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一章 第十一話  【囚われの者】
 ふと何かにつられる様に意識が覚醒する。
なんとなくですけど誰かに呼ばれたような…。
いつの間にか眠っていたのか硬い床に申し訳ない程度に敷かれていた薄い布団とおぼしきソレから身を起こす。
「……んっ…」
寝ぼけ眼を軽く擦りつつ視線を彷徨わせる。
誰かに呼ばれた様な、そんな気がしていたから。
本当にそうならちゃんと応えなければ失礼というものでしょうし。
「……ん?」
そんな取り留めのない事を考えつつ見回した室内。
ふとその視界に違和感を。
一拍遅れてその理由に気付けました。
「そっか…結局私……」
 ポツリと呟く。
そしてごろりと再び視界を天井へと移す。
冷たさと圧迫感を感じさせる無骨な石でてきたソレ。
今し方目にする事となった鉄格子と加えて自身の現状を如実に示してくれている。
結局逃げる事は出来なかった。
多分あの後すぐ…
力の手応えは確かに合った。
でも記憶はソコまで。
あのあとすぐに気絶させられたんだと思います。
「…どうしよう…本当に……」
後悔が心を苛む。
もっと上手くやれていた筈なのに。
何時もならもっと慎重になれてた筈なのに。
なんでこんな事に…。
気持ちが奮わない。
気力が湧かない。
何もしようとは思えない。
「本当に…なんでこんな事に…」
石の天井を…
現状を突きつけるこの光景を…
見てたくなくて…
拒絶したくて…
両手で視界を覆う。
バカだ…本当に。
なんて今の自分は……。
「おっようやく起きたかシス」
「……っ!」
ありえない声に驚愕のまま視線が彼を捉える。
「ったくなんて顔してやがるんだ?テメーは」
呆れたような、更に不機嫌そうでもある声。
「………マスター?」
    ―…なんで…―
鉄格子越しに見上げた見慣れたその姿にしばし呆然としてしまう。
「ったく大事にしたくないとかほざいてたくせに何1人暴走してんだよお前は」
「なんで?」
内心浮かんだ気持ちが、一拍遅れて口に出る。
「なんでもなにもなー、街中の騒動探らせてたのはお前だろ。加えてウチの店の名前まで出してやがって、情報屋から聞いてもしやと思った矢先、衛兵からの連絡だぁ。正直呆気に取られたぞオレも」
 少し苛立ったかのように頭を掻くマスター。
「だから焦るなっつただろ、全く」
「……すみません」
マスターの言葉一つ一つが自身の短慮さを責めたてるようで胸に痛い。
申し訳なさから溢れる涙を見せたくなくて、見られたくなくて、再び両腕で顔を覆う。
「本当に……すみませんでした」
「まったく…ホント、これだから世間知らずなお嬢様は…」
覆った視界の向こう側で、優しく頭を撫でられる感触を感じる。
少しは世間に馴染んだと思ってましたのに…
久しぶりに聞くマスターの言葉。
ソレが今は…凄く嬉しいです。

