第一章 不思議な列車
―ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン―
電車の音だろうか、すごく近くで聞こえる。
―ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン―
何度も何度も繰り返される。
家の近くに線路なんてあったっけ?
―ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン―
ここでボクは気づいた。いつまでも同じ音が繰り返されている。
もしかしてと思って、ボクは体を起こした。
日差しが入るはずの視界は真っ暗のままだ。
まだ夜なのかな? それにしてもおかしい。なにかがおかしい。
ボクは少し経つと自分が座っているところがどこなのか把握した。
ここは列車の中だ。このイスといい、ひじ置きといい、確実に列車だ。
予測が当たってしまった。
でもなんで?
ボクはあたり一面を見回して、昨日のことを振り返った。
―ザーッ、ザーッ、ザーッ―
そこにはあたり一面青い海が広がっていた。
ここは地元の海だ。砂浜はゴミも落ちてはいるが、きれいな方だ。
小学生の頃、ここに引っ越してきて一番最初に来たのがここだった。
それ以来、ボクがここに来るのは珍しくない。たまに、ここに来ては時間をつぶす。
家よりもどこよりも落ち着くのがこの海だ。
ボクは浜辺にあぐらをかいた。砂がぬれていたのか少し冷たい。
そのまま波の音をいつものように聞いていた。
ボクはうとうとして、たぶん寝てしまったのだろう。
砂浜に倒れていたから、はたから見たら死んでるように見えたかもしれない。
起きたときはすでに時計の長い針が半周していた。
「やばっ」
母さんに怒られるぞと思いながらボクは立ち上がった。
そこまでは、よくあることではあった。
でも、そこからは違った。
ボクは砂浜を歩き出した。
歩き出して何秒かしてボクは気づいた。
海に背をむけて歩いているのにいっこうに前に進まない。
進んではいたんだろうけど、距離は縮まらなかった。
おかしい。絶対に変だ。
もう一度、歩こうと思ったときなぜか海は目の前にあった。
浜辺に向かって歩いていたのに、海に背を向けていたのに、海は目の前にあった。
そして、ボクはまた気づいた。
海がせまってきていたのだった。
走った。懸命に走った。でも、その努力はみのらなかった。
慌てふためいていてもなにも変わらずせまってくる海にボクは飲み込まれた。
そこから、今までの記憶はない。
列車に乗った記憶なんてさらさらない。
でも、乗っているのは事実だった。
事実だけど、受け入れがたい。
ボクはとりあえず状況を把握しようと思い、席から立ち上がった。
「あ、おはよう」
不意に後ろから声がした。
驚いてボクは腰をひじ置きにぶつけてしまった。
「あ、ごめん、びっくりした・・・よね?」
そりゃびっくりしたよ。でも、言う気にはなれない。
席の上から顔を出す形で、女の子は話しかけてきた。
顔からしてボクと同じくらいの年だろう。
「あ、ごめんなさい、えと私はトモリって言います」
トモリ? 戸森か。
「えと本名は言わなくてもいいですよね・・・」
本名? トモリってのは本名じゃないのか?
「あの、お名前いいですか?」
「千葉」
「チバ? チバがドライブ名なんですか?」
ドライブ? いったいなんのことなんだ?
「あ、やっぱり」
そう言ってトモリというやつはお辞儀をした。
「すみません、やっぱり、初めての人ですよね」
トモリはそう言い残し、俺の座ってる席を離れた。
薄明かりが窓から入り始めた。朝になったんじゃなくトンネルを抜けたみたいだ。
明かりが入ると同時に自分のまわりにも人がいることに気づいた。
ボクよりも大きい人、小さい人もいる。
ボクは立ち上がって車両の中を見渡した。
床は木でできていた。もうとっくの前に走ることをやめてしまった車種だ。
窓から見える景色がゆっくり動いていたから、スピードはそんなにでていないんだろう。景色が目で追えるほどの速さだった。景色は見たことのないものなかりで新鮮だった。
窓の外をのぞき込むボクに背の高い男が話しかけてきた。
「いい景色だね」
話しかけてくるのがわかったから驚かなかった。
「ボクもここは久しぶりだな」
そう言って男は窓の外を眺めだした。
「どこから来たの?」
そんなこと自分が知りたい。わかるわけなかった。
「わかんないか・・・」
「俺もよくわかんないんだ」
自分と同じ境遇の人がいた。それが少しうれしくて安心した。
「急にここにいて・・・」
「俺もだよ」
列車はまたトンネルに入って視界が真っ暗になった。
ボクが席に座ると男が「いいかな?」と聞いてきたからボクは頭を縦に振った。
男は対面式のイスの反対側に座った。
「あ、ごめん、俺はスウラ、君は?」
この電車に乗ってる人はみんな名前を知りたがるのか?
