第三巻「奥様はスチュピット少女」
──次の日。
朝6時30分、ここは精一の部屋。引っ越して間もないこの部屋はダンボール箱に埋め尽くされ、まだ夏の力が余っているのか部屋は暑苦しい。
「……ん〜、もう朝かぁ」
朝の日差しが眩しくて目を擦りながらベットから降り立つ精一。
しかし……
「!
あ、っと、っと、っと」
斜める体、傾いていく視界。バタッ、という音とともにダンボールにつまずいて倒れる精一
「……まったく、朝から早々ついてないな」
ほんとにもぅ、元気なのは下半身だけなんだから。そう思いながら精一はダンボールから出された唯一の道具『テレビ』をつけながら学校に行く準備を進める。
「ジャーンジャジャーン!! 今日のあなたは超ラッキー! 困っている人を助けると意外な人に会えるかも?!」
テレビをつけた瞬間出たこのラッキー宣言。いつも思うんだけどこういうのってやる意味あんのかね? 超ラッキーならダンボールになんか引っかかんねぇっ、つぅの。
「ってか、占いなんかにけちつけてる場合じゃないな」
急がなくては。早くしなければ我が学校の女子達が悲しんでしまうではないか。そう思った精一は鬼の如き早さで準備を整えた。
「っうし、んじゃ、行きますか……」
テレビの電源を消し、学生鞄を持って出かけようとすると、さっきつまずいたばかりのダンボール箱からある物体を見つける。
「これは……『パティ』じゃないか!」
そぅ、パティと呼ばれるこの布で作られた人形にはある秘密がある。
1・これは恋人同士のパンティの布地を合わせたもので〔だからパティと呼ぶ〕、恋人達はアメリカンジョーク的絆が作れるとアメリカで大ブレイク
2・たとえ恋人同士が離ればなれになっても日常肌身離さず持っていれば必ず会えることができるとアメリカで大ブレイク
3・恋人がいないときでもこのパティを見るだけで寂しさが吹き飛びます! だって恋人のパンツなんだから!! とアメリカで大ブレイク
さぁ、君もパティに夢中さ!
「……なんか懐かしいなぁ。あいつ、今も元気いっぱいなんだろうな」
この人形は可愛らしいが、あいつのパンツだと思うと別の意味でにやけてしまう
「……っと、いけない、学校学校っと……」
パティをそっ、と鞄の中に入れて部屋を出る。両親はこの時間は親父は仕事に、お母さんは夢を見に……ってやつだ。
「つまり、朝ご飯なんかねぇ、てゆうね」
しゃあねぇ、只今7時15分、飯買って学校で食うか
「んじゃ、いってきま〜す」
何も返事がこない我がマイホームを後にして、まず目指すはコンビニ
「日本のコンビニも久しぶりだな。はてさて、何を食べようか……」
そう思いながら道を歩く。緑桜茂る木々、電柱が一定の規則で並んでいるこのつまらなさ、ほぼ夏と変わらんこの日差し、少女の周りに4人もの男が囲む風景。
「いや〜、なんていうか、今日の気分は爽快だね」
手で太陽を仰ぎ見て精一は言った。……でもこんなに爽快にしてても見えちゃうんだよなぁ、あの風景……。それは、ちょうど精一が行こうとしてるコンビニの横の路地裏で行われていた
「君、如月学園のお嬢さんだよね? 彼氏とかいんの? いないならさぁ、学校なんかさぼって俺らと遊ばない?」
金髪〔ブリーチかけまくって超髪痛んでる〕に口ピアスのヤンキーかぶれが少女にナンパしている。帽子を深々とかぶっているあの少女は学制服から見るにうちと同じ生徒か?
「え、あの、その、……カは、その、えと、……」
少女は困っているようでさっきから口をパクパクさせている。まぁ、無理もないか。
「なになに? うちらと遊んでくれないって言うの?」
金髪は少女に詰め寄りながら何か話している。そのとき、精一の頭にある言葉が思い出された。
『困っている人を助けると意外な人に会えるかも?!』
「ククク……
本当か嘘かは試してガッテンだな」
さて、そう決まったら不良共四人をどうやって倒すかだな……
そう考えながら、精一は路地裏の陰に紛れながら不良共に近づいていく……
「ぇ、あの、あのあの、私、学校が……」
「まぁだそんなこと言ってんの? こっちは4人、君は1人。おとなしく言うこと聞いといたほうが身のためだと思うよ?」
そう、金髪はいいながら少女の手を掴み路地裏の奥へ連れていこうとする
「あ、いや、だれ……か……」
少女が顔面蒼白の涙目になって絶望を感じたまさにそのとき!!
