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私の趣味は嫌われ王子をデッロデロに甘やかすことです!

作者:さくらぶし
短編です。でも長いです。お時間があるときにでも。今までに書いたことない文章の書き方をしたので読みにくいかもしれません。ごめんなさい。
本当は今日も何時通りに過ぎ行く筈だった。あんなことさえ起きなければ。

・・・・・・・・・・・

目の前には絶世の美女。私の陳腐な言葉では言い表せないぐらいの美人。なんて言うの、嫉妬する気も起きない、完璧ってこういうこと言うのねってレベルの圧倒的な美しさ。『綺麗だね』って言う方が失礼なんじゃないだろうか。拝み倒したくなる。
そんな美人が目の前にいる。…………目が潰れそうです。美しすぎて。

『いやぁねぇ。そんなに本当のこと言わなくてもいいのよ?ワタシはちゃーんとわかっているから。そうねぇ、確かにあなたの語録ではワタシの美しさは表現出来ないわね。残念だけど。でも大丈夫よ?言いたいことは伝わるわ』

――でも性格に難有りだ。天は二物を与えないことの証明になったね!

『なによー、この美しさだけでも二物も三物にもなるわ。それにワタシは性格だって優しくて皆から慕われているのよ?』

――そういうことじゃないんたけど……ってかさっきから私は何も言葉を発してないのに、なんで会話が成立しているの?

『あら、ここはワタシの"空間"ですもの。当然よ。ワタシね、あなたの事が気に入ったのよ。平凡で退屈な日常を淡々とこなすあなたはとても楽しかったわ。あなたを見ているとどれだけワタシが稀有な存在かってよぉくわかるんですもの。ふふ、ワタシって本当に罪な女よね』

――あー、夢なら覚めて。明日も仕事なんだから、夢で疲れるわけにはいかないんだけど。

『んもぅ夢じゃないわよぉー。ワタシはあなたをワタシの"空間"に招いたのよ?光栄なことなんですからね?感謝してちょうだいな』

――誰も頼んでない……

『今日のあなたは傑作だったわ!あなたの退屈な毎日にあんな刺激を与えるなんて!だからお礼を言いたくてお招きしたの!』

――もしかして、理不尽な上司に理不尽な無茶ぶりされて大人げなく仕返ししたこと言ってるの?

『そう!そうよ!あの、鬘?というものをあなたが飛ばせて周りが焦っている時のあなたの顔ったら!あんな愉快なことそうそうないわ!ワタシ何千年振りかに大笑いしたもの!思い出すだけでもまだ……ふふふっ!』

――私が飛ばした訳じゃ……まぁビル風が凄いからって開けずにいる上司の真後ろの窓を全開にしたのは認めるけど。それによってどういう結果がもたらされるか知っていたのも認めますけど。

『だからそんな愉快なあなたと話がしてみたくって。わざわざ異空間を繋げたのよ?大変だったわぁ~』

――だから誰も頼んでないって……"異空間"?

『そう。ワタシは"神"ですもの。全世界の"美"を司る女神。そして誰よりも美しい女神。そのワタシと直々に話せるなんて、普通の神でも出来ないのよ?良かったわね!』

――何が良いのかさっぱり。でも目的は果たされたんだから、さっさとお帰りになってくださいよ。

『まぁ冷たい!まるで氷のようね!でもそんなあなたも面白いわ。興味ないことには関心すら持たないあなたがね』

――そりゃどーも。ほら、疲れちゃうから早く。

『実はあなたに相談があるのよ。平凡で退屈な日常にも刺激を与えるあなたならワタシの悩みを打ち明けてもいいって思えたの。これが人間で言う"友情"ってものかしら?』

――人の話を聞いちゃいないし。しかも女神と友達になった覚えもなる予定もないわ。

『ワタシって何処から見ても非の打ち所がない美しさじゃない?そのせいか崇拝されることはあっても対等に話せる方はいないのよね。今まではそれで困ることはなかったのだけど、今回だけは困っちゃって。ならいつも見てて面白いあなたを喚べばいいじゃない!って思ったの。いい考えでしょう?だから聞いてちょうだい。ワタシの悩みを』

