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あんたなんかキライ

作者: 枝鳥

 あたしはそれまで自由だった。


 優雅に歩いていたら、急にチャリンチャリンってベルの音がしてキキーッて音がしたと思ったらドンッてなった。

 あたしは頭をどこかにぶつけて意識がなくなったわ。


 そして気がついたら狭い場所にいた。


 ツーンとする匂いがする白い狭い場所だった。


 ガリガリガリ。

 爪でひっかいても出られなくて焦っていたら、別のもっと狭い場所に入れられて揺らされて、また違う場所に連れてこられたわ。


 これ、誘拐よね。

 あんたなんかキライ。



 あんたはいつもあたしを触ろうとするの。

 いやらしい手で。

 だからあたしはひっかいたり噛みついたりしてやるの。

 あんたなんかキライ。


 キコキコキコって音がしたら食事が出るわ。

 誘拐犯だけど、食事はきちんと出してくれるみたい。


 けどね。

 あたしがお腹いっぱいになって気持ちよく寝ようとすると、すぐに触ろうとしてくるのよ。

 やっぱり変態みたい。

 あんたなんかキライ。



 だけど、たまにあんたがあたし以外に夢中になってると、なんだか腹がたつのよ。


 あたしのこと誘拐しといて無視するの?って。


 だから黒いカタカタへこむ板の上に寝転んでやるの。

 だから本に爪を立ててやるの。

 だからコードをかじってやるの。


 そうするとあんたはいつも困ったように笑うの。


 でも怒らないの。


「こんなとこに置いといた俺が悪い」

 って。


 やっぱりあんたなんかキライ。




 だけどね、あんたは絶対にここから出してはくれないの。


 いつもあたしの目の前で、ピシャリとドアは閉められるの。



 油断させようって思って、触られるのも我慢してみたわ。

 本当はとってもイヤだったんだけど。


 でも出してくれないの。

 キライ。

 あんたなんかキライ。




 でもね、ピンポーンって音がしてそっちを見たら、いつもは閉まっているドアが少し開いていたの。

 あんたが戻らないうちに急いで外に出たら、あんたが誰かから何かを受け取っていたの。

 外が見えたの。

 スルリとあんたの足元をすりぬけてやったわ。

「XXXXXっ!!」

 慌てたあんたが何か叫んでたけど、気にしない。

 あたしは外に出て、走って飛び出して。

 そしたらドンッて。


 何にもわからなくなっちゃった。


 気がついたらあんたがあたしの体を抱きしめてるの。

 あたしはそれを空から見てたの。


 あんたにくっついて部屋に戻ったの。


 だってあたしに気がつかないなんてむかつくじゃない。


 あたしはここにいるのに。


 あたしの体は焼かれて小さな箱に入れられて、あんたはずっと泣いてるの。


 なんで泣くのよ。

 あたしはここにいるってば。


 でも泣き止まないの。

 あたしがここにいるのに。


 あんたなんかキライ。




 だからね、ここから少しいったとこにいたお腹を空かした子ネコに言ってやったの。


 お腹いっぱいになれて、怒らないけどやたら触ろうとする変態があそこにいるって。



 あたしのことで泣くあんたなんかキライ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 猫好きにはたまらない小話です。 ラストで泣いてしまいました。
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