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バカップルに手袋は必要か?
 ある休日。僕と彼女は何度目かのデートめいたことをしていた。素直にデートと言わないのは僕のささやかな照れ隠しさ。
 以前のデートでは街(駅前のデパートとか店が立ち並ぶ辺りをそう呼ぶのさ)とか映画館とかに出かけていたんだけれども、今回は郊外の大型ショッピングセンターへ出かけることにした。
 今回、駅前から人を郊外へ連れ去り、ドーナッツ化現象を引き起こす一因と称されるショッピングセンターへ行こうかなと言い出したのは僕で、行こうと積極的に働きかけてきたのは彼女だ。
 彼女的には僕と一緒にいられるならば、特にどこでもいい。何ならどこにも行かず家の中でも部屋の中でもいいみたいなので、ショッピングセンターへ行くことになったのは完全に僕の希望だ。
 今回、僕がショッピングセンターに行こうと思ったのは、珍しく買物をしたいと思っていたからなのだ。しかも、衣料品を買おうと思った。ファッションとか衣服に無頓着な僕が衣類を求めに外出するのは極めて異例なことと言える。
 僕が所有する衣類の殆どはうちのお母さんが姉さんやら妹やらと相談して買ってきたものだ。僕としては普通に着れるものなら衣類は別に何だって構わないので、わざわざ衣類を買い求めに外出することなんて億劫でしょうがないのさ。それに、中学時代の衣類がまだまだ現役で着れるっていうか、小さくなって着れなくなるって衣類が殆ど出ないからあんまり新しく買う必要がないのさ。あぁ、そうとも、成長なんてもうしていないのさ。成長期終わってるんだ。今の日本内需経済と一緒。どん詰まり。もうこれ以上成長する見込みなし!
 衣類ならば、別に街でもデパートやら何やらで売ってはいるんだけれども、そこら辺のは少々お値段が張る上に、あまり若者向けではないので、そんなのを買ってきて着ていたらお母さんやらに「んなおっさん臭いの着るな!」と怒られかねないので、若者向けの衣類店が何件も入っているショッピングセンターへ足を運ぶこととしたのさ。街から無料の直通バスが出ているので、郊外でもお財布に優しいしね。こうして、中心部は寂れていくのね。
 そんなわけで、僕と彼女は街で待ち合わせして合流することにした。互いの自宅より街の方が遠いので、どちらかの自宅に寄ってから街へ行って、そこから出ている書っピンセンター行きの無料バスに乗ってもいいんだけど、僕と彼女の家では街へ向かうのに一番効率の良いバスの路線が違うので、それぞれの経路で街に行き、そこで待ち合わせすることにした。それに、彼女曰くには「待ち合わせした方がデートっぽい」らしいからね。
 デート当日の土曜日はとてもよく晴れていた。すっきりとした青空が綺麗で、白い雲もいいアクセントだ。でも、こういう晴れた日こそ寒いんだよね。逆に曇ってる日とか雪が降る日の方が暖かい気がしたりする。ほら、吐いた息が白い。
 彼女を待つ間、空気中にハーハーと白い息を吐いて、その白い空気を目で追っていると、その白い空気が人の口に吸い込まれるのを目にした。
 普通、吐いた白い息が人の口に吸い込まれるのを見れることはない。というのも、白息はすぐに風に流されて色を失ってしまって、誰かに吸い込まれたとしても分からないからだ。白い色が残っている状態で吸い込まれるとすれば、かなり近くの風下にいて、わざわざその白いのを吸い込もうと意識しなければならない。
 というわけで、いつの間にか僕の側に現れていた彼女は僕がハーハーと出した白い吐息をわざわざ吸い込んでいるようだった。
「何してるの?」
「君の息を吸ってる」
「何でそんなことしてるのよ?」
「君から出るものは全て私のものだからだ」