――拒否権はなしですかそうですか。

女神の話は長かった。ひたすらとにかく。随所随所に『ワタシは美しいから』とか『ワタシってば愛されているから』とかが入ってくるせいで。長ったらしい賛美を抜かして要約すると、


とある国に生まれた王族の子ども(私の世界ではないらしい)が大変愛らしく、これは美の女神を越すのではないかと神々の間で噂になった。(意外と俗物なんだね)それに危機感(と言う名の嫉妬)を覚えた目の前の女神は"先見"を司る神にお願いし、その子どもの将来を見せてもらった。するとあら不思議。周りからちやほやされ傅かれ、甘やかされて育った子どもはなんととても賢く優しい大人へと成長したのです。お偉いさん特有の傲慢さなど微塵も感じさせないその人柄は、周りの人間は勿論、多くの国民から愛され順風満帆な人生を送ったとさ。めでたしめでたし。
……で終われば文句はない。それに大層嫉妬した女神はなんと、その子どもを全世界から嫌われるように『祝福』という名の呪いをかけたのだ。("愛"を司っているのもこの女神だとか。二物を与えた天はさぞ後悔していることだろう)
可哀想なその子どもは祝福(のろい)のせいで誰からも愛されず孤独に生きているらしい。まだ23歳なのに。唯一の救いは、その子ども以外王族に子が出来なかったことだろう。おかげで愛されることはなくても、暗殺だとかの命の危機はなかったらしい。でなければとっくに殺されていたよね。忌み嫌われている不要な後継者なんか。

んで、目的は果たしてホクホクな筈の女神はこのことを統括神(つまりは上司)に知られてしまい、"なぜか"ものすごく怒られて今現在"女神"の座を取り上げられそうになっている、らしい。
そんなことになればワタシの美貌が!と焦り戸惑い、いつも観察している平凡で退屈な日常にスパイスを盛り込む私に相談したらいいじゃない!と今日に至ったそう。……いい迷惑です。

『ワタシはどうすれば良いのかしら……なぜ統括神様があんなにお怒りになっているのか、ワタシには分からないわ。何度お訪ねになっても会っても下さらないの。それが分からないうちは顔も見たくないって仰って……こんな美しい顔を見たくないなんて、どうなさってしまったのかしら……!』

――本気で言ってるの?言ってるんだよね……。そんなの、答えは一つなのに。

『あなたには分かるの!?流石ワタシの"心の友"ね!さぁ答えてちょうだい!統括神様の怒りを鎮める方法を!』

――どこぞの○ャイアンですか。はぁ……それはね、


・・・・・・・・・・・


「アンディ様、朝ですよ」

豪奢な部屋。でも下品な感じはなく、調度品一つ一つが厳かに存在感を放っている。
そんなザ・上流階級の部屋で寝ている人物―――この人物もまた造られた芸術品のように美しい―――に朝が来たことを告げる。本当は起きているのを知っているんだけど。

人が5人位は寝れそうなドデカイベッドに寝ているのは、アンディ・ベリク・セイクリッド様。この国の王子様で、唯一の後継者。これだけでお分かりの方も多いと思いますが、『あの』女神が自分勝手に全世界から嫌われる呪いをかけた、不運な人。
なぜ私が地球でもない場所でそのアンディ様の侍女をやっているかと言えば、勿論あの女神のせい。

