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異郷より。 作者:TKミハル

『広い海と嵐と魔物と』

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嵐遭遇。

 基本第三者視点ですが、視点が途中変化します。
 10月5日改稿。そしてやたら長くなりました。すみません。
 ※下ネタ表現あり。注意してください。
次第に風が叩きつけるように激しく吹き荒れ、帆を畳んだにも関わらず船が揺れながら速度を上げ蛇行し始めたので、ブロスリーは大声で錨綱の傍に誰も近寄るなと指示して、一段低くなっている場所から黒々とうねる海の中へと錨を投下した。

 やや速度は落ちたもののまだ迷走は収まらず、様子を見に来たヒューイックが叫ぶ。
「おい!錨が引きずられてるぞ!この先の先は岩礁だ、予備の大錨も投下しろ!」
 どこまで進んだのか遠目にちらちらと岩の塊が映り、船はどんどんそちらへ引き寄せられていく。

 吹き荒れる風と折れるのではと不安になるほどマストが煽られ軋む音、ざぶりと大きく襲い掛かる波の中、乗組員のうち数人が海水を被りながら甲板を這うようにしてはしごまで辿り着き、下へ降りて滅多に使われない予備の錨をやっとの思いで投下した。
 その錨の綱が伸び、勢いよく引っ張られるとともについに船が動きを留めたものの、依然として高波に揉まれる状態が続き、次第に後方マストの軋みがひどくなり、すこしずつ亀裂が入り始めた。
「…………!!」
 怒号が飛び交い、甲板の誰もが必死にロープや手すりの縁にしがみつき、マストが折れるのを覚悟していたが、それから長い長い時間が過ぎ――――――実際には一刻ほどだったらしいが――――――ようやく嵐が少しずつ収まりを見せ、それからしばらく経つと嘘のようにピタリと止んでしまった。
 伏せていた者たちは恐る恐る顔を上げ、身を起こすと、改めてまわりを見まわしてみた。

 一本は傾いてはいるものの、マストは無事。ただ、その柱を支えるロープは何本かが切れ、船の一部も水浸しになっていたため、全員がポンプで水を汲みだした。
 ブロスリーはロープを固定するすべての索具に緩みがないか点検し締め直し、一服しようと安物の煙草入れを取り出したが、当然のごとく水浸しになっていたのでがっくりと肩を落とした。

「皆、ご苦労だったな。交代して、今はゆっくり休息を取ってくれ」
 ヒューイックが水夫たちをねぎらうと、各自海水を被った服を絞り、身軽になって下甲板の乗組員部屋へと戻っていく。
 ヒューイックも服とズボンをざっと絞り、まず船長室隣の客室にいる女性陣の無事を確認するため、手前の部屋をノックした。
「ヒューイックだ。シャロン、大丈夫か?」

 その時、シャロンはやっと収まった揺れにほっとしつつ、床に差しっぱなしだった剣を抜き、ずっと握り続けて疲れた手をほぐしているところだった。そこにコンコンとノックの音と安否を気遣う声がしたので、嵐で固定金具が外れ、落ちてきた装飾品にやられた頭をさすりつつガチャリと内鍵を解き扉を開けると、立っていたのは、暗がりにボサボサの髪と体中水浸しで亡霊のように立っている一人の男――――――。
「うわっ!あ、ああ、ヒューイックか。どこぞの海賊の親玉かと思った……」
「は?よく分からんが、無事ならいい」

 ……こいつはこの非常事態に、どこか間が抜けているな。

 ヒューイックはそう思ったものの、特に追及はせず、挨拶をして次へ移る。マティルダとアイリーンは扉を開けもせず、中から無事だとの声があった。
 続いて、眠りたいと叫ぶ疲れた体に鞭打って下の様子を見にはしごを下りると、そこもまた、呻き声や臭気に満ち、布やたらいを運びながら行き来する者で忙しく、これまでの修羅場が予想された。

 レイノルドが来て、怪我人(主にハンモックを嫌い、床で寝てた者がどうやら体を打ちつけたらしい)と重度の船酔いに苦しむ者との被害状況を報告し、船長がわざわざ来るな、威厳が薄れる。さっさと寝ろときつめの言葉を投げかけて上に去っていく。おそらく、上甲板乗組員室の真上に設置された砲台格納庫隣の小さな部屋(客室なのか仮眠室なのかよく分からない場所)へ行くのだろう。

