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序章 第一話  【終焉】
 その世界は何もかもが飲み込まれていた。


 繁栄を約束されていたかのような国も…


賑わいが途切れる事のなかった街も…


慎ましく穏やかな空気に包まれた村も…


理不尽と暴力が隣人である者たちが巣食う無法の地も…


 王も…


貴族も…


司祭も…


罪人も…


在り様の差など関係なかった。


無論ソレは人のみに降掛かりし厄災などではない。


獣も…


鳥も…


善きモノも…


悪しきモノも…


魔を内包するモノ達すらもまた飲み込まれていった。


滅びは全てに等しく。


されど全てを押し流しきられるほど命というのも脆弱ではなかった。


今その者たちは生きてこの場に立っているのだから。


全ての元凶…


今はたた悠然とそびえたつソレ。


そして…



 「なぁなんでもうなんだ?」
 男は苛立たしげな口調を隠そうともせず、ただ目の前に浮かぶ半透明の少女を睨み付ける。
 「―そんなに心配しなくても大丈夫だよ。ホラわたし的にはちょっと眠るぐらいになるだろう
と思うし…―」
 睨まれた少女は何でもない事だからと、苦笑と共に言葉を返す。
「んな問題じゃねーだろうが!」
男はそんな事言ってる訳じゃないと脇にて延びる若木に拳を叩き付ける。

「なぁ今すぐ如何こうしなきゃなんねぇ訳じゃないんだ。何か…他に方法だって見つけられるかも知れねーじゃねーかよ。なぁ」
だからちょっと待てよ。
必ず見つけ出してやるから。
だからまだ待てって。
引きとめようとする言葉は…しかし少女の心を変える事等できず。
「……クソッこんな時ばかり頑固になりやがって…」
男は悔しげにそれだけの言葉を最後に口に出した。
「―ごめんなさ…―」
少女は申し訳なさからただ謝罪の言葉を口にするしかできない。
「あやまんるなよっ…ったく、はなッから俺の言うコトなんざ聞く気が無いくせしやがって」
「―……ごめんなさい。でもコレばっかりはどうしても―」
悔しげな男の言葉に答える言葉はソレしかなかった。
何故ならソレは否定する事のできない…自分の中のもうすでに決めてしまっている事なのだか
ら。
「なにいってるんですか。謝る必要なんて全然ないんですよ」
そんな2人の、ある種緊迫した空気を…
まるで感じてないかの様なゆったりとした声が振り掛けられる。
「恋する乙女に…愛する人に会いたいと願う女の子に…待てと行くなと言うこの人がたんに外道なだけですし」
清らかさを絵に描いたかのような微笑と共にさらっとつむがれた言葉に等の2人の動作が瞬
間、硬直する。
「―なっなっななななに言ってるんですかスイさんっ―」
「すっスイ…なにさらっと暴言吐いてんだよてめー」
混乱に慌てふためく少女。
連れの言葉の暴力に頬を引き攣らせる男。
そして…
「ふふっ可愛い♪」
男の言葉をいっそ気持ち良いぐらい完璧にスルーしつつ…そんな少女の反応を見て、ただ可笑しそうに笑う女。
なんとなく三人の力関係が目に見える瞬間であったり。
「でもそういうコトでしょ?あの子の言葉が真実ならそれはきっと変え様の無い未来。それなのに私たちの都合で何年も何十年もつきあわせてしまうなんてあまりに酷じゃないですか」
そして…そんな微妙な空気など初めから無かったかのように語り続ける、スイと呼ばれた女。
「―………―」
「……オイお前まさかあの話信じて…」
スイの語りに今まで騒いでたのが嘘であったかの様に黙り込む少女。
そして男もまたスイの語る言葉の真意に気付き…
「サリスタは信じてないんですか?」
言葉を詰まらせるサリスタと呼ばれた男に、何を当たり前なことをと言いたげな視線を向け言葉を続ける。
「私は信じてますよあの子の言葉。今更もう遅いかもしれませんが…今はもう疑いなど在りま
せん」
悲しみと後悔の交じり合った様な苦い思いの告白。
「もっと早く…せめて私たちだけでも信じてあげられていたのなら今という時は変わっていたでしょうに…」
ソレは誰もが信じなかったとある戯言の事。
「でもそれはっ!!」
「ええ、仕方の無い事だったのかもしれません」
信仰に疎い貴方ですらそうなのですから。
私たちの様な…神の膝元で祈る者にとっては。
それは信仰する全てへの裏切りに値するような言葉。
到底信じられない…
しかし現実は…

  ……彼の言葉を肯定してしまった。

    異端と呼ばれた彼の…

私たちは結局彼を護る事はできても、真に信じる事はできていなかった。

だから…

「別に無理矢理なんかじゃありません。私はただシスとカイの幸せを信じているんです」
そう言い切ったスイの表情に陰りはもう無く…
「だってそうでしょ。この2人は凄く良い子なんです。そんな2人が幸せになれない筈なんてないんです」
 力強く拳を握らせるかの様な勢いの在る断言。
「だから信じられるんですよ。だって2人ともこんなに想い合ってるんですもの、再会できないはずがないんですよ」
信じていると言うよりも…そうじゃなきゃイヤッていうただの私の我侭だったりもする訳です
しね〜。
その陰りの取れた微笑みはいつの間にか年相応の…否夢見る頃の少女のモノの様にと変わり。
「だから頑張って。絶対大丈夫だって信じてるから」
裏切ったら承知しないんだから。
最後にそう悪戯っぽくウインクを一つ。
「―はいっ―」
シスと呼ばれた少女は泣きそうな…
 それでも今浮べられる最高の笑みで答えた。
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