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異郷より。 作者:TKミハル

『広い海と嵐と魔物と』

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ささいな諍い

 主人公ダウンのため、第三者視点。
 緊急でもないのにこんな朝っぱらから……と不機嫌そうなレイノルドの傍ら、ヒューイックは嵐にぶつからないよう舵を取ること、嵐に対する備えを上客に伝えてくれとの指示を水夫長と副水夫長のハリーとブロスリーに出し、こちらにも注意するように言ってあっさり解散にした。

 船室から外へ出ると、空は白み、帆を調整する水夫だけでなく、幾人かの傭兵風の男たちが甲板に出て素振りなどをしている姿があった。
「よう、早いな」
 その中で五十過ぎの、いかにも老成した、という風貌の男がこちらを見て手を止め、よく日に焼けた顔をにかっと崩して声をかけてくる。
「おまえら、あの年若い船長の知り合いか。まだ殻の取れてないヒヨッ子ばかりとは恐れ入る」
「おっさんもうちょい言葉選んでくれよ。オレたちもれっきとした戦力だ」
「そういうことはもっと経験積んでから言えや」
 はははは、と豪快に笑い、
「俺はデュサク・クローチェだ。あっちはビクターとハマザー二」
 剣の素振りを続けていた同じような壮年の男たちが一度手を止め挨拶して再び素振りを始めた。
「オレはジーク」
「……アルフレッド」
「ジークにアルフレッドか。ちょうどいい、稽古をつけてやるぜ」
 そこらに転がっている棒の一つを拾い上げ、不敵に笑う。
「いやあの、僕は遠慮したいなーなんて」
 引きつった笑みを浮かべるジークの横で、
「それはどうも」
気負いなく剣を抜き放ったアルフレッドに、
「阿呆か。そこに置いてある棒を使え棒を」
デュサクは呆れつつも即座に突っ込んだ。

「おお、やるなおまえ!」
 カン、カンと打ち合う小気味いい音が船上に響き渡る。始めはどうも勝手が違うのか押されがちなアルフレッドも慣れるにつれ反射速度が上がり、デュサクは右斜めからすくい上げるように襲う棒を慌ててはじき返した。まわりを囲む人だかりは増えており、賭け金は当初10対1で完全にデュサクが優勢だったものの、今じゃ一対一、さらには逆転しそうな勢いである。

「くそッ」
 額に汗を流すデュサクの棒が弾かれ宙を飛ぶ。罵倒や怒声があちこちから上がり、
「あー、負けた負けた」
どっかりと腰を下ろした彼に、
「おい、やられてどうする。大損じゃねえか!!」
と野次が飛び、壮年の男はじゃあおまえが戦ってみろや、と負けじと言い返した。

 そこでカンカンカン、と朝食配給の鐘が鳴り、見物人たちは配当金をそれぞれに分け合い、散らばっていく。
「アル、おまえって本当いい奴だな」
 最初の段階でさっさとアルフレッドに賭けたジークははちきれんばかりになった財布を手に、スキップしそうな勢いだったが、
「半分はもらう」
すかさず自分の取り分を要求したアルフレッドに抗議したものの、結局迫力負けしてしぶしぶ中身を山分けにした。

 昼過ぎから空には急速に濃灰色の雲が重く広がり、時折風が強く吹いてきていた。嵐がくる、と知らされた冒険者や傭兵たち乗客は、不安がったり、まったく平然と構えていたりと反応もさまざまだったものの、どことなく落ち着かない雰囲気が漂っていた。

「おー、むらむら君とアル君じゃん。ごめんねえ昨日シャロン潰しちゃって。あたしも十本いくかどうかのところまで記憶あるんだけどお。マーヤもうわばみだからさー。限界とかあんまり決めないんだよねえ」
「いやいや、ちゃんと名前で呼んでよ。ジーク、って」
「ふっ、あはは、面白いねーいいじゃんむらむら君で。ムラッ気もあるし」
 おい、シャロンが気になるとかいう話はどうなった、と後から来たマーヤが目的を振り戻すと、
「あ、そうだったそうだった。せっかくだからまた何本か持っていこうよ。二日酔いにはやっぱり迎え酒だよねっ」
とシャロンが聞けば蒼褪めて首を振りそうなことを言いつつ去っていく。

「あー…行っちゃったよ、残念。まあ、オレたちもまた鍛錬でも始めようぜ」
「……」
「うわー、そんな嫌そうな顔しなくてもいいじゃんか」
 そんなやりとりをしている最中、
「ふざけんじゃねえこのくそ野郎が!」
と舳の方で突然怒鳴り声が上がったので、
「……なんだろうな今の。おい、行ってみようぜ」
「必要な「だろうやっぱ気になるよな!よし、行くか!!」」
ジークは半ば強引にアルフレッドを連れ出した。

 話題の中心に向かう途中ケインを見つけ、ゲッ、となり、あちらも気づいたのか目線を合わせて挑発的ににやりと笑ったが、すぐ興味が失せたようにその場を離れていく。

「あー、むかつく奴。そう思うだろ」
 同意を求めてアルフレッドを見たが、服の端を質にとり、破れんばかりに引っ張っている自分をじろりと睨んできたので、それはそれ、と気を取り直して舳へ向かう。

 舳側では短髪の喧嘩っ早そうな男が同室のヒィロの胸ぐらに掴みかかっている。
「だから俺じゃねえって。酒瓶なんてどこにでも転がってるだろうが。誰かが間違えて蹴っちまったんじゃねえの?」
「いいや、間違いなくあれはおれを狙ってた。瓶が来た方向でおまえがにやにや笑っていやがったんだ」
「関係ねぇっつうの。だいたい見てたところ違うし」
 ヒィロは顔をしかめて掴みかかる手を外そうとするが、激高する男はますますがなりたてる。

「やっぱ殴り合いになるだろうなこの状況じゃ」
 とジークがそんな感想を漏らすと、人だかりの中から意外な伏兵、ソーマが、なぜか鼻を布で押さえつつ現れ、
「違う、ヒィロじゃない。投げた奴は知ってる」
そう証言した。
 嵐と魔物同時遭遇となると、そして船は永遠に戻ることはなかった……みたいなことになります。
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