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異郷より。 作者:TKミハル

 番外 リリアナとエドウィン

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港町にて

後半はアルフレッド視点。
 アルフレッドに一撃を食らって倒れた少年は、意外に早く復活した。

「ってーな。オレの頭がやられたらどうするッ!」
「これ以上悪くなりようがない。それに……勝負はもうついた」
そう言いつつジークから隠してくれてるあいだにと、胸元を慌てて整えるが、ベストの合わせ目がぶっつりと斬られていて、その下の薄布もめくれかかってるまずい状況。それでも、針を鉤状のピンにして留め、改めて向き直った。
「……こ、この変態野郎」
「えー、ひど。これぐらい普通っしょ。正々堂々とって約束した覚えもないし、オレの勝ち」
 悪びれもせず笑うジーク。
「うう、くそ、勝負は勝負だから仕方ない……のか?」
 思わず歯噛みすると、アルがひょいと剣を肩にかつぎ、
「じゃあ、次は僕が」
「うげっ、いや無理。それは無理」
ジークが慌てて首を振る。その反応、すごく傷つくんだが……。

 恨みを込めて睨むと、ぶんぶん首を振り、
「いやいや、だってこいつの頭ん中何もないぜ!?せいぜい自分とあんたと、闘争本能と三大欲求ぐらいで。オレがこんな獣みたいな奴と戦ったところで、ついてこれないように半殺しにされて終わりだから!」
「……それはやってみないとわからないよ」
「わかるっつうの!というかわざといってるだろ。わかってんだろおまえ」
声を上ずらせて焦るジーク。
「え、と、アル、どういうことなんだ?」
 思わず隣のアルフレッドの顔を見上げて尋ねると、
「ジークの剣の腕は、シャロンよりも劣る。不規則な剣筋と、言葉で動揺を誘うのがこいつの手口」
そう淡々と告げる。

 嵌められた。

 その衝撃を隠せないシャロンに、
「あーはいはい。ま、今度やったら負けるかもね」
ジークがそう肩をすくめて、二三度手を振ってみせた。

「だって考えてもみなよ。オレって上背ないっしょ。他の奴に比べて力がどうしても弱くなる。てことは、何か他のことで差をつけるしかないだろ。その点シャロンは素直でとっても楽だったよ」
 ジークがそう曇りない、ように見える笑顔を向けてきたので、ゴン、と頭を殴っておいた。

「なんだか正直腑に落ちないが……勝負は勝負だ。テスカナータまで一緒に行く。アルも、それでいいか?」
 自分の甘さが招いた結果なので、なんだか申し訳なくなってそう問いかけると、だいたい予想はしてた、と返事があった。

「お、いいねー。シャロンのそういう潔いとこ好きだなオレは」
「……うるさい。ただし、テスカナータへ行くあいだだけだ。後は、こっちも好きにさせてもらう。アルも、それでいいか?」
「もちろん!最初からその約束だしね」
何が嬉しいのかにこにこと笑っているジーク。ってかアルフレッドに話しかけたのになぜおまえが返事をする。

 やや遅れてアルが頷き、
「シャロン、きっと「言わなくていい!」
何か言いかけたのを遮って、
「あとは悪いパターンにならないよう祈るだけだ」
どうか、手を貸さざるを得なくなる事態になりませんように、と早口に唱え、荷物を背負って再びテスカナータへの道を歩き始めた。……なんというか、半分ぐらいは諦めの境地で。

 歩くにつれて、次第に空は不安定になり、塩気を含む空気は生ぬるく漂い、時折ひんやりと湿った風が肌を撫でていく。
「いかにも何か出そうな感じだな」
 シャロンが洩らした言葉に二人は特に意に介さず、道行く人を観察しながら歩いている。

 港町への道中はこちらへ向かってくる人の数の方が多く、その多くは商人のようだった。そのうちの一人を呼び止め、ディバ、ディベト村の様子と引き換えに状況を尋ねると、
「ああ、テスカナータね。魔物が出るのは沖だから町自体は大丈夫のようだけど、あそこは漁業中心だろ?市場も品薄になってどうも活気がないね。私はこれから中央で商売するつもりなのさ。最近景気がいいってことだからな」
と快く教えてくれた。

 それからまた別の小さな村で宿を取り、半日がかりでテスカナータに辿り着く。

 丘を下るとき見えていた蜃気楼のような青い水の揺らぎは背の高い屋根と白い建物に隠れ、強烈な、どことなく生臭いような謎の香りが漂ってくる。

「……美味しそうな匂いがする」
 アルフレッドが呟くと、ジークがそれに応え、
「ああ、干物と潮の香りかな。それにしても昼過ぎとはいえ、ちょっと少なすぎだろ」

 確かに町を歩く人の姿はまばらで、しかも一様に表情が沈んでいて、その中でも元気なのは、
「海賊だ!それ、捕まえて縛り首だ!」
「ふっ、このライオネック船長に勝てると思うのか!」
「何を、このッ」
ごっこ遊びをしながら木の棒を振り回している子どもたちぐらいで、多くはオレンジ色の屋根と背の高い白い壁の家の戸口に座っていたり、入り組んだ路地なんかを覇気もなくだらだらと歩いている。

