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第354話 エトランゼ
「アルテミア!」

僕の叫びに、遥か彼方の海の底に眠るものが呼応した。

「うふふ!この魔力は!」

リンネは絵里香を離すと、嬉しそうに笑った。

島が揺れた。

戦いが終わったばかりのジャスティン達の草原も勿論揺れた。

「じ、地震!?」

さやかの言葉に、ジャスティンは首を横に振った。

「いや…」



「うおおっ!」

浩也であった者の雰囲気が、変わる。

「赤星…」

アルテミアから剣を抜くと、傷口に手を当てて、気を流し込んだ。

「あたしは…」

アルテミアの目から、涙が流れた。潤んだ目で、僕を見つめ、

「お前にきちんと生きてほしかった。この世界で!お前は、エトランゼなんかじゃない!だから、簡単に命を捨ててほしくなかった。だから!あたしは、お前に…この世界で生まれて、育つ経験を味わってほしかった!」

「アルテミア…」

僕は、一気にアルテミアの傷を回復させると、彼女から手を離した。そして、ただ…アルテミアを見つめた。

その時、島を覆う結界が割れた。

「な、なんだ?」

その変化に気付き、空を見上げた絵里香は突然、重力が増したように地面に押さえつけられた。

その現象は、島にいた…すべての人間に対して平等に起こった。

ジャスティンを除いて…。

「このプレッシャーは…」

ジャスティンは経験済みだった。でなければ、流石のジャスティンも、地に伏せていただろう。

「い、息がで、できない…」

苦しむ緑の言葉に、ジャスティンは声を張り上げ、そこにいる生徒達に告げた。

「力を抜け!あがなうな!そうすれば…呼吸はできる」

ジャスティンの言葉に、九鬼とさやかはすぐに実行した。

「魔王が復活したのか?」

理沙だけが痛む足を庇いながら、立ち上がった。

「しゃらくさい!」

高坂はダイヤモンドの乙女ケースを握り締めながら、強引に立ち上がった。

「く!」

理沙は、島の上空に現れた者を見て、顔をしかめた。何とか強がってみたが、小刻みに体が震えだした。

「女神である…あたしが、震えているだと!?」

自分自身に唖然とするさやかの肩に後ろから、九鬼が手を置いた。

「真弓…」

振り返った理沙の目が、九鬼の右足に行った。

「大丈夫だ」

九鬼は微笑むと、空を見上げた。

「あれが…神か」

無意識に理沙の肩を、九鬼は握り締めていた。




「久しいな…赤の王よ。片時も我から離れなかったというのに、互いに話すことはなかったからな」

上空に浮かぶライは、その身にボロボロになった黒い布を巻き付けていた。

「ライ!」

アルテミアが睨むと、ライの周りに炎の騎士団が現れた。その数…三千。

それを見て、ライは地上にいるリンネを見下ろし、

「下がらせよ!リンネ。こやつらと戦うのに、このような大軍を率いるなど…いい笑いものになるわ!」

軽く睨んだ。

「は!」

リンネが地面に跪くと、炎の騎士団は煙のように消えた。

「ライ…」

僕が一歩前に出ると、ライは眉をはね上げた。

「その新しき体に…まだ魔力は復活していないようだな?己の体を燃やし…我が身を封印しせし罪!万死に値するわ!」

僕の見上げる視線と、ライの見下ろす視線が繋がった。

「ライ…」

アルテミアは興奮しかけた気持ちを落ち着ける為に、深呼吸をしていた。

ライ相手に無闇に襲いかかっても、危険なだけである。

赤星の後ろにいながら、アルテミアはライの魔力を計っていた。

封印が解けたばかりである為か…自分一人でも何とかできるレベルまで下がっていることに気付いた。

今ならば、やれる。

そう確信したアルテミアは、ライに向かって一気に飛んだ。

「ライ!」

「アルテミアか!」

僕の手にあったライトニングソードが分離すると、アルテミアの方に飛んでいく。

「アルテミア!」

飛んでくる二つの物体を掴むと、十字にクロスさせて、再び剣に変えた。

それも、ライトニングソードではない。

十字架に似た刀身が細い剣。

シャイニングソードだ。

「貰った!」

アルテミアがライの前に現れると、上段の構えから一気に剣を振り下ろした。

「フン」

ライは鼻を鳴らした。

シャイニングソードは、何かに止められた。

「な、何!?」

ライとアルテミアの間に、鉄仮面をつけた女が、飛び込んで来たのだ。

アルテミアは、女よりもシャイニングソードが鉄仮面に弾かれたことに驚愕した。

「ふ、ふ、ふははは!」

ライは高笑いをした。

鉄仮面の女は、シャイニングを弾くと地上に着地した。

「!」

僕は女よりも、いつのまにか…前に現れた2人の男と1人の女に目を細めた。

(誰だ?)