ボクはそのドライブとかいう名前をもっていない。
「知らない・・・です」
「あ、そっかそっか、そうだよね、ごめんごめん」
納得したといった雰囲気でスウラはうなづいた。
「えーと、じゃあ、今は・・・フタか?・・・会った?」
知らない人だけど、同じ待遇だったから信頼できる気がした。
「トモリさん? ですか?」
「そうそう、トモリか。会ったんだね?」
ボクはうなづく。
「じゃあ、話は早いか」
話? いったいなんのことだ? ボクがここにいる理由を先に教えてほしかった。
「トモリは今回、教育役だから」
教育役? ボクの? わからないものだらけだ。
「あ、でもドライブはまだもらってないか」
勝手に話を進めるスウラにボクは少しいらだち始めた。
すると、どたどたとトモリが走りながら現れた。
「すいません、遅れました、あれ? スウラさんじゃないですか」
「まぁ、座って」
トモリはボクの前を通ってスウラの隣に座った。
「スウラさんは相談役なんですよー」
そう言いながらトモリはクリアファイルから何枚か紙を取り出してボクに渡した。
「現在の役員さんの名簿です」
手渡されたプリントには
主長 タガル 副長 マール ・ ソウオウ
相談役 スウラ 教育役 トモリ
と書いてある。全ての名前がカタカナだ。ドライブなんだろうか?
「今回、私、教育役なんですよ!」
指差すトモリだったけど、ボクはスウラから紹介されていたからもう知っていた。
「それとこれね、君はいきなりサガイだから」
サガイ? またわからないことだ。
「俺はラークだから、君の7つ上だね」
「あ、ごめんなさい、言い忘れてました、サガイはランクで、数字的には3です」
ランク? いったいなんのことなんだ。
「ラークは10だ、12の上のサベレンで出られるんだ」
出られる? なにからなんだ?
「じゃあ、これが君の名前です」
手渡されたプリントにはこう記されていた。
R;サガイ8 ハルト
「今日から君はハルトだ、改めてよろしくな」
ボクはスウラと握手をした。ついでにトモリとも握手をした。
いままでのボクはこうだ。
なにをしてもきもがられる。毎日がそうだった。
「おい、トオル」
ボクの机の中にはなくなったかのように見えた弁当のご飯がつまっていた。
「なにびっくりしてんの?」
「ハハハ! うける! 驚いてんの!」
ボクをみんなは笑う。なんでだろう。ボクはなにも悪いことをしていないのに。
「なぁ、お前の弁当どうしたんだよ? なぁ?」
なにが面白いのかボクには理解できない。
「おかずは? あんのか?」
きっとここでボクが弁当の中を確認したらまた笑われる。
「見せてみろよ!」
バックがボクの手からぶんどられて、飯田が弁当箱を取り出す。
「こいつの弁当箱、ヒコーキとキュウキュウシャだぞ!」
「だっせー、きもいんだよ」
ボクが選んだ訳じゃない。好んでそれになんかしてないのに。
「中見てみようぜ」
二段弁当が開かれる。そして、どっと笑い声が出る。
ボクをあざ笑う笑い声だ。
「ハハハ! 上の段も下の段もなんもないぞ!」
ボクがしたんじゃない。したのはお前たちだろうが。
「ご飯はもう見つかったのか? トオル?」
机の中はべっとりとしたご飯でいっぱいなんだ。それも、こいつらのせいなのに。
「うわっ! 汚ね! 机ん中米だぞ!」
お前らがやったんだろ。でも、ボクに言う権利なんかない。
なんでだろう。みんな平等だって言ってたのにボクだけ、なんでだろう。
「きめぇんだよ」
「まじ、きもい」
なんで、こうやって言われなきゃならないんだろう。
でも今、ボクは学校にいない。
わけのわからない列車の中でわけのわからないやつらといる。
でも、学校よりはましかもしれない。
そのわけのわからないやつらの教育役というトモリは、揺れている中でおいしいそうに紅茶を飲んでいる。
「ハルト君もどうですか?」
ボクは首を振った。嫌いじゃないけど、飲みたい気分じゃなかった。
スウラはちょっと前に席をたった。大事な会議らしい。
そのときボクはおかしいと思った。
この列車は見たところ一両しかない。運転席もあるし、その後ろの車両は見当たらない。
なのに、どこで会議をしてるんだ?
