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町をつくる能力!?〜異世界につくろう日本都市〜 作者:ルンパルンパ
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59.幕間 ミラ

すみません、遅くなりましたm(__)m
次から2章に入ります
 ――ミラは夢を見ていた。

 ――それは過去の記憶である。

 サンドラ王国内のとある山間に並んでいる、葦でつくった竪穴の住居の数々。
 そこが私たち狼族の村だった。
 その村で私たちは獣を狩り、魚を捕まえ、木の実や山菜を採って、毎日を過ごしていた。
 村での生活は特にこれといった問題はなく、心配事といえば自然災害くらいなもの。
 とても平穏で、静かな暮らしだったといえるだろう。

 そして、そんな村の中にある他より少し小さめの住居が私の家だ。
 その小さめの家で、私は大好きな母さんと一緒に暮らしていた。
 父親はいない。
 物心ついた頃には、母さんと二人だけの生活が当たり前となっていた。
 母さんが言うには、父は私が産まれてすぐに病気で死んだのだそうだ。

 けれど、私には母さんさえいればそれでよかった。
 寂しくもなんともなかった。
 なぜなら、母さんはとても優しかったから。

 たとえば食事の時のことだ。

「母さんはもうお腹一杯だから、あとはミラが食べなさい」

 母さんは自分の食べ物をいつも私に分けてくれた。
 まだ小さかった私は母さんのことなど考えずに、夢中で食べ物をほおばった。
 そして「おいしい?」と聞く母に、嬉しそうに「うん!」と答えるのだ。
 すると母さんも嬉しそうに笑った。

 幸せだった。ずっとこのまま、一生が過ぎていくのだろうと思っていた。
 でもそんな幸せの日々は、一瞬で破壊されることになる。

 ある日のこと。
 部族の者の一人が遠くからやってくる集団を見つけた。
 それは武器をもった人間たち。
 私たちは持てるものを持って、人間たちに見つからぬよう、すぐに山の中へと隠れた。

「母さん、私たちどうなっちゃうの?」

「大丈夫。何も心配いらないわ」

 母さんが私を安心させるように抱き締める。
 けれどその後、私が見たものは村から上がった火の手――人間たちによって村が焼かれる光景だった。
 その日、私たちは逃げるように故郷を捨てた。

 住み慣れた場所から、別の土地へ。
 木の生い茂った山があれば、狼族はどこでだって暮らしていける。
 私たちは、目についた遠くの山へと向かった。
 しかし、そこには既に人間がいた。
 だからまた、山から山へと移動した。

 そして、私たちは途方に暮れた。
 人間がいない土地はなく、私たちの住む場所はどこにもなかったからだ。
 さらに、どこかに留まろうものなら、すぐに人間が武器を持ってやってきた。
 逃避行。
 私たちは南へ、南へと追いやられた。

 やがて大きな川にぶつかり、その川に沿って私たちは進んだ。
 毎日、早めに行進を終えて、食べ物を探す。
 その日は、部族の者が仕留めた獣の肉を、皆で分けあって食べていた。

「人間はずるい! 自分たちはいくらでも住む場所があるくせに、まだ土地を欲しがる!」

 食事が終わると、私はあまっちょろい正義感を振りかざすように叫んだ。
 母さんは、「そうね」と微笑んで優しく頭を撫でるだけだ。
 でも、そうされるだけで不思議と怒りは消えていった。

 その後、ジハル族長はこのまま南へ行くと皆に説明した。
 はるか南には大地が頻繁に揺れる“呪われた地”と呼ばれる場所があり、人間が住んでいないのだとか。

 すると多くの者がそれに反対する。
 無謀だ、と。
 人間が住めない地に何故我らが住めるというのか、と。

 対して、ジハル族長は言い返す。
 人間が住めないからこそ行くのだ、と。

 私はジハル族長の考えに賛成だった。
 人間が住めない土地。
 それは、もう住みかを奪われる心配がないということだ。
 行った先の生活は苦しいかもしれない。
 けれど、皆で頑張ればそれも乗り越えられる。
 母さんと一緒なら、どこでだって暮らしていける。
 そんな思いがあった。
 しかし、それは甘い考えだったと言わざるをえない。

 私たちは、サンドラ王国領を越え、さらに南へと足を踏み出した。
 食料は満足になく、日中の暑さが体力を蝕んだ。
 病人が何人も出て、行進速度は日毎に落ちていく。
 過酷。
 南への旅路は、ただただ過酷であったのだ。

