パート1 請ける
今回持ち込まれた依頼は、少々特殊なものだった。
父親が殺された。だが十五年の歳月が過ぎて時効になり、警察が捜査を打ち切った。
それでも犯人が知りたい。
「……以上が、私達が覚えている全部です」
依頼人はその娘、田中花子(プライバシー保護のため仮名)さん二十五歳と、その弟、田中太郎(こちらもプライバシー保護のため仮名)さん二十二歳。
「それと、こっちがぼく達で集める事のできた資料です」
「拝見します」
私は太郎(仮名)君が机の上に置いた資料を手に取った。
そこには当時の現場写真がいくつかと、そして父親の知り合いのリスト、など。
「あの、お願いできますか?」
太郎(仮名)君の方が、おずおずと尋ねてくる。
「ええ。見つかるかどうかは分かりませんが、全力を尽くしてみます」
私はひとまず資料を机の上に置き、営業スマイル。
「よろしくお願いします」
二人は頭を下げ、そして事務所を後にした。
*
残された私は、二人が残していった資料に目を通す。
依頼人の父親、田中健一(仮名)さんが殺害されたのは自宅。部屋中が荒らされており、犯人は強盗の類と思われる。
凶器は真新しい包丁。だが、その包丁は百円均一ショップなどで手に入るようなもので、購入先は不明。
犯行時刻は深夜で、なおかつ家族はちょうど父親を残して実家に戻っていたため、目撃者は皆無。
しかも十五年前と言えば、セキュリティーに関する認識もまだ甘く、田中(仮名)さんの家も、警備会社と契約していたわけでも他の何かの防犯対策をしていたわけでもなかった。
「おやつ、食うか?」
「ありがとう、ゲンさん」
そう言いながらお菓子を持ってきてくれたのは、この事務所の事務をしてくれている山田ゲン(いちおう、こっちも仮名ね)さん。
「……難しいのか?」
「ええ。ちょっと……ね」
写真を見る。
警察から手に入れたのだろうか、後頭部からと背中から血を流して倒れている男性の周りの床に白いテープが張ってあり、五の数字か書かれた札が一緒に映っている。
別の写真には、犯人が着ていたものと思われる、血がべっとりと付着したレインコートと凶器の包丁。資料によれば、包丁には指紋が付いていなかったらしい。
つまり手袋をしていたのだろうが……それも今となっては探しようも無い。
「ん〜、俺には難しい事は分からんけどよ。なんか力になれることがあったら何でも言ってくれ」
「了解です」
私はゲンさんにほほ笑みを返して見送ってから、再び資料に目を通し始めた。 |