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異郷より。 作者:TKミハル

幕間3

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遠く近く

 途中視点が変わります。
 ジークの緊張した面持ちにヒューイックは顔をしかめたものの、
「それじゃ、奥だ。おいおまえら、客人をもてなしとけ」
そう言って書類の合間を通り、寝室っぽい奥のドアへ向かう。

「もてなせって言ったってなあ……ま、とりあえず酒でもどうぞ。ビスタのワインもありますよ」
 ハリーが隅に置いてある六角形のストーブに火を入れて鍋を暖め、ブロスリーが箱を並べて座るよう促した。
 低いテーブルには木製コップとボトル、チーズの塊、深皿とそれに平皿――――――ではなくカチカチになったパンが並べられていく。

 奥の部屋は静かで、しばらく経ってもそのドアが開く気配はない。

 スープがくつくつと煮えるのを待ちながら、
「エンリコとロレンツォはいくつなんだ。ジークには低姿勢だったが、まさかあいつより年下ってことはないだろう?」
かねてよりの疑問を口にすると、
「17っすよ。まあ、確かにいっこ上だけども」
「え……」
 その顔で?と問い返すのははばかられた。エンリコは茶髪、ロレンツォは薄茶のパサパサの髪といい、浅黒い肌の額のしわといい、自分と同じ年というのはちょっと……。
「あ、なんか信じられないって顔っすね。ま、だいたい海の男は上に見られるんすよ。日焼けや潮風で肌も髪も荒れるんで」
「なるほど。で、ジークとは?」
 さらに尋ねると、気まずそうに黙る二人の代わりに、ブロスリーがにやにやしながら、、
「それはね嬢ちゃん。ジークは小柄だから、もうしょっちゅうからかわれるんだ。その度に取っ組み合いの喧嘩、喧嘩で。恨みも買ってるけど、舎弟も多いやね」
「そのとおり!俺らはみんな信じてるんだ。兄貴はいつかすげえでかいことをやらかすって」
 ロレンツォが瞳を輝かせ、拳を握りしめて宣言すれば、
「そうかそうか。ちなみに、盗賊は捕まるとほぼ縛り首だからな。覚えておくといいぞ」
ハリーがスープを器に盛りつけながら冷静に突っ込んだ。


 その頃仮眠室では、簡易寝台にヒューイックが、三本足の椅子にジークが座り、ドア向こうの時折聞こえる笑い声とは裏腹に、深刻に話し込んでいた。

「最初はあいつが言ったんだ。面白そうだから潜ってみようって。確かに、そんな大きな危険もなかったし、叔父貴と二人なら余裕だった。けれど……」
 ジークの瞳は憂鬱そうに揺らめき、その時のことを語る。

「行方不明が出てるって話になった。アイリッツは最初あの、歌姫を疑ってて。調べてたんだ。でも、なんだかよくわからないうちに歌姫がいなくなって、それでも行方不明者は増えて。さらに奥へ、行くと」
 手元のコップに火酒を注ぎ、ぐいっと煽ると、
「……なんだかギルドのよくわからない連中と話してて、オレも行くって言ったんだ。そしたら、おまえはまだ早いって。ふざけんじゃねえ」
苛々と狭い部屋を歩き回り、
「なんのために一緒に旅してたんだよ。オレは、仲間じゃなかったのか?挙句、置いていきやがって」
ゴスッ、と壁を殴りつけた。そして、しばらくしてから、
「ミストランテの遺跡の期間が尽きて閉鎖され、行方不明だったうち半数以上が戻ってきても、あいつは帰らなかった。いろいろ、言ってやりたいことがあったのに。……ちくしょう」
ジークの拳にぽた、ぽたと涙が零れ、床へ滑り落ちていく。

 ヒューイックはその髪をくしゃくしゃと掻きまわし、
「……辛かった、な。俺は、こう、何も言えんが……おまえが無事でよかった」
「――――――そったれ。帰ってきたら、あいつを殴りつけて、責めるつもりだったんだ。帰ってきたら」
二度三度と壁を殴りつけ、荒れるジークに、今はそっとしておいてやろうと部屋を出た。

 目を閉じるとアイリッツの不敵な笑みが蘇る。
『あちこちまわったら、今度は海の向こうへ行く。しっかり準備しといてくれよ。あ、もちろんおまえも連れてくから』
 その姿は一瞬で儚く消え、瞼を開けば心配そうにこちらを窺う客人と、書類の向こうで奴らが食事を囲むいつもの光景へとすり替わった。
 奴らはこっちを見て、すぐに表情を険しくする。

「なんてぇ顔してる。ジークか。奴は……あれだ。反抗期中だ」
「いや、旦那。ごまかしにもなってねえっすよ。目ぇ端赤いし」
「……悪い知らせですね」
 ブロスリーに突っ込まれ、ハリーにあっさり見抜かれ、ヒューイックは思わず苦く笑う。

「おまえら、ミストランテのことは知っているか」
「あの、二百年に一度入れるとかいう。……ひょっとしてアイリッツさんが?」
「ああ。そこに入って行方知れずらしい」
 事実だけをさらりと述べる。
「なんだってッ!?風の噂じゃあもう閉鎖されたっていうじゃねえか。……やべえよそれ」
「どうする?探しに行った方がいいのか?」
 ひそひそと顔を突き合わせる二人には、おめえら仕事あんだろ、今は先にそれやっとけ、こいつらも使え、と釘を差してエンリコとロレンツォを任せ、客人の前へ出る。

「すまなかった。いろいろ取り込んでて。俺はヒューイック・ボナバントラ」
「私はシャーロット。こっちはアルフレッドです」
 赤茶の髪を後ろでひとくくりにした、美人というよりは親しみを持てる顔立ちの女剣士と、鋭い眼差しをした黒髪の青年――――剣士っぽいが雰囲気が尋常じゃなく隙がない――――の二人が、しっかりとこちらに目線を合わせてきた。
〈補足〉
 ・この漁業組合営業所に貴重な紙類が大量にある理由……テスカナータは船の帆などの布切れを再利用した製紙工場があり、他の場所にも輸出していたが悪天候のためそれが滞り、倉庫に置き場のなくなった紙の一部を知り合いから貰った、という裏設定。
 ここの書類は三人が漁師から聞いた情報を、ハリーとヒューイックがまとめて記入したもの。
 余談だがブロスリーは非常に簡単な読み書きしかできないので、書類の整理には向いていない。
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