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第29話 似てるもの
「赤星さん。すいません。血圧を計りますね」

病室のドアを開け、看護婦が入ってきた。

「ああ…すいません」

何気に、窓の外を眺めていた僕は、看護婦の声に振り返った。

その時、少し離れたビル街から、大量の埃が舞い上がったのだが、僕は気づかなかった。

ベットの上で体を向け、右手を差し出すと、看護婦は笑顔で、

「今日は、左手で」

「ああ…そうですか」

素直に左手を差し出した僕に、ピアスからアルテミアが叫んだ。

「赤星!渡すな」

「え?」

「チッ」

看護婦は、無理やり左手を取り、薬指についた指輪を取ろうとする。

「何をするんですか!」

看護婦の怪しい行動に、僕は指を曲げ、抵抗した。

なかなか渡さない僕から、看護婦が諦めて離れた瞬間、再びドアが開き、銃を持った防衛軍の軍人が、十人ぐらい入ってきた。

「赤星君。大人しく、指輪を渡したまえ」

軍人達は、銃口を僕に向けた。その軍人達の後ろから、上官らしき人物が、前に出てきた。

「その指輪を使って、アルテミアに変わることは、調査済みだ」

僕を見下すように、小太りな上官は、ベットに近づいてきた。

「どうして、渡す必要があるんですか?」

僕は、拳を握り締めた。

「それはね」

上官は鼻で笑い、臭い息を僕に吐きかけながら、

「先日の戦いにおいて、我が軍を全滅させたのが、天空の女神…アルテミアだからだよ」

「ーーそんな馬鹿な!ありえない!そんな事実!どこにもない」

言いがかりを言われて、少し間をあけて切れる僕に、上官は腰に付けていた鞭で、僕の頬を殴った。

「お前の意見など、どうでもいいんだ。我々に、指輪さえ渡したら、用はない」

頬が切れ、血を流しながらも、僕は視線を、上官から外さない。

「何だ!その反抗的な目は!お前など、撃ち殺して、指輪を取ってもいいんだぞ」

えらそうな言い方に、めったに怒らない僕も、怒りがおさまらない。

これが、権力か。

「何だ!この反抗的な態度は!こ、殺せ!どうせ、こいつは、この世界の人間ではない」

軍人達は、上官の命令に従い、躊躇いもなく、引き金を弾こうとする。

その時、軍人達の持つカードが、けたたましく警告を鳴らした。

「何事だ」

上官は、胸ポケットから、カードを取り出した。

カードは赤く輝き、レッドサインを警告する。

「神クラスが近くにいるだと!馬鹿な有り得ん!」

上官や軍人達は、僕より周りを確認する。

しかし、狭い病室には、僕ら以外誰もいない。

僕は怯える軍人達を見ながら、ベットから降りた。ゆっくりと、壁にかけてある服を取りにいこうとする。

「か、勝手に動くな」

上官は、僕の動きに気づいた。

部下達が、また一斉に銃口を向けた。

僕は気にせず、向けられながらも、学生服の胸ポケットに手を入れる。

「撃て!」

警告音が鳴り響く中、銃声が轟いた。

十数丁の銃からの一斉に射撃。

しかし、発射された玉は…いきなり現れた、僕を包むような炎の結界に、触れた瞬間、燃え尽きた。

「撃て!撃て!」

銃は撃ち続けられるが、僕には当たらない。

余裕で、結界内で着替え終わるのと、玉が尽きるのは同じだった。

僕は学生服姿になり、結界を解くと、ニッと笑いながら、カードを提示した。

上官は、僕のカードの表示を見て、絶句した。

「レベル108…」

そう警告音は、僕に対して発していたのだ。

後ずさる上官達を見ると、怒るのも馬鹿らしくなった。

すると、警告音も止んだ。

「失礼します」

僕は頭を下げると、ベットに飛び乗り、そのまま窓から、ジャンプした。

病室は5階だった。

チェンジ・ザ・ハートが飛んできて、槍状になると、回転した。