 ヒューイックは船医とともに怪我人などの面倒をみているハリーを呼び止め、上の破損状況、明日からのことなどをやりとりし、ついでに元気そうなジークを見つけて適当な相手と上で見張りしとけと命令し、やっと船長室へと上がっていった。

 次の日の早朝。マストの上の見張り台で、嵐が過ぎ去ってもすっきりしない曇り空に向かい、ジークは大あくびをしていた。
 途中アルフレッドが物見遊山のように来て、驚くジークに構わず明かりなしでするすると危なげなくロープを上ったものの、少し遠くを眺めただけでさっさと下へ降りてしまい、暇なことこの上ない。

 アルフレッドが夜目が利くだとか、船乗り並みの身のこなしだとかはどうでもよかった。来たのがアルフレッドだ、ということが残念でならない。例えば、女性の誰かがふらりと甲板に出てきて、上にいる俺に気づき、危険なことをしているこの身を案じてくれる―――――とか妄想していたものの、徐々に空しさを感じたのでやめた。

 上から見ていると、まずシャロンとアイリーン(他一名)が出てきて、次にどこからともなくアルフレッドが現れ、二、三言葉を交わしていたかと思うとシャロンとともに少し離れた場所で、素振りなど練習をし始めた。
 アイリーンはその他一名と一緒に船の上を軽く走り、続いて軽い打ち合いなどをしている。

 さらにしばらくして、疲れて動きが鈍い様子の水夫たちが現れ、各自破損個所の点検と、その修理を手掛け始めた。そのうちの一人がこちらを向く。
「おーい、ジーク何やってんだ」
「決まってんだろ、見張りだよ見張り!そろそろ交代してくれよ」
「あ~、俺は無理。誰か別のに頼んでくれ」
 そういってさっさとどこかへ行ってしまい、結局ジークが交代できたのは、雲に隠れたままの大陽が高く上ってからだった。


「もう寝る。オレは寝る」
 ジークはそう決心して部屋へ戻り、隅の方に上着やズボンを投げ捨てると、ハンモックに倒れ込む。すぐに眠りは訪れ、あっというまに夕方になった。

 起きると、部屋では相変わらずヒィロ、リューリク、ソーマの三人がカードをしていたが、どうもあんまり盛り上がってはいないようだった。

「ん~……」
 ケインがいないのを確認しつつハンモックから下り、隅の方で服を着た。

 ソーマがとうとうカードを投げ出し、ちょっとぶらついてくる、と立ち上がったので、
「あ、オレも出てくるわ」
と後を追う。

 連れ立って甲板へ出ると、設置された簡易テーブルではケインがにぎやかな一団の中心となり、得意のジャグリングを見せながらあれこれおしゃべりをしていた。

 どうせ広く浅い付き合いで、後には何も残らないに違いない。その辺は深く狭すぎる兄と真逆なのが、少しだけ笑えた。どちらも束縛されるのをひどく嫌う性質たち、という点ではそっくりだ。

 ジークが皮肉げに見ているあいだ、特に何をするでもなく、ソーマは眼を細め、読めない表情でまわりを見渡している。
「……」

 こういうタイプは不安定になると大事やらかすんだよなあ……異常にまわりを気にしてるし。

 時々ヒィロやリューリクに向ける複雑な眼差しも気になる、となんとはなしにジークはそれを眺め、もう一度ケインの方をちらりと見やり、ソーマに声をかけた。

「なあソーマ。ちょっと酒に付き合わねえ?とりあえず隣に座っていて、頷いてくれればそれでいいからさ」
「はあ?おまえ馬鹿じゃないのか。誰が行くか」
「いやちょっと、いろいろこっちも溜まってるんだよ。こう、いつもの仲間には言えないこととかさ。わかるだろ?」

 まあ実際、今のところ特にはないけれども。

「おまえ……さすがにそれはまずい。俺でもわかる」
 訝しんでいたソーマは、パッと表情を変え、続いて納得したような、憐みの眼差しを向けてきた。
「あの三人がいる客室のすぐ近くに船長室があるのは知ってるだろうが。いくら女がいなくて辛いとはいえ、夜這いがバレでもしたら最悪島流しにされるぞ」
「はい?……いやいや、変な妄想立てんなよ。オレはただ単に、アルには言えない愚痴でも、ってだけだから。あいつ、反応薄いし。時々聞いてるのかと揺さぶりたくなってくる」
「まあ、別に飲むのはいいが……本当に協力はしないからな。ああいうのはひとりでやってくれ」
「おい、ちょっと疑いすぎだろ?」

