彼女にエロ本見つけられたなう
家に帰って自室に入ると当然のように彼女がいて、僕の自家発電用のおかずを読んでいた。ぎゃふん。自家発電用のおかずって意味が分からない。或いは、おかずを読むの意味が分からないなんて、人はもう本当に今更だけど、こんなん読んじゃダメだよ。清いままの君でいて下さい。
「君何読んでいるのさ」
「めいど嫁」
「いや、本のタイトル言わんで宜しい」
「エロマンガ」
「ジャンルも言わんで宜しい。いいから寄越しなさい」
彼女から本を取り上げて、元あった場所に戻しておく。この手の本はベッド下にある不自然なダンボール箱の中に収納してあるのだ。家族はこのダンボール箱の存在を知っているし、その中身もおそらく承知しているが、あえて触れないでいてくれる。家族って温かいね。
しかし、そんな中で空気を読まない人がいます。
「君です」
「君に言われたくない」
彼女はむっつりと不機嫌そうな顔で言った。
「僕は空気読めないわけじゃないの。空気読まないだけ。読みたくもないし」
「そっちの方が悪い」
「いや、どっちもどっちじゃないかな」
「そうか」
とりあえず、空気が読めない読まない読みたくないのKY三原則は関係ないので、置いておくとして、問題は彼女の行動だ。
「君は何をしていらっしゃったのかな?」
「君の部屋を掃除していたらベッドの下に不審なダンボール箱があるのを見つけて、中を見てみたら、これとかが入ってた。えーっと、つんでろ」
僕の質問に彼女は答え、別のエロマンガを取り出して見せる。
「あ。それ、ダメ。そっちはもっとダメ。返しなさい」
「もう全部読んだ」
「え。あぁ、そう」
「これも読んだ。ていくおんみー。こっちは過激だな」
「わー。それは本当にダメだってー。そのヒロイン。君にちょっと似てない? タッパあるし、眼鏡だし。あ、君には乳がな、あーっ! 痛い痛いっ! ゴメンナサイッ!」
彼女は僕のエロマンガコレクションをコンプリートしてしまったらしい。うぅむ。
とりあえず、僕と彼女は床に正座して向かい合った。二人の間には例の平素はベッド下に置いてあるはずのダンボール箱が置かれている。どうしてだか、彼女が置いたのだ。
「あのね。これはね。まぁ、なんていうか、ほら、女の子はどうか知らないけど、男の子ってのは、あー、こーいうふうにね。性欲の捌け口が必要なわけ。健全なる男子たるものならば、この手の本を何冊か持っていて自然なんだよ。てか、こんなこと言わんでも分かるよね?」
わざわざ、口にして説明するのめっさ恥ずかしいわー。
「性欲の捌け口なら私がいる」
僕の説明に彼女は堂々と胸を張って仰る。そんな堂々と言われてもなぁ。
「いやいや、そうは言われてもねぇ」
「君がそーいうことをしたい気分になったら私で発散するといい」
「いや、するといいとか言われてもねぇ」
そんなお手軽簡単に言われても困っちゃうよ。
「私に言ってくれればいつでもする。手でも口でも胸でも」
「胸ないじゃん」
彼女はむっつりと不機嫌そうに眉間に皺を寄せて、例の致死性があるといわれても不思議じゃないような視線で僕を睨む。
「ないわけじゃない。ちょっと薄いだけ」
「あぁ、うん、まぁ、そうね」
ちょっとどころじゃないような気はするけど、ここは黙っておくのが吉だな。さっきみたいにアイアンクローされるのも嫌だし。頭蓋骨陥没するかと思った。
「とにかく、君が言ってくれれば、私はいつでも君の性欲の捌け口になる用意がある」
用意があるとか何とか言われても困るよ。そもそも、何と言えばいいのか分からない。直球に言うなれば「ちょっと溜まったから抜いてー」とか? 最悪だ。彼女を何だと思っているんだ。性処理の道具だとでも思っているのか。けしからん。許しがたいね。男の風上に置けない。
「いや、そんな男の屑みたいな真似はできないよ」
「こんなものに浮気する方が悪い」
そうかなー?
「それに、私は、君の性欲を処理するのは嫌いじゃない。むしろ、好」
「ノン! 女の子がそんなはしたないこと言っちゃいけません!」
「愛があるならば性行為を伴うのは自然なことだ」
「だから、何だって愛を理由にすれば許されると思うじゃなーい! 愛は免罪符じゃないよ!」
まぁ、愛が素晴らしいものだってことは認めよう。愛は地球を救うらしいしね。ほら、毎年言ってるし。地球を愛しようっていう博覧会もあったし。まぁ、愛で地球を救うがテーマの番組はろくに見たことないし、地球を愛する博覧会も見に行かなかったけど。愛を知る県は北の国からは遠すぎるんだよー。愛で地球を救う番組は普通に好みじゃない。気がつくと、いつも皆黄色いシャツで歌ってるシーンをやってるのを見るだけになる。
「ていうか、これって浮気なの?」
エローいマンガとかで自己発電する行為は浮気? なんだか釈然としないなぁ。
しかし、彼女は渋い顔で深く頷く。
「当然だ」
浮気ってのは、彼女・彼氏がいるのに、他の異性と乳繰り合ったり、仲良くしたり、もっと厳格にいえば、他の異性に思いを寄せたりするってのが浮気なんじゃないかな。その異性ってのは紙に書いてある本当には存在しない架空ものキャラクターであっても適用されるもんなの?