 そして遂に母さんが倒れた。
 母さんは部族の大人に背負われながら、共に行く。
 私が背負おうとしたけれど、重くて駄目だった。
 情けない。自分の成長しきってない体がこれほど恨めしいと思ったことはなかった。

「ミラ……ミラは、母さんの分まで生きてね……」

 休憩になると、母さんは弱音を吐くようになった。

「そんなこと言わないでよ。すぐによくなるから」

「そうだね、ごめんね」

 弱々しい声で母さんは最後に謝るのだ。
 私はなんとかして、母さんに栄養をつけてもらおうと、食べ物を探した。
 川は大きくて深い。そのため魚を獲るのは難しかった。
 ならばと目を皿のようにして大地を眺めながら、耳をそばだてる。
 そして、やっとのことでネズミを獲った。
 これを食べさせれば、母さんもすぐによくなるだろう。
 また元気な姿を、優しい笑顔を見せてくれるはずだ。
 私は心を弾ませて、母さんのところに戻った。

 でも――。

「か、母さん……?」

 寝かされた母の周りにいる者たちの沈痛な顔。
 私は母さんの側に寄ってその顔を覗きこんだ。
 すると、母さんは安らかに眠っているようだった。

「ねえ、母さん……母さんってば!」

 どれだけ揺すっても、どれだけ呼び掛けても、母さんが目覚めることはない。
 だって、母さんはもう死んでいたのだから。

 手の中にあったネズミはスルリと逃げ出して、どこかへ行ってしまった。



 母さんをその場に残して、私たちは再び南へと歩き出す。
 死んだ者を連れていくことはできない。
 これまでがそうであったように、これからもそうなのだ。

 私は悲しかった。
 どうしようもなく悲しかった。
 でも、足は何故だか動いた。

『ミラ……ミラは母さんの分まで生きてね……』

 母さんの言葉が、私を無理やり前に進めていたんだと思う。
 涙はどれだけ流れても枯れることはないことを、私はその日初めて知った。

 南へ行けば行くほどに、大地は荒れ果てていく。
 とても人が住める場所ではない。
 けれど、巨大な川は続いている。
 川は恵み。
 その恵みを一身に受けた場所が行く先にあるのだと、願望にも似た予測が部族の者たちを支配していた。
 後戻りはできない。
 この先には、なにもないのではないのかという絶望的な思いを決して頭に浮かべないように、私たちは前へ前へと進んだ。

 ――そして私たちはフジワラ様と出会った。

 不思議な格好の人だった。
 何族かもわからない。
 でも、私たちに住む場所と食べ物をくれた。
 私たちを救ってくれたのだ。

 疑っていた人もいたみたいだけど、ジハル族長が必死に説得していた。
 私もジハル族長に賛成だ。
 食べ物と家を与えてくれたフジワラ様を疑うなんて、そんな罰当たりなことをしたらダメだと思う。

 フジワラ様は、私たちが人間によって奪われたものを再び与えてくれた救い主。
 でも、奪われたものが全て返ってきたわけじゃない。
 私の隣にはもう母さんはいないのだから。

 もっと早くフジワラ様に会いたかった、と私は思った。
 そうすれば母さんも死ぬことはなかっただろう。
 なぜフジワラ様はもっと北に町をつくってくれなかったのか。
 そんなわがままなことを考えながらも、私は私たちを救ってくれたフジワラ様に感謝した。

 それから一ヶ月。
 フジワラ様が言われた通りに私たちは毎日を過ごした。
 初めての農耕や、馴染みのない町の決まりに誰もが戸惑うばかり。
 でも毎日を過ごすうちに、段々と町の生活に慣れ、やがてその生活が当たり前になった。
 町の生活は満ち足りたもの。
 ここに来るまでの辛い旅は言うに及ばず、山で暮らしていた以前よりも、はるかに生活は恵まれたものとなった。
 そのせいか、皆は苦しかった日々を忘れて浮かれているように見えた。

 だからこそ、私は思う。
 このありがたさを忘れてはいけない、と。
 昨日までのひもじさを忘れてはいけない、と。

 だからこそ、私は子どもたちに言い聞かせた。
 フジワラ様のおかげで、なんの不自由もなく生きていけるんだって。
 それはとても幸せなことなんだって。

 けれど、そんな考えは裏切られる。
 宴会の席でフジワラ様自らが露にした、その顔。
 それを見た時、まさかと――まさかそんなわけがないと私は思った。
 しかし、その考えこそ違ったのだ。

