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この小説は完全なフィクションです
彼女の誕生日
作:志内 炎


 はぁ……
 まずい。マズすぎる。
 どうして今年は週末なんだ。
 そして。
 どうしてよりによって給料日直前なんだ。
 ……って、それは去年もそうだったんだけど。今年は、今年だけでいいから違って欲しかった。
 彼女の誕生日。そして付き合いだして約一年。大事な大事な記念日なのだ。
 普通のカップルならば、週末は大歓迎だろう。だが俺も彼女も客商売。
 彼女はまだ融通がききそうだが、俺の職場は体育会系である。
 イレギュラーな休みをとるだけで嫌な顔をされる。しかも、週末。その上理由が『彼女の誕生日』。果たして受理されるか……
 それでも今年はどうしても彼女と一緒にいたい。いや、いなくてはいけない。
 彼女には運命を感じた。
 俺が今まで付き合った女性の中で、一番しっかりしているし、一番優しい。うっかり者の俺にはこいつしかいない、そう思ったのは付き合いだしてわずか三ヶ月の事だ。
 時間なんて関係ない。
 だけどいつも急ぎすぎて失敗してきた。
 付き合いだして、すぐに同棲はあたり前。すぐに結婚してしまった事もある。
 でもすべて失敗。
「失敗してくれたから、私たちの今があるんじゃない」
なんて嬉しがらせを彼女は言ってくれるけど、冗談じゃない。俺は二度と失敗したくないし、絶対に彼女をのがしたくないのだ。
 だから一年待った……いや、本当は待ちきれずに何度も
「一緒に住みたい」
とか
「俺の苗字になるんだろ」
とかを繰り返してしまった。
 彼女はその度に笑って
「はやくそうなれればいいね」
って言ってくれたり、つまらない失敗に
「そんなんじゃ一生なんてついていけない」
なんて叱ってくれたり、自分勝手な計画に
「どんなに愛し合っていても、別々の人間なんだからちゃんと話して」
と諭してくれたり。
 時には喧嘩になるけれど、ちゃんと最後は一緒にいるってレンジで話をしてくれる。
 ここは男として、ちゃんと決めるところでしょう。そこで俺は夏から準備していた。
 今年始めに彼女にもらったペアリングは元々小さかった上に、太ってしまって入らない。ここはダイヤモンドリングを……
 と思ったけど、俺の給料三ヶ月分じゃ、ダイヤか塩の結晶かもわからない。し、現実にそんな金もない。
 誕生石なんて、おしゃれかな、と思って調べたら、オパール……結構なお値段で。
 どうしよう。
 頭の中はくちゃくちゃしていて、ここは女性の意見を聞くべきって閃いた自分に満足しながらスナックへ飲みに行き、財布を無くした。しかも飲み過ぎて記憶も無くした。
 最悪の展開。
 あんまりいいプレゼントはできないけど、それでも誠意は見せなくちゃ。
 俺は一ヶ月、上司の機嫌をとりつつ、チャンスを待った。
 おちゃらけて勢いで休みを貰うには週末はきつい。でも真顔で言って理由を聞かれたら、これまた少し恥ずかしい。
 どうしたものか……頭を悩ませていると、上司が言った。
「で、いつ休みたいの?」
「えっ!」
「……その顔は週末か……いつ?」
「その……」
カレンダーの彼女の誕生日を指差す。俺の部屋にあるカレンダーと違って、記しがついていないから、一瞬指先がふらふらした。
「わかった。そのかわり、普段の休みと振替になるから、キツイシフトは覚悟しといて」
と、呆気なく認められてしまった。
 むむ、さすが上司。読まれてるのは悔しいが、ここは結果オーライということにしておこう。
 さて、次はどんなふうに彼女を誘うか。
 たいしたプレゼントもできないんだし、少しくらいは感激させたい。
 思えばいつも、記念日となる日には仕事、仕事でゆっくりできなかった。
 クリスマスもバレンタインもホワイトデーも、全国のイベントは俺にとっては稼ぎ時。この一年可哀相な事をした。
 何をしよう。何がしたいだろう。やっぱりサプライズは必要か……
 そう考えているだけで、楽しかった。
 『もう、すねそう……』
彼女からメールが入る。
『どうしたの?』
『誕生日の当日だと混むからって、違う日にお祝いしようってお客さんが続出してて、当日がドーナツ化だよ。暇になりそう』
 あ。
 俺は非常に重要な事を忘れていた。
 彼女は夜の蝶。
 誕生日に休めるはずなどない。
 無駄だと思ったけど聞いてみた。
『まさか誕生日休めたりしないよね?』
『まさか休めるわけはないけど……どうして?』
『俺、馬鹿だから休みとっちゃった』
 俺は携帯電話を握りしめ、画面を見つめた。
 頭の中が真っ白になる。
 無理矢理休んだ皺寄せのきつい勤務。プレゼントのために節約した日々。うきうきしながら考えていたサプライズ……
 そして何より、想像できる彼女のあきれ顔。
「勝手になんでも決めないで、話し合うようにして」
何度もそう言われていた。
 いつもそう。
 自分の閃きに嬉しくなって、計画する。それはとってもいい計画だから、彼女ももちろん、喜んでくれるはず。
 という勝手な考えでがんがん進めていく。
 彼女にも仕事がある。付き合いもある。友達もいる。上手く時間があいていればいいが、たいてい何かの障害にぶつかる。
 格好悪い。でも仕方ない。また彼女に怒られて、反省しよう。
 と覚悟していたものの、実際手の中で携帯が震えるとドキッとした。
『ばか。そんなのわかってるでしょう?それでなくても週末なのに。
 本当にいつも勝手よね?全く。何度同じ事言わせるの?』
なんてメールだったら、立ち直れないかも知れない……
 『そっかぁ』
ドキドキしながらメールをひらいた。
『ありがとう。
 前日も当日も仕事だけど、当日の昼間、一緒にいてくれたら嬉しいな』
 地獄から天国。
 やっぱり彼女でよかった。
 ここは決めないと。
『オッケー』
そう返信して、また計画を立て始める。
 昼ご飯は何を食べよう。やっぱり彼女の好きな魚かな。確か駅ビルに展望のいい寿司屋があったな。あ、それよりプレゼントどうしよう。指輪は無理か……ネックレスか、ピアスか。あれ?あいつ、ピアス開けてたかな?
 そう思い、思い浮かべた優しい俺の彼女の顔は、心なしか苦笑いしている気がした。


まわりのお友達の中にもいる愛すべきダメ男。私も癒されています。でも自分の彼だったら……(笑)













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