会議をする場所もないのにどこでするっていうんだ。
それに車両内のどこを見渡してもスウラは見当たらない。
ボクが首をかしげるとトモリはすぐに気づいてくれた。
「スウラさんどこ行ったか不思議ですよね?」
「あ、うん」
トモリは列車の後部ドアを指差しながら、笑って言った。
「次の車両ですよ」
そう言うとトモリは立ち上がってドアに向かった。
「見ててくださいねー」
トモリはドアを開けて列車の外に消えた。
ボクは立ち上がり、ドアを開け、列車の外にトモリがいないか必死に探した。
列車はゆっくりだったけど、トモリはもっと遠くに落ちたのかもしれない。
「トモリー!」
何度も何度も叫んだ。でも、結局トモリは見つからなかった。
探すのをあきらめてドアを閉めたとき後ろからトモリの声が聞こえた。
「ハルト君」
トモリは席に座っていた。
「びっくりしましたか?」
びっくりしたというよりは安心したといった感じだった。
「では問題です、私がなんでここにいるかわかりますか?」
わかるわけない。こんなわけわかんないことばっか起きてるのにわるわけない。
「実は数ヶ月前にわかったことなんですが、この列車は形が丸なんです」
列車が丸? この列車のどこが丸なんだ。
「今、ここが三両目の最後尾の対面席です。ハルト君にはまだこの後ろには行けないんですが、ランクが上がっていく度にとなりの両に行けるんですよ。だから、一両目と二両目にはハルト君も行けますよ」
でも、どう見たって前の車両はない。運転席があるからだ。
「運転席が・・・」
トモリは笑った。
「あ、ごめんなさい、あれ実は見えるだけでドアなんですよ」
そんなバカな。完璧な運転席なのに。
「行ってみるといいですよ。初めての人はだいたいがランク1のエイムからですから、一両目に行けば会えると思いますよ」
要するに飛び級してこの3両目に来ちゃったってことなんだろう。
「あ、ごめんなさい」
トモリは時折、こういったふうに謝るみたいだ。スウラもそこが特徴だと話していた。
「列車が丸になるのはランク5のルライからでした、だからハルト君にはまだ普通の列車ですね」
それで説明は終わりと言ったふうにためいきをついたから、ボクは質問をすることにした。
「あの質問」
「はい、どうぞ」
トモリは質問されたことがうれしいようで笑顔を見せた。ほとんどの表情が笑顔のトモリだけど、今はすごくうれしいんだろう、とびっきりの笑顔だ。
「どうしてトモリは死ななかったの?」
「ごめんなさい、話していませんでした」
トモリは手書きのプリントを出した。
「これ、前に教育役だったフタさんからいただいたものなんです」
それをボクは渡された。それはきれいな字で書かれていた。
わかったことをまとめておく。
まず、自分よりもランクの低い車両へは自由に行き来できる。
運転席は見かけだけでドアになっている。
ランクが高くなったとき、荷物などすべて身の回りのものは一緒に次の車両に移動する。
列車はランク5以上になると車両間の空間がおかしくなり、列車の終わりがなくなる。
一両あたりの人数は8人。列車は12両。
列車の定員は8×12の96。
ランク13になり出て行った人物の代わりに新しく人物が配置される。(これを教育するのが役目)
教育する人物は一両目に配置されることが多いが、例外もある。
わかっていると思うが、列車に乗る際見えるのは自分の両だけ。
(ランクがあがっていれば、ランクが高くなった車両に乗り込むことになる)
列車についてわかっていることは以上。
PS 人の考えを読むのはそろそろやめな
理解しがたい内容に頭が混乱した。
「あ、もう着きますよ」
そして、列車は駅に着いた。
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