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異郷より。 作者:TKミハル

『広い海と嵐と魔物と』

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船上の規律

 今回も第三者視点です。大したことないけど暴力表現あり。
 ソーマは再び鼻を押さえ、血が出ないのを確認して、
「ああ、やっと止まった」
と布を畳んでポケットへ仕舞い込む。
「おい、どういうことだよ。どう考えてもこいつが怪しいだろ」
 短髪の男がヒィロを親指で指し示すと、ソーマは首を振り、
「違う。ヒィロは俺らを見て笑っていただけだ。ヒィロの近くで瓶を玩具にして放り投げたのは、髪の毛がこう、濃い胡桃色の……確かケイン、とかいう奴」
「ケインね……。その前に、おまえらお仲間同士だろ?こいつを庇ってんじゃねえのか?ああ?」
 苛立ちをぶつける男に、まわりの野次馬もそうだそうだ、と囃し立てたり、それぞれ勝手なことを言い始め、このままだと収集がつかなくなりそうタイミングで、
「何の騒ぎだ、これは」
 ヒューイックが屈強な水夫二人と、このじめじめと蒸し暑いのにフードつきコートを手放さないレイノルドを引き連れ、騒ぎの中心へとやってきた。
「船長が直接お出ましとは恐れ入るぜ」
 ヒィロたちを責めたてていた男はそう言って甲板の隅にペッと唾を吐き捨てる。

「……何があった」
 ヒューイックの言葉にソーマが、男に誰かが瓶を投げつけたこと、ヒィロが疑われていることなどを話す。
「なるほどな。で、ヒィロはなんで笑ったんだ」
「いや、オレは知らなかったんだよ。その向こうの、ソーマがこけてリューにぶつかり、キレたあいつに殴られ柱にぶつけて鼻血出してんの見てただけだから」
 周囲の視線が一気にソーマに集中し、ほぼさらしものになった彼がうっとうしそうな顔でそっぽを向き、その後ろでリューが、やりすぎたかなと頭を掻きながら笑っていた。
「なるほどな。おい、誰かケインを呼んで来い!」
 ヒューイックが叫ぶと、へい、と返事が返り、帆を巻く金具を点検していたブロスリーがさっと飛び降りて一段下の船室へと向かい、しばらくしてふてくされた様子のケインを連れてきた。
「なんか僕に用?」
「ケイン、おまえがそこの男に、瓶を投げたっていう証言があるんだが」
「なんのこと?まったく知らないよ」
 ケインはきょとんとした表情で首を振った。自分が疑われているとは思ってもいないような口ぶりである。

「あ、こいつ、さっき酒瓶いくつか持ってジャグリングしてたぞ」
まわりのうちの一人が言えば、何人かその姿を見た、という者が現れ、ケインはむっと表情を歪める。
 例の短髪男がいきりたち、
「おまえだったのか投げたのは!見ろ、ここに傷ができてる!どうしてくれるんだッ」
胸ぐらを掴みかかったところで被疑者の少年はその手をひねり、男を床に叩き伏せた。
「うるせえ、それぐらいでガタガタ抜かすな。それでおまえが死んだっていうなら土下座でもなんでもしてやるよ」
 そう言い切ったケインに、まわりの人々は一瞬呆気にとられ、やがて非難と反感が膨れ上がり――――――。
「おい、やれ」
 爆発する前に、ヒューイックが合図し、水夫の一人がケインの左頬を、殴りつけた。そのまま横の資材に吹っ飛び、ガラガラと音を立てる。
「ッ……」
 水夫が中からケインを引きずりだし、再びヒューイックの前に連れてくる。
「先に言ったはずだ。むやみに人に危害を加え、争いの種を巻くなと。他の奴らもよく聞いとけ。今回はこれだけですませるが、場合によっては鞭打ちもしくは島流しもありえる」
 立たされたケインは、激しく怒りの籠もった目で、ヒューイックと、その隣のレイノルド、自分の兄を睨み続けていたが、その後ヒューイックに促され、毒気を抜かれた様子の短髪男に謝罪し、その場から踵を返して瞬くまに姿を消した。

 騒ぎが収まった後も、場はどことなく落ち着かず、どよめいていたが、やがてまたそれぞれに分かれ、日常に戻っていった。

 日が沈みかかった頃。上甲板では、やっと二日酔いから回復したシャロンがいつもより静かな船上に気づき、軽く打ち合いをしていたアルフレッドとジークに、何かあったのか、と尋ね、事の顛末を知る結果となった。

 シャロンが起き出したのと同時刻、船長室では、ヒューイックとレイノルドがともに酒を飲み交わしていた。
「しかし、ケインが早々やらかしてくれたな。おそらくこれから規則破りが増えてくるだろうが……規律の重さ確認する上でもちょうどよかった。しかし、いいのか?あそこまでして。随分恨んでいそうだったが」
 ヒューイックが苦笑交じりに問えば、
「俺の弟だぞ?えこひいきに見られないためにもやりすぎぐらいがちょうどいい。……それに、あいつはそこまで馬鹿じゃない。冷静になりさえすれば、その意味に気付くさ」
レイノルドが打って響くように返答をする。

 そう言いながらもどこか落ち着かない様子で座っていたが、やがて立ち上がり、ドアのところまで行って逡巡し、再び引き返してきたので、船長の役を引き受けている男は思わず吹き出した。
「めっちゃ気にしてるじゃねえか」
「うるさい」
 ヒューイックは笑いながら酒の残りをカップに注ぎ入れ、弟を心配しつつもぐっと堪えたレイノルドへと渡してやった。

 暗くなり、部屋に戻ったジークは、ひとまず荷物を置こうとして隅の方で膝を折りまげじっと座り込むケインを発見した。
「うわっ……どうしたんだおまえ」
「……頭が痛い。放っといてくれ」
そういうと、赤くなった目を見開いたまま微動だにせず虚空を見つめている。その姿は腫れた頬も相まってかなり痛々しい。
 同室の他のメンバーも遠巻きに眺め声をかけづらそうにしている。そしてそこにソーマの姿はなかった。
(辛気くせえ……)
ジークは仕方なく、手頃な相手、つまり隣でいつもと同じように悠然と構えているように見えるアルフレッドを巻き込み、甲板付近で酒を飲もうとしたが、思ったより風が強く断念して引き返してきた。
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