僕は、その中心に着地すると、そのまま地面までジャンプした。

「なぜ、わざわざ飛び降りた?」

地面に降り立った僕に、アルテミアがきいた。

「なんか、カッコ良くない?」

僕の言葉に、アルテミアは苦笑した。

「馬鹿だな…」

「うん…でも、ああでもしないと、強くなった実感がない…」

歩こうとした僕は突然、立ちくらみがして、病院のコンリートのざらざらした壁に、手をつけた。

「どうした?赤星!大丈夫か!」

今までと違うアルテミアの優しい口調に、僕は驚きながらも、今更ながらダメージの酷さに気付いた。

「赤星!あたしに変われ!その方が…」

アルテミアの言葉が終わる前に、凄まじいプレッシャーが頭上から、僕を襲った。

不意だった為、僕は片膝を地面につけた。

「赤星!」

「何だ…このプレッシャーは…」

「あたしに変われ!」

「これは…女神?」

先日の戦いが、頭によぎった。

空を見上げた僕の目に、太陽と重なった人影が映った。

その影から、街を覆う程の巨大な羽が生えた。

「羽!?」

それは、基本的に闇でありながら、揚羽蝶の羽のように幻想的だった。

昼間でありながら、美しい夜が降りてきた…そんな感じだった。

闇の羽が、街も空も覆った時、羽の中央で浮かぶ人物の姿に、僕は絶句した。

「あれは…」

わなわなと体が震えた。

あの姿は、見たことがあった。

夢の中…阿鼻叫喚の中、逃げ惑う人々。

血を吸われ、干涸びて死んでいき、老婆のようになった少女。

雷鳴轟く空に、浮かぶ影。

「アルテミア…」

無意識に出た自分の名前に、アルテミアは反応しなかった。

僕の震えは、アルテミアの震えでもあった。

「あ、あれは…あの体は…」

アルテミアの声も震えていた。

上空に浮かび、広げた揚羽蝶のような羽から、キラキラと輝きやがら、星の砂のように美しい霧が降ってきた。

「赤星!結界を張れ!!」

アルテミアの尋常じゃない叫びに、僕はとっさに炎の結界を張った。それは、ギリギリだった。

「いたぞ!」

先程、僕の病室に押しかけて来た防衛軍のやつらが、壁の向こうから走ってきた。

「捕らえろ」

上官の命令で、僕に襲いかかろうした隊員達の頭に、降ってきた霧に触れた。次の瞬間、隊員達の体が燃え上がり、瞬く間に消滅した。

「電子振動…」

アルテミアは、この霧を知っていた。

電磁波の震える雨で、触れた生物を電子レベルで活発に、燃えさせることができた。無差別に…。

それは、生物だけじゃなかった。

建物…地面。あらゆるものが、燃えだした。

「炎の種だ…」

アルテミアは舌打ちをした。




サーシャは、ドラゴンキラーを構えながらも、前に立つ轟に躊躇っていた。

(戦場で会ったら、肉親でも殺せ)

それは、轟の教えだった。

この世界は、魔物の住む世界だ。人など…簡単に操られ、蝕まれる。

しかし、サーシャは嬉しかった。

先程の隊員達は…顔に原型を留めていなかったけど、轟だけは…見た目はそのままだった。

「サーシャ…」

轟は、サーシャの左手に光る指輪に気付いた。

「モード・チェンジ…禁呪を使ったか」

轟は眉をひそめ、

「いや…これ程高等な魔術を、お前が使えるはずがない」

サーシャの構えるドラゴンキラーの切っ先が、微かに震えていた。

「ロバートか…」

轟はフッと笑うと、槍を突き出した。

「笑止」

いきなり、無数の槍が、サーシャの目の前に、現れた。

間合いなど関係ない。

「ハッ」

サーシャの目が輝き、すべての槍をかわしたが、頬に無数の浅い切り傷が残った。

「よく避けたな。さすがは、解放状態なだけはある」

轟は槍を引くと、大きく息を吸った。

「気風斬」

そのまま、槍を突き出すと、凄まじい風が沸き起こった。

(カマイタチの一種だ)