※※※

あのあと私は教えてあげた。なぜ統括神が怒っているのかを。解決策はその人の祝福(のろい)を解くことしかないと。でもあの女神は、

『そんなの無理よ~。祝福は掛けるものであって、解く方法なんか造り出してないもの』

と宣ったのだ。飄々と悪びれる様子もなく(まぁあったら最初からこんなことしないか)。だから、このままでいくとその子どもは孤独感に苛まれ、その孤独感が増えれば増えるほどに統括神の怒りも増えていき、女神は女神でなくなる日が近いと脅しを掛けてやった。それでようやっと焦ったのか、

『なら祝福を解く方法を造り出すからあなたはその孤独感とやらを埋めて来なさい!』

ドン!と押されて(?)何処かへまっ逆さまに落とされたのだった。……意味分かんないし私関係ないんだけどーーっ!っていう木霊を残しながら。
次に目を覚ました時は、あまりの夢の内容に休んでいた筈なのにどっぷり疲れるという奇妙な感覚で、でも仕事が……と自分の身体に鞭を打って起き上がれば、

……………………ココドコ?

な状態になっていた訳である。

※※※

「アンディ様」

そう声を掛けてとってもふかふかな掛け布団をポンポンと叩く。そうすると、

「……おはよう、タエ」

絶世の美人がはにかみながら半分だけ顔を出すのだ。…………うちの殿下(いや私のじゃないけど)チョー可愛い。

「おはようごさいます。朝のお湯が準備出来てますので、湯浴みを先になさってください」
「でも、タエ。僕なんかが朝風呂なんて……」
「でもじゃありませんよ、アンディ様。朝のお風呂は一日の英気を養う為のものです。アンディ様にはその資格がおありなのですから、ゆっくりと浸かってきてくださいね」

まだまだ遠慮がちなアンディ様の背を押して脱衣室に放り込む。何度言っても素直に聞いてくれないアンディ様と毎朝この小さな攻防を繰り返すのだ。アンディ様が王族なのになんで朝の湯浴みぐらいでこんなに気を使うかって言ったら、もちろんあの『祝福』のせい。
幼い時から必要最低限のお世話しかしてもらえなかったアンディ様は、王族にとっては普通のことをしてこなかった。必要以上のことは全て自分でやらなければならなかったから。しかも、ある程度の年齢を過ぎると侍女や侍従さえも付けてもらえず(というか付けても一週間持たなかったそう)今や身の回りのことは一通り出来るようになってしまった。
こんな哀しいことを寂しげな笑顔で話すアンディ様を見て私は決心したのだ。アンディ様をデッロデロに甘やかしてやる!と。
目下その計画は進行中で、まずは日常生活から侍女(わたし)を使うことを覚えてもらっている最中です。
なぜ私が難なくこの世界の、しかも唯一の後継者であるアンディ様の侍女を出来るかって?それももちろんあの女神(もう魔女って呼んでもいいんじゃなかろうか)の仕業。まぁこれについては感謝しているけど。



あの時起き上がって最初に見たものは、芸術品かと見紛う程の美人。夢の中の最高傑作(ただし中身に難有り)に負けるとも劣らない程の。後は自分の上に掛けられている白くてふわっふわの布団。家にあるものと比べるのも烏滸がましいそれは、私と美人を柔らかく包んでくれている。つまりは一緒のベッドに入っていた。
………………落ち着こう。とりあえず隣の美人は起こさないように気を付けなきゃ。
パニックになる寸前の頭を無理矢理通常運転に戻す。周りを見渡せば、明らかに自分の狭い部屋ではない豪奢で上品な部屋。……部屋?広すぎて実家さえもすっぽり入っちゃいそうなんですけど。
これだけだと此処がどこか分からないので、もっとよく状況把握をしようと離れがたいベッドから足を下ろそうとして気付く。腰に巻かれた一対の腕に。その腕の持ち主はもちろん隣に同衾(凹むわ……)している美人さん。その美人さんはよくよく見ると目尻に涙の痕があり、眉間に皺を寄せていた。

「行かないで……」

弱々しいけど聞こえた声は男性のもの。これは(色んな意味で)ヤバイ!と思ったものの、懇願するようなその言葉に逆らえなかった。
眉間の皺を伸ばそうとグリグリすれば当然起きるわけで。目を開いたその人と見つめ合うこと数秒後。

「やっと来てくれた、僕の暗殺者……」

………………ん?暗殺者?

