第四巻・上巻「アニマルコンビ-そんなはずありませんわ!-」
──キーンコーンカーンコーン──
学校のチャイムが鳴り響き、朝の学校のHRが始まる。朝の恒例行事ともいえる先生の出席確認。
「─阿部。─伊藤。─牛咲。……」
次々に呼ばれた生徒は返事を先生に返していく。そんなさなか神崎奈美は黄昏ていた
「─神崎。」
「あ〜う〜あ〜」
クラスに響きわたるなんとも間抜けな声
「神崎?」
「奈美、どうしたのよ、そんな今にも死にそうな声出して」
「う〜あ〜う〜」
「ねぇ、ちょっと、奈美?」
あまりにもの気の抜けように席が隣の澪は奈美の肩を揺さぶりながら声をかける
「あ〜う〜……あ、あれ? 澪ちゃん? どうしたの?」
「どうしたのはあんたよ。いつもあんたは気が抜けてるけど今日は更に抜けてるわよ」
「大丈夫か? なんか元気無いけど保健室行った方がいいんじゃないか?」
雅樹が奈美を心配して聞いてきた
「……うん〜、なんかせっちゃんに会いたくて鬱でさ〜」
「……はぁ、あんたねぇ、なんであんな変態野郎なんか好きでいるのよ」
澪はため息をつきながら奈美を見る
「えとと……、頭が良くて〜、運動神経抜群で〜、いつも女の子のことを気にかけていて〜……」
奈美は指を折り数えながら誠一のいいところを述べていく
「……でも一番いいところは困っている人がいたら絶対人を助けるところかなぁ」
にぱ〜、とさっきまでのだるそうな顔はどこへやらの奈美。クラスは落胆と困惑に満ちていた
「……ぁあ! わかったわかった。奈美グラフィーだとあの変態が相当美化されるのだけはわかったからもぅやめて〜!!」
澪が机に突っ伏しながら降参のポーズをとる
「ははっ、でもあいつは実際そんな奴だぜ。変態であることには代わりはないけどな」
「うるさいわよ! 変態であることは認めますけど私はあんな奴がいい奴なんて絶対認めませんからね!」
「……それはいいが、神崎、体調は大丈夫なのか?」
先生が輪にはいりずらそうな顔で奈美に声をかけた
「あ、すいません、私は全然大丈夫です」
「そうか、では出席確認の続きをはじめる……」
少し顔が緩んだ先生、次々に呼ばれていく生徒たち
「――田辺。――津軽。――遠坂。」
「どおしよ〜、次せっちゃんの番だよ〜」
一人あせる奈美。しかし、無常にも奈美の願いは通じず、呼ばれてしまう
「――遠山。」
――――
予想どうり無言の教室
「遠山ー、いないのかー?」
先生の声しか響かないこの教室。だが……
「だらぁ! ……っしゃい!!」
勢いよく開かれる教室の扉、飛び出してくる影
「みんなの正義のヒーロージャスティス精一ただ登校いたしました!!」
かっこよく(?)ポーズを決めながら教室に乗り込んできた精一
「……もっとまともな登校のしかたはできんのか……」
「ノンノン先生、朝という皆が一番テンション下がり気味なときにこうやって登場することで皆の士気を上げるのが僕の役目ですよ」
先生の顔の前で指を揺らしながらかっこよく答える俺。いかすぜ……
「で? 転校して早々遅刻した理由はなんだ?」
っち、俺のギャグもわかってくれないなんて、先生もノリが悪い。と、精一は一つ咳払いをしながら先生に向かって
「実はですね先生、今朝方コンビニの前を歩いていましたら不良に絡まれている少女を発見いたしまして……」
得意げに話す俺、本当の話なんだからきっと遅刻は免除になるに違いない
「はいはい、寝坊、と……」
「先生! それはあっけないですよ! ここからが面白いところなのになに出席簿に寝坊とか書いてるんですか!」
「俺はいつまでもお前のジョークに付き合ってられんのでな、遅刻なのは変わらんのだからいいだろう?」
っくそ、こんなに本気で話しているのに信じてもらえないなんて……
「せっちゃ〜ん!」
ッギュ
「おお、奈美じゃないか! 聞いてくれよ! 先生が俺の言うことを信じようとしないんだ!」
精一の右腕につかまっている奈美の頭をなでながら話す精一
「えへ〜」
「ほら! 先生、奈美もこう言っていますよ! まだ信じないんですか!」
もう意味わからんがここはノリで押すっきゃない
「……わかったわかった、今日だけだぞ。今度変ないいわけされても問答無用に遅刻にするからな」
「さすが先生! 生徒の仏です!」
「はぁ……、朝から疲れる奴だ……」
先生に勝利した俺は奈美を見て
「やったぜ奈美!」
というと奈美はとても爽やかな顔で
「うん! やったねせっちゃん!」
と返してくれた……
たかが遅刻なのに
……今は学校のLHR時、決めることは新学期早々とあってクラスの係り決めだ。クラス委員、文化祭委員、飼育委員、放送委員など多種多様の係りの中から自分にあう係りを選ぶのである。それぞれ男子一人、女子一人。
