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異郷より。 作者:TKミハル

『遺跡ミストランテ』

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 事の始まり

 エドウィン視点です。
 懐にずしりと重みのある希少品を抱えたエドウィンが、メイリヤ婦人の紹介状片手になんとか安全そうな宿を発見できたのは、日が完全に暮れたすぐ後のことだった。

 部屋は管理人老夫婦の息子の部屋だったとかで、若干狭いが悪くはない。

「…………疲れた」 
 ひとまず上着を脱ぎ、どさりとベッドに腰を下ろす。しかしすぐに銃の存在を思い出し、窓際の机に置いて巻かれた布をほどいていく。

 点火用と発射用の火薬に、弾込めのさく杖。弾丸は予備が二つ。その本体はよくある火縄式マスケット銃より短く感じられ、やはり大きな違いは火皿の部分に火打石がついていることだろうか。

 弾込めの手間を考えると発射は一度きり。さらには暴発の危険もあるため、脅しに使うのがもっとも望ましいだろう。
 しかしそれだけのためにわざわざこんなものを……?まったく、理解に苦しむ。

 銃のことはさておいて、エドウィンは背負っていた荷物の中から手作りの『貴重な発掘品』を取り出し、一つ一つ出来栄えを見て、どういった経緯で入手し、どんな価値があるかを即席で考え、頭の中にメモしておいた。
 続いてあの遺跡で手に入れた、本当の掘り出し物、あの腕輪を取り出し、じっくりと観察する。

 こういった古代のアーティファクトではだいたいが二種類に分かれ、魔力を吸収して一旦溜め別の力に変換してするものと、もともと込められた魔力により何がしかの力が発動するものがある。

 エドウィンが腕輪を装着し、それに意識を集中させると、かすかに引っ張られるような気配があった。

「魔力吸収型、か」
 思わず呟いてさらに腕輪に“気”を送り続ける。完全に魔力が溜まった状態で条件さえ揃えば、何かが起こるに違いない。 

 “気”を送り続けていたエドウィンはある程度で止め、腕輪を外す。途端に全身が疲労に襲われたが、気分は軽やかだった。

 階下から届く夕食の準備ができたとの声に、しばらくしたら持ってきてほしいと答え、絨毯の上に転がる品々をもう一度眺めていく。

 これから忙しくなりそうだと、そうひとりごちて、エドウィンは再びそれらを慎重にカバンの中に仕舞っていった。


 翌日。お湯を貰って体を拭き、伸ばしていたひげも剃って身ぎれいにしたエドウィンは、さっそく下準備のため、わざわざ服飾の店へ行き、仕立てのいい服を見繕った。

 以前出入りしたことのある貴族の屋敷に、いい品物が手に入ったから近々訪ねますとの伝言を頼み、二三日待つ。

 いかにもやり手の商人らしい服装で北東の高級住宅街の、好事家の貴族が住む屋敷をまわり、品物を売り歩いて幾日かたったある日のこと。

 エドウィンは、いい品を手に入れた、とご機嫌になった貴族から紹介状を貰い、わざわざ高級馬車で次の場所を目指していた。

 商品も残りわずか。今日はあの、成り上がりのキッシンジャー男爵家で最後だ。どうも、貴族と一緒の空間にいるのは肩が凝る。

 そんなことを思い、肩を揉みほぐす。
 いかにも裕福な商人の着そうなこの服は、通りを歩けば追剥ぎの格好の餌食だ。こんな服でずっと過ごす人間の気が知れない。

 きらびやかな世界の住民たちは皆気位が高く、多くの場合金はありあまっているがいつもつまらなそうにしており、ああはなりたくない。

 それでも、今日はまだましな一日だった。ひどいのになると自分と同じ部屋の空気を吸うことすら嫌がり、わざわざ執事を通して見せるためだけでも一つ一つ品物を渡していかないといけないのだから。

 エドウィンは以前、公爵家へ赴いたことを思い出し、苦笑する。……あれでも、客は客。

 男爵家まで来ると入り口の門兵に紹介状を見せ、そのまま馬車で花が咲き乱れ、池に水鳥が泳いでいる庭園を通り、奥の館へ向かう。

 館では執事が出迎え、エドウィンがもう一度紹介状を見せると、しばらく待たされてから、やっと質素な部屋に通され、そこでも、やはり一刻ほど待たされる。

 それからほどなくしてやっと、恰幅のいいキッシンジャー男爵が首にひだ襟、スラッシュの入った赤と細い金と緑の縦じま、紺のブリーチという派手な衣装でやってきて、居丈高な態度で話しかけてきた。

「おまえか。珍しい品を持ってきたというのは」
「……はい。お初にお目にかかります。本日は世にも珍しい商品を持ってまいりました」
 膝を折り、なるべく服装が目に入らないようにして堪える。ここで笑ってしまってはまずい。

 荷物を下ろして絹の布を敷き、不可思議な文様の描かれた壺や馬なのか犬なのかよくわからない形をした置物を見せる。

「こちらは、西の遺跡付近で発見したものです。太古の調度品の中では非常に珍しいものかと存じます」 西の遺跡付近の村で購入したもので、太古の調度品にはないものだけれども。
「ふむ。いったいどういうものなのだね。不思議な色、模様をしておる」
 男爵は興味を惹かれた様子でしげしげと壺を観察した。ここが勝負時だ。

「はい。はるか昔、人は不思議な術を操ることができ、その力の籠った品々を次々に編み出したと、聞き及んでおります。私は西の遺跡がそのような古代の遺跡の一つであると聞きつけ、自らそこの調査をしてまいりました。そしてこれらの品を発見することができたのです。本来もっと多くの品をお届けできたのですが、あいにく遺跡まわりは魔物、野盗も多く、いくつかを持ち帰るのが精一杯でした」

「……なるほどな。しかしこれは土もついておるし、それほど価値はないのじゃないかな」

「とんでもない!遺跡に埋もれていたものの半数以上は破損状態がひどく、持ち帰るに値しないものでした。これらはその中で状態のよい品ばかりだと自負しておりますが、私の拙い持ち金で磨きうることができるのかどうか、心許なかったため価値が下がるのを承知でこのような状態のままにしてありますが、金五百は下らない品かと……」

「五百か……さすがにこの品にそこまで払えんな。せいぜい二三枚がいいところだ」
「そんな!それでは私が危険を冒し、ここまで運んできた意味がなくなってしまう。せめて三百はいただかないと!」

 交渉の結果、金貨五十で妥協することにし、エドウィンはがっかりした表情のまま――――――内実はほくそ笑みながら―――――荷物をまとめようとした、その時。

 館がバタバタと騒がしくなり、慌ただしくノックがされて、隠そうと努めてはいるが取り乱した様子の執事が主人に何か耳打ちしたかと思うと、そのままそこで待つようにと言われ、二人で部屋を出て行ってしまった。

 何か、よくないことが起こったに違いない。

 エドウィンはすぐにそう判断して、自分の状況を振り返り、懐に隠し持っていたあの銃が発見され取り上げられることを恐れて、周辺を見渡した挙句、絨毯下の床板を剥がしてそこへ隠すことにした。

〈補足〉
 スラッシュ……切れ込み。
 ブリーチ……ややふくらみのある半ズボン。

 といってもこの男爵の服装はその下が生足というわけではなく、タイツっぽいものを穿いています。
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