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第38話 装いの嘘を奏でて
「何があった?」

上空から、何度も執拗に攻撃をくわえてくる人面鳥の群れと、がっちりした体格の割に、身軽に動きながら戦っていたダラスは、いきなりの空が炎に包まれたのを見て、驚愕した。

焼け焦げ、灰と化して落ちてくる人面鳥を、ダラスは見上げながら、カードを見て、さらに驚いた。

「ち、近くに魔神反応!」

ダラスは、火花が雨のように落ちてくる中、カードのディスプレイに、周辺の地図を移した。

神クラスになると、赤で点滅される。防衛軍のデータに登録されていないのか…魔神の名前は、出ない。

「どういうことだ」

もう一度、データベースにアクセスしょうとしたら―――――魔神の反応は消えた。


「隊長!」

ダラスのもとに、数人のセラミックの鎧を纏った戦士が、駆け寄ってくる。

ダラスは探索を止め、戦士達を見た。

「魔物どもは、どうなった?――この炎による町の損害状況は?」

ダラスの言葉に、そばに来た五人が敬礼し、一人が報告した。

「人面鳥は、ほぼ全滅。町は、今のところ、炎による火災等は起こっておりません」

「起こっていないだと!これ程の威力があったのかに!?」

ダラスは驚愕した。

(だとしたら…魔物だけを狙ったのか?)

ダラスは首を捻り、炎が消え、晴天の空を見上げようとした。

暗い。

太陽の光は、ダラスに届かなかった。

巨大な影が、町を覆っていた。

雨雲よりも暗く、夜よりも生々しい。

「ぐぐぐ……」

まるで、鍋が煮立ったような声を発し、影は鳴いた。

二百メートルはあるその巨体に、ダラスは唾を飲んだ。

「黒竜…」

更に、百メートルはある首を地上に向け、真っ赤に燃えた瞳を、ダラス達に向ける。

何かを探しているようだ。

額から生えた角は、アンテナになっており、下級魔なら操ることが可能だ。

「こいつが、人面鳥を操っていたのか…」

ダラスは、カードを取出し、

「全員、ドラゴンキラーを装備!」

「はっ!」

カードが煌めき、戦士達の右手に、ドラゴンキラーが装着される。

「まずは、町から追い出せ!」

ダラスの額に、冷や汗が流れた。

世界には、七匹のドラゴンの王というべき竜がいる。

レインボーといわれる竜一匹一匹は、一国の軍隊の兵力に、匹敵すると言われていた。

黒竜は、その漆黒の色から呼ばれているが…本当は、真っ赤に燃えている体が、熱過ぎて、黒くなっているのだ。マグマから生まれ、マグマでできているといわれる体は…ドラゴンキラーで、どうこうできるレベルではない。