「一思いに殺して下さい。この世に未練は……ないから」

え?ものすごい勘違いされてるんですけど??
私の腰に回していた腕を謝りながら解き、今か今かとその時(どの時ですか?)を待っている美形に、私は一所懸命言い訳を考えて、ふと見えた自分の格好で全てを悟った。
…………あんのクソ女神!

着た覚えがないシックな濃紺のロングワンピース。その上からフリルが付いた白いエプロン。頭に手をやればヘッドドレスと思われるもの。手にはご丁寧に『新人用侍女手引き』と書かれた冊子(でも日本語ではない)。
恐らくあの"夢"はただの夢ではなくて、本当に女神が存在して、しかも最後の台詞を実行させられたのだろう。……自分勝手に。
次に会ったらただじゃおかないんだからっ!っていう殺意は置いておいて、今はこの状況を打破しなければ。幸いにして侍女の格好をしているのだから、

「申し訳ございません!部屋を間違えてしまいました!何分まだ新人な者でして……お怒りはごもっともですが、平にご容赦を!」

この言い訳でなんとか乗りきろう!お叱りは甘んじて受けるとしても、手打ちとかはしないで欲しいな……。
冷静を装いつつも、混乱は治まってくれなかったから私は目の前の人が『あの』祝福を掛けられた人だとは気付かなかったのだ(まぁ先入観で女性だと思ってたし)。見るからに高貴なその人に失礼をしてしまった私は焦っていたため、残念そうな「そっか……まだ死ねないのか」という言葉を聞き漏らしてしまった。

「侍女長ならこの部屋を出て真っ直ぐ行ったところ、人が多い場所に出れば分かると思うよ。彼女も探しているだろうし。……僕なんかの部屋に入って不運だったね。ごめん」

顔を上げた私に親切にそう教えてくれる美形さんの、諦めているような笑顔がなぜか辛かった。だからあんなこと言ったんだと思う。

「……不運なんかじゃ、ありません」
「え?」
「むしろ幸運でした。貴方様の様な、素敵な方に逢えて」
「…………」
「失礼致しました。不躾な真似を。(多分)今日から此方で勤めさせて頂きます、多恵です。私にご用命があれば何なりと。ですが今は失礼致します。侍女長に会わなければなりませんので」

ぽかんとしたままの美形さんを置いて部屋を出ていく。名前は名乗ったから、お叱りがあればすぐにでも呼ばれるだろう。

美形さんに言われた通り、真っ直ぐ歩いていく間に手に持っていた『新人用侍女手引き』を開いてみて、ようやく今逢った方が女神の言っていた祝福(のろい)を受けた人だと分かった。なぜなら開いた一ページ目に女神からの手紙があったからだ。

『この手引きを見ているってことは、王子に逢ったのね?あれがワタシが祝福を掛けた人間よ。あなたのやるべきことは1つ!あの王子の孤独感を和らげ、統括神様のお怒りを鎮めることよ!期間はワタシが祝福を解く方法を造り出すまで。その後はきちんとあなたの世界に戻してあげるわ。後、あなたがあの王子に近付けないとお話にならないから、あなたにもとっておきの祝福を掛けたおいたわ。すぐにでも効果が出るわよ。本当にワタシってば優しくて困っちゃう。慈悲の塊のような女神よね。(以下自分への賛辞なので略)最後に、あなたの存在はきちんとその世界で認識されているから、異世界人だとバラさないようにね。ワタシと祝福のことも言ってはダメよ?ワタシとあなたのひ・み・つ(ハート)では、ワタシの為に精魂尽き果てるまでがんばりなさい!たまに会いに行くわね! "美"と"愛"の女神より』

