ファンタジーショートショート:勇者復活しません!
その世界には古くから言い伝えがあった。曰く
『魔王復活する時、勇者も同じく復活し世界に平和をもたらす』
それは嘘でも冗談でもなく、とある国の地下に伝承道理の勇者の姿をした人物が結晶の中で封印されている事が確認されていた。それ故勇者が居ると言う事は魔王も必ず何処かに居る。そして魔王が復活すると勇者も復活し魔王を倒してくれると誰もが信じていた。
それでも勇者と魔王が戦った時から数百年の時間が流れていた。次第に人間の国と国とが争う様になって行った。
そんな時いきなり舞い込んできたのが魔王復活の知らせである。どこに封印されていたのか分からないが戦争中の国に突如魔王と名乗って表れるとその日の内にその国を滅ぼしてしまったのである。
慌てた国々の取った対応は様々であった。対魔王に向けて戦力を増強する国、魔王になんとか使者を送り関係を築こうとする国、そして勇者の復活を祈った国である。勇者の封印がある国は勿論近隣諸国からも祈る為に様々な人々が訪れてきた。
それでも中々勇者は復活しなかった。しびれを切らせた荒くれ者はその力に任せて封印されていた結晶を砕こうとハンマーで叩く者も現われた。結果はヒビ1つ入ることなく寧ろハンマーが柄から折れるようなことになった。
なんとか復活してもらおうとその結晶に様々な魔法や剣、槍、弓等々の武器で壊そうとしたがそれはどれも失敗に終わった。中には「王女のキスで溶けるのでは?」などということを抜かす輩も居た。緊急時の為それも採用されたが結果は同じ。王女が赤面するだけになってしまった。
勇者が中々復活しない中、魔王はまず抵抗してきた国を滅ぼし、関係を築こうとした国も滅ぼしてしまった。残るは勇者復活を祈る国だけとなってしまった。
その時である。あれだけビクともしなかった結晶が冗談のようにヒビが入り、光の爆発。その光の中から勇者が現われたのである。人々はこれで助かった。勇者様万歳!と口々に叫んだ。
勇者はそれに軽く手を振って答えるとすぐさま魔王と対峙。そのまま魔王をあっと言う間に打ち倒してしまった。
感謝に震える人々。その夜は国を挙げての勇者の祝賀会となった。そんな中勇者の封印を管理していた国の王が勇者にどうしても聞いてみたいことがあった。
「勇者様。何故復活がこんなにも遅れたのです?言い伝えでは魔王復活すると勇者も復活すると聞いているのですが…?」
「王よ、それはちとこの場では答えにくい。これが終わった後また封印されてしまうのでその時に答えよう」
その勇者の再封印にも驚いたが、答えてくれると言う事にも同じくらい驚く王であった。
さてその翌日、封印されていた所に勇者が立つと足元から結晶が集まってきた。
「さて王よ。昨日の答えであるが、勇者である我も、魔王もある装置のようなものなのだ。」
それでまた驚く王
「人間がある程度増え、争いが彼方此方で起こるとな?魔王が先に復活し、人間の数を減らす。そして一定量減ると今度は我が復活し、魔王を止める。このように出来ておるのだ。」
その言葉に目から光が消える王
「と言う事は!我らが増えればまた魔王が現われると!?」
「そこに更に争いが増えればな…?」
そうして勇者は再び封印されてしまった。
王はこのことを直ぐ人々に伝え、皆仲良くしようと努力を重ねた。それから数十年人々は増えながらも争い事の無い平和な世の中を築き上げていった。
それからまた数百年後…再び魔王が復活した。