「絶対零度で、冷やします」

人面鳥がいなくなった為、町の各場所で戦っていた守備隊が、ダラスの周りに集結する。

白いマントに、杖を持った魔法使いが、二十人。杖を黒竜に向けると、

「デカブツだ!絶対に当てろ」

一斉に、氷結系の魔法を発動させた。

「すべてのポイントを使え!」

吹雪のように、発生した冷気は、黒竜の頭と首辺りを狙う。

しかし、冷気は、黒竜に当たることなく、途中で透明な壁に跳ね返され、放った術者自身を凍らせた。

「魔法障壁…バリアか」

ダラス達は、何とか四方に飛び避けた為、凍ることはなかった。

だが、ほっとする暇もない。

黒竜は、大きく口を開けた。

巨大な燃え盛るマグマが、確認できた。

「撃たすか!」

五人の戦士達が、天に向かってジャンプした。

刃を突き立てるが、障壁を破ることはできない。

黒竜は、戦士達を無視して、火の玉を吐き出した。

一万度くらいある火の玉は、町に当たれば、一発で消滅する。

ダラスには、為す術がなかった。

放たれた火の玉は、五人の戦士を一瞬にして、蒸発させると、そのまま地上へと迫る。

その間、十数秒。

絶望して、天を見上げるダラスの前に、誰かが立った。

それは、少年だった。

少年は、火の玉に向けて、手をかざすと、呟いた。

「くだらない」

「き、君!」

ダラスは、少年に声をかけた。

いきなり、カードが警告音を発した。

「え」

ダラスが、カードに気をとられた一瞬、

少年は、火の玉に向かって、ジャンプした。

信じられない跳躍力で、十階建てのビルを越えると、火の玉に触れた。

唖然とするダラスの目の前で、直径五メートルはあった火の玉が、消えた。

まるで、少年の手に吸い込まれたかのように。

少年はそのまま、火の玉に触れると、落下していく。

黒竜が鳴き叫び、再び火の玉を放とうとしたが、下から三本の爪が伸びてきて、黒竜の突き出た口を、顎から突き刺さった。

黒竜は、火の玉を放てなくなった。

落下していた少年は、空中で止まっていた。少年の右手から伸びた爪が、黒竜を突き刺さしていたのだ。

その爪を手繰り寄せ、少年は黒竜に向けて、上がっていく。

「きぇぇ!」

何とか奇声を発し、黒竜は角を輝かせた。

少年と黒竜の間に、バリアができたが、少年は左手の爪でバリアを砕く。

さらに、角が輝き――どこからか、人面鳥の群れが現れた。

「まだこんなにいたのか」

空を覆う人面鳥の数は、数百匹。

少年に向かって、襲い掛かる。

「フン」

少年は鼻を鳴らすと、左手を突き出した。

「バーニングダスト」

何もない空が、爆発した。火を放ったわけでもない。まるで、空気そのものが、自ら爆発したかのように。

黒竜の火の玉の数倍の輝きを放った。光が消えた後、人面鳥は一匹残らず、消滅していた。

その輝きの間に、少年は黒竜の目の前まで、ジャンプしていた。

少年の体程ある黒竜の赤い目と、少年の目が合う。

ダラスは、黒竜の変化に気付いた。巨大な目を見開くと…やがて、その巨体を震わしたのだ。

「怯えている…」

ダラスには、そう見えた。いや、事実…怯えていたのだ。

少年は、そのまま黒竜の鼻の上に乗った。

黒竜はか細い声を発すると、町から離れ、砂漠の入口に着地していく。

「チッ」

ダラスは舌打ちすると、町の中を抜けていく。

もう引退してもいい老体であるが、死ぬまで戦いたかった。若い戦士に比べて、体力も落ちていたが、まだ隊のみんなは、隊長として慕ってくれていた。

「こんな…訳がわからんままで、すませるか!」

町のメインストリートを駆け抜ける。

広大な砂漠の入口に降り立った黒竜は、首をもたげ、目の前に立つ少年に、まるで頭を下げているように見えた。

「あの黒竜が…」

町を出たダラスは最初、黒竜の体が発する熱気が見せる…幻かと思った。

黒竜は、町から一キロは離れた場所にいた為、少年の表情はわからない。

ダラスは、ドラゴンキラーを確かめると、一目散に走りだした。

「あの少年は一体」

ダラスは、もう少年しか見ていない。

足場の悪い砂道も、ダラスには慣れたものだ。少年に近づいてくる。

ダラスの足音に気付いたのか…少年は、ちらっとダラスを見た。

ダラスの目に、虚ろな少年の目が映る。

「アジアンか」

少年は、すぐに黒竜の方に体を向けた。

そして、少年は、右手を上げた。太陽の刺すような日差しに、三本の鉤爪が輝いた。

「な」

ダラスの目の前で、丸太十本分くらいの太さがある黒竜の首が…切断された。

少年は、さらに黒竜の角を切り取ると、角の先に右手の鉤爪を刺し込んだ。

すると、角が3つに裂け―――少年の爪と同化した。

少年は手首を動かし、感覚を確かめると、首がなくなり、マグマのような血を吹き出す切り口に、右手を差し込んだ。

二百メートルくらいある巨体が、波打ち…やがて、あれ程黒光りしていた体の輝きが消えていく。

ダラスが、少年の近くに来た時は、まるで覚めた石のようになっていた。

「まずは…これでいい」

少年はにやりと笑うと、黒竜から離れ、再び町へ向けて歩きだした。

ダラスは、信じられないものを見て、思わず立ちすくんでしまった。

少年は、ゆっくりとダラスの方に向けて、歩いてくる。

ダラスは眼中にないのか…ダラスを見ることもなく、真横を通り過ぎる。

(に、人間なのか?)

ダラスの額に、冷や汗が流れた。

黒竜を一撃で倒した程だ。ダラスに勝てる見込みはない。しかし、このまま、町に入れる訳にはいかない。

「待て!」

ダラスはドラゴンキラーを、歩いていく少年の背中に向けた。

「お前は、何者だ!」

ダラスの言葉に、少年は足をとめた。

ゆっくりと、振り返り、

「あのお………町の方ですか」

ダラスに、愛想笑いを浮かべた。

「ここはどこですかね」

ダラスは、先程ちらりと見た少年の目付きと、今自分に向ける笑顔の違いに、驚いていた。

「あと…水、飲めますかね?」






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