パート3 解き明かす
時効のカウントは、海外に出ている間は進まない。
その事を私は、とある刑事ドラマを見て知った。
*
私はゲンさんを連れ、喫茶店で、呼び出したある人が来るのを待っていた。
その人が犯人だと、思ったから。
「お待たせしました」
そして背広姿のその人がやってきた。
私とゲンさんはゆっくりとお辞儀をする。
「……どうぞ」
彼は座り、持っていた鞄をひざの上に置く。そして注文と取りにやってきたウェイトレスさんにコーヒーを頼み。
そして一息吐いて。
「さっそくですが、お話を。……昼休みに抜けてきたので」
「そう、ですね」
私は資料を机の上に置き、咳払いをした。
*
漫画や小説ならこんなとき、私立探偵はさまざまな証拠を持ち出して、さっそうと犯人を追い詰めるのだろう。
だが、私は確たる証拠を見つけることは出来なかった。
彼を犯人だと決め付ける証拠……どころか、疑う要素すらほぼ無いのだ。
だけど、彼の言葉と職業、そして持っているはずの知識を考え併せれば……そうとしか考えられなかった。少なくとも、私には。
*
私はボイスレコーダーの録音ボタンを押し、それを机の上に置く。
「単刀直入にお尋ねします。十五年と一ヶ月前、あなたは人を殺しましたね?」
「何をいきなり」
彼は若干早くそう答え、そして表情を変えずにそう返してくる。
「……あれから十五年と一ヶ月の歳月が過ぎました。でも……花子さんも、太郎さんも、真実を求めています。彼らが前に進むには、真実を知らなくちゃいけないんです」
彼の表情に、少し影が差す。
「もう十分ですよね、山口秀樹さん。これ以上……彼らを苦しませないでください」
*
しばしの沈黙。
ウェトレスさんが、コーヒーを置いて、立ち去るのを見計らうかのように、彼……山口さんが口を開く。
「なぜ、私が犯人だと?」
「証拠は、当然見つかりませんでした。アリバイも不自然なところはありませんでしたしね」
「だったら、なぜ」
「でも、犯人は包丁を持ってきた。部屋の荒らし方もプロのそれとは違う。……つまり、犯人は泥棒なんかじゃないんです」
私は砂糖をコーヒーの中に入れ、スプーンでかき混ぜながら話を進める。「だが、それでは私を特定できない」
「そうです。……あなたの言葉が、ヒントでした。……あなたは、事件が時効だとは言い切りませんでしたよね。時効で捜査が打ち切られた、と言っただけで。
あなたは知っていたんですよね。まだ、本当は時効じゃないと言う事を」
私はそう言って、山口さんの目を見据えた。
山口さんは満足げに頷き、コーヒーを飲む。
「今の会社に入ってから現在に至るこの五年間。私はその半分を、海外で費やしていた。だから、本当はまだ、時効ではない」
カチっと音を立てて、カップを置く山口さん。その顔には疲労の色が、濃く刻まれている。
「あの包丁は、本当は自宅で使う予定だった。当時一人暮らしを始めた私が、自炊をするために購入したものだ。
家に帰った直後、田中さんから電話が入った。今家族が出払っているから家で酒でも飲まないか、と。
チャンスだと、思った。
私はあわてて服を着替え、鞄にカッパと手袋と包丁を入れ、田中さんの家に向かった。
後は現場から推察される通りだ」
つまり。
手袋をはめ、カッパを着た山口さんは、買ったばかりの包丁で田中さんを刺殺し、出来るだけ部屋を荒らして、財布と預金通帳とを奪って強盗に見せかける偽装工作をした後に田中さんの家を出た。
そして手袋とカッパを人知れず処分した。
「……動機が、どうしても分からないんです」
「心は、他者には知りえない」
山口さんは吐き捨てるようにそう言ったかと思うと、一気にコーヒーを飲み干した。
「お二人とも、飲まないと冷めてしまう」
「え、はい」
「……おう」
私とゲンさんは、促されるままにコーヒーを飲む。
コーヒーの風味と苦味、そして砂糖の甘さが口に広がり、乾いていた喉を通り過ぎる。
「金に困って上司の家に押し入った。花子さんと太郎君には、そう伝えて欲しい」
山口さんのひどくさびしげな瞳に……私達は、ただ頷くしかできなかった。 |