グシャ
おっと、あまりの苛立たしさに思わず握り潰してしまった。皺を伸ばしてもう一度手紙に目を通そうかと思ったら、そこには白紙のページしかなかった。


そこからはあっという間だった。侍女長に見つけてもらった私は、一目で侍女長に気に入られ、あらゆる所を案内され、更には『きっと王妃様もお気に召して頂けるわ』とかなんとか言って王妃様(つまりはあの王子様の母上様)に謁見を願い出、そこでもすぐに気に入られた私は研修やら何やらをすっ飛ばして王族付きの侍女になった。この間たったの5時間。
…………あっという間過ぎでしょ!

この頃には女神が授けた『祝福』が何か見当がついていた。多分、十中八九、『愛されエフェクト』が皆の目に掛かってる。じゃなければ、いくら身元がはっきりしていようとあんなにすぐ気に入られる訳がない。しかも会う人会う人全員に。おかげで私は何の問題もなく(いやあったけど。大分引き止められたけど。なら辞めるって若干脅したけど)王子殿下専用の侍女と相成りました。



さて、話を元に戻して。アンディ様が入浴されている間に朝食の準備を始める。ちなみに衣服についてはアンディ様を起こす前に準備して浴室に置いてある。この私に抜かりはないわ!
まっさらなテーブルクロスを敷き、この私室に来る前に引いてきたワゴンから朝食を出して並べていく。上から囲いを乗せれば万能玉(正式名称はもっと長かったけど覚えきれなかった……)が反応して適温を保ってくれる。おかげでいつでも作りたてを味わえるのだ!

この世界に魔法はないけど、それに準ずる魔力のようなものがあって、現代日本よりも優れた技術でもってして生活基盤を支えている。長くなるのでそこは万能玉のおかげとしておいて。

二人分の朝食を並べ終えたら次は異物チェック。流石に後継者であるアンディ様に毒を盛るようなことはしないと思うけど(というか食器を全く同じものにしてもらってるので私が食べる可能性を考慮したら出来るまい。なぜなら私は愛されエフェクトが掛かってるから)、一度でっかい虫がスープに紛れ込んでいたことがあったから。詳しいことは省くけど、食事を交換してもらっていた私の食事に入っていたということは、この嫌がらせはアンディ様に向けてのもの。勿論直ぐ様犯人を見つけて報復させてもらった。周りの方々に。なぜなら私は愛されエフェクトが(以下略)
そもそもにして、貴人であるアンディ様と使用人である私が食事の席を共にすること自体がナンセンスなんだけど、これにもふかーい一悶着があったのだ。まぁそれも置いておいて。

そこまで終えたら後はアンディ様が出てくるのを待つだけ。ここまで全部私一人。特に大変ってこともないけど(アンディ様は全てご自分でやられるから。むしろもっとお世話させて!)、同僚の皆さんは"私"のお手伝いはしたいらしい。しかし、"アンディ様"の傍にはいたくない。拮抗する感情は、アンディ様に軍配が上がる。それぐらい、この『祝福(のろい)』は強烈なのだ。

「ごめん、待たせた?」

まるでデートに遅れてきたような台詞を言いながらアンディ様は慌てて出てくる。何度ゆっくりなさって下さいとお願いしても、『タエを待たすことなんか出来ないから』と言って聞かないのだ。もぅ……うちの殿下チョーかわいい(いや私のじゃないけど)

「待ってませんから、というか待たせても構いませんから、ちゃんと御髪は拭いて下さいとあれほど言ってますのに」
「すぐ乾くから……」
「駄目です。風邪でも引かれたらどうなさるんですか。多恵は嬉々としてアンディ様のお世話を一から十までしますよ?指一本動かさなくてもいいようにお世話しますよ?いいんですか?」

私的には大歓迎だよ!