僕は、合計4人の男女の気を探ろうとした。

しかし、それぞれが身に付けている金属に似た防具に、妨害されて探れなかった。


「よくやった!リンネ!オウパーツをここまで集めるとはな!」

ライはにやりと笑い、目の前に浮かぶアルテミアの手にあるシャイニングソードを見つめ、

「このオウパーツさえあれば、我はさらに無敵になる!シャイニングソードすら恐るるに足りんわ!」

再び笑い出した。

「オウパーツ!?」

アルテミアは一気に降下すると、僕の横に着地した。

「アルテミア…。オウパーツとは何だ?」

「恐れながら申し上げます」

アルテミアに訊いたはずが、前に立つ鉄仮面の女が跪くと、おもむろに口を開いた。

「オウパーツとは、最強の矛であるシャイニングソードに対する為に創られた最強の盾でございます」

跪いたのは、鉄仮面の女だけではなかった。他の3人も同じように臣下の礼を取った。

「矛盾か…」

僕は顔をしかめた。

「その最強の盾が、我のものに!」

ライは空中から、4人に手を伸ばした。

「さあ!我の身に!」

「…」

しかし、4人は動かない。

その反応のなさに、ライは苛つき、1人離れた場所で跪いているリンネに叫んだ。

「どうなっている!」

「申し訳ございません」

リンネは深々と頭を下げ、

「オウパーツの宿主達を導いたのは、私ですが…。そこまでです。その後は、彼女達の意志」

「意志だと?」

ライは眉を寄せた。

「恐れながら申し上げます。魔王ライよ」

鉄仮面の女は、顔を上げると、ライに向かって話し出した。

「私達が、この身を捧げるのは…最強の王」

「最強の王だと?」

ライの眉が、はね上がった。

「はい。今、我らを身に纏う資格があるお方が、3人いらっしゃいます。魔王ライ!あなたと…」

鉄仮面の女は、目線を前に向け、

「天空の女神…。そして、赤の王と呼ばれる…」

立ち尽くす僕を見つめた。

「赤星浩一様でございます」

「な、何だと!」

予想外の答えに、苛立つライ。殺気が地上に降り注いだ。

そんなライの様子に頭を下げると、鉄仮面の女は立ち上がり、

「それに…すべてのパーツが揃ってはおりません!」

3人を交互に見て、

「すべてのパーツが揃い、真の盾が完成するまで…しばしお待ち下さい」

再び頭を下げると、僕らに背を向けて歩き出した。その後を、3人も続く。

「待って!勝手に動くな!」

ライが、攻撃を仕掛けようとしたが、僕は彼女達とライの間に立った。

「赤星浩一!」

ライが、僕に手を突きだした。その軌道上に、アルテミアが立った。

「アルテミア!退かぬか!」

躊躇うことなく、攻撃しょうとした瞬間、ライは突然苦しみだした。

「お、おのれ!バイラめ!」

ライは真の力を取り戻す為に、体をわけていた騎士団長バイラを再び吸収した。

しかし、長い間離れていた為に…自我は別々になっていた。

その吸収したバイラの細胞が、ライの中で暴れていたのだ。

「ま、まだ!邪魔をするのか!」

体をかきむしり、バイラの部分を排除することを考えたが、そうすれば…力が数段落ちることはわかっていた。

ライは歯軋りした。

そんなライをアルテミアに任せると、僕は鉄仮面の女逹に言った。

「これ以上は、進むな。奥に行くようならば、相手をしょう」

その言葉に、鉄仮面達は足を止めた。

「どうやら…本気のようですね」

軽く笑った鉄仮面の女は、もう1人…森の中から近付いて来る気配に気づいた。

「確かに…これは、不利ですね」

「赤星君か…」

森から姿を見せたのは、ジャスティンだった。

来ないつもりだったが、嫌な予感がしたので、ここまで来たのだ。

「ライ」

空中で苦しみだし、ライは胸を押さえながら、テレポートした。

どうやら、去ったようだ。

「王よ…」

リンネも後を追うように、消えた。

「赤星」

アルテミアは、ライの魔力を感じないのを確認すると、僕の方に来た。

「…」

鉄仮面の女は、無言で3人を確認した後、僕の方を見て、頭を下げた。

「…今日だけは、引きましょう」

そして、頭を上げる頃には4人は消えていた。

「テレポートか」

追跡することは容易だが、引いてくれたのだ。追うことはしなかった。

「ジャスティンさん」

僕は、ジャスティンに頭を下げて微笑んでから、こう言った。

「他のオウパーツのもとに、案内して下さい」

「ああ…了解した」

ジャスティンは頷いた。

そして、3人は先程まで戦場だった草原に向かって歩き出した。

「赤星」

アルテミアが訊いた。

「僕に案がある」

僕は頷いた。

しばらく歩いて、草原に向かう途中…魔物には遭遇しなかったが、カレンと鉢合わせした。

師匠であるジャスティンと、いとこであるアルテミアに会ったことよりも…。

「浩也ではないのか?」

「ええ…。僕は、赤星浩一です。でも、記憶は残ってますよ。カレンおばさん」

浩也がいなくなったことに落ち込んだ。そんな気持ちになるなんて…カレンは、自分でも信じられなかった。




「赤星浩一…」

その名は、草原に残っていた生徒逹にも衝撃を与えた。

なぜならば…その名を持つ者こそ、人類の希望だからだ。

「よろしくお願いします」

頭を下げた後、僕は微笑んだ。

偶然にも、その瞬間…夜が明けた。

まるで、太陽のバンパイアの復活を祝うかのよう。

しかし…魔王もまた、復活してしまった。

人類にとって、過酷な運命の始まりを意味していた。



天空のエトランゼ。

赤の王編。

完。




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