白い空気(6/21)PDFで表示縦書き表示RDF


白い空気
作:アクア☆



ありがとうの言葉


 雪も徐々に少なくなってきた頃。

 理容の専門学校に通っている俺は、一つの壁にぶつかっていた。

 資格を取るための筆記試験と実地試験!これを取らないと先には進めないのだ。

 伝染、消毒、物理科学、公衆衛生…色んな科目。医療関係みたいな勉強をしていた。

 毎日のように勉強をし、学校の仲間と協力し合う日々の努力。今まで、こんなに頑張った事はなかった。合格したくて…。皆の喜ぶ顔が見たくて…。

 そして合格発表…

 俺は、仲間の前では、かなりの余裕っぷりを出していた…が、内心かなり不安だった。

 数字だらけのボード。ボードの前は人だらけ。強引に中に突っ込む。ある意味、一番の山場なのかもね…。

 押され蹴られでどうにかボード前に来る事が出来た。

 ため息をついてる暇はなかった。

 後ろからドンドン押してくる。自分の番号を探さないと…。632はと…。お!600があった。
 630 631 632 633 …

 一瞬、動きが止まった。何故か今まで騒がしかったのに、時が止まったかのように静かだ。

 あった……!

 緊張の糸がほぐれたかのように、人の波に流されて行く。

 あぶね!大混乱の中、どうにか抜け出した。

 番号を確かめる。632 だよな…。改めて実感した。嬉しかった。思わずうっすらと目に涙を浮かべる。やった!周りを振り返り誰かを探した。誰……、未来。

 この時、不思議と未来の笑顔が頭をよぎった。未来に言いに行こう。親でなく、仲間でなく、未来に…。

 学校を出て、真っ先に向かったのが、未来のいるお店“White Care ”まだ、寒さも残るこの季節。俺は、汗だくになりながら店に向かった。

 あれから、何度となく顔を出していたせいか、スタッフにも知られていて居心地の良い店になっていた。

 昼間は、比較的暇なお店。店のガラス越しで合格証書を掲げ、満遍の笑みで仁王立ち。そして、Vサインをした。

 店の中では、指差している人、見て笑ってる人、接客してて気付かない人…、様々だったが、未来は、俺を見て笑っていた。

 未来は、お客さんに入っていた為、少し遠慮がちに胸元でVサインをし微笑んでいた。お客さんにも教えていたみたいだった。

 店長とスタッフ何人かが、俺の事を祝福しに店から出て来てくれた。そこには綾乃の姿もあった。

 店長は、『良かったな!』って、俺の頭をぐしゃぐしゃにし、一緒に喜んでくれた。もちろん綾乃も、他のスタッフも喜んでくれた。

 おかげで店の前は大騒ぎ!店長なんか、歩いてる人にまで…『こいつ免許取ったんですよ!』少し恥ずかしかった。でも、嬉しかった。

 皆に“良かったね”って言われたかった。……でも、一番に言って欲しかったのは…やっぱり未来だった。それだけに……。嬉しかった…けど…。

 未来の事、少し待つことにした。“チラッ”と見れば目が合う。気にしてくれてるのが少し嬉しい。だけど、接客中の未来は俺の所には来れなかった。

 日も暮れて店は忙しくなる一方。お客さんの来店が多くなってきた。いっぱいで帰る人、待つ人。気付いたら、皆接客していた。忙しいな…。

 店の看板に灯りが灯された。電灯にも灯りが灯される。徐々に気温も下がり始め、冷たい風が吹き出した。寒い…。何で今日に限って…。俺は、未来に“おめでとう”って、言って欲しかった。ただ、それだけなのに…。

 なんか、待ってるのが辛く思えてきた。諦めて帰る事にした。

 最後にガラス越しから未来を見た。忙しそうにシャンプーをしていた。やっぱりダメか…。

 昼間は、比較的暖かいが、日が暮れると冷たい風が吹く。夜空を見ながら思った。


 せっかく合格したのに…。


 合格証書を持ちながら、虚しさだけが残る。街はこんなに明るく活気ずいてるのに…。俺の心は真っ暗だ。

 アパートに着き、テレビをつける。お笑い番組がやっていた。

 お笑いを見ていても面白くない。

 俺…何やってんだろ…。

 合格証書を机の上に置き、少しボーッとしていた。何もするきが起きなかった。

 ブーブー…

 携帯が鳴っていた。

 誰だろ…。未来?

 急いで携帯を開いた。画面に表示されていたのは“実家”……。あれ?なに期待してんだ?鳴り続ける携帯。とりあえず出る事にした。

『もしもし。』

『あ!司?今日どうだったの?発表あったんでしょ?』

 電話の相手は母親だった。少し心配そうな声で、でも、懐かしい声。いつもなら少し安心していたのかもしれない…。

 電話をしながらも、頭の中では未来の事しか浮かんでこなかった。

『うん。受かったよ…。』

 電話先の母親は『そうなんだ、良かったね』と。ホントはもっと嬉しかったはずなのに…。何で…かな…。

 母親は、少し安心したのか明るい声になった。俺も、『うん』って、返事をし頷くが、話に集中出来なかった。案の定、内容なんて全然覚えてなかった。

 電話を切り、テレビの音だけが響く部屋。寂しいな…。ふと思う…、何で未来だと思ったんだ?


 なんで……。


 心臓の鼓動が激しくなる。あれ……。

 ブーブー…

 そんな時、また携帯が…。

 少し手が震えた。喉が鳴り、一瞬…このワンコールがヤケに長く感じる。

『もしもし。』

 携帯の画面も見ずにでた。かなり動揺していた気がする。

『司君?』

 未来だった。

『あれ、司君?どしたの?』

 俺は無言だった。頭の中では、沢山話ているのに…。未来からの電話、嬉しかったはずなのに…。素直に喜べない自分がいた。

『……ごめん、今…、忙しいから…。』

 ピッ、プープー…

 電話を切った。

 なにやってんだろ……。

 その後、何度も電話がかかってきた。でも、出る事はなかった…。












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