「それはちょっと……タエに悪いよ」

なんで。私は嬉しくてしょうがないのに。……いやいや、そんなことを口論してる場合じゃない。
アンディ様の御髪を拭いて、椅子に座ってもらう。囲いを外してお茶を淹れたら、

「「いただきます」」

こちらにはこちらの挨拶があるみたいなんだけど、癖でついつい日本式でやっていたらアンディ様もやりだした。この瞬間、ちょっとくすぐったくなるのは秘密。



アンディ様が執務服(向こうでいうスーツのようなもの。形はちょっと違うけど)に着替えている間に朝食の片付けを済ませる。全部をワゴンに乗っけて扉の外にいる近衛兵に引き渡すだけなんだけど。この人たち、私がこの世界に来るまではちゃんと仕事をしてなかったらしい。あの朝もいなかったし。アンディ様の護衛なのに!
でも今はきちんとしてくれている。私の愛されエフェクトが効いてるみたい。……あんまり嬉しくないけど。

「そろそろ行こうか、タエ」
「はい、アンディ様。……もう少し浅く被らないと、前が見えないのでは?」
「大丈夫だよ。ちゃんと見えてる。これぐらいじゃないと、みんなに迷惑をかけるからね」


アンディ様の朝は早い。この城で働く使用人ぐらいに。それは、アンディ様の私室からは遠い執務室へ行くとき、あまり皆に姿を見せないようにするため。……嫌われ者の自分を見て気分を害さないようにするため。だからなるべく早い時間帯で部屋を出るのだ。顔を隠すマントまで着けて。
朝食だって、本当は朝早くから自分のために用意させるのは悪いって言って他の皆と同じ時間帯に執務室で摂っていた。でも、たまに忘れられることがあったそうだから、私が私室で食べるように説得したのだ。

まだ私が本当の意味でこの『祝福』の残酷さを知らなかった時、それを思い知らされることが起こった。朝、やっぱり早い時間に部屋を出たアンディ様の後ろを歩いていた私は、聞いてしまった。いや、あれは聞こえるように言ったんだ。アンディ様が通りすぎ、下げていた頭を上げた私と同じ立場の侍女が『いや~朝から嫌われ王子の姿見ちゃった~サイアク~今日一日気分悪いわ~』と言っているのを。
信じられなかった。そこまで人を嫌い抜けることに。
頭では理解してた。悪いのはあの自分勝手な女神であって、こんな素晴らしい人を嫌うしか出来ないこの世界の人たちだって被害者なんだって。わかってた。でも、どうしても心が許せなかった。悪意をまるで隠そうともしない彼女を。
気が付けば、引き返してその彼女の顔めがけて手を振り上げていた。

パシッ

私の手は、振り下ろされることはなかった。後ろから、アンディ様が止めたから。
なぜ止めるの。この子は貴方を傷付けた。明確な意志を持って。
そう目で訴えても、アンディ様は緩く首を振るだけ。そして私にだけ聞こえるように囁いた。
『僕のために、タエが傷付かないで』と。

その時私は決めたのだ。優しくて、優しすぎて他の人をも赦してしまうこの人を、私がなんとしても守ろうと。人の心に根付いてしまった『祝福(のろい)』を消すことは出来ない。でも、それをこの人に見せないようにすることは出来る。その為なら、この愛されエフェクトだって最大限利用してみせると。


話が逸れすぎました。すみません。そういうわけで、マントを目深に被ってるアンディ様ですが、あの一件以来私が根回しに根回しを重ねているので、この時間帯に執務室への廊下は最低限の人しかいないようになってる。すごいね、私の愛されエフェクト!



昼食。キリがいいところまで終わらせた書類を片付けて(アンディ様の執務もお手伝いしてます。文字は読み書き出来るから。分かる範囲でだけど)、バスケットと水筒を持って庭園にあるベンチまでアンディ様を連れていく。私が来る前は、朝昼晩と三食全てを執務室で食べていたアンディ様ですが、仕事のONとOFFはハッキリさせなくちゃ!という私の我が儘によってあの部屋は食事禁止にした。おやつは食べるけどね!

