながらもさらに戦おうとするリューリクを殴り気絶させ、強引に戦闘から引き剥がした。

 足を斬られ、ドスっと膝(?)をつくことになった魔物の毛むくじゃらの胴体へ、アルフレッドが剣を振るい、体をめりこませるように渾身の力で刺したが、魔物も最後の力を振り絞り、ガチリと剣を咥え離さない。しかし、彼は落ち着き払い、抜かずさらに剣を進めて魔物の息の根を止める。

 と、次の瞬間ぶわっと魔物の体が広がった。広がったと思ったのは、目の前の小蜘蛛っぽい奴より体半分ほど小さい魔物の群れ。それがいっせいに深々と剣を突き刺したアルフレッドへと群がった。まずい!

 シャロンは力いっぱい魔物を振り飛ばし、絶命させ、剣が未だ抜けないでいるアルフレッドへと自らの剣をぶん投げた。
「アル、これを!」
 その剣は狙い違わずアルフレッドの手元の一体へ突き刺さり、それを手にしたアルフレッドが、殺気を漲らせて強く剣を振るう。同時に剣から激しい旋風が巻き起こり、魔物たちの体をバラバラに船外へと放出した。
 しかし、続いて彼の体は傾ぎ、カランカラン、と剣を取り落としてがくりと膝から倒れ込んでいく。
 それを見たレイノルドが、眉根を寄せ、険しい表情を作るのが目に映った。

 間を置かず魔物の殲滅を確認したレイの指示を受けマストの物見台に上っていたジークや他の水夫が、丸い物体を高く放り投げ、それが空中で弾けて鼻を覆いたくなるような刺激臭が船全体を覆っていく。

「アル!大丈夫か!?」
 シャロンが走り寄る最中、船上の男たちは上を見上げたものの、すぐに目線をアルフレッド、正確にはその近くに転がった剣を凝視し、近くの何人かはそれに手を伸ばそうとし、

「触るな!その剣に触れたら、呪われるぞ!!」
 静寂によく通るレイノルドの怒声に、ぎょっとして慌てて手を引っ込めた。

 何言ってるんだ、とばかりに駆け寄り、アルフレッドに駆け寄り抱き起こすシャロンに対し、レイノルドは珍しく怒りの表情を向ける。
「厄介なものを持ち込んでくれたな。文献で読んだことがある。この魔具は、適合した、正統なる持ち主以外がひとたび触れたり、使用したりすれば呪われる」
 厳しい調子でそう宣言し、驚いたままのシャロンに構わず、手近な水夫に指示を飛ばす。

「おい、急いでアルフレッドをベッドに寝かせろ。くれぐれも慎重に運んでおけ。ことによっては体が腐り落ちるかもしれない」
「そんな馬鹿な!」
 顔色を変えて傍へ寄ろうとするシャロンを制し、
「おまえもだ。知らなかったとはいえ、こんな危険物を持ち込んだんだ。さっさと拾え。自室でしばらく反省してろ。アルフレッドはこちらで様子を見る」
そう断言してアルフレッドを運ぶ水夫たちと移動し、後には、無意識に剣を拾い上げ鞘に納めて呆然とするシャロンと、その腰の剣をおそるおそる遠巻きに眺める人々が残された。

 魔物の襲撃は収まり、シャロンは危険物を持ち込んだ、ということで船長室へと呼び出されていた。

 そこにはヒューイックやレイノルド、ジーク、ハリーやブロスリーといった面々が集まっていたが、アルフレッドの姿はない。シャロンはそのことに少なからず動揺しながらも、ぐっと自分の込み上げる思いを抑えつけ、真剣な眼差しを向け彼らに対峙した。

 ガチャリと扉が閉まりそれまで船長室の中央でずっと黙っていたヒューイックが穏やかに、
「レイ。俺はずーーっとアーティファクトであるこの斧を使ってるが……あの話は初めて聞いたな。どの文献で読んだんだ?」
「いや、俺もそんな話は知らない。第一、専門外だしな」
「「「「は!?」」」」
 シャロン、ジーク、ハリー、ブロスリーの四人の声がハモった。

「ああ、やっぱりか」
 一人ヒューイックだけが納得して頷いている。

「……説明して、貰おうか」

 私の悩んだ時間を返せ。

 シャロンが詰め寄ると、レイノルドは悪びれなく、
「いや、そういうことにしといた方が後腐れがなくすむ。考えても見ろ。アーティファクトだぞ?あの状態を放置したら絶対目の色変えて盗みに来る奴が出るだろうが。あそこまで脅しとけば、さすがに考えるだろうさ」
どことなく得意げににやりと笑い
「あ、ちなみに船医によればただの疲労だ。間違いない」
それを聞いて安心し、ほう、と肩の力を抜く。

「なあんだ、オレてっきり……触らなくてよかった~とか安心してたのに」
笑いながらジークが軽口を叩く。
「ああでも、表向きそういうことにするから、全員の前で話をする。合わせる心づもりはしといてくれ」
 レイノルドにそう言われ、シャロンも笑って頷いた。
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