それから暫く…
どれくらいか判らぬ間そう慰められて、落ち着いた頃合を見て牢からは出してもらえました。
どうやらマスターが身元引受人となってくれた様で重ねて御礼を。
そんな私にマスターがしたことと言えば顔を赤らめながらのデコピン一発。
痛かったですけど、何故か少し嬉しかったです。
「しかし件のネームレスマイスターのお弟子さんとは言え、随分と無茶苦茶なお嬢さんですね」
そんな私たちの間に加わる様に三人目の声。
不意打ちの様な声に慌てて振り向くと、どこかで見た憶え…の……
「……っ」
瞬間記憶との符号に身に緊張が走る。
「ハハハそう警戒しなくても…というのは難しいかな?大丈夫事情は聞いたし、君みたいな子が過剰に警戒しようとする気持ちも判らない事は無いと思う。まぁ行為自体は褒められたものじゃないがね」
あの時の衛兵のおじさん。
確か衛兵隊隊長とか言ってましたっけ。
でも…
「ネームレス?弟子?」
彼の語る言葉には聞き覚えの無い言葉がいくつも…。
「おや、お嬢さんは自身の先生が世間でどう呼ばれてますか知りませんでしたか?」
「まっそうだな、コイツも師匠さんも世間にはなーんも気にしてないってな感じだしなっ」
少し意外そうな隊長さんに可笑しさを隠さないマスター。
二人の言葉からその意味と理由は推測できました。
「もぅっそんなに笑わなくてもイイじゃないですか。それともう帰っても宜しいんでしょうか?私コレでつl急ぎたい用があるのですけど」
なんだか世間知らずを笑われてるみたいで面白くありません。
というか本当にこんな所でふざけてる場合じゃ…。
「ああ、そいやまだシスには言ってなかったな」
笑い過ぎたのか、目尻に滲んだ涙を拭いながらウインク一つ。
激しく似合ってませんけど今は突っ込んであげません。
というか意味深過ぎる言葉にそんな気すら起きません。
「なんですか?」
そしてマスターからの一言。
ソレは…
「お前の捜し人、隣りに放り込まれてたみたいだぜ」
あまりに唐突過ぎて。
一拍。
二拍。
三拍。
「………っ!!」
意味がようやく脳に届いた瞬間、もの凄い勢いで後ろ振り返り。
足首からグギッって嫌な音。
 更には崩れたバランスそのままに顔面から正面となった鉄格子に向けて。
痛い…です…本当に…ココ最近で一番のですよ…。
いきなりの事態に驚き硬直してる感じの例の彼と視界に、大笑いするマスターの声を耳に。
私また本気で泣きたくなりました。グスン。
「…っ大丈夫ですかお嬢さん。今、医務室へあんな…」
「いえ、すみません。コレくらいなら大丈夫ですのでお気遣いなく」
 あまりのことに、一拍遅れて隊長さん。
少し慌てた感じで手を引こうとするのを慌てて止め、自身の足でしっかりと立つ。
「……とてもそうとは思えない勢いでしたが、本当ですか?」
私の言葉に納得しきれない様子の隊長さん。
礼節のしっかりとした印象を受けていた彼でも、思わず疑ってしまいたくなるほどだったのでしょうか。
歯にも骨にも異常は感じられませんし出血の雰囲気もありませんのに。
「ガハハッ大丈夫大丈夫っあんま心配せんでもコイツの場合アレくらい日常茶飯事だからな」
「なっ何言ってるんですか!そんないつも転んでる様な…」
「転んでないか?」
「………う〜…イジワル」
否定できないのが凄く悔しいです。
「はいはいお遊びはそれくらいで。そろそろ私の話を聞いていただきたいのですがよろしいでしょうか?」
 「っ!はっはい、すみません」
「おおうっそうだった。スマンスマン忘れてたぜ」
隊長さんの言葉にマスターと揃ってビクッと反応。
と言うかマスター流石にその言葉は失礼過ぎですよ。
あまりの言葉にちょっと睨み目。
まぁ私もまた強く言えない態度でしたけど。
いけませんね、こうこの人と一緒だと適度な緊張感と言うのが保てませんですよ。
「…コホン。それでお話というか、お尋ねしたいことなのですが…」
 そこでコホンと一つ言葉を切って。
 「あっ申し送れましたが、私第8衛兵部隊隊長のマルタ・カリバスルと言います。えっと…シスさんでよろしかったですよね」
「あっはい、すみません。シスと言います」
尋ねられて初めて気付きました。
そういえば私、名も名乗っていませんでした…と。
「はい、それでシスさん。まずは貴女の捜し人と言うのはこの彼で間違いありませんね」
「はい間違いありません。あの…すみませんでしたいろいろとご迷惑をかけまして」
こちらを伺うように様子見ている彼を今一度確認して、隊長さんには深く頭を下げる。
彼の事と言い、私自身の事と言い、本当にいろいろと。
穴があったら入りたい気持ちと言うのはまさしく今の様な状態だと思います。
「いえ、それはもう良いですから、ね。でです、私が聞きたいのは君の使っていた魔導具についてなんだけど…かまいませんで?」

 ビクッ!!

 そんな音が聞こえそうなぐらいの勢いで心臓が跳ね上がります。
「えっと……その、できればその…あまり……」
なんと言いますか、何気にまずかったり?
「それはそうですよね、貴女方にしてみればお仕事上の生命線。あまり探られたくはないというのは理解できます」
なにかお話の流れに嫌な予感しか感じないのですけど。
「ですがこの街を護る事を勤めとする者として、私にもまたどうしても譲れないモノがあると言う事を勝手ながら判って頂きたいのです」
 えっと、なんとなく回れ右して今すぐココからダッシュで逃げたい気持ちですが。
ダメですよね………いろいろな意味で。
「私どもに使用した魔導具。人を…短時間とは言え昏倒させるソレを見せていただきたい」
あーーー……
「失礼かと思いましたが。意識を失われている間に一度、一通りの身体チェックはさせて頂きました。が、結局ソレらしい物は見つからず」
「…………っ」
身体チェックという言葉に反射的に全身が反応してしまいました。
これでも私だってちゃんと女性ですし…ってアレ?なんでしょうこのリング。
「あっ、その手足のリングは封魔の枷ですので。すみません物事態が見つからない以上防衛面から貴女自身を直接魔的に封印処置させて頂く必要がありましたもので」
手足に各一つずつ。
気付いた私に対して隊長さんからの説明。
なるほどです。
たしかにソレっぽい感じ。
「止むえずとは言え無断の封印処置については謝罪いたします。ですが理解しておりますでしょうか?あなたの使われたソレがどれ程の脅威になるであろうかを。判ります?ソレ一つあれば、おおよそほぼ全ての警邏が意味を成さなく出来るというコトを」
 ココに来て、隊長さんの言葉に次第に熱が篭り始める。
しかしそれは当然のことなのでしょう。
なにせ、自分たちが完全に無能化される可能性…否、恐れを孕んだこの力。
恐れぬはずがありませんでしょう。
判っています。
誰よりもその危険性は私が知っていた事。
 改めて使ってしまった事に後悔を。
しかし今この場でソレに浸る事は赦されそうもありません。
 今求められていますは…
目立たぬよう静かに一度深く息を吸い。
握っている拳に気持ち分の力を。
視界をわずかに閉じ、静かにゆっくりと呼気を吐き出す。
鼓動を宥めて。
心を落ち着けて。
思考を回転させて。
改めて隊長さんを見上げます。
そして私は…

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