夢殺事件縦書き表示RDF


夢殺事件
作:HOLY


夢殺事件


『バクは夢をつかさどる動物らしい。』
 
 
魔法使いっぽい三角帽子、全身を茶色のマントでおおい、白いひげと長い白髪。典型的な魔法使いの格好をした老人。そしてなぜか動物のバクをかたわらに連れている。
そんなあきらかに変質者な老人が東京渋谷にいた。
 
オールバックの黒髪にメガネ、びしっとしたスーツを着て、手には革のカバンと携帯電話を持ち、革靴をかつかつ鳴らして歩いている。
 そんなあきらかに多忙そうなビジネスマンも東京渋谷にいた。

老人はゆっくりと道を歩き、ビジネスマンはせかせかと道を歩き、もうすぐビジネスマンが老人を追い越そうとしている。
どん!
ビジネスマンは老人にぶつかりながら追い越して歩いていった。
「お、おおい、人にぶつかったら謝らんかい!」
ビジネスマンにぶつかられた老人はよろめきながらそう言った。
「いま忙しいんだ!だいたい、そんな動物を連れてのたのた歩いているほうが悪い!」 
ビジネスマンは老人にそう吐き捨て、謝ることなくせかせかと老人から遠ざかって行く。
「こ、この、不届きものがあ!」
老人の怒りの声はビジネスマンの耳には入らなかったようだ。

          *

 鈴木は疲れていた。毎日会社のためにと働きずくめでもう精神にあまり余裕が無かった。それが若くして会社の部長にまで上りつめたことの代償だった。それでも鈴木は後悔などしていない。独身の鈴木には十分すぎる給料もあるし、なにより、人の上に立つことのできるポジションに優越感を感じることができたからだ。
 今日も鈴木は部下の失敗を怒鳴りつけることができ、上機嫌でマンションに帰ってきた。
「まったく、あいつの無能さにはあきれるよな。」
そういいながら、笑ってビールを飲む。するとすぐに酔いがまわってきたのか、眠くなってしまった。
「・・・寝るか。」
 今日も鈴木は眠りにつく。

          *

 鈴木は苛立っていた。無能だと思っていた同僚が自分より先に部長に昇進してしまったからだ。
「くそっ。なんであんなヤツが・・・。あの会社の人事部はどうかしてる。」
鈴木は不快な気分を鎮めるために酒を飲んだ。

 ジリリリリリ。
起床の時間を告げる目覚まし時計が鳴り、鈴木は不快な夢から目覚めた。
「・・・いやな夢だったな。あいつがおれより先に昇進なんてあるわけが無い。」
鈴木は部長として、昨日しかりつけた部下の後始末をするべく出勤していった。
 
          *
 
鈴木は小学校の廊下に立たされている。「目覚ましが鳴らなかった」と言っても先生は許してくれなかったのだ。小学校に入学してから、初めての遅刻だった。
 
 鈴木は教室で目を覚ました。まだ退屈な授業は続いている。高校に入ってから居眠りが多くなった気がする。
「・・・小学校の夢を見たな。おれは遅刻は0回だったんだけどな。」
 まだ授業終了まで30分はあるのでまた寝ることにする。

 ジリリリリリ。
起床の時間を告げる目覚まし時計が鳴り、鈴木は妙な夢から目覚めた。
「・・・なんだったんだ?小学校の頃の夢を見る夢を見たのか?」
頭の中がこんがらがっていることに自分でおかしくなり、笑いながら鈴木は出勤して言った。
 
          *

 鈴木は同僚と2人で酒を飲んでいる。もう何が原因だったのかすら忘れてしまったが、2人は口論をしていた。
「いまなんて言った?」
「何度でも言ってやるよ。お前は能がないんだよ。出世出世って言ってばっかでさ。」
鈴木は腹のそこから腹を立てた。無能な男に能がないといわれたのだ。
「このっ・・・!」
だからテーブルにあった灰皿でそいつの頭を力いっぱい殴ってしまったのだ。
「・・・・・・。」
鈴木は男を黙らせることに成功した。そして一目散に逃げ出した。

