ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
37:汚いものは根こそぎ排除
 一呼吸置き、ゆっくり宙をなぞる指先を想像する。

「何をする気だ。クソ、この縄を外せ!」

 ユハが暴れている。知らんと言うのに。
 やかぁしいわ。こちとらそれどころではない。

「……つ……ぅ」

 ショックで閉じている唇から喚きが漏れそうでも我慢しなくてはならなくて。
 更には蛍光色の悪魔二匹とご対面なんだから精神的にもきっついのだ。

「う、わわわ」
「ひぃぃっ。気色悪すぎるわよ」

 シリルとマーユが悲鳴を上げ。

「うげ。なんじゃこれ」

 オーブリー神父すら引いている。

「縛って正解って所だな」

 飄々としていたボドヴィッドも煙草を口の端で揺らして顔をしかめている。
 大好評だ。悪魔慣れしている私だって悲鳴の一つ二つ上げたいのだから当然と言えば当然。
 吸血鬼一族ヴァンピリームの末裔という肩書きと、今までの演技が声を出させるのを留まらせる。
 どんなときにも冷静に、心乱さず。悪魔に対処せよ。
 向こうの世界でも良く呟いた台詞を異世界でも使うなんて皮肉なものだ。
 螺旋状に絡み合う尻尾と身体。黄とピンクの模様の入った悪魔は二匹で一対の様だった。ユハの心臓部分を取り巻き、余った部分で身体を戒めている。
 手強そうだ。頭が痛い。

「……大丈夫そうか」

 心配そうな神父の台詞。そりゃ、これを見て簡単とは思わないか。

「――やるしかないでしょう」

 口元を抑えて、半ば本気の言葉を吐き出した。
 他の悪魔祓いも気が付かなかった悪魔。見つけ出せたのが自分だけならば、祓えるのも自分しか居ない。
 やらなきゃいけない。ここまで暴いたのなら責任取って祓ってやる。
 お礼はちゃんと貰うからな貴族様。
 二匹同時に胴体を鷲掴む。暴れ心臓を食い破ろうとする頭。尻尾。爪。容赦なく消し飛ばしながら引き抜いていく。

「いぐっ、な、何を。止めっ」

 激痛が走っているのか、彼の身体が跳ねる。騒いでも無駄。こっちは忙しい。
 こちらの力に悪魔達が慌て始めた。せめて宿主の命をと全身をばたつかせる。
 ぐい、と更に引いてやる。暴虐はそこまでにして貰う事にする。
 身体から取り出すと、キシャァッと雄叫びが上がった。

「す、すごっ」
「こりゃ、日がずれてたらやばかったな」

 二人の声を聞きながら悔し紛れの叫びを上げる黄色の悪魔を握りつぶす。
 腕と尻尾、ついでに安全の為口を固めた悪魔を宙に浮かべる。
 黒い身体にまとわりついた蛍光ピンクの模様が気持ち悪さを増している。直視するのすら嫌だ。
 このまま消す事も出来るけれど、彼らには現実を。自分たちの行った報いの現物を見つめて貰う必要がある。
 悪魔を浮かべた私の意図をくみ取ったか、適当に音を立てた後オーブリー神父とボドヴィッドが目隠しを外し始めた。

『ひっっ』

 眩しさに目を細めていた全員が、一様に恐怖の悲鳴を上げた。
 文句を言おうとしていたユハも青ざめた顔でそれを凝視している。
 禍々しさをこれでもかと凝縮させた様な気味の悪い悪魔。
 誰が見てもそう唱えるであろう姿に無意識だろうが身体が震えている。

「――他は祓いましたが。皆さんの中に入っていたものです」

 淡々と告げると、再度悲鳴が上がる。考えたくもないだろう、こんなおぞましいものが取り憑いていたなんて。

「あなた方の行った結果がこの悪魔。理解して頂けましたか」

 そう、これは彼らの自業自得。悪魔が取り憑くほどに禍々しい何かに触れた報い。
 偶然私が来なければ、数日経たずに死体の山の出来上がり。特に二匹憑いていたユハは今日中でもおかしくなかった。

「嘘だ!」

 全員が言いたいであろう一言を、その彼が発した。
 うそ、か。
 口元に笑みを浮かべ、悪魔を近づけてやる。これは現実なのだ。
 紛れもない、現実。意地で引きはがした禍々しき悪魔。
 このドピンクな奴には、かなりの苦労を強いられた。認めないなんて許さない。