「この家は全部石でできているのか?」
「そうだよ。白いのはあの崖の方から、屋根に使う砂岩は、その内陸側の方から切り出して持ってくるんだ」
 案内人よろしく歩きながらいろいろあちこちを眺めてどことなく懐かしげに歩いているジークに、痺れを切らしたのかアルフレッドが
「そろそろ――――――」
と後ろから言いかけたところで、曲がり角から誰かがぶつかってきたので、慌てて避ける。

「待て。おい、有り金全部おいてけ」
 角から飛び出したのは、フードと布で顔を隠した二人組で、突然ナイフを突きつけてきた。えっと……。
「なんだと、オレの持ち物を狙うとはいい度胸だな。さあ、どこからでもかかってこい」
 こういう厄介ごとは大好物だと言わんばかりのジークが、至極嬉しそうに威勢のいい啖呵をきった。

「あ」
「……?」
 男の一人がその顔を見た瞬間踵を返し、逃げ出そうとするも、一足早く追いすがり、足払いをかけ、動揺したもう一人を私とアルフレッドが叩き伏せる。

「こいつ、顔を見せろ……って、おまえ、エンリコじゃないか」
「兄貴ぃ……すまねえ」
 ジークに首元を掴まれた日焼けで色褪せた茶髪の男が謝罪すれば、もう一人も観念したように大人しくなった。

 行きがかり上、はい、さようならというわけにもいかず、近くの寂れた風情の酒場に五人でしけこむことにする。

 嫌なパターンだな、と思いながら少し離れた席でジークと知り合いらしい二人の様子を窺った。

「なんだって!?ウィリスがやられた」
 なんだか真剣な表情でジークが叫び、
「ああ、魔物に腕を食いちぎられた。船ももうぼろぼろだ……俺、金さえあればなんとかなると思って、つい……」
「なるほどな。しっかしなあ……考えが足りねぇよ。もっと冷静になれ。あの二人が金持ってそうに見えるか?」
「ちげぇねえ」
「だろ?もっと金持ちを狙え。まあ、このテスカナータだと期待できないから、オレが他の町で荒稼ぎしてきてやるよ」
「「兄貴ぃ……すまねえ」」

 なんか聞き捨てならない台詞が聞こえたんだが。

「ちょっと待った。ジーク、何考えてる。そこは止めるべきじゃないのか?もっと何かまともな解決法が……」
「シャロンこそ何考えてんだよ。魔物が出るんだぜ?この先も被害が増えるに決まってる。その備えのために金があるところからふんだくって何が悪い!?……いや、もちろん捕まるようなヘマはしないさ」
 自信たっぷりに胸を叩き笑うので、方向性が思いっきり間違ってるぞと頭を抱えつつ、
「もっと他にやりようがあるんじゃないか?まず、魔物が増えた原因を探るべきだ」
「ふーん、シャロンがそういうなら、そうしてみようかな。それならまず、ヒューイックのところへ寄らないと」
とジークがこれまでのことはなんだったのかと思うぐらいあっさり返事をして、
「あ、俺らからもお願いします!魔物さえいなけりゃ、こんなことせずにすんだんだ」
二人がこっちにいきおいよく頭を下げてくる。

 あれ、なんだかいつのまにか引き受けざるを得ない状況に……。

「ア、アル……」
 対応に困り、向こうのテーブルのアルフレッドを見やれば、頬杖をついたまま、
「もう、腹をくくった方が早いよ」
と言って、話は終わりといわんばかりに酒場の主人にお勧めを尋ね始めた。

 シャロンはしばらくこめかみを押さえていたが、気持ちを整理するためにか、ちょっと失礼、といって席を立った。

「あ、トイレはそっちじゃないよ」
「うるさい!」
 ジークを睨むと、酒場の裏手へと早足で去っていく。

 その後姿を見送ったアルフレッドは、今はこれだけしかないと酒場の主人が持ってきた干し小魚の盛り合わせを、至極残念な心持ちでつついていると、別テーブルでエンリコとロレンツォとの話に切りをつけたらしいジークが、こちらにやってきた。それをジロリと睨みつけた。

「……来るな。減る」
 誇張でも何でもなく、こいつは自分の払う料金以上にこちらの分まで手を出すから始末が悪い。

「いや、そうじゃねぇって。あんた、よく何もしなかったなと思ってさ。オレの魂胆見抜いてただろ?」
 感心よりは呆れたようにジークが言う。
「シャロンはどのみち……ここに来て現状を見てしまえば、手を貸さずにはいられない。早いか遅いかの違いだけ」
「おまえ、それでいいのかよ。最悪、魔物と戦うかもしれないんだぞ?」
 困惑とこちらに対するかすかな怖れ。ジークの表情からそれらを読み取り、
「やるだけだから」
と言ってアルフレッドは笑う。

 本音を告げても理解されることはないと思うが、それはむしろ暇つぶし、の感覚に近い。

 ややあってジークは静かに息を吐き、おどけて、
「うわ、怖いなー。オレあんたを怒らせるのだけはごめんだわ」
そう言った後にシャロンが帰ってきた。

「ジーク、それにエンリコと……なんとかいう奴。不本意だができるだけ協力する。テスカターナのの状態も、見て見ぬ振りはできないし」
苦々しく言った彼女は、やはり予想通りで、ジークはどことなくほっとして笑い声をあげた。
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