 フジワラ様は告白した。
 己が人間であることを。

 瞬間、私はカッと全身を熱くした。
 私たちから何もかもを奪った人間。そして、私から母さんを奪った人間。
 許せるわけがない。
 人間さえいなければ、母さんは死ななかった。
 だから私は怒ったのだ。
 怒りを食べ物にぶつけて、何もかもがどうでもよくなって。

 そしてその夜、私は町を飛び出した。
 死んでもいいと思った。
 私一人のたれ死んでも、誰も気にしない。
 私は私を思ってくれる母さんのところへ行くだけだ。

 でも、そんな私をフジワラ様は追いかけて来た。
 フジワラ様は私を怒り、そして諭した。

「君のお母さんはさ……君の笑っている姿を何よりも望んでいるんじゃないのかな……?」

 知っていた。
 母さんはいつも私のことを思っていたから。
 こんなこと母さんが望むわけがないのだ。
 だから私は泣いた。
 わんわんと子どものように泣きじゃくった。



 ――そして、時は流れて六年後。
 町に迫るのはシューグリング公国の軍。
 私は砲兵として戦いに参加していた。
 現在は、敵が降伏勧告を行い、それを突っぱねたところだ。
 石垣の下を、敵の使者が帰っていく。
 私はそれを大砲の後ろで見送りつつ、辺りに人間が潜んでいないかと気を配っていた。
 すると、視界の端。
 あろうことか、同じ狼族であるゴビがフジワラ様に弓を引いていたのである。

 何故、と私は思った。
 しかしそんな思考よりも早く、私の体は勝手に飛び出していた。

 もしかしたら、ゴビは族長の意思で動いていたのかもしれない。
 ゴビの裏切りは狼族の総意であったかもしれない。

 それでも私はフジワラ様を助けたかったんだと思う。
 抱えきれないほどの恩。
 それを、少しでも返したかったのだ。

 私は、私の体を強くフジワラ様にぶつけた。
 矢はフジワラ様ではなく、私の脇腹に深く突き刺さった。
 これでいい。
 私はそう思った。

 次いで聞こえてきたのは、ジハル族長の悲鳴のような声。
 どうやら狼族の意思というわけではないらしい。
 これなら、フジワラ様と狼族はまだやり直せる。

 でも、私はここまでだ。

 身体中から力が抜けていく。
 意識が朦朧として、目も開けていられない。
 周りの音が反響するように頭に聞こえた。

 私はきっと死ぬのだろう。
 けれど、それでもいいと思った。
 今度は胸を張って母さんに会いに行けるのだから。
 そこで私の意識は暗転した。



 ふと気づいた時、私は見知らぬ場所に立っていた。

「今のは夢……?」

 これまでの人生を振り返っていたような感覚。
 ぼうとしながらも、私は辺りを見回した。
 真っ暗な場所だ。
 すると彼方に光が見え、私はそれに誘われるように、そこへ向かって歩き始めた。
 近づくほどにわかる。
 光はとても温かかった。
 それは懐かしい温もりだ。

「母さん……」

 やがて光の前に到着した。
 私が光に手を伸ばすと、それは母さんになって私を包み込む。

「母さん……。よかった、また会えた。
 私ね、頑張ったんだよ。皆のために、部族のために。
 部族にはフジワラ様が必要だから」

 母さんは優しく頭を撫でてくれた。
 よくやったねと褒めるように。
 久しぶりの母さんの手だ。
 温かい、本当に温かい懐かしさ。
 そして、これからはずっと一緒にいられるね、と言おうとした時、母さんは光と共に離れていった。

「母さん……?
 まって、まってよ!
 また一緒に暮らそうよ、母さん!」

 私は母さんを追いかける。
 けれど、母さんは優しく微笑んで首を横に振った。
 なんで、どうして。
 走っても走っても母さんの下にはたどり着けない。

 やがて足がもつれて、体は前へとつんのめった。
 すると、後ろ手を誰かに掴まれた。
 私はその手に引っ張られて、転ぶことはなかった。
 誰の手か気になったが、今はどうでもいい。
 そんなことよりも、母さんのことだ。