「や、やめろ!」
「認めなさい。これはあなたの行ったなにかの結果」
「み、認める。だから――」

 悲痛な叫びに僅かだが満足する。これだけ脅しつければ少しは更生してくれるかも知れない。
 小さく合図を送って神父二人に目隠しをさせると、ほっとした息が漏れるのが見えた。さっきまで嫌がっていたのに現金なものだ。
 くすりともう一度笑ってから、気味の悪い姿を粉々に潰す。
 討伐完了。

「お見事!」

 ぱちぱちとマーユが手を叩く。ありがとうと返す気力もない。なんか疲れた。
 力自体はそれ程使っていないが、この面々を相手にするのは酷く疲れた。
 疲労を癒そうとす、と息を吸い。瞳を閉じる。
 縄を解こうとしているオーブリー神父をとどめて布から顔を出す。

「どうした」

 もう一度深呼吸。微かにだが苦い。
 やっぱり、か。
 原因を特定するべく辺りを見回す。受付の奥が妙に淀んでいる事を目視して、もう一度布を被った。
 どうぞ、と縄を解かせる。

「あ、ありがとうございました。このお礼――」
「このギルドに地下はありますね」

 文句をまくし立てようとするユハを目で制したロベールが頭を下げるのを口元を抑えてから途中で止めた。

「は?」

 吐息の様な間の抜けた声。

「ありますね?」

 語気を強める。絶対にあるだろうがよ狸親父。

「いえそんなものは」
「――では後ろから見える淀んだ空気は私の気のせいですか」

 誤魔化すんじゃねぇよコラ。と睨み付ける。見えてないだろうが、迫力だけは出ているらしい。
 ひっ、と辺りから悲鳴が漏れる。

「しっ、しかし地下は誰も入れてはいけないと。それに神聖な」
「淀んだ空気が漏れているのですが」

 どの世界にこんな禍々しい神聖な地区があるというのだ。

「確認しても宜しいですね。また被害が出る前に」
「うわーお。地下まで汚染されていんのかよ。確か結界とか無かったか?」
「あるはずなのですが。おかしいですね」

 オーブリー神父の言葉にスッキリした表情のアマデオが首を傾げる。
 結界があろうが神聖だろうが、私の目には明らかに黒い筋の様なものが見えている。

「行きましょう。僕はあなたを信じていますから」

 ああ、ありがとうシリル。

「そうね、悪魔も祓ってあげたんだから今更腕を疑ってる訳でもないでしょ」
「そ、そうですが」
「大丈夫だ、嘘付く状況でもねぇだろ。
 それに、悪魔祓いが封印しか出来ないはみ出し悪魔の宝庫だ。
 入って得な事はあんまりねぇさ」

 ボドヴィッドが煙混じりに吐き出して口元を釣り上げる。
 地下にあるのは宝じゃなくて封印悪魔か。そりゃ近寄りたくない。
 たとえ金目のものがあっても私は嫌だ。

「わ、分かりました」

 皮肉げな口調だが正論に納得したか、ロベールが頷く。
 先導され連れてこられたのは木造物件のギルドに相応しくない両手開きの重そうな鉄の扉。
 明らかに重要物がありそうな感じだ。心の中でふーんと呟いてから、

「――ならば、ユハ。あなたも」

 暗幕の元微笑んで貴族の坊ちゃんの居る辺りを示す。

「なっ、何故オレが!? それに名を軽々しく呼ぶな!」

 知るかい。怒りで赤く染まっているだろう顔は見えないが、大層ご立腹なのは分かる。

「オーブリー神父、ボドヴィッド神父。彼の護衛をお願い致します」

 静かに頭を下げる私に、ユハ以外怒鳴り声は出ない。先に頭を下げられれば問おうとしても思わず躊躇う。
 自分の恩人なら尚更だ。

「仕方ないねぇ。行きますかー吸血鬼一族の眷属に頼まれちゃあな」
「だねぇ、あの人には逆らえないンだなぁ。ああ、大変だねぇ俺達」

 と神父二人がにやにや笑う。
 別に逆らっても良いが、彼らにその気がない事は丸わかりだ。
 護衛というか、拘束役として活躍して貰うという私の考えは伝わった様だ。
 この坊ちゃん、放っておくと後ろから扉の鍵を掛けそうで怖いのだ。

「放せ! 無礼者っ。この、ずっと永遠に闇を彷徨えば良いんだ」
「あら怖い。やはり、連れて行くので正解ですわね」

 予想通り。分かりやすく自分のやろうとした事を教えてくれる。
 この台詞に残りの三人は流石に止めようとしなくなった。
 
 お荷物だけど仕方がない。暗闇の中暴れるユハを固める神父と共に固い階段をゆっくり下りた。
 勿論転ぶのが怖いのでしがみついたまま。情けないと自分でも思います。 


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。