「グァァァァァァ!!」
何者かが後ろからやってきて攻撃、金髪はお尻を押さえながらアスファルトの上で悶え始めた
「グァイィィィ! 尻が、尻ガァァァァァ!?」
「! どうした不良A!?」
金髪の仲間が周りに集まると、その背後から声がした
「……ふっふっふっ、この俺の手に掛かれば女のアナルも男のアナルもたやすいものよ。残念だったなぁ、不良共、この女は貰っていくぞ!」
手の匂いを気にしながら歩いてきたこの少年は、カンチョーのポーズで現れたかと思うと、いきなり少女の手を取り走り出す。後に残されたのは、処女を奪われた金髪とその仲間のみだった……
「ハァ、ふぅ、ゼィ、ひゅ〜。いや〜、疲れたなぁ。久々に俺の奥義を披露してしまったぜ」
ここは如月学園のすぐ近くの自然公園。あの路地裏から一目散に走ったのである。
「こんなに走るのは久しぶりだよもぅ〜」
と、精一さっきから手を繋いだまんまの少女を見る。少女は深手の帽子をかぶっていて遠目だとよくわからなかったが、こいつ『どっかで見た顔だぞ?』
「ゼィ、ゼィ、ゼィ……
ル、ルリカも、こんなに走るのは久しぶりですよ〜」
え? ルリカ? ルリカとか今言わなかったかこいつ? とか思っているとだらだらに休憩していた少女は帽子を取って深々とお辞儀をしながら
「あ! す、すいません。助けて貰って。あ、あの、凄いかっこ良かったです」
と言いいながら俺の目を見た
「って……、あ、あれ?」
そういう少女の帽子から舞い降りてきた髪の毛はやはり日本人のそれではない淡朱色、しかし目の色は少し茶色がかって日本人っぽい。もぅ何回も見てきたそれは、立て続けに
「先輩! 精一先輩じゃないですか! え、嘘、本物!?」
とかなんとか言いながら俺の体をペタペタ触ってくる。ウッ、そんなに触られると俺のマイサンが……
「……うわぁ、このルリカが少し上目遣いしただけで息子がムクムク元気になるのは精一先輩ぐらいだから本物だぁ。……え、じゃあもしかしてルリカがピンチになることを察知してわざわざ日本に来てくれたんですか?」
「いや、全くもってそれは妄想だが、久しぶりだなぁ……ルリ、元気そうで何よりだ」
占いおそるべし!
まさか、本当に当たるとは……いや、むしろこれはパティのおかげか?
くりくりした目を輝かせながらルリカは話す。
「なぁんだ、先輩だと思ったら安心しちゃいました。で、なんで先輩はこんな辺鄙な日本なんかにいるんですか?」
会話だけ見ると興味なさげに話しているルリカだが、その頬は淡赤色に染まり、指はさっきから落ちつきなく宙にのの字を描いている。まさに、恋する乙女のように。
……ククク、これはひとついじめてみるか
「……それはだな、別れてもなお、お前の声が聞きたい、そして会って抱きしめたい、と思ったからおやじに無理言って帰国してきたんだよ」
そう言いながら精一はルリカを抱きしめる
「はぅ! ……し、しかしそんな姑息な常套手段はこのルリカには通用しませんよ!」
少し抵抗する素振りを見せるが、そう言いながらもルリカは精一の抱擁からは出ようとはしない。前からこいつは昔から歯の浮くような言葉責めに弱かったからなぁ。この調子じゃまた俺に懐くのも時間の問題だな。
「ほら、これを見てもそんなことを言うのか?」
精一は学生鞄の中から今朝偶然発見したルリカのパンツ、もとい、可愛らしい人形パティを取り出した
「あ! それはわたしのパティ! 先輩、まさか本当に……」
「だから言ってるだろう? 俺はルリに会いに来たんだって」
こんな人形一個にだまされるなんてルリもまだまだ初奴よのぅ。今朝はもしかしたらツイてたのやもしれんな。さらにルリをきつく抱き寄せながらちらっと様子を見る
「どぇ! で、でもでも、私から振ったわけだし、そんな今更言われてもぉ……」
顔を真っ赤にしてマジ困りのルリカ。ふん、堕ちる手前5秒前ってやつだな。そう思った精一は、一回抱くのを解いてルリカの顔に自分の顔を近づけながら
「……しょうがないなぁ、困ってるところ悪いがお前にずばり一言言ってやろう。」
「え……」
