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異郷より。 作者:TKミハル

『広い海と嵐と魔物と』

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酒宴悲喜こもごも。

 前の回に一文だけ足しました。
 今回途中第三者視点、あと下ネタ注意。
 上から二層目に設置されたテーブルの一つから、それぞれ硬いパンの皿をとり、その切れ込みの中へシチューを盛り付けてもらって近くのテーブルへと移る。

 中には肉が少ねえよ、肉!!と叫ぶ男もいて、配っていた水夫の一人が、配給は最低限のものだけです、と低姿勢で告げると機嫌悪そうに唸ってからシチューを受け取り大股で去っていった。
 次に、マーヤとアイリーンも来て、アイリーンはこっちに気づくなり笑顔で手を振ってから跳ねるようにマーヤについてシチューを貰い、二人で上に上がる。

「んじゃ、オレ、この後出かけてくるから」
 二人が去った後、急にジークがかなりのスピードでシチューをがっつき始めたので、いかにこぼさず中身を食べるかに腐心していたシャロンはひとまず手を止めた。
「どうした、いきなり」
「それはほう、こらはらのため、やへふらけのこと、やっとからいと」
と口でもごもご食べると同時にいい、がつがつと無言で咀嚼した挙句しばらくして食べ終えたらしくジークが立ち上がったので、パチッとウインクし、二人を追って階段を上がっていく。
「あいつ……ああいうことには本当まめだな。まったく、どう思う?」
 アルフレッドはシチューをしばらく睨んでいたが、カバンから乾いたパンを取り出し、中に追加しながら、
「特に。彼女たち二人が一緒にいた時点で勝率は皆無に近いのに、それでもいく勇気にはある意味感心する」
「それってただの阿呆ってことだろ」
「……なんなら賭けとく?」
 ふとまわりを見れば、その場に居合わせたいくつかのグループがひそひそと、
「おいどっちにする?」
「あ、俺は失敗で」
「おれもおれも」
「おいおい、それじゃ賭けになんねえだろ!」
持ちかけた壮年の男も、ウケたのか腰の大剣が揺れるほど笑っている。
「誰しも考えは同じか」
 なのになぜ出てくる結果がジークにはわからないんだ……と、足りなそうなアルフレッドのシチューに、こちらもあらかじめ持ってきた干し肉をちぎり、放り入れながら、呆れてシャロンは呟いた。

 さて、甲板に出たマーヤたち二人だったが、手前にはヒィロたち青年のグループ、奥に離れてケイン、その隣にはいくつかの壮年なのか青年なのか微妙な年頃の冒険者の一団がいて、大分酔いがまわってるらしく、にぎやかに手を叩き、歌なんかを歌いながら酒盛りを続けていたが、そのうちの一人がシチューを持って来た二人ににやにやとしながら傍により、
「お、来たぞ俺らの花が。ちょうどいいからさー、こっちに来て遊ぼうぜ」
アイリーンの腕をぐいっと掴んだ。
「ちょっと何すんのよ!」
「は?や、誘ってるだけだろ、いいから来い!」
 その時、アイリーンを無理やり掴もうとした男の側に、椅子が振り下ろされた。

 ガキィッ!

「おや……ただ移動させるつもりが……怪我はなかったか?」
 その風圧が感じられるほど近くにいた男は真っ青になり、無表情で問いかけるマーヤに対し、コクコクと頷くと自分の元いた場所へすっ飛んで帰り、身を低くしている。
「ここは場所が悪い。部屋にしよう」
「いやその前にさ、これちょっとやりすぎじゃ」
「何を言ってる。手っ取り早くていいだろ」

 その音は当然、帆の向きを微調整するよう指示を出し、その後船室にいたヒューイックとレイノルドの耳に入ったが、彼らは現場の状況をチラッと見て確認しただけで、再び船室に戻っていく。

 その時夕食も早々して階段に足をかけたジークは慌てて駆け上がり、甲板を一瞥してなぜか真ん中に転がっている椅子を訝しんだが、それはともかくと、部屋へ戻っていく二人を見つけてアイリーンを呼び止めた。

「ねえ、今すごい音したけど大丈夫だった?」
「う、うん、まあ。ところで、あなた誰だっけ?」
「やだな。忘れちゃったの?オレだよ、ジーク」
「あ。あああ、あの時の!」
 軽薄なナンパ男、という叫びは、まあ失礼かなとすんでのところで飲み込んだ。
「そうそう。覚えててくれたんだ。嬉しいなあ。ねえねえ、よかったら向こうで一緒に飲もうよ。美味しいのあるからさ」
 ここが勝負と、ジークはとびっきりの笑顔を見せる。
「えっと、その……」
 なんとかうまい断り方はないものか、と視線をさまよわせるアイリーンの隣で、マティルダはふっ、と鼻で笑う。