『……ミラ、今度はこう言うわ。――母さんの分まで幸せになってね』

「母さん!」

 どこからか聞こえてきた母さんの声に、私は目一杯の声を張り上げた。

 そして光が弾ける。
 それと同時に、真っ暗だった世界がまばゆいばかりに輝いて、私は目をつむった。

 意識が覚醒していく。
 私はまだ生きていて、今から現実の世界に戻るのだということが、何故か理解できた。

 それでも繋がれた手の感触はそのままだった。
 誰のものかと思ったが、眩しい光の中で目を開けることすらままならない。
 だが、相手の手の甲には、私の指が触れている。
 そこに体毛がないことに私は気がついた。
 つまり、狼族のものじゃない。
 人間……。

『ミラ、早く目を覚ませ』

 どこかで聞き覚えのある声がした。

「……フジワラ様……?」

 私は目を開けた。
 そこは現実の世界。
 そして、呟いたのはフジワラ様の名。

「ん? 違うぞ」

 しかし、そこいたのはフジワラ様ではなく、知らない人間の女であった。

「うわっ! うわわ!? だ、誰だ、貴様っ!」

 私は思わず、後退り立ち上がろうとして――。

「あぅっ!」

 ガンっと頭を打ってしまった。
 頭を押さえながら状況を確認する。
 場所はフジワラ様の車の後部座席。
 胴甲冑は脱がされて、傷はない。
 では、目の前の人間は、一体……?

「はっはっ、大丈夫かミラ。病み上がりなのだから、あまり動かぬ方がいいぞ」

 やけに馴れ馴れしいが、その声には聞き覚えがある。
 おまけに私の名前も知っているようだ。
 敵ではないのか。そんなことを思いながら、目の前の女が何者であるか、自身の記憶を探った。
 金色の髪、青い瞳。
 しかし、人間に知り合いなどは……あっ。

「お前……まさかミレーユか……?」

 声は確かにミレーユのもの。
 おまけに痩せこけた姿ばかり印象に残っていたが、捕虜にしたばかりのまだ痩せていなかったミレーユの姿を、私は覚えていた。

「その通りだ。死にかけた、お前を――」

「フジワラ様! フジワラ様はどうなった!? 狼族は!?」

「落ち着け。フジワラ殿もお前の同胞も無事だ」

「そ、そうか、よかった……」

 ほっとした。
 口からは安堵の息が漏れる。
 気づけば、開いた後板からはトラックが見え、その運転席には狼族の者が乗っていた。
 つまり、フジワラ様と狼族の関係はいまだ保たれているということだろう。

「ふむ、先ほどの驚きようといい、今の安心した顔といい、お前は存外、感情豊かなようだな」

 その言葉に、私は睨み付けるようにしてミレーユを見た。
 この女、どうにも私を馬鹿にしてるようなきらいがある。
 すると、私の視線など意にも介さず、ミレーユは愉快そうに笑った。

「ははっ、うんうん。ようやく調子が出てきたな」

「……それで何故お前がここにいる」

 今すぐにでもぶん殴ってやりたいところだが、現状が掴めない上に、私の傷が治っているのにはどうもこいつが絡んでいるらしい。
 狼族がいる。フジワラ様もいる。
 だが、ここにミレーユがいる理由だけはわからなかった。

 すると、開いた後板の向こうからフジワラ様が姿を見せた。

「起きたのか」

 フジワラ様の言葉づかいが今までとは違う。
 これまでは丁寧ではあったが、どこか他人行儀だった。
 けれど今は、どこか自然な風に思えた。

 そして、フジワラ様は私に向かって頭を下げた。

「ミラ、ありがとう」

「え……? あ……」

「君のおかげで命が助かった。だから、ありがとう」

「……あ、頭を上げてください……」

 声がうまく出せなかった。
 気恥ずかしい。
 以前からそうだった。人間であり、恩人でもあるフジワラ様に対し、変に身構えてしまうのだ。
 隣でニヤニヤと笑みを浮かべるミレーユに苛立ちを覚えたが、だからといってどうしようもない。

「私は自分がやりたいようにやっただけです。お礼を言われる筋合いはありません」

 つっけんどんな返し。
 おそらく今の私は不機嫌そうな顔をしてるのだろう。
 そういえば、フジワラ様とまともに会話をしたことはこれが初めてか。

「そうか……これからも、よろしく頼む」

 フジワラ様は、そう言って微笑んだ。
 あとで聞いた話であるが、狼族以外の者は皆裏切り、私たちは町を捨てたのだという。
 そして今は北へと向かっているところ。
 はるか北の地で、新たな町をつくるのだ。

 母さんの下に行くのは、まだまだ先になりそうだと私は思った。
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