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泣けるユーモア短編集 作者:水本爽涼
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-7- お悪いことが…

 偶然ぐうぜん、他人の不幸に出くわすことがある。この場合、普通は紋切もんきがたで、お悪いことが…とかなんとか、おくやみを申しえるのが常識だ。その言葉がスンナリと飛び出す人は相当、徳を積んでいる・・と言ってもよく、このあたりに人の内面が観て取れる・・ということになる。もちろん、よく知っていて付き合いの深い知己ちきの人なら、ぅぅぅ…と、思わず涙劇るいげきに及ぶ訳だが、まあ普通は、そこまで! には至らない。時折り、それほどの知り合いでもないのにむせぶ人もいるが、これはもらい泣き、というやつで例外だ。
 とある家へ弔問ちょうもんに訪れた人と、家人の会話だ。
「このたびまことにお悪いことが…」
「はあ?」
「いや、ご母堂ぼどうさまが…」
「どちらの?」
「いえ、お宅の…」
「いつ?」
「いや、先だっておくなりになったとか…」
「ははは…馬鹿なっ! うちの母はピンピンしておりますよっ!」
「ええっ!!」
「その話、どこでお聞きになりました?」
「向こう三軒さんげんどなりの尾豚おぶたさんですが…」
「尾豚さん? はて? 私は知りませんが…」
「そら、そうでしょ。ここから遠い私の町内の方ですから…」
「その方が、なんて?」
「『なにか、お悪いことが出来たそうよ』と…」
「いつ?」
「いや、先だって…」
「ははは…それは入れ歯ですよ、入れ歯。ははは…」
「どういうことです?」
「うちの母が敬老会で、ついうっかり入れ歯を無くしましてね」
「それが、お悪いことが…ですか?」
「私にかれても…。まあ、入れ歯は、すぐ出てきましたがね」
「はあ…」
「いや、実はですね。敬老会で婦人会が奉仕の散らし寿司が振る舞われたんですがね。食べたあと、母は洗面所で洗ったそうなんですが、ははは…」
「はあ…」
「うっかり、他の人が自分のだと思って持って帰られたようで…」
「それが、お悪いことが…ですか?」
「…でしょうね、たぶん。話に尾鰭おひれがついたんだと思います」
「そうでしたか…」
「いや、どうも。遠路はるばる来ていただいて、お悪いことで…」
「いやいや、それならよかった! ははは…」
 お悪いことが…は、時折り、お悪いことではなくなるのだ。

                   完
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