 彼女はきりっとした真面目な顔で仰った。
「嫌だ。君、そんな気持ち悪いことを言うんじゃないよ」
「気持ち悪いって……」
 僕が嫌そうに言うと、彼女はしかめ面をした。僕の反応が不満らしい。
 さて、今日の彼女は濃い緑色の短めのコートに紺色のジーンズ、茶色いショートブーツという格好だった。絶対領域愛好家である僕としては、ミニスカに長靴下ではないファッションに一抹の寂しさを感じるものの、真冬にミニスカはやっぱり寒そうだから着ない方が賢明だなと思う。
 彼女の本日のファッションを観察したところで、不満げな彼女は放っておいて僕は歩き始めた。こんな冬空の下でいつまでも突っ立ってたら凍死しかねないからね。いや、これが冗談抜きで冬国じゃあ、外でいつまでもずぅっといたら風邪をひくどころか凍死しちゃう危険性があるからね。真冬にゃあマイナス二桁に至る気候なもんで。なら、外で待ってんなよって話なんだけど、なんだか、とってもよい天気だから、ついつい外で待っていたくなったんだよ。寒くても、晴れた冬の澄んだ空気と雰囲気が僕は中々嫌いじゃない。
 僕が歩いていくと、彼女は黙って付いて来た。
 彼女は特に急ぐ様子でもないのに、すぐに僕の右隣に並んだ。足の長さのせいで、同じ早さで足を踏み出しても、彼女の歩行速度の方が速くなっちゃうんだよね。彼女は僕と並ぶと、明らかに足を踏み出す早さを意識的に緩めているのが、なんか遺憾。いや、全ては僕がチビなのが悪いんですけどね。彼女の身長は同年代の男子よりも心持高いくらいなので、もしも、僕が同年代男子の平均的身長であれば、普通に歩くだけで、彼女に意識的に歩行速度を緩めさせるなんてことをさせないで済んだんだよね。あぁ、そうですよ。僕はチビですよ。チビでわるぅございましたねぇ。どーせ、体も心も器も小さいですよぉ。
「君、何か、不機嫌じゃないか?」
「べっつにっ! 全然っ!」
「そう、か?」
「そうともさっ!」
 僕らは待ち合わせの場所から、ショッピングセンター行きの無料バスが出るバス停へと向かった。
 歩いている途中、彼女はちらちらと意味ありげな視線をなげかけながら、左腕をぷらぷらさせ始めた。
 真っ直ぐ前を向きいて歩きながらも、彼女の視線を感じつつ、何も言わないでおく。何か思わせぶりな視線と仕草だけれども、僕にゃあ分からんねぇ。頭が悪いもんで、言いたいことは言ってくれんとわからんのですよ。
「……なぁ」
 態度だけでは伝わらないと分かったのか、彼女が控え目に声をかけてくる。
「何?」
「えっと……」
 何も分かってないような顔で尋ねると、彼女は口の中でもごもご何事か言いながら左手を閉じたり開いたりした。むすんでひらいてーってかい。
「君、私が何を言いたいか分かってるだろ?」
「んー? 何のことかしらー?」
 彼女はむっとした顔で僕を睨む。それだけで殺意を纏っているように見える彼女の目ってのは本当に珍奇なもんだねぇ。魔除けとかに使えるんじゃないかな。
「手」
 そう言って、彼女は左手を寄せてくる。
「何。君、僕を犬か何かと勘違いしてるの? 餌もないのにお手なんてしませんよ」
「餌があればするのか……」
 僕の言葉に彼女は呆れた。
 それから、更に、殺意を増した目で僕を睨みつけながらぶちぶち言い出す。
「普通、こーいうふうに恋人同士が並んで歩いていたら手を繋ぐものじゃないか? 大抵、彼氏の方から自然に手を繋いでくれるものだと思う。そうでなかったとしても、彼女の方が手を繋いで欲しそうにしていたら、察して手を繋ぐのが自然じゃないか。どう考えても、君の態度は世間一般的な恋人の言動とは違う」
 うーん。そうかもねぇ。某携帯彼女ゲームでも、登下校中に彼女が思わせぶりなことを言ってきたら、タッチペンでつんつんしてやらないと、彼女が拗ねちゃうからねぇ。
