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異郷より。 作者:TKミハル

幕間3

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奥の入り口

 隣のアルフレッドは無表情なようでいて非常に何か言いたそうにしたが、結局静かにこちらを窺った。

 シャロンはヒューイックの言葉と、自分自身の考えをもう一度、じっくり吟味してみた。そして、彼に対し、ゆっくり首を振る。

「悪いがまだ決められないな。エンリコたちにはできるだけ協力するとは言ったが……あまりにも現状は不透明だ。船を造るにも人を雇うにも莫大な資金がいるというのに、あなたの態度は深刻味に欠ける。さっき知り合いのを使うとかなんとか言ったが……かかる金額を読み違えているならこれほど怖ろしいことはない」

 真剣にヒューイックを見上げれば、彼はむしろ肩の力を抜いて頷いた。
「ああ、そうだろうな。おいハリーにブロスリー!いつまでかかってる」

 彼が叫ぶとバタンと奥の扉が開き、疲れてぐったりした様子のジークを連れたハリー、ブロスリーが戻ってきた。
「ヒューイックの旦那、俺らは、この件が片付いたらミストランテへ行く。アイリッツさんが死んだなんて信じれねえ。現地で、この目と耳で状況を確かめたい」
「好きにしろ。ただしこの一件が片付いたらだ」
「で、旦那はどうするんですかい……?」
「さあな。その時になってみねえとわからん」
 ブロスリーが解せないとでもいうように顔をしかめ、じっとヒューイックの表情を窺うも、彼はうるさそうにその視線を払う。

 それまでずっと考え込んでいたシャロンは、あのミストランテの遺跡の奥深く、墓場に突き立てられた剣に刻まれた名前を思い出した。話そうかと思ったものの、ためらい再び思考の海に沈み込む。

 真実を知ることと、還らぬ人の生存を信じつづけること。いったいどちらが残酷なのだろう?

「それはさておいて、だ。そこの客人はな、どうやらエンリコたちの話を訊いて手助けをしにきたらしい」
「いや、だからまだわからないと……」「へえ、それはまた旦那の嫌いなパターンに」「いや、冗談ですよね?」
シャロンが慌てて遮った同じタイミングでブロスリー、ハリーが同時に言葉を発し、こちらを窺い気まずく押し黙った。

「な、なんだ、どういう……」
「あー、気にするな。こっちの話だ。……ところで」
 ヒューイックが机から一枚紙を取り何事かを書きつけ、エンリコとロレンツォの二人を呼んだ。
「おい、おまえらに頼みたいことがある。まだギルドが開いているギリギリの時間だ。この紙を届けてこい。いいか、何を訊かれても『よく知りません』というんだぞ」
「は、はい。他に何か用事は……」
「これが一番重要だからな。届けた後は帰ってよし。ゆっくり休んで明日の朝またここに来てくれ」
「「わかりやした!」」
 二人が敬礼せんばかりに姿勢を正し、部屋から出ていくのに、ジークはついていくべきか迷っていたが、
「おい、おまえは行くな」
「うげ、しつこいな……あの椅子そんなに気に入ってたのか?」
「阿呆。まだ肝心な話は何もしてない」
 ヒューイックは呆れた声をあげ、今度はこちらへ、
「さっきの話だが、資金は、ある。もしあんたらが本当に沖の魔物退治に関わるってんなら話を続ける。だが迷うなら出ていってくれ。わざわざ厄介ごとに首突っ込むこともねえ」
 ええーせっかくおれがここまで連れてきたのにーッというジークの講義を無視し、ヒューイックは外へ続く扉を指差した。

 シャロンはさらに逡巡し、
「魔物退治にはできるかぎり力を貸す。だが、非合法な手を使うつもりなら、降りさせてもらう」
強く言葉を発して居並ぶ男たちを睨みつけたが、彼らはそれには返答をせず、微妙な沈黙が続く。
「あれ?おーいヒューイック。おれらがすることって非合法なのかよ」
「んー、まあ、なんてーか……ここじゃなんだから奥へ行くか」
 ヒューイックが歯切れ悪く言って、手元の海図をまとめ、奥の寝室へと運んでいった。

 別にここで話してもよさそうなものだが……。

 ぞろぞろと六人が入っていくと、壁に殴った後、床には椅子の破片が散乱した小さな部屋は座る場所もないほどになった。

「よっっ……と」

 ギシッバスッドカッ。

 ヒューイックが渾身の力で簡易寝台に手をかけ持ち上げてから壁側に立てかけ、その隠されていた腕力の強さにシャロンが驚く間も待たずに彼は床の絨毯をめくり、さらにその下から鋼鉄の物々しい入り口が出現した。

「結局使っちまうんすか……船旅とか楽しみにしてたのに」
 がっかりしたようなブロスリーの言葉に、
「仕方ねえだろ。それにな、あいつはああ見えて人のいいところもあるからな。使わない方が怒るだろうよ」
「そりゃそうか。あーあ、散々苦労したってのに。けい、りの……」
 ブロスリーが何か言いかけてハリーにすねを蹴られ、声も立てずに跳ね回った。
「それ、で……これは?」
 尋ねるシャロンに対し、
「見てのとおり、秘密基地の入り口だ」
自慢げに、というよりはどこか疲れたような表情で、ヒューイックは説明した。
「ヒューイック、すげえよこれ!こんなのがあるってなんでもっと早く教えてくれなかったんだよ」
 ジークが興奮を隠しきれず傍らのランプで地下へ続く鉄梯子を照らしたので、その横でいつものように平静なアルフレッドと顔を見合わせた。

 確か三十間近だったか……まともそうに見えたが、意外な一面があったんだな。

 そう思いヒューイックを生温かい眼差しで見つめると、彼は振りきれそうな勢いで首を振る。
「作ったのは俺じゃないぞ。『組織には秘密基地が必要だ』とかいいやがったどこかの間抜けの仕業だ」
「……ふーんなるほど」
特に興味もないので、いいから先へ進めと適当に流しておく。
「いっとくが、本当だからな」
「別に疑ってないんだが……」
「この場合否定すればするほど怪しく思えますよねえ」
 ハリーがニヤリと笑ってちゃちゃをいれた。
「早く下りようぜ」
 ジークが待ちきれない様子でカンカンと踵を鳴らし下へ降りたので、シャロンたちも後へ続いていく。

 下りた場所は、ひんやり黒っぽく平たい石の壁と床が二人並んで余裕で歩けるほど幅広の通路になっていて、その先には黒っぽく塗られた鉄の扉がいくつも並んでいる。

 その中を歩き、奥から二番目の扉まで来たところで、ヒューイックはポケットから幾重にも連なった鍵を取り出し、開けたかと思うともう一枚出てきた扉をまた開錠する。

 そして暗い部屋の中には……金貨の詰まった袋、宝石が無造作に積まれていた。

「…………」
 驚きのあまり言葉もない。というより、この量は……とてもじゃないが、こんな地方の漁師がまともに働いて稼げるものじゃない。

「これが、俺とアイリッツが集めた軍資金。そしてこいつが、俺専用のアーティファクトだ」
 ヒューイックが自慢げにいい、入り口に立てかけてある、みすぼらしいが、刃が変わった半月型の、重そうな片手斧を手に取った。
〈補足〉
 ヒューイックの奇妙な半月型の斧……形としては投擲用手斧の一種、フランキスカに近い。
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