バスケットに入った昼食を広げてもしゃもしゃと食す。本来王族はこんなラフな食事じゃなくて、ちゃんとした食堂やらで配膳係りが運んでくる本当に出来立てホヤホヤの食事をしてるはずなんだけど、そこにアンディ様が入ったことはない。公の場は別としても、誰かと一緒に食事するということ自体が全く持ってないのだ。生まれてから一度も。



「アンディ様、横になられますか?」

アンディ様眠そうチャーーンス!この時を待っていたよ!

「うん……なんだか少し眠いみたい」
「昨日遅くまで調べものなさっていたからでしょう。仕事熱心なのは良いことですが、アンディ様の珠のような肌が荒れでもしたらどうなさるんです」
「タエは相変わらず冗談が上手いなぁ」

冗談じゃありませんよ!
この王子様は皆から忌み嫌われ過ぎたせいで、ご自分がどれだけ美形か全く分かってない。むしろ嫌われる原因もこの顔かたちに問題があると思っているのだ。……あながち間違いじゃないけど。祝福(のろい)を掛けられたのはその美しすぎるお顔のせいだけど!
祝福(のろい)のことを言えたらどんなに良いか。説明出来れば少しは希望も持てるのに。でも言えないのだ。言おうとすると口が開かなくなる。これも女神(まじょ)の仕業だろう。もどかしすぎる!

「……少し横になろうかな。午後の執務に影響が出ても嫌だし」

よしっ!待ってました!

「ではアンディ様、どうぞこちらへ」
「…………へ?」

自分の太股をポンポンとする。頭を乗せてという合図。そう!私は膝枕がしたいのだ!

「頭をこちらへ乗せて下さい。僭越ながら、私が枕代わりになりますので」
「いや、あの、タエはそんなことしなくていいよ?むしろさせられないよ!だ、大丈夫。僕なら隅っこで……いや地面で横になるし。そうすればタエも横になれるよ?」
「何を仰いますアンディ様。何処の世界に上司を地面で寝かせる部下がおりますか。ほら、早くしないとお昼の時間がなくなりますよ」

こういう時はちょっと強引目にいかないと、いつまで経っても押し問答を繰り返すことになる。
アンディ様の身体を引き寄せて無理矢理頭を乗せる。起き上がろうとするのを髪を手櫛で鋤くことで防ぎ、緩やかに肩を叩く。
これまでの経験から、私が退くことがないのをよく分かっているアンディ様は、徐々に身体から力を抜かせていった。これで膝枕の完成。

アンディ様をデッロデロに甘やかそう!と決めたのはいいものの、実際問題どう甘やかせばいいか分からなかったのだ。私には妹がいるけど、甘えてくるのはお小遣いがなくなった時だけだったし。
だから無理矢理妹に連れられて観に行った恋愛映画のワンシーンを思い出して膝枕をしてみた。これが甘やかすことなのかどうなのかはやっぱりわからないけど、とりあえず言えることは一つ。

うちの殿下チョーかわいい(いや私のじゃ以下略)

首まで真っ赤にさせて、でもその実ちょっと嬉しそうにはにかむ姿が堪らなくかわいい!アンディ様は私から触れられると嬉しそうにするから、そのせいでもあるんだろう。
……うん。昼食後の膝枕は日課にしよう!なぜならアンディ様がかわいいから!

