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52:平和な日
 色々ありましたが、私達はお金持ちになりました。
 まあ、私やシリルは使わないから教会に寄付という形にした。
 そう告げた時、シリル以外全員が目を剥いたものだが衣食住を提供して貰っているのだから当然だ。
 本当は、稼ぎきれなければ持っていた百ベクムも渡すつもりだった。
 ぽかぽかした陽気で隙間からはいる風が心地良い。早く教会建て直せないかなぁ。
 お金は集まっても、工事には時間がかかるとの事で――やっぱりパスタム教会は今日も傾いてます。


 朝はぼーっと空を眺め、お昼は外で黙々とサンドイッチを口にする。
 全員が。
 お金を手に入れたので食材を買って。初めて野菜だらけやキノコだらけではないまともな食事を口にして、飛び上がらんばかりに驚いたのはシスターセルマの腕。
 前々から怪しいと思っていたが、無茶苦茶料理が上手い。可愛く美人で家事完璧。私が女で……ってもういい加減言いすぎたか。
 と言う訳で、今日のサンドイッチも口がきけなくなるほど美味しい。
 しかし、掛けられた言葉に手が止まった。私に服を作ると言わなかったか、今。

「え、悪いですよ」

 すぐ転んで汚す私に服などと、どこぞの酔狂な神でもあるまいに。

「いいえ。姫巫女さま……いえ、マナ様のお金ですもの。それに服も丁度良いものがありませんでしたから」
「そうそう。ぜーんぶ特注にしちゃいましょ。白とか良くない!?」

 あわわわ。なんかマーユさんまで加わったからスケールが大きくなっていく。

「どうせ悪魔祓う時あんまり動かないんだからレースとか。フリルなんて良いかもっ」

 レースにフリル!? いやぁ、それはちょっとーと曖昧に誤魔化そうとするが女性はとにかくお洒落の話題が好きなのだ。
 着せ替えとかも大好きなのであります。

「良いと思いますよ。見てみたいな」

 更にシリルが追撃してくるものだからたまらない。というか止まらなくなった。

「でっしょうっ! マナは何色がいい?」

 あー。もう決定事項になってしまっている。ならばせめて希望を述べよう。気分は死刑執行を待つ囚人だ。

「動きやすくて。転んでも汚れが目立たない色が良いかなぁ、なんて」

 控えめに告げると、マーユが「白ッ」「それで可愛くて綺麗な奴!」とまくし立ててくれた。
 地味なので良いんです。お金かけないで良いんです。何より動きやすさが一番なんです。
 本当に、勘弁して下さい。
 まだまだ続く猛攻に、心の中で涙した。


 ガッシガシガシと音を立てながらナイフを横に引く。

「むう」

 切れない。
 うりゃぁっと押しても切れない。気が付けばナイフが刃こぼれしていた。
 はー、と溜息をつく。

「何してるのマナ」

 マーユにシリル、神父にボドウィン、セルマ。ほぼ全員集合だ。
 休憩所の椅子で一人格闘していた私を見つめて、あーっとマーユが悲鳴を上げた。

「な、なにしてんのよ!?」

 ほぼ同じ台詞だが意味合いが違う。多分これを切るのが駄目だって言いたいんだろう。
 切らせてお願い、この憎き銀髪を。

「髪が邪魔なのでせめて足下まで切ろうかと」

 肩までなんて贅沢は言わない。踏まない長さにさせてくれ。

「おお、確かに良く踏んでるモンなぁ。ナイフで切れないか」
「刃が欠けました」

 大笑いしているオーブリー神父を睨み、ナイフを渡す。
 全然楽しくない。

「何ぃっ!?」

 流石に驚く神父。このナイフは良く切れると言われていたから仕方がない。

「嘘だー。じゃあ、あたしがちょこっとだけやってあげるわよ。
 勿体ないから本当に足下までだからね」

 けらけらと笑うシスターを少し一瞥して、口を開いた。

「お願いします」

 心の中で一言付け加える。
 出来るものなら。
 意気込んで腕まくりするマーユの顔が険しくなるのには、そう時間がかからなかった。

「な、によこ、れぇぇっ!」

 ハサミのようなものを持ち出して切ろうとしても、私の髪は無事なまま。
 初めは刃の状態を疑っていたマーユだが、時が経つにしたがって傷つきも切れもせず嘲笑うように光る私の髪が異常な事に気が付いたらしい。
 刃が噛み合わさる鈍い音だけが虚しく響く。

「すっげえな。切れないぞ」

 銀髪を一房持ち上げ、まじまじと見つめるオーブリー神父。

「おもしれぇなあ。てっきり嬢ちゃんは好きでその髪型だと思ってたぞ」
「元々髪は伸ばさない主義でした。この姿になってからです。この異常な長さは」

 冗談じゃない。ボドウィンの台詞に眉を寄せてみせる。
 悪戦苦闘するマーユを見る。この分では髪を燃やそうと思っても燃えないだろう。
 諦めるしかないかぁ。
 アオの言葉は信じていた。だけど私がそれで納得する訳もなく。
 ナイフを手に出来た日すぐに試した。一日だけではなく数日間格闘した。
 で、諦めた。
 なんで今頃になってもう一度やっているのかというと、悪魔祓いの時の事を思い出して腹が立ったのだ。
 要するに八つ当たり。
 無駄なのも分かっている。けどこの髪さえ短ければ、と思うのだ。
 はあ、と息をつく。後ろでマーユがぜえぜえ息を切らしていた。

「これは普通じゃ無いだろ」

 オーブリー神父に頷いて見せた。髪がそれで引っ張られる事はない、手綱にするにも長すぎる。

「アオにされました。絶対切れないで輝きを保つおまじないだそうです」

 忌々しい言葉を思い出しながら吐き捨てる。

「神の祝――」
「呪いです」

 私の隣でフォローを入れようとしたシリルの笑顔が引きつる。
 何処が祝福だ。呪いだろう。

「神の」
「呪いです」
「か」
「呪いです」

 諦めず健気に言い繕おうとするのを蹴り飛ばす。
 呪いだったら呪いなのだ。いくらシリルでもこれは譲らない。祝福、いやだこんな祝福。

「シリル、諦めなさいよ。なんかマナの言う事も納得出来るし。

 銀髪も長い髪も綺麗よ、だけどこの長さはキツイもの」
 ナイフと同じくなまくらになったハサミを恨めしそうに見つめた後、マーユが肩をすくめた。

「はあ……」

 落ち込んで俯く彼。私はふくれっ面で自分の髪を引っ張った。
 余るので痛くはない。あー腹が立つ!

「まあまあマナ様。危なくなれば神父様達を頼って下さいませ」

 宥めるようなシスターセルマの声に膨らませた頬を戻して髪から手を離す。

「足手まといが嫌だから切りたいのに」

 そう、足手まといなんて嫌。何を言われようと私自身が許さない。
 せめて転ばないくらいにはなりたい。

「っても嬢ちゃんは強いだろうよ」
「悪魔限定じゃないですか」

 煙草をプラプラ口の端で揺らすボドウィンを軽く睨んでみせた。


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