……一瞬の沈黙。風が吹き緑桜が揺れ、ざわつく自然公園の一角で、精一はとどめの一撃をルリカに放つ
「お前は俺のことがどうしようもなく好きだ。お前から振ろうと、俺から振ろうと、もぅその運命からはあらがえない。悔やむなら俺と会ったことを後悔するんだな。」
ルリカの目を真剣に見据えながら精一は言った
……
「え!! いや、あの、間違っちゃいないんですけど、え〜?! 普通逆じゃないですか! もうルリカのロマンス全壊しですよ!!」
ルリカはパニック状態に陥り、やたらめったら口数が多くなってきた。……そろそろルリカのスイッチが入ってきたな……もぅ堕ちたも同然だぜ
「いや、少し冷静に考えてみろよ。もし俺がルリとセックスしたい! って言って襲いかかったらどうする?」
精一はあくまでルリの目を見つめながら言う
「え、そ、それは……あのあの……」
しどろもどろになっているルリにさらなる追い打ちをかける
「もちろんヤらしてくれるよな! な!」
こいつはノーと言えない日本人だからな。押して言えば大概イエスなんだよな
「……それはまぁ…………………………………………………………………………はぃ、って何いわせんですか!!」
やっぱり
「ほらな、ルリならそぅ言ってくれると思ったよ。ま、これで俺にメロメロなのは証明できたな。何か反論はあるか?」
もらった……。多分これでルリの起爆スイッチが入ったはず。
「ない……です。あぁもう!! そうですよ! どうせルリカは先輩にメロメロなんですよ! 三週間ぐらいしか付き合ってないけど、先輩以外の男の人が思い浮かばないんです! 先輩のパティを肌身離さず持ちながらつまんない学園生活を送っていたこの気持ちわかりますか! 先輩を振ったことをすっごい後悔しながら毎夜毎夜泣きながら眠ってるこの気持ちが分かりますか!! うっ、ぐす、っひっく」
ルリは言いたい放題言って泣き出してしまった
「せ、先輩と離ればなれになって、ルリカは凄い寂しかったんですよ。しょうがない、しょうがないと思いつつも後悔の毎日。さっきの不良に絡まれた時も、もぅ、どうなってもいいかな? なんて思っちゃったりしたんですから」
しゃっくり混じりの声でルリは淡々と話す
「でも、でも、いざとなったら凄い怖くなっちゃって……先輩助けて! って思ったらどこからともなく先輩が現れちゃって……先輩は出てくるタイミングがいつもせこいんですよ。あんなことされたらどんな女性でもときめいちゃいます。」
ほっぺたを膨らせながら言うその姿は微笑ましいものがあった
「ああ、あれはほんと偶然だったんだけどな。でもあの時はあれがルリだなんて全然思わなかったよ。ま、なんつぅか困ってる人を見たら助けてあげたいってやつ?」
まぁ占い見てなかったらそのままスルーだったけどな
「はぅ〜ん、先輩素敵すぎます〜。さすが男性の処女も貫通させる男ですね、ルリカなんかとはレベルが違います」
スイッチの入ったルリはまず三つの追加効果がある
1.俺以外の人間は全て視界に入らない
2.俺がいうことならどんなことでもイエスという
3.いつもは見た目によらず控えめだが、格段に性格が明るくなる〔俺限定〕
そんなルリ第二形態、みなさんも試してみては?
「そういやルリは俺と同じ高校なんだな」
さっきも思ったことだが、ルリの着ている制服は俺と同じ学園の一個下の学年の制服なのだ
「あ、そういわれてみるとそうですね! あれ? 学校といえば何か忘れてるような……」
キーンコーンカーンコーン
と、そのとき、学校の方からチャイムの音がした
「げぇ! もぅ8時30分だ! やべぇ、お喋りが過ぎた! ルリ走んぞ!」
手を握り、いざ行こうとルリに向かって手を差し出すと
「せ〜んぱい!」
チュ
いきなり俺の唇がルリに奪われた
「……さ、先輩、行きましょう!」
照れ隠しなのか、俺が何かを言おうとした瞬間、手を掴まれ引っ張られる
「って、おいおい、前よりも随分積極的じゃないか……でもまぁ、楽しい学校生活になりそうだぜ」
ゆらゆらゆらゆら木々が揺れ
てらてらてらてら日が照らす
そんな最中に走る二人、行き着く先は生か死か?
それは、誰にもわからない |