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オンマリシエソワカ
作:T・ミーナ



第七話 本領発揮


第七部 本領発揮

「ほいっ、また捕れた」
 ヒロが水面から顔を出した。高く突き上げたモリの先で、手のひらサイズの魚がぴちぴちはねている。
「すごいですよ。片山さん。これでもう十匹目ですよ。さすがは北京オリンピック候補といわれるだけのことはあります」
 花田が手を叩いて喜んだ。
 わたしと花田は河原で石を集め、火をおこす準備をしていた。政治とエリカは食べられそうなきのこや木の実を探しに山に入っている。
 V字に深く切り込んだ谷間は、本当に日が暮れるのが早く、ついさっきまで真上にあった太陽は、もう勢いを失ってかげりをみせ始めていた。
「ヒロ、魚はもういいんじゃない」
 何度でも潜ろうとするヒロを止めた。ただでさえ冷たい水だ。つらくないわけがない。上がってすぐに火をおこしてやりたかったが、マッチには限りがあった。
 狩猟組が魚の捕獲をやめたちょうどそのとき、採集組も山から戻ってきた。政治は赤い実をつけた枝を数本腕に抱え、エリカは体操服のすそに何かを包んでいた。
「これ、くえると思う?」
 素手でどうやって折ったのかと思うような太い枝を、政治は下に置いた。
 枝のいたるところから、小指の先くらいの赤いつるつるの実が、飛び出している。
「わあナツグミだ」
 思わず笑顔がこぼれた。
 いつどこで食べたか忘れたけど、その甘ずっぱい味を舌がよくおぼえていた。
「じゃこっちは」
 エリカがぱっと手を離すと、体操服のすそから、黄色い実をつけた草のかたまりがぱさっと落ちた。とげがたくさんついていて、手では持てなかったらしい。
「モミジイチゴ。だいじょうぶこっちも食べられるよ。野生のイチゴは、赤よりも、黄色の方が甘くておいしいんだ」
 口が勝手に答えていた。不思議。どうしてこんなことまで知っているんだろう。
「ほんとだ、うまい、ムカゴすごいよ」
 政治が黄色い実をほおばった。大げさなくらい感激してる。すごいのは、わたしではなく、モミジイチゴなのに。
「ムカゴさん、助かりました。ぼくたちには、毒かそうじゃないかの見当さえつかないんですから」
 花田もナツグミのつるつるの実を口に入れた。
「ああ、甘いです」
「そういえば、火をおこす手際も、川魚の串刺しも、素人とは思えなかったし、親によくキャンプとかつれていってもらってるのかもね」
 河原に寝そべってからだを温めていたヒロが微笑んだ。
「そうなのかなあ」
 言われるとそうかもしれない。
 たった今も、ヒロの捕った十五匹の魚の内臓を取り除くためにちょうどいい大きさの石を探していたところだった。生きたまま魚の腹を裂き、内臓を取り除くことには、不思議と何の抵抗もなかった。
 以前、このやりかたを誰かにおそわったのだろう。
 父か母か。
 両親らしき人が頭に浮かんだが、たぶん想像上の産物。肝心の顔の部分にもやがかかってよく見えない。
「かわいいかわいいムカゴさま。これからもおいしい食い物をたくさん教えてくださいませ。そして我らを飢え死にから救いたまえ。アーメン」
 政治がわたしに向かって拍手を打った。
 横でヒロがあきれている。
「まったく調子よすぎだよ。これまでさんざんムカゴにいやがらせ重ねてきてさ。それがどう、役に立つってわかったとたん、手のひら返したように、ぺこぺこぺこぺこ。これじゃあまるで拝金主義のわいろ役人。血筋ってほんとおそろしいわ」
「それ、おやじに言ってやって。たぶん泣いて喜ぶと思うよ」
 政治の横顔が卑屈にゆがんだ。
 ふと気がつくと、エリカの機嫌が最悪だった。そこだけ空気がよどんでとぐろを巻いている。理由はたぶん、わたしばかりが注目を浴びているから。
「エリカも食べたら。イチゴ甘いよ」
 気をつかってヒロが声をかけた。
「いらない」
「やせがまんすんなよ」
「そうですよ。糖分は疲れたからだを癒しますから、どうぞ」
「いいってば。フルーツならうちで食べるからいいもん。そんな道に落ちてたもん、汚くて食べたくない。おなかこわす。ママにしかられる」
 そのあと誰もエリカに声をかけなくなった。
 しばらくすると、おなかがすいたと言ってしくしく泣きだした。

 



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