 ジリリリリリ。
起床の時間を告げる目覚まし時計が鳴り、鈴木は不快な夢から目覚めた。
「はっ!・・・夢か。いやな夢だった・・・。殺しをするなんて・・・。」

          *

 ジリリリリリ。
起床の時間を告げる目覚まし時計が鳴り、鈴木は奇妙な夢から目覚めた。
夢を見る夢を見る夢を見たのだ。
「なんなんだ最近・・・。変な夢ばっかりだ。」
こんがらがる頭を抱えて鈴木は出勤する。

「鈴木君。」
書類の整理をしていた鈴木に社長が声をかけた。
「は、何でしょうか社長。」
「君に任せたいプロジェクトがあるんだが、どうかね?悪い話ではないと思うぞ?」
「は、はい!是非!」
昇進の知らせに、今朝見た夢を見る夢を見る夢のことなど忘れて鈴木は喜んだ。

 ジリリリリリ。
起床の時間を告げる目覚まし時計が鳴り、鈴木はうれしい夢から目覚めた。
「くそっ。出世まで夢か!なんなんだこの夢の連鎖は!」

          *

 いじめられっこの鈴木は今日も上級生に顔を殴られていた。
「・・・くそ。あ、」
涙を流しながら道を歩いていると向こうから同級生の女の子が歩いてきた。鈴木が好意を寄せている女の子だ。
「田中さん・・・。こんにちは。」
「・・・。」
鈴木の挨拶は完全に無視された。女の子は鈴木など初めから居ないように歩いて去って行った。聞こえていないわけはない。見えていないわけはない。

 ジリリリリリ。
起床の時間を告げる目覚まし時計が鳴り、鈴木は最悪な夢から目覚めた。
「くそっ何だって言うんだ。ここ最近変な夢ばっかりだ!」

          *

その後もどれが夢で、どれが現実なのかわからない状態が続いていった。
そして会社をクビになった。もちろんそれが夢なのかどうかすらわからない。
「そ、そんな馬鹿な・・・。そうだ、これもどうせ夢だ。」
そう自分に言い聞かせ、鈴木は渋谷の街を歩いていた。
 たとえこれが夢だったとしても鈴木にはどうしようもないぐらい不快で許しがたいことだった。無能だと馬鹿にしてきた同僚が出世をして、そいつにクビを言い渡されたのだ。もうどうしようもないぐらい鈴木の腹は煮えくり返っていた。
「そ、そうだ。どうせこれも夢なら何をしてもいいじゃないか。くっくっく。」
そして鈴木はいったん家に帰って一番切れ味のいい包丁をもってまた渋谷にやってきた。
「くっくっくっく・・・。」
獲物はいくらでも、余るほどにいる。どうせ無能な役立たずばかりだ。殺したってかまわない。
 そして通り魔となった鈴木はスーツを返り血で真っ赤になりながら、殺した人間の数を数えていった。

 ジリリリリリリ。
起床の時間を告げる目覚まし時計が鳴り、鈴木な夢から目覚めた。
「ふう。やっぱり夢か。」
鈴木は今日も綺麗なスーツを身にまとって出勤する。

          *

 鈴木は目を覚ました。立ったまま寝てしまったようだ。
「・・・おれも器用な真似をするな。」  
鈴木は苦笑して辺りを見回した。
広い部屋の中、左右には机と椅子が並べられて何人かの人が座っている。前方には2つの段があり、上の段には3人が座っており、下の段には2人、なにやらメモを取っている。自分は真ん中に居て隣には警察官らしい人が立っている。
「・・・え?」
ここはどこだ?裁判?
「渋谷通り魔事件、被告人鈴木正成、判決を言い渡す。」
「・・・え?」
「何十人もの死傷者だした被告人の残忍で非道な行為はとても許しがたいものであり、死刑とする。」
「・・・え?」
裁判長が閉廷を告げ、鈴木は隣に居た警察官らしき男に連れて行かれた。
そのとき、傍聴席にいるバクを連れた奇妙な老人が目に入ったが、鈴木はそれが誰だったのか思い出せなかった。

 鈴木は死刑執行の直前まで夢が覚めるのを待っていたが、ついに夢が覚めることはなく、死刑は執行された。


どんなものでもいいので評価をくれると非常にうれしいです。













ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




◆BACK
小説家になろう