その旨、伝えると彼女は渋い顔で、
「当然適用される」
との見解を示した。
いや、まぁ、そりゃあさぁ、文言どおりに杓子定規に読み取れば、そうかもしれないけど、実際は違うじゃん? ねぇ? 誰も、別に、架空のキャラクターに本気で恋してるわけではないし(中にはそーいう人もいるかもしれないけど。僕は違う)、彼女よりも好きとか大事とか思っているわけじゃあないし。そもそも、いないんだよ。架空なんだよ。紙に描かれた絵として存在しているだけだよ? それをおかずにムニャムニャすることが浮気になるのか? なるわけないじゃない。憲法における軍事力の解釈くらい拡大してもいいんじゃない? ほら、日本は軍事力を有していないっていう解釈が成り立ってるんだから、架空のキャラクター相手のムニャムニャは浮気ではないっていう解釈の方がずっと成り立ち易いはずだよ。
「君の解釈厳しすぎるよ」
「厳しくない」
僕の抗議を、彼女はにべもなく首を左右に振って、即座に否定する。
「いやいや、厳しすぎる。てか、おかしい。それは横暴ってもんだよ」
「じゃあ、君は私が、君以外の異性に浮気してもいいっていうのか?」
「いや、僕は、浮気してるわけじゃないから」
「いや、浮気だ」
僕と彼女の意見は全く並行線。毎度のことながら思うけど、僕と彼女の思考っていうか価値観とか考え方って全然相容れないことが多いよねぇ。実は相性悪いんじゃなかろうか?
「だって、君は、こーいう絵の女と性交することを想像して自慰をするのだろう?」
「いや、性交することを想像するっていうか、なんていうか」
「この性交するシーンであれば」
彼女はエロマンガを一冊手に取って開き、男女がくんずほぐれつしているシーンを指差して説明する。なんか、やだな。彼女と一緒にエロマンガ見るの。
「この男の方に自分をなぞらえて、感情移入させて、こういうことをする妄想をしながら、自慰をするんだろう?」
まぁ、そう言われればそうなのかもしれない。確かに、こういうかわいいキャラクターとエロいことをすることをイメージしてアレしているのかも。そうでなければ、エロいマンガを読みながら自己発電する必要がないはず。
「確かに、そうかもしれない。とはいえ、それが真であったとしても、浮気っていう指摘はおかしいよ」
尚も抵抗を続ける僕に対して彼女は一層渋い顔になる。深く溜息を吐いてから口を開く。
「じゃあ、例えばだ。こんなこと、私は考えたこともないし、考えたくもないが」
彼女は物凄く苦い顔をして不快そうに話し出す。
「例えばだ。私が自慰をする際に、アイドルだの俳優だのに抱かれるのを想像していたとしたらどうだ」
え。彼女が? アイドルだの俳優だのに抱かれるのを想像しながら自慰をしていたとしたら?
「な、なんだか、胸のあたりがもやもやしますね」
「それだけか?」
「あ、うーん、えーっと、まぁ、君の言いたいことは分かった。理解した」
「そうか」
彼女は頷いてから早口で付け足した。
「言っておくが、私は、アイドルだの俳優だのに自分が抱かれるのを想像したことなんか一度もないから。ただの一度も。君に会う前は、そういうことにはあまり興味がなかったし、君と会ってからは、君に抱かれることしか想像したことはない」
あぁ、うん。ていうか、こんなカミングアウト聞いた僕はどう反応すればいいの?