「おまえヤり○ンだろ」

 ビシ、とジークが凍りつく。

「あの、これから部屋で食事だから!」
 ごめんねぇ、とアイリーンが謝って去った後も、ジークは絶対零度の氷漬けから、なかなか覚めることはなかった。


 シャロンたちが食事をのんびり終え、そろそろ戻るか、と腰を上げた頃、ズダダダダと階段上からなだれ落ちるようにジークが現れ、
「アルフレッド、ちょっと付き合えッ」
猛然とアルを掴んで嵐のように上に去っていく。

「なんなんだ、いったい……」
 シャロンはぽかんとそれを眺めていたが、気を取り直して荷物を背負い、まあ大丈夫だろうと、自分の部屋へと戻ることにした。

 部屋でのんびりするまもなくドアがノックされ、
「シャロン~、約束どおり誘いに来たよ~」
もうすでに大分顔が赤いアイリーンが腕を引っつかみ、隣へと連れて行く。

「せっかく記念すべき一日目の夜なんだからさ、パーッといこうよパーッと」
 部屋の作りはだいたい同じだったが、明らかにおかしいだろうと思われる量のお酒が床に並べられている。まわりにクッションも置かれ、準備はバッチリだ。
「……こんなに、持ち込んだのか?」
 他にもっと用意するものがあるだろうに……と呆れつつも無言で訴えるシャロンに、適当に安そうな酒と酒を混ぜ合わせていたマーヤが首を振り、
「貰ったんだよ、こいつが」
とアイリーンを親指で差す。

「そうなんだよ。みんなただでくれるなんて気前いいよね」
 にっ、といたずらっ子のような表情で笑うアイリーンに、シャロンはもうこれ以上追及をせず、黙ってコップを受け取った。

「まあまあ、どうぞ。この果実酒、飲みやすいんだよねえ」
 どうも、と断って口をつけ、呷ると、確かに甘口で芳醇な木いちごの香りが広がった。
「それでさあ、アル君とはどこまでいったの?実際のところ」
「……ッ」
 ぶは、と吹きそうになり慌てて飲み下して呼吸を整える。
「な、な、な」
 なんだいきなり、と言いたいのだがどうやら変な位置に酒が入ったらしくゴホゴホと咳き込んだ。
「おい、何を言うんだアイラ。だいたい見ててわかるだろうが。子どもも真っ青なほど多分何もないぞこいつら」
「ええ~!!ほんとに?マジ?今まで一緒にいて何やってたのさ」
 驚き呆れるアイリーンに、いや、剣の鍛錬だがと返したかったが今以上の非難を浴びそうだったので止めておく。
「私たちはそんな関係じゃない」
「え、じゃあどんな関係?」
「…………」
 え、と、しまった。考えてなかった。
「答えられないなんて、アル君かわいそー」
「なんでそうなる。ちょっと待った、、、」
 いつのまにか空のコップにまた酒がなみなみと注がれていたので、それをぐいっと呷り、
「そう、相棒とか、家族。それでいいんじゃないか?」
「ふ。甘いなシャロン。男っていうのは、皆ヤりたいばかりなんだぞ。油断してたらあっというまに食われて終わりだ」
クッションにもたれ胡坐をかきながらボトルワインを注ぎ飲み干すマーヤ。普段だったらまったくこんな台詞は言いそうにないが……相当酔ってるの、か?

「そんなことは、ないと思うが……」
「でも十七?十八?」
「十七……」
「うわ、アル君かわいそー」

 まったく、意味が分からない。というか、わかりたくない。

 無言でため息を吐き、シャロンはその辺の開いてるボトルから酒を注ぎ、再び飲み干した。
「で、シャロンは彼のことどう思ってるんだよ。そこが肝心だろ」
「まだ続くのかこの話題はっ」
「いやーだってさー今一番気になるし」

 早く解放してくれ……と切実に願うシャロンだったが、残念ながら床に並べられた酒はまだ、半分以上未開封のまま置かれている状況だった。


 場所は船尾側に変わり、そこではアルフレッドを相手にジークがくだを巻いていた。
「わかるだろ、オレの気持ちが!まったくこれだから世間擦れした女は嫌いなんだよッ特に傭兵経験のある女は!」
「知るか」
 その話はもうこれで五回目だと指摘するのも馬鹿らしい。

「それに比べてさーアイリーンちゃんの可愛らしさはすごいよな。あの女、ちょっとは見習えよまったく」
 果てしなくどうでもいいことを滔々と語り続けるジークだったが、しばらくしてボトルを引っくり返したり中を覗いたりした後、
「ああ、酒がもうないや。残念だなあ」
哀愁を帯びた声でぽつんと呟いた。
「戻るか」
「即決だな、おい」
 おまえって奴はよ……薄情だよ……もっと他人の機微を悟れよ……などとブツブツ言ってるが、無視して部屋へ戻る。すると、そこに予想しなかった顔を見つけて、思わず手を止めた。

「よ。ここで寝るからね」
「げ。ケイン……なんでここに」
「そんなの決まってるだろ。あんなむさくるしいおやじたちの部屋で寝たくないからだよ」

 アルフレッドは、これからのことを考え、ふっと短くため息を吐いた。
 ちなみにこの時配給のシチューに肉は一切入っていません。
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