髪を鋤きながら今後の計画についてつらつら考える。でも良い案が思い浮かばない。甘やかすって意外と難しいものなんだね。今まで彼氏とかも興味なかったからなぁ……う~ん。

「あの、タエ?」
「なんでしょう?」
「その、えっと……ありがとう。こんなに幸せなの、生まれて初めてだ」
「アンディ様……」

どうしよう。そんな雰囲気じゃないのは重々承知なのに、かわいすぎて悶えたい。アンディ様の目尻に浮かんだ涙を拭って、髪に軽く口を落とす。

――どうか、この優しい人の呪いが早く解けますように




午後の執務も滞りなく終わらせ、アンディ様の私室に戻る。これも私が来る前までは姿を見せないように夜遅く戻っていたらしいけど、残業ヨクナイ。仕事終わったら即帰る!を心に掲げていた私によって覆してもらった。夜はゆっくり休むためにあるものです!

戻ったら今度はゆっくりと湯に浸かってもらい、私はその間に夜ご飯の準備をする。就寝前のお酒も用意して(ベッドメイキングは他の侍女さんにお任せしてる)、アンディ様が出てきたら朝と似たようなやり取りをしてから食事に手をつけて、食べ終えたら片付ける。

この一月、毎日繰り返してきた日常。そう、今の私はこれが日常なのだ。朝起きて、自分で朝食とお弁当を作って、満員電車に揺られて仕事して帰って日本酒を飲みながら夜ご飯を食べて寝る。ちょっと前まではこれが日常だったのに、今じゃ全然違う日常に慣れつつある自分が、少し怖い。
いつかは、この生活を手放さなければならない時が来る。うちのかわいい殿下は、私だけの殿下ではなくなり、本来あるべき姿に戻る。祝福(のろい)が解け、皆から慕われるこの国の王子様に。そして、それを見届けたら私は私の場所に帰る。刷り込みのように懐いているアンディ様も、しばらく経てば私がいない日常に慣れるのだろう。それが本当。今がイレギュラーなだけ。だから、私はこの日常に慣れてはいけないのだ。別れが、辛く――

「タエ?」
「!!」

まだアンディ様の私室にいることを、まだ職務中であることを忘れて考え込んでしまった。不覚っ……!

「大丈夫?何か、すごい思い悩んでいたみたいだけど……」
「…………アンディ様、近い将来、必ずこの状況は打破されます。貴方様は愛されて然るべき御方なのです。ですから、ですから……」

どうかそれまでは私を必要として下さい

声に出せない願いは、胸に融けていく。

「…………タエ、疲れているんだね。早く休まないと」

そう言ってアンディ様は私を部屋から追い出そうとする……のかと思いきや、私の隣に座って頭を引き寄せてきた(ちなみにソファで向かい合って晩酌していました。だってこっちのお酒美味しいんだもん)。これは……アンディ様版膝枕。

「い、嫌だったらちゃんと言ってね?タエにだけは嫌われたくないから……」
「殿下……」
「で、殿下って呼ばないでってお願いしたのに」
「申し訳ありません、アンディ様。アンディ様、アンディ様」
「なに?」
「呼んでみただけです」

もう、タエったら……と呆れたような声を出しつつ、昼間以上に照れまくって顔を背けるアンディ様。……やっぱりうちの殿下チョーかわいい。

アンディ様をデッロデロに甘やかしたいのに、逆に甘やかされてどーすんのっていう突っ込みはナシで。だって、今この瞬間だけは甘えたい気分だから――――
本当はもっと長かったのですが、あまりにも長すぎたので泣く泣くカット。万能玉の説明もちゃんとしたかったし、甘やかシーンももっと入れたかった……。『アンディ様の髪が伸びてる!私がこのツヤツヤサラサラキューティクルヘアーを切って差し上げます!』と嬉々として髪を切るタエに対して、首筋に当たるタエの指にドキドキどっきゅんしちゃう殿下とかね。殿下のために愛されエフェクトを最大限発揮するタエを見てモヤモヤしちゃう殿下とかね。アンディ様は愛されエフェクトと刷り込みで懐いているのであって、決して恋心とかじゃないんだーと悩んじゃうタエとかね。もっと盛り込みたかったですが、カットカットです。気力が出来たら続きを書きたいな……。

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