 とはいえ、そんなことを僕に期待するのは間違いってもんさ。
「君、そんなよくできた奴の彼女になった覚えある?」
 僕の問いかけに彼女は少し沈黙してから嘆息した。
「……残念ながら、ない」
 ほーらね。だから、僕なんぞに期待するだけ無駄なのさ。
 とはいえ、別に、手を繋ぐのが嫌だってわけじゃあないんだけどね。あえて、彼女が手を繋いで欲しそうにしていたのを無視したり、わけのわからないことを言ってみたりしたのは、僕の生来の意地悪っ子気質によるものだ。いやぁ、僕って、昔から、誰彼構わず意地悪な言動をしてしまう習性があるもんでね。そのせいで損した思い出しかないので、いい加減、こーいう性格は直した方がいいなぁと認識したのが小学校高学年くらいの頃だったろうか。年を経るごとに悪化している気がする。
「まったく、何で、君はそんな意地悪なんだ」
 彼女はぶつぶつと文句を言った。僕の意地悪っ子気質については彼女も認識しているみたい。
 彼女はしかめ面で僕の右手を握った。
「最初からこうすれば良かったじゃない」
「できれば、君から手を握って欲しかったんだ」
「何で?」
「何でって……分かるだろう……」
 彼女は呆れ顔で溜息吐き吐き、僕はにやにや笑いながら目的地のバス停に向かった。
 五分ほど歩いてバス停に着いた。バス停には老若男女合わせて十数人ほどが立っていた。若干老の比率が高いのは、一定の年齢の人は自家用車で行くからだと思いたいね。高齢化のせいだとはあまり思いたくはないからね。
 ショッピングセンター行きの赤紫色の無料送迎バスは一〇分ほどで到着した。バリアフリーと環境対策に配慮したアイドリングストップの低床バスだ。後部座席側には段差があるけれども、それ以外の箇所は床が低く段差が存在しない。
 バス停で待っていた人々は自然と列を形成して、ぞろぞろとバスに乗り組んでいく。僕と彼女は列の最後尾に並んだ。
「君、先に乗って」
 僕らの前の前の人が乗ったところで彼女が言った。
「何でよ」
「何でそんな嫌そうな顔をするんだ?」
 僕の問いかけに彼女は不満そうな顔で言った。
「いや、なんか、君がろくでもないことを企んでそうな気がするもんだからさ」
 何で、わざわざ、僕に先に乗るように促したのかってのが気になる。
「いいから、さっさと乗れ」
 いよいよ僕らの番が来て、僕は彼女に突き飛ばされるような形でバスに乗り込んだ。何だってんだ。
「そこ。そこ」
 後ろから乗ってきた彼女が空いている二人用席に座るよう指示する。
「えー」
「文句を言わずに早く乗れ。他の人の迷惑になる」
 そう言われちゃあ良識的な一般小市民としては素直に従わざるを得ないね。
 さっさと二人用席の窓側に座り、当然彼女はその隣に座った。
 最後の僕らが座るのを確認して、バスの扉が閉まり、運転手がマイクで「出発します。御注意ください」とアナウンスした。それから、バスが動き出す。一拍遅れて行き先を告げる音声アナウンスが流れる。
 バスに乗っていて、ふと何年か前に読んだ小説を思い出した。僕の住んでいる町が舞台だったんだけれども、どういうわけだか、やたらとど田舎的な描写をされていて、愛郷心溢れる僕としては些か憤懣やるかたない気分になったんだよねぇ。いや、うちの市は大都会じゃあないけど、一応、中核都市の指定を受けた云十万の人口を誇る市なんだし。
 知り合いの知り合いの知り合いまでで市の人口が網羅されるとか、そんなわけないじゃん。人口一万の町でも知り合いの知り合いの知り合いでもない他人はいるだろう。
 そんなことを思い出したのは何故かっていうと、その小説中にバスの描写が出てくるんだけど、そのバスがガタガタのボロ臭いバスってな設定で、そんなの昭和時代にほぼなくなってると激しく言いたいのよ。今時の我が市のバスはアイドリングストップするし、車椅子でも乗り込める低床バスなんだぞー。
