挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
泣けるユーモア短編集 作者:水本爽涼
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

9/100

-9- 負ける

 負ける・・と、ぅぅぅ…と無念さで泣けることになる。ことにはなるが、しかしそれは、人として負けた訳ではない。いや、むしろ、人としての勝敗的な視点に立てば、あらそう必要がなくなったのだから、ある意味、勝った・・と判断できることでもある。なぜ? かは、次の短い話を読んでいただければお分かりになるだろう。
 自治会長選に立候補し、わずかな票差で相手候補に破れた弱川よわかわ不貞腐ふてくされながら温泉へと旅し、名湯めいとうかっていた。岩風呂に仕立てられた広い浴室はもやのような白煙におおわれ、一寸先すら見えない。
「これはこれは…。痩川やせかわさんじゃないですかっ!」
「んっ?!」
 痩川は思わず声がした方向に目をらし、見据みすえた。湯煙ゆけむりの向こうから現れた男は、商工会の太山ふとやまだった。
「なんだっ、商工会長の太山さんでしたか。こんなところで会うとは…。奇遇きぐうですなっ!」
「ああ、さようで…。それにしても、いい湯ですなぁ~」
 太山はそう言いながら、湯を手拭てぬぐいでジャバッ! とかたへかけた。
「はい…」
「ご旅行ですか?」
「ははは…傷心旅です」
「ああ、そういや、先だっては残念なことで…」
「いやぁ~なに…。人徳じんとくのなさですよ、ははは…」
「いやいや、そんなことは…。いえ、こんなことを申してなんですが、残念な結果で返ってよかったんじゃないですか?」
「えっ? どういうことです?」
「私なんか、もう選ばれたばかりに日々、針のむしろに座らされてますから…」
「そんなことは…」
「いや! そうなんです。ようやく逃げるようにこの温泉へ来たようなことで…」
「そうなんですか?」
「ええ、そうなんです。そこへいくと、痩川さんはいい! たっぷりと自由な時間が出来たじゃないですかっ!」
「ええ、それはまあ…」
「それそれ! それが一番っ! 負けるにかぎりますよっ! 近々(ちかぢか)私も負けることにして、会長を辞退じたいしようかと…」
「そんな、もったいないっ!」
「いえいえ、負ける・・のが一番っ!」
 どうも、勝っているうちは責任が付きまとって地の底をうように重く、負けた途端とたん、空を飛べるような気楽さで軽くなるようだ。さらに、負けると[お負け]という特典もあり、ぅぅぅ…と、思わず泣ける喜びにもなる。
 これが、なぜ? の答である。

                   完
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