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泣けるユーモア短編集 作者:水本爽涼
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-16- 縁起絵巻(えんぎえまき)

 柚子山ゆずさん胡椒寺こしょうじには開祖かいそ豆腐大師とうふだいしの時代から伝わる絵巻物が大事に保管ほかんされている。国の重要文化財に指定された所謂いわゆる国宝で、そのレプリカが一年に一度、前立てでお立ちの仏様のように特別拝観になるという情報を得た食気くいけは、心勇んで当日、寺へと出かけた。奇妙なことに、この縁起絵巻を拝観した者すべてが、ぅぅぅ…と涙して寺を出る・・といういわく付きの寺ということもあり、食気の心は寺へ着く前から、すでに寺を拝観しているような気分になっていた。
『ははは…いくらなんでも泣ける、ということはないだろ…』
 バスに揺られ、車窓に流れる景色を見ながら、食気は馬鹿馬鹿しい話だ…と思った。
『次は胡椒寺前、胡椒寺前でございます…』
 車内アナウンスが流れると、食気はすぐにボタンを押した。バスを下りた途端とたん、拝観を終えた観光客が涙に暮れながら停留所で待っているではないか。それも全員が、である。
「そんなに泣けるんですか?」
 思わず食気は、その中の一人にたずねていた。
「ええ、そらもう! ぅぅぅ…」
 何がそんなに泣けるんだっ!? …と、食気の好奇心は益々(ますます)、高まっていった。拝観料を支払い、仏様そっちのけで絵巻物の展示コーナーをのぞくと、そこはかれたタマネギで満ちあふれているではないか。それも、みじん切りにされているからたまらない。タマネギから放散される硫化アリルという物質であたりは満ち、当然、拝観者達は、ぅぅぅ…と涙せずにはいられなかった。入った食気も例外ではなかった。
「ぅぅぅ…、そら泣けるはずだ」
 寺から出た食気は、ようやく得心がいってつぶやいた。風変わりな寺もあるものだが、聞くところによれば、寺の僧にも分からない寺に伝わる慣習だそうだ。絵巻物の内容は美味おいしく湯豆腐を食べる極意図で、なんてことはなく、どうも見せないようにするため・・とかなんとかのセコイ理由らしかった。まさか、寺が? と、余りのセコさに泣ける話ではある。

                   完
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