美少女サンタコンテスト略して美ンタコスト
料理部の用意した料理は、まぁ、料理部員の僕が言うと自画自賛になっちゃうんだけど、どれもこれも非常に美味だった。それぞれの料理の味わいについて仔細を述べることは省略するけれども、その中でも特に美味なのは、ローストビーフとビーフシチューだった。いずれも先輩の得意料理であり、何度か食べたことのある料理なんだけど、やはり美味しい。七面鳥の丸焼きは初めて口にしたんだけど、鶏肉とかなり似た味で、ちょっと味が濃いような味わいだった。僕としては、七面鳥の方が鶏肉より好みかもしれない。とはいえ、そうそういくらでも食えるもんじゃあないけどね。
「歩。あと何食べる?」
ずっと僕の近くでうろうろしていた彼女が言う。彼女はよく僕に何かを食べさせたがる。小さな女の子が、より小さな子を世話したがるようなものだろうか。
「うーん。グラタン食べたいかなー?」
「はい、食べさせてあげる」
「ぶわちっ! 熱いよっ! それ、グラタンを食べさせるのは止めてっ! 熱い熱いっあぶわぶぶっ!?」
僕が抵抗するも、彼女は容赦なくスプーンにすくったグラタンを僕の口に突っ込んでくる。君って、実は僕のこと好きなんじゃなくて嫌いなんじゃない? と思えてくる。
「はーい、それでは、皆さーん」
僕が熱々のグラタンを彼女に食べさせられるという罰ゲームをやっていると再び檀上に山田さんが現れた。
「これより、皆さん、お待ちかねの校内一の美少女サンタ、略して美ンタは誰だー。美ンタコンテスト、略して美ンタコストを開催いたしまーす」
そのイベント名って一々言わないといけないものなの?
「えー。ルールは簡単。これから五名の美少女サンタ、略して美ンタ候補が現れまーす。で、彼女たちがそれぞれ、媚びーじゃねえ、アピールをしまーす。そんで、まぁ、最後は皆さんの拍手によって真の美ンタを決定したいと思いまーす。まぁ、とりあえずは、かわいいサンタコスの娘っこを見て喜べばいいじゃなーい」
山田さんは無表情で淡々とやる気なさげにだらだらと喋った。
司会のやる気なさとは逆に、百人以上の聴衆はやる気十分。山田さんの言葉に歓声を上げ、拍手喝采する。
ただのクラス委員長に他ならない最上さんが一人で考えて一人でやりたいと言い出して、周囲の何人かを巻き込んで、僕が一枚噛んだりして、いくつかの部活・同好会が参加することになったクリスマス怨念会だけれども、実際、これはただの私的なイベントの域を出ない。それがこんなにも三桁もの参加者を擁するに至ったインシティブは、この企画の効果がかなり大きいと思われる。いや、もっと具体的に言うなれば、皆、この企画に参加する千鳥さんのミニスカサンタコスを最も楽しみにしていたのだ。かくいう僕もである。
「ついに千鳥さんのミニスカサンタコスを拝見できるのかっ!?」
「千鳥さんっていっつもスカート長かったからなー」
「千鳥さーん! 俺だー! 結婚してくれーっ!」
野郎どものテンションは上がりっぱなしだ。チンチクリンな日本人形みたいな奴はさっさと引っ込んで、ナイスバデーな千鳥さんを見せろと言わんばかりである。あと、千鳥さんは僕の嫁だ。
そんな男子どもを見た女子は「うわー、男子、キモー」「あいつら、超キショクなーい?」などというかといえば、そんなことを言うビッチ、もとい、女子はこんなイベント自体に参加していない。元々、女子の数自体がそれほど多くはなく、この場における女子の割合は三割といったところだろう。
で、その女子の反応はといえば、
「ついに千鳥さんのミニスカサンタコスが見られるのっ!?」
「キャーッ! 千鳥姉さーんっ! 抱いてーっ! いや、抱いちゃうっ!」
「千鳥さんがあんたなんかの嫁なわけないでしょっ! 私の嫁よっ!」
おいおい。この学校大丈夫か? ちなみに、千鳥さんは僕の嫁だと何度言ったら(略)
「あー、皆さんが何をお待ちかねなのかはイタいほどわかりました」
まぁ、確かにちょっとイタいかもネ。
「とはいえ、いきなり大本命に登場してもらうのは、なんともアレですので、大本命にいく前に、他の四名の出場者たちから紹介していきたいと思います」
山田さんの空気読まない発言によって、会場のテンションはいくらか静まった。失礼な話だよね。ていうか、山田さんの言葉は、千鳥さん以外の四名を前座呼ばわりしているに等しく、これまた失礼な気がする。
「あー。なお、今回、美ンタコストを開催するにあたり、審査員の独断と偏見で、校内でも美人と名高い方々に出場を打診し、かつ、半ば強制的に参加願いましたー」
半ば強制的ってのは、たぶん、最上さんの脅迫だろうな。
「しかしながらー、校内でも人気の高い早野さん、原さん、石川さん、美空先生については、彼氏との甘いクリスマスを過ごす予定とのことですので、残念ながら未参加となっておりまーす」