 地方都市のバスでは、大都市圏で使用されて引退した古臭いバスがいつまでも使用されることが常だけれども、この会社は昭和末から積極的に冷房車を導入したり、二〇世紀末から低床バスを導入したりと、最新装備の導入に関してはかなり積極的なバス会社なのだ。
 てなことを彼女に話そうかと思ったけど、バスという狭い公共空間の中であんまりたくさん喋るのは行儀の良いことじゃあないなと思って止めた。
 その代わりに、別の短いことを言った。
「キツイ」
 ほら、これなら三文字で済むから、他の乗客の皆さんの御迷惑にもならないからね。
「ん?」
 彼女は小首傾げて僕を見つめた。
「狭い」
 これも三文字。
「ん?」
 また同じ反応だ。彼女、とぼけてるみたい。僕への意趣返しかな。
 仕方ない。きちんと説明しようか。
「あのさ。君、ちょっと、近づきすぎじゃない?」
 声を潜めて、何故やら、窓際に座る僕にかなり近づいて座っている彼女に言った。近づきすぎっていうか、もうぴったりくっついているって言った方が正しい気がする。もうなんか、僕、潰されそうなくらい押し込まれているんだけど。
 何で、彼女が僕に、バスに先に乗るように促したのか分かったぞ。僕を窓際に追い詰めて、逃げられなくするようにするためだったんだろうね。
「さっきから頭が窓にくっついちゃって冷たいんだよ」
「そうか。寒いなら温めてやろう」
 そう言って更にくっついてくる。
 いや、冷たいと寒いは違うんだけどなぁ。
 僕は顔の右側が冷たいまま半時を過ごした。

 バスはショッピングセンターの玄関すぐ前に停車してくれる。僕と彼女は最後の降車して、ショッピングセンターへ進入した。
 集合時刻を昼少し前に設定して、お昼を一緒に食べようということになっていたので、まずは、腹ごしらえと洒落込むことにした。
 ショッピングセンターの中には和洋中、それぞれの食事屋さんが何軒も入ってはいるけれども、昼時ともなると、大変混んでしまい、空席を確保するのは中々難しい状況になる。まだ正午を過ぎていないので、一番込み合う時間帯ではないけれども、さっさと店を選んで席を確保しなければどこも満席という最悪の状況に陥りかねない。
 そこで、僕はさっさと店を選ぶことにした。一応、彼女に「何食べたい?」と聞いたところ「君」とかいうふざけた答えが返ってきたので、彼女の意見は無視することした。
 僕は嫌いな食べ物が多い割には、好きな食べ物が少ないので、食べたいものを選択するのは、かなり難儀で、結果的にいつも同じようなものを食べる羽目になったりもする。
 というわけで、このショッピングセンターで、最も行き慣れたお好み焼き屋さんに入ることにした。僕はお好み焼きが大変好きなのだ。
 デートでお好み焼きを食べるというのは、中々最悪の選択ではあると認識はしている。ソースの臭いが付くし、口の周りが汚れ易いし、青海苔でも歯に付けようものならば、「鼻毛が出ている」と巨頭を為す最悪のケースと言えよう。
 しかし、そこは、世間一般的な常識に囚われない僕と彼女だ。
 彼女はお好み焼きよりははるかに口の周りが汚れにくいもんじゃ焼きを注文して、せっせと土手を作ったり、おこげを作ったりしてから、ちっちゃな一口サイズのコテでちまちまと食っていた。これならば、口の周りの汚れや青海苔を気にする必要性は少ない。
 僕は普通にシーフード玉を注文して、普通に作ってソースたっぷり、鰹節どっさり、青海苔わんさかにして食べた。口の周りもまぁまぁ汚れると、紙ナプキンで口を拭うより先に、彼女が「汚れてるぞ」と指やら舌やらで綺麗にしてくれるので、全く問題ではなかった。