補足を言うと、これによって組み合わされた男女は付き合うことが少なくないという……
「では、只今から、男子は教室の前で集まり話し合い、女子は教室の後ろで話し合うこと」
先生が指示を出し、みんなを誘導させる
「雅樹、お前はなんにするつもりだ?」
クラスの人がわらわら移動する中、精一は雅樹に質問した
「ん、俺は学級委員かな。前もやってたから他の奴がやるよりはいいだろ」
「はぁ……、お前は何と言うか、性格がちっとも前と変わってねぇなぁ」
そう、こいつは中学の時は勿論、小学のときもオール学級委員なのだ。しかも、こいつは仕事は全て完璧にこなし、挙句の果てにはクラスにクーラーを設置することを先生を押しつぶしてまで取り決める超エリートだったので、誰もそのことについてつっこまなかった……
「うるせぇよ、お前もどうせ飼育委員なんだろ?」
さもうっとおしそうに返事を返してくるマイフレンド、でもやはりわかってるじゃないか。雅樹が万年学級委員のように俺も小、中と万年飼育委員だった。めんどくさがってなかなか飼育に来ない人が当番のときは毎日でも生き物の面倒を見てやったり、台風などの天候が荒れる日は欠かさず駆けつけ生き物の面倒を見る日々、それもこれもあの生き物たちの愛嬌のあるしぐさや、毎回毎回俺を支えてくれる奈美があったからだ
「……そうだな、この俺に生き物の飼育を任したら世界で右に出るものはいないぜ」
さぁ、待ってろよ、可愛い可愛い俺の動物たち、今俺が調教してやるぜ……
「……、どうでもいいけどその犯罪おかしそうな顔しながら能天気に突っ立ってるのは衛星上良くないと思うぞ?」
「……ッハ!! あぶねぇあぶねぇ、もう少しでランランいいながら天に帰るところだった」
気を取り直して飼育委員に俺は立候補する。やはり皆楽をしたいのか図書委員や号令係等で、俺と雅樹はすんなり希望の係りについたのだった
しかし……
「奈美! あんたいい加減諦めなさいよ!」
「やだもんやだもん! 絶対この委員は譲れないんだもん!」
教室の背後からいきなり聞こえてくる奈美と澪の声、何事かと覗き込む野次馬たち
「なんだなんだ、何が起こったんだ?」
精一がその様子を覗き込む
「あんた前から学級委員やってたじゃない! いまさら飼育委員に立候補なんて誰かが許してもこの私は許さないわ!」
あのお嬢様は珍しく顔を荒げて奈美に詰め寄るが
「違うんだもん! 学級委員やってたのは澪ちゃんが凄い飼育委員やりたがってたからだもん! いつもいつも我慢してあげてたんだもん!」
奈美も負けじと澪に反発する
つまりはこうだ。いつも学級委員をやっていた奈美が飼育委員に立候補したと、で、それに対していつも飼育係をやっていた澪がキレたのだ
緊迫する教室、生徒たちが奈美と澪の周りを囲み始めると、先生が間に割って入ってきた
「おいおい、いつも仲のいい二人がこんな揉め事を起こすなよな」
「だって奈美が!」
「だって澪ちゃんが!」
「……はぁ、しょうがねぇなぁ。じゃあもうじゃんけんで決めてしまえ、勝ったほうが飼育委員だ」
先生はめんどくさそうな顔で提案する
「いいわ、望むところよ」
「負けないんだもん!」
今、この教室でじゃんけんという壮絶にして壮大なイベントが起ころうとしている。この競技のルールはいたって簡単、勝てば官軍負ければ賊軍である
静まり返る教室……
「じゃーんけーん」
果たしてどちらが勝つのだろうか
「ポン!!」
開かれる手と閉じられた手……
勝ったのは……
「やったー! 私の勝ちー!!」
如月学園のお嬢様、如月澪だった……
「って、なんであんたなのよ!!」
お嬢様は激情する
「なんでも何も、お前が決めたんだろう? 俺とともに生き物の飼育をすることを」
そう、自然な流れとして、澪が飼育委員に決めたのだったら必然的に俺と同じ委員になるのだ
「あ〜あ〜、だから今回の委員決めは奈美がやりたかったのに〜」
甘んじて受けた学級委員の仕事に奈美はとても不服そうだ
「え! なんか違うでしょ! こんな男どうせ図書委員とか号令係とかじゃないの?!」
とても信じられないのか澪は精一に指をさしながら失礼なことをほざいている
「あ〜、またせっちゃんのことバカにしてる〜! せっちゃんは元から動物好きで優しい人なんだよ〜」
「そうそう、俺は動物にも女にも優しい男なんだよ。だからこれからよろしくな、お・じょ・う・さ・ま」
澪の肩に手をかけながら熱い視線で澪を見つめる
「いや〜!! こんな男となんて死んでもいや〜!」
「よいではないか、よいではないか」
そうして精一と澪は飼育委員としての業務を今後こなしていくことになるのだった…… |