プロローグ
カンカンカン……
廃虚ビルの脇に備え付けられた非常階段を、屋上を目指して登って行く小さな影が二つ、夜の月明かりに照らし出される。町の明かりは遠くで踊り、まだ寝静まると言う時間帯ではないが、この辺りは静かに静まりかえっていた。
階段を黙々と登っていた二人は屋上に到達すると、水道タンクの上で待ち構えていた、白い衣装に身を包んだ人物を確認し、口元を緩めた。
ヒュウ――と、風が間を吹き抜けていく。
「ようやく、牢獄に入る決心でもついたのか? コソドロさんよぉ」
江戸川コナンが、額に浮き出て来た汗を服の袖で拭った。そして、ズボンのポケットに手を突っ込む。
「私まで呼び出すなんて、どういう風の吹き回しかしらね……」
灰原哀が、上がった息を整えながら、そっと腕を組んだ。冷淡な視線を投げかける。
「そんなに警戒しないで下さいよ。今日はお二人に大切なお話しがあるのですから」
コソドロと呼ばれた白いショー衣装に身を包んだ人物は、二人の様子に肩をすくめると、軽やかに水道タンクの上から降り立った。白いマントが風に翻る。そして、二人に向かって小さくお辞儀をした。
「はんっ! あいにく、コソドロさん――怪盗キッドとかしこまって話しなんざしたかないね」
「まあまあ、そう言わずに。今から、お話しする事は少なからず、貴方達が喉から手が出る程の情報。聞いて損は有りませんよ」
「情報?」
「えぇ……。黒の組織について」
「!?」
含みを持たせた話し口調から、真面目なトーンになったキッドの口から出た単語に、二人は驚愕した。
黒の組織は、コナン達が追いかけている巨大犯罪組織だ。今まで何度か奴らと接触したことはあったが、最終的には尻尾さえも掴む事が出来ずにいた。
その黒の組織の情報となると……
二人は息を飲んだ。
「おっと、その前に一つだけ条件があります。私を仲間に入れて下さい――」
「は?」
思いも依らない台詞に、二人は呆然と目の前で頭を下げている白き罪人を見つめた。
マントが夜風にたなびく。
「こっちもワケありで、その黒の組織に用があるんだ」
キッドはそれまでのかしこまった口調から、話し方を一変させた。モノクルの奥の眼光が強くなる。
そして、決心したようにそっと深く被っていたシルクハットを取った。
――「俺の名前は黒羽快斗。名探偵と同じ高校生だぜ」――
町の明かりが遠くで舞い踊り、この廃墟ビルの辺りはシンと静まり返っていた。風が三人の間をすり抜けていく。どちらからともなく三人は近寄り、月明かりに照らされてできた影が重なった。
この時から、彼らの運命は、大きく動き出した。
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