 問題とすべき点があったとすれば、彼女が「あーん」と言いながら僕の口に放り込むもんじゃ焼きが熱くて熱くて口の中と舌がひりひりするくらいだ。
 昼食後、僕らはとりあえず近くにある本屋に寄って、一時間くらい本を見て回った。
「それで、結局、君は何を買いに来たんだ?」
 僕が漫画と図鑑を、彼女が文庫本と「鈍感な彼をその気にさせる100の方法」とかいう怪しげな雑誌を買った後、彼女が言った。ちなみに、言っておくけど、僕、鈍感なわけじゃあないと自分では思っているんだけどなぁ。気が付いても付いてないふりをしているだけなの。それじゃあ同じか。
 それで、そうそう、今回、ショッピングモールに来た理由だったね。別に、僕らはお好み焼きを食いにわざわざここまで遠出したわけではないのだ。僕にはここへ来る為の明確な目的があったのだ。
「うんとね。手袋を買おうと思ってね」
「ダメだ」
「え」
 まさか、手袋を買うことが彼女に禁止されるとは思ってもみなかった。
「何だって、手袋を買っちゃあいけないだなんて君に言われないといけないのさ」
 僕の問いかけに、彼女はしかめ面で沈黙した。言うべきか言わざるべきか悩んでいるようだ。彼女がこんなふうに悩むってことは、どうせ、僕にとってはろくでもないことなんだろうな。
「手袋を買う必要はないと思う」
「いや、君、何言ってるの?」
「手袋なんていらないじゃないか」
 本当にこの娘、何言っているのかしらね?
「手袋がないと手が冷たいじゃない」
 これから来たる真冬に手袋もしないで手を晒して歩くのは、中々辛いことだからね。本当は今でも手が冷たくてしょうがないんだよ。
「大丈夫だ」
 彼女はいつもの口癖を言った。彼女の言う「大丈夫」が僕にとって大丈夫だったことなんか全然ないんだけどね。
「君の手は私が温める!」
 そう言って彼女は僕の手を掴んだ。そうやって握り締めて温めてくれるってわけか。なるほど、そりゃあ名案なわけあるかよ。
「いや、そりゃ限界あると思う」
「そんなことはない。私は冷え性じゃないからな」
 それ全然関係ないよ。
 どんなに彼女の体温が高くて、始終僕の手を温めようとしてくれたとしても、どう考えてもずぅっと僕の手を冷えないようにしていられるのは無理ってもんだろうさ。
 その旨を懇切丁寧に説明してあげると、彼女は渋々と僕の主張を認めた。
 で、僕の言っている道理が分かっていて、それでも、手袋購入を妨害しようとするのは一体何故なんだろうかね?
「だって、君が、手袋をしていると、手を繋ぐとき、肌と肌じゃなくて、布越しになってしまうじゃないか」
「え。そんなこと?」
「そんなことって……。これは重要なことだ」
 彼女はしかめ面で仰った。
 前々から思っていたんだけれども、僕と彼女の価値観って違いが大きすぎるような気がするんだよねぇ。ていうか、彼女の価値観を理解できない。
「君がなんと言おうと、僕は手が冷たいのは嫌だから手袋を買うよ。君がずっと僕の手を温めていられるっていうんなら別だけど」
「温めていられる」
 本当かよ。てか、両手をずっと繋いでたら、あんた、社交ダンスみたいなことして歩き回らないといかないのか。物凄く勘弁願いたいね。頭の中に脳味噌の代わりにお花畑が詰まってると思われかねない。
 結局、彼女は僕が手袋を買うことに渋々と賛同し、一緒に衣料品店に入って、手袋を選んだ。僕ではどれが若者らしい一般的な手袋か分からないので、彼女が選んだ茶色い手袋を買うことにした。
「私と一緒だ」
「え。じゃあ、こっちの黒いのにしよう」
「何でそうなる」
 彼女はとっても不満そうだったけど、結局、黒い手袋を購入した。やっぱり、ペアルックは恥ずかちいからねぇ。


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