挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ブックマークする場合はログインしてください。

ダチョラノドン

作者:nyaok
 二十二世紀生まれの娘もそろそろ思春期に入り、いつも突然にわがままを言い始めるので困る。

「お父さん、恐竜の卵でプリン作りたい。卵とりに行きたいからタイムマシン買って!」
 うちにそんな金はない。
 そのうち諦めるだろうと思っていたが、私の顔を見る度に期待の眼差しを送ってくるので次第に耐えられなくなってしまった。そこで悩んだ挙句に、私は会社のつてでダチョウの卵を一つ仕入れた。一抱えもあるから、この大きさなら説得力がある。これがせいいっぱいの父の愛だった。

 家に帰って玄関によいしょと容器に入ったダチョウの卵を置くと、花柄ワンピースの娘が裸足でとたとた駆け寄ってきて、卵にわっと飛びついた。
「わ、これどうしたの?」
「お前がほしがってた恐竜の卵に決まってるだろう。お父さん昼休みに会社のタイムマシンで採ってきたんだよ。まったくティラノサウルス的なものに追いかけられたりして今日は大変だったよ」
 変な汗でワイシャツの襟元が濡れている。私は嘘があまりうまくない。娘はしばらく笑顔で卵を撫でたり、つついたり、匂いを嗅いだりしていたが、突然眉をひそめた。
「本当にこれ本物なの?」
「何を言い出すんだ、もちろんダヨ…」
「二人とも、ご飯よ~」
 妻の声に、娘は容器ごと卵を抱えて、ふらふらしながら駆けて行った。背伸びをして、ダイニングテーブルに卵を置くと、絶妙な角度で首を傾げたまま食事中ずっとそれを眺めていた。

 夕食の後、ふと見ると妻が小さな機械を片手に持っていて、卵を抱いて3DTVを見ていた娘の肩をたたいた。
「ほら、去年サンタさんにもらったこの放射性炭素年代測定機があるじゃない。これで偽物か本物かすぐに分かるんじゃない?」
 なんでそんないらんこと言うの!?
「あ、そっかぁ~。ありがとうお母さん!」
 娘は目を輝かせて、私が止める間もなく測定機の電源を入れると、センサーを卵に取り付けた。私はあわてて娘にとりついた。
「止めなさい! お父さんの愛情を疑うのかお前は!」
「うたがってないもん、何年前の恐竜か調べるだけだもん!」
「だもん、じゃない、それをこちらに渡しなさい!」
「やだやだ!」
「ちょ、この……」
 ピッ
「あ」
 測定機の液晶画面の表示に娘が目を丸くする。
「この卵、十億年前のだって!!」
「えええーーー???!!!」
「えええええ????」
 私の方がびっくりしすぎて、それに娘がびっくりした。視界の片隅で、台所の向こうにいる妻が小さくピースサインを見せている。そうか、予め測定機の設定をいじってくれていたのか、なんという機転。私はアイコンタクトで妻に感謝を告げたつもりだったが、妻が変な顔をしていたからまぶたがピクピクしていただけかもしれない。
「お父さんすっごーい!!」
「そりゃあそうだ、なんたってお前のお父さんだからな」
 私はほめられて思わず、得意になった。
「ねえねえこの恐竜、何サウルス? 何ケラトプス? 何ラノドン??」
 ぎくり。娘の笑顔が眩しすぎて直視できない。
「ダ……」
「ダ?」
「……………」
「…………………」
「ダチョラノドン、かな」
「すっごーいすっごーい! あたしそれぜんぜん聞いたことない!!」
「だろうね、学名はなんだったかな…………あはは、忘れちゃったよ。すごく珍しいからネットで検索しても出てこないカモネ……」
「まぁ、食べちゃうからなんでもいいんだけどね!」
 なんでもいいんだ。

 ちなみに、翌日娘がバケツで作ったプリンは調理過程の見た目に反して予想外にうまかったが、一人十人前のノルマがちょっときつく、家族は揃って何日間か腹をくだした。測定機に関しては妻にナイスアシストと言いたいところなのだが、さすがに十億年前にはまだ恐竜はいない。
 あれ以来、私は娘が恐竜の話をする度に今でもダチョラノドン・プリンが胃から逆流するかと思うほどびくびくする。




評価や感想は作者の原動力となります。
読了後の評価にご協力をお願いします。 ⇒評価システムについて

文法・文章評価


物語(ストーリー)評価
※評価するにはログインしてください。
感想を書く場合はログインしてください。
お薦めレビューを書く場合はログインしてください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