山田さんの言葉を受けて、会場のテンションはだだ下がった。校内でも人気の女子三名+女教師に相手がいることが判明した為なのは言うまでもなく、一方、自分はといえば、こんな独り者同士が傷を舐め合うが如きイベントに参加していることを自覚し、いやーな気持ちになったのだろう。
ていうか、僕も大いなるショックを受けた。まさか、音楽の美空先生にも彼氏がおったとは……。なんてこった。何の為に、僕が真面目に音楽の授業を受けていると思っているんだ。音痴な僕があんなかったるい音楽の授業を一度も休んだことがないのは、何の為だと……。
会場のテンションが一気に沈底する中、山田さんはマイペースに進行を続ける。
「では、最初の美ンタ候補に登場して頂きましょう。どぞー」
会場の視線が集中する中、第一の美ンタ候補が登場した。
闇夜のように黒く艶やかな長髪を垂らし、前髪は綺麗に切り揃えている。肌は月のように白く、くっきりしているわけではないが、上品な目鼻立ちに、唇は桜色。
すっきりとした細身の体で、それを強調するかのようなビキニスタイルのサンタ衣装を着ている。ビキニスタイルのサンタ衣装というのも変な話だけれども、そういえば、大抵の人は理解できるだろう。きゅっと括れたウエストは丸出しで、可愛らしいおへそまで丸見えだ。ショートパンツからは白く細い足が伸び、魅力的だ。大変ボリュームに欠ける胸元は白いもこもことした綿みたいな飾りで上手く隠している。
着ている本人は物凄い恥ずかしいようで、顔は耳まで真っ赤だし、もう涙目だ。動きはぎくしゃくとしているし、ガクガクと震えてもいるようだ。
とはいえ、非常に美人であり、その丸出しのヘソも足も大変な美しさであり、会場からは「おぉぉー」という声が上がる。
「あー。では、自己紹介といきましょう。クラスとお名前をお願いしまーす」
「へ、あ、え、えーっと」
山田さんにマイクを向けられて、あたふたと慌ててから、答えた。
「一年D組、町野希美子、です」
町野さんはそう言って泣きそうな顔で眉間に深い皺を作った。
「出場しようと思った動機はー?」
「動機? あいつが無理矢理出ろって……」
町野さんは極めて不満そうな顔でぶつぶつと不機嫌そうに言い、ローストビーフにがっついている最上さんを睨んだ。
皆の視線が向いている中でも、最上さんは平気な顔でローストビーフを次から次へと平らげていく。ありゃアメリカ人の食い方だ。
「それじゃー、アピールタイムということでー、何か、アピールしてくださーい」
山田さんが無茶振りをして、町野さんはぎょっとした顔をした。横暴独裁委員長最上さんの脅迫で無理矢理出場させられた町野さんが何をアピールするというのか。
とはいえ、会場中から百以上の視線を浴びている中で、何もしないわけにもいかない。町野さんは愛想も何もないしかめ面で、山田さんが差し出したマイクを受け取り、口を開いた。
「じゃ、じゃあ、寿限無言います。寿限無寿限無五劫の擦り切れ海砂利水魚の水行末雲来末風来末食う寝る処に住む処やぶら小路の藪柑子パイポパイポパイポのシューリンガンシューリンガンのグーリンダイグーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助」
町野さんが朗々と述べた寿限無を聞き、会場からは「おぉぉー?」と最後に疑問符が付く感嘆とも何とも言い難い声が上がった。皆、イマイチ、寿限無が何なのか知らないからだろう。寿限無の意味が分からない人はウィキペディアで調べればいいじゃない。でも、これ、僕も言えるよ。
「はーい、ありがとうございましたー」
山田さんはてきとーに拍手をしながら言い、町野さんはステージの脇に退いた。
「やっぱ町野も黙ってりゃ美人なんだよなぁ」
リンゴジュースをちびちび飲んでいると、いつの間にか隣にいた古川君がボソリと呟いた。
「おや、いたのかい? まぁ、そうか、そりゃいるか」
「おい、そりゃ一体どーいう意味だ?」
そのままの意味だってば。今やっているイベントがどういう趣旨で、どういう参加者を募っているかを考えてもみたまえよ。
「それは置いといて。町野さんが何だって?」
「いや、町野はよ。綺麗な顔してるなって話よ。でも、普段は、口は悪いわ、目つきは悪いわで、あんまり意識しねーなって」
「うーん。それは確かにそうかも」
町野さんって普段はいつもしかめ面っていうか小難しそうな顔をしているし、あんまり喋らないし、口を開いたと思えば、毒のあるキツイ言葉だったりするからね。まぁ、あの人の癖みたいなもんだから、これはもうしょうがないとしか言いようがない。
「たぶん、人付き合いが苦手だから、あんなふうな口調とか目つきとかになるんじゃないかなー?」
「そうかー?」
「そうとも」
「まぁ、どっちにせよ、黙ってれば美人ってやつだな」
「そうだねー。でも、乳が残念」
「あー。それは残念だな」
僕と古川君は揃って憐憫の視線をステージ上の町野さんの胸部へ注いだ。残念だなー。