「勿論、自慰のときも君にされたりしたりすることを」
「あぁ、いいから。それ以上言わなくても十分に君の言いたいことは伝わった」
なんとなく彼女が言わんとしていることは理解できたような気がする。恋人が自家発電をする際のおかずにおいて妄想する対象が自分以外の誰かっていうことに、拒絶的な反応を示すのも分かる。理解できる。共感できる。
「でもっ! 男は現実に彼女がいたとしても、オナニーするときにおかずが必要であり、そのおかずは、現実の彼女を妄想するよりかは、アイドルであり、AV女優であり、エロマンガ、エロアニメ、エロゲーのキャラでなければならないのだっ!」
「それは浮気だっ! 許せないっ! 自慰だとしても、私以外の誰かに欲情することは我慢できないっ!」
「元々、男ってのは浮気性なものなんだよっ! そもそも、雄という生き物はできるだけ多く自分の子孫を残してもらうべく多くの雌と交尾することを望む生き物なのだっ!」
「最低っ! 許せないっ!」
「最低で結構っ! 所詮、女の子には理解できないものなのさっ! はっきりと断言しよう。男にとっての最高の極楽はハーレムであるっ! 考えてもみなさいよ。世にある男向けのラブコメやら何やらは必ずヒロインが複数いるっ! それは何故かっ!? 男がハーレムを望んでいるからに他ならないのだっ! 理性的には、常識的には、誰か一人を選んで結婚してハッピーエンドを迎えることが正しいと頭では理解していても、実際、本音を言えば、そこら中のかわいこちゃんとよろしくやりたいのが本音なのだっ! 故に、男の妄想の具現化であるところのラブコメやエロゲーやエロマンガにおいては、ヒロインが複数名あることが定番と化しているっ!」
やや暴論の気があるけど、僕のこの持論はかなりいい線いってると思うんだ。男たるもの、ハーレムを夢見ず何が男か。実際、そーいうものを望むか否かは別として、夢見ることは誰もが一度はあるはずだ。そもそも、この思想はかなり古い。天下を握った英雄たちの誰もが数多くの愛人を抱え、快楽に溺れたことは歴史を見るからに明らかである。子孫を多く残すためという屁理屈は結構。それだけが目的であるならば、多くとも数人の健康な子を産める女性でいいはず。それが、何故だか、数十、数百という数の女性を宮殿に住まわせ侍らせているのだから、その理由は明白たるものだろう。ハーレムは男の夢なのだよ。
「それでも私は許さない許せない。男という生き物がそーいうものであったとしても、君にそーいうことはして欲しくない。よって、これは没収だ」
僕の熱弁空しく彼女は僕の宝のダンボール箱を抱える。咄嗟に僕は彼女の腕にすがり付いて、ダンボール箱を逃がさんとする。
「ダメーっ! それは僕のお宝なんだからっ!」
「そもそも、未成年である君が一八禁マークのついているこの手の本を持っていることが間違いだ。どうやって手に入れた?」
「それは、まぁ、ごにょごにょ」
色々とね。まぁ、方法はあるもんだよ。一八禁の製品が絶対に一八歳未満の目に入らないようになっているなんていう風に信じているのは余程のマヌケってもんだろう。
「だから、これは破棄する」
彼女が吃驚仰天なことを言い出した。なんて乱暴なっ! 横暴だっ!
「破棄ーっ!? それはダメだよっ! モッタイナイッ! 紙資源がモッタイナイよッ!」
「古紙回収に出す。リサイクルだ」
「それ、ゴミステーションに出しても、絶対、近所の中学生とかがこっそり回収するからー!」
そもそも、そんなリサイクルだの環境だのが大事なわけじゃないんだ。僕の自家発電の問題だ。このままでは燃料不足で不完全燃焼しかねない。いや、おかずならばネット上とかでいくらでも収集することはできる。だから、自家発電への弊害はさほど大きくはない。問題はそのダンボールに入っているのがいずれも僕が非常に敬愛している非常に素晴らしいお気に入りの作品群であるということだ。コレクション趣味のある僕としては、そのコレクションを破棄されるなど耐え難い苦痛である。
とはいえ、このまま屁理屈を唱えようとも、文句を言おうとも彼女は譲らないだろう。彼女は中々強情で頑固な娘だ。
「お願いだからっ! お願いですから廃棄処分は勘弁して下さいっ! 許して下さいっ! どうか堪忍しておくんなましっ!」
というわけで、僕は土下座して、なんとか温情を持って対処願うべく懇願した。
「き、君、エロいマンガくらいの為に、土下座までするのか……」
彼女が呆れている。ていうか、引いてる。気持ちは分かる。だが、しかし、僕にとっては、それくらいしてまでも守りたいものだよっ!
「それくらい大事なものなんだっ! だから、どうかっ! どうかっ! この場は勘弁して下さいっ! 確かに、それらのモノで、まぁ、自慰をするかもしれないけど、それは、あくまで自慰であり、本当に好きなのは、本当に触れ合って愛し合うのは君だけだからっ!」
「そ、そうか。私だけが好き、愛し合うのは、私だけ……」
あ、やっぱ、彼女って、こーいう「好き」とか「愛する」とかいう直球的な言葉に弱いなぁ。しかも、それを「君だけ」と限定すると更に弱い。
しかし、彼女は極めて純情というか純粋というか一途というか、まぁ、独占欲が強いなぁ。まさか、エロマンガのキャラにまで嫉妬するとは思わなかった。困った娘だ。
「というわけで、これは、なんとか、処分は止めて下さい。何でも言うこと聞きますから」
彼女の態度が軟化したところで、更に下手に出る。ここで調子に乗って高所からいくと、まーた彼女が機嫌を悪くしかねない。
「何でも?」
「うんうん」
「じゃあ、これは、いい。本当は嫌だけど、許す」
おぉ、お許しが下った。あぁ、良かったぁ。僕はお宝の詰まったダンボール箱を抱えて安堵する。あ、涙こぼれそう。
「その代わり、クリスマスは二人きりで過ごすこと」
「あぁ、うんうん。わかったー」
それくらいお安い御用だとも。そもそも、クリスマスってのは恋人が二人きりで過ごす性なる夜だからねー。いや、本来は違うけど、今の日本じゃそうだからねー。
ん? アレ? クリスマス? あ。やっべー。
非常に馬鹿な、最低最悪と罵られてもおかしくはない話を書いたことは自覚しております。あぁ、どうもスイマセン。
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