 そんなやりとりをしながら上甲板を見てまわったが、飲めそうな場所はなく、一度部屋に戻り、アルを呼んで、
「なあおい、ソーマのことなんだが。ちょっといろいろ溜まってそうだから、抜いてやりたいんだ」
 もちろん不満を解消するって意味で言ったんだが、ふと気がつくとアルフレッドはザッと退く音が立ちそうな動きで遠く離れ、嫌そうにこっちを窺っていた。
「おまえもか!!勘違いすんじゃねえよ。っていうかオレ=下ネタという発想から離れようぜ」
 思わず叫ぶと、部屋にいたヒィロとリューリクがなんだなんだとこっちを振り向いた。

「あー、いや、なんでもない。ちょっとソーマと飲んでこようと思ったんだが」

 慣れないことはするもんじゃないな。これだと……。

 皆で酒盛りな展開か、と思いきや、
「ふうん……じゃあ俺は甲板へ鍛錬に出る」
とアルフレッドが気怠げにいい、その言葉にピクリと反応したリューリクが即座にカードを投げ捨て立ち上がった。
「おれも行く!戦いたい!」
「あ~、じゃあ俺も鍛錬の方で」
とヒィロも腰を上げ、アルフレッドがこちらを見てかすかに頷いてリューリク作の木刀を持った二人とともに部屋を出ていく。

 奴のこういう空気の読めるところは嫌いじゃない。

 内心にやりとしつつ、ソーマは、と見ると、なんだかこいつも羨ましそうにアルフレッドたちの出ていったドアを眺めていた。それから、こっちに振り向き、
「なあジーク。飲むのは、後にしよう。俺も行ってくる」
そういって、部屋を出ていこうとするので、仕方なく後を追い、鍛錬に参加することにした。

 練習しているうちに辺りは真っ暗になったものの、リューリクは打たれ、剣を弾かれる度に目を輝かせ、次は負けない!と打ちかかっていく。ヒィロは呆れつつその様子を観察したり、自分も入ったりして休み休み続けている。

 ジークは適当なところで切り上げて、もういいやという心境でオレ飲みに行くけど、というと、ソーマはそういやそうだった、とこちらに来たが、ヒィロとリューリクはまだ続ける、と首を振った。

「あいつら、酒はあんまりなんだよ。ヒィロも悪酔いするし、リューリクに至っては恐くて飲ませられないし」
「そういえば……そこまで飲んでるところも見たことないな」

 甲板だとあれなので、下に行き、いくつかのテーブルのうち一つに陣取り、カバンからとっておきの酒を取り出した。
「じゃあ、まず航海の無事を祈りつつ乾杯!」
 コップになみなみと注いで、食事や同じ酒盛り目的でテーブルにつくまわりの喧騒に負けず明るく言うと、カシン、とコップを持ち上げ一気に仰いだ。


 それからしばらく後。結論から言うと、ソーマは大分溜まっていたようだった。

「わかるか!?俺の気持ちが!!リューリクなんて自分本位の塊じゃないか!!なぜ同じことをやってあいつは許されるんだ」

 そう時間は経っていないのにも関わらず、すでに出来上がってしまったソーマの愚痴という名のおしゃべりは留まることがない。

「いったいなぜ!!力でねじ伏せればいいっていうんなら、俺だってやってやるさ!!」
 とんでもないことを豪語するソーマ……酔いの勢いって怖ろしいなあ、などとジークが思っていると、
「おい、聞いてるのか!?」
とすぐに隣から絡んでくる。
「ああ、はいはい聞いてる聞いてる」
 酒癖悪いのはこいつもだったんだな、と黄昏ているあいだも一方的な愚痴は続き、限界まで上で打ち合い続けていたリューリクたちが帰ってくるころには、ソーマはすっかり酔い潰れていて、気力が欠片もないヒィロ、リューリクの代わりに、アルレッドと半ば引きずりながら部屋に運んでいくことになった。
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