そんなことをしていると、横から彼女が殺気に満ちた厳しい視線を向けてくるけど、無視した。視線を合わせたら死にそうな気がしたから。
「では、次の美ンタ候補に登場してもらいましょー。どぞぞー」
そんな感じで山田さんは次の候補者を呼び出した。
続いて登場したのは、少々茶色っぽい長髪をポニーテールにしている美少女だった。凛々しいツリ目で、すっきりとした鼻筋のかわいいというよりも綺麗、綺麗というよりも格好いい顔立ち。背はすらりと高く、手足も長く細い。所謂、モデル体型というやつだね。衣装も、その手足の長さを強調するかのような、ショートパンツにノースリーブのものだった。
しかし、これまた胸部が残念だ。町野さんや彼女よりかはまだマシだけど、まぁ、どんぐりの背比べやね。小山と丘はどっちが高いかって比べているようなもんだ。どっちもほとんど同じだって。
この人の場合、自己紹介をする前から、誰もがその素性を知っていた。秋田さんだ。
秋田さんはうちの学校では中々知名度のある生徒だ。最上さんも有名だけれども、そーいう悪い意味で名前が知れ渡っているわけではなく、秋田さんはうちの学校の生徒副会長を務めていらっしゃるのだ。正式な肩書は生徒会副会長兼風紀対策委員長兼生活委員長兼ボランティア同好会会長である。主に生徒の風紀と生活環境に関する責任者であり、風紀を乱すことが多い僕や彼女、最上さんにとっては天敵である。全校集会などで度々生徒諸君の生活態度や服装・持ち物検査などについて、注意などを述べる為、生徒からは「もう秋田の話は飽きた」という駄洒落をよく言われている。
「二年B組。秋田望。生徒会副会長兼風紀対策委員長兼生活委員長兼ボランティア同好会会長」
秋田さんは山田さんからマイクをふんだくるとよく通る声で自己紹介した。いや、皆、知ってるから。
「趣味は食うこと。特技は早寝早起き早食い。好きな食べ物は肉。嫌いな食べ物はない。ヨロシク!」
そう言って秋田さんはVサイン。何故か場内からは拍手が上がる。
秋田さんは満足げにニヤリと笑うと、山田さんにマイクを渡して、脇に退いた。
しかし、まぁ、よく出てくれたもんだなー。風紀を乱す代表的な生徒として名が上がる最上さんとは相性が最悪だと思うんだけど。生徒会繋がりで、千鳥さんから手を回したのかな?
「うーむ。A++か?」
古川君が顎を摩りながら渋い顔で呟く。
「いやー。A+じゃない? あと乳が一回りでもあれば、文句なくA++だけども」
「やっぱ、そうか。だな。あの残念さではな」
僕の意見に彼も同意する。
このA+とかA++は何かっていうと、僕が非公式に参加している「紳士同盟」なる謎の秘密組織の主な活動内容である「校内美人格付」において、美人度を勝手に独断と偏見で測る基準である。僕と彼女が付き合うようになってから紳士同盟の活動にはあんまり顔を出していないけど、一応まだ僕の席はあるようだ。書記として幹部クラスに名を連ねていたせいだろうか。
「んでは、三人目にいきたいと思いまーす。次の方、どぞぞぞー」
山田さんが言い、舞台袖から現れた人を見て、僕は思わず口に含んでいたミニトマトを吹き出してしまった。僕が吹き出したミニトマトは後ほどスタッフ、じゃない、彼女が美味しく頂きました。食べ物を粗末にしちゃあいけないからね。
や、ミニトマトなんてのはどーでもいい。それよりも、重要なのはステージ上に現れた第三の美少女サンタ候補。
こざっぱりと短めに切り揃えた髪に、真面目そうな眼鏡をかけ、ちょっと気だるげな雰囲気。背は高くもなく低くもなく、胸部は程々にボリュームがあり、あんまり露出の多くないサンタ衣装の上に白衣を羽織っている。僕はこの人をよく知っている。よく会っている。主に保健室で。いや、まぁ、確かに、美人ではあるけどさー。あるけどさー。具体的な年齢は知らないけど、たぶん、僕らの二倍は生きているはず……。
「あー。ど、どもー」
保健室の先生は真っ赤な顔でふらふら千鳥足。手にはシャンパンの瓶。中身は見たところ、半分以上ない。
「うぇー、ヒック。あー。今日はサンタでーす。美少女サンターでーす」
あんた、美少女って歳じゃないだろ。というか、先生は既にかなり出来上がっているようだ。
「てか、あたし、何で、ここにいんだろー? クリスマスなのに。あ? クリスマスだから、ここに? 一人で、え? 何でー? 何で、あたし、クリスマスなのに、一人で、こんなことを、えー。何でー。どうして、こんなことにー」
本当にどうしてこんなことに。ていうか、誰だ。この人を出場させたの。かわいそうじゃないか。見ているだけで、泣けてくるよ。そして、何で、先生も出場しちゃったんだ。
居た堪れなくなってきて僕はそっと会場を離れ、トイレに向かった。そこで、これからはもっと先生に優しくしてあげようと固く心に誓った。
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