サーシャは、風に向けて突っ込んだ。

「グラビティ・ソード」

かかる重力を刃だけ増し、凝縮する。重くはなったが、強度も増した。

カマイタチを切り裂き、轟へと間合いを詰めた。

「やれるのか」

轟は槍を下げ、顎を上げると、喉元をさらした。

サーシャのドラゴンキラーが、轟の喉元に触れるか触れないか…ギリギリで止まる。

サーシャの腕は震えている。

「お前は、魔物には非情になれるが…仲間には」

轟は、突き出されたサーシャの腕を掴むと、信じられない力で、向かいのビル目掛けて、投げつけた。

ガラスばりの扉を破壊し、サーシャの体は、ビルの中に消えた。

「フン」

ゆっくりと歩き出した轟の上から、炎の種が落ちてきて、轟の髪を燃やしたが、まったく気にせず、ただ前方を睨んでいた。

全身が火だるまになった人々が、狂ったように通りを走り回る。

「結界を町中に、張れ!水属性の得意な者は、火を消せ」

一般の戦士達や警備隊員が、手を天に向けて、傘のような小さな結界を密集して作り、火種から身を守る。

近くにいた民衆が、慌ててその中に逃げ込む。

轟は槍を回転させ、結界の傘にいる人々に向けて、投げつけた。

「ぎゃーっ!」

槍は人々を斬りつけ、血しぶきが上がり…結界が消えると、人々は燃えだした。

「く、くそ…」

全身に痛みが走った。

サーシャは、ガラスの破片の上で、転がっていた。

幸い、鎧をつけていたし、ガラスは刺さっていないようだ。

擦り傷と、打ち身。掴まれた腕が、一番痛んだ。

人の力ではない。

サーシャはカードを取り出し、回復系の魔法を発動させた。

傷は治るが、ダメージを完全に消し去ることはできなかった。

投げ込まれたビルの中は、誰もいない。ショッピングビルのようだが…定休日のようだ。

サーシャの後ろで、ショーケースが割れ、アクセサリーが転がっていた。

「いや…ビルを棄てたか…」

この街は、天空の騎士団の侵攻から、逃げ出す人々が多かった。

壊れたガラスの扉の向こうから、人々の泣き叫ぶ声と炎が見えた。

「何が起こってる?」

扉へ走ろうとするサーシャの前に、黒い影が立ちはだかる。

逆光で見えなかったが、近づくにつれ、轟であることが確認できた。

「人が死のうが、我々には関係ない」

両手を広げ、サーシャに近づいていく轟に、

サーシャは、ドラゴンキラーを構えた。

「我々は、ブラックサイエンス!人々を守る為に存在する」

「はははははははははははははははーー!」

轟は大笑いしてから、サーシャを見据え、

「人々を守る存在?我ら死人が、何を言うか!!」

「死人だと!」

「そうだろ。我らは、前の戦いで死んだ。俺も、お前もな!それがただ…誰かの力で、この世に留まっているだけだ」

轟の言葉の意味は、理解していた。しかし、

「人々を、守るという使命には変わりはない!」

サーシャは、ドラゴンキラーを突き出し、前にいる轟を…敵として認識しょうとしていた。

「守る価値があればな」

攻撃しょうとするサーシャより、後出の轟の攻撃の方が速い。

それに、槍のリーチの差もあった。

とっさに、ドラゴンキラーを盾にし、槍先を受けた。

「この程度か!」

轟の両目が赤く光り、牙が口元から覗かれた。

信じられない力が、ドラゴンキラーを砕き、サーシャは後方にジャンプした。

数メートル後ろに降り立ったサーシャの目も、髪と同じエメラルドグリーンに輝いていた。

「さすが、混じってるだけはある」

轟は、槍を休めると、

「先祖返り…だったな。お前の祖先である…エルフの…」

サーシャは何も答えず、ただ轟を睨む。

轟は鼻を鳴らし、

「生きている時は、決して使わなかった…この力!寧ろ、嫌っていたはずだが…」

轟は槍の一回転されると、一番端を持ち、サーシャの心臓に向ける。

「自分を…戦う道具だと気づいたか…」

(あれは…無突きの構え)

轟最強の技。

サーシャは、砕けたドラゴンキラーを捨て、新しいドラゴンキラーを召還させた。

一振りし、感触を確かめると、轟を見据えた。

「違う!あたしは、ただ強くならなければならなかった」

轟はその言葉に、歯を食いしばり、

「死んでもか!」

気合いとともに、飛びかかりながら、さらに右肩を突き出し、体の向きを槍と同じ垂直にする。

槍から伸びる気を感じながら……サーシャは目をつぶった。

「この魂が…消えるまで…」

サーシャは、槍の軌道を想像し、それを伝うように、そっとドラゴンキラーを差し出した。

軽い火花を散らしながら、サーシャは槍に沿って、歩いていく。

その間、サーシャは長く感じていたが、時間でいうと一瞬だった。

「何!?」

轟には、何の感触もなかった。ただ…風が通り抜けたように感じただけだ。

気づいた時には…サーシャは自分の後ろにいた。そして、サーシャの手に装備されたドラゴンキラーには、血が滴る心臓が突き刺さっていた。

「お父さん…」

サーシャの目から、涙が流れた。

「ば、馬鹿な…」

蘇り、バンバイアの眷属となった不死身の体に、穴があき....風が通っていた。

そして、蘇ってから、初めての痛みが全身を襲った。

「父さんか…」

轟はゆっくりと、その場で崩れ落ちた。

走り寄ろうとするサーシャを、轟は制した。

「ただ…身よりのないお前を育てただけだ…」

フッと笑うと、轟は立ち上がり、槍を捨てると、サーシャに自ら近づいてくる。

「どうやら…魔王の呪縛が…解けたようだ」

言葉を発せず、ただ泣くサーシャの肩に手を置き、轟は微笑んだ。

「強くなったな…」

「父さん…」

「できれば…お前は…生きていてほしかった」

轟の目に、涙が浮かんだ。

そして、それを拭うことなく、轟はサーシャの瞳の奥を覗いた。

「ロバート!こいつを愛してるなら…戦いの呪縛から、解放してやってほしい…。もうこいつは、死んでいるんだ!」

「父さん?」

轟の手に、力がこもる。

「愛してるなら…安らかな眠りを与えてやってくれ……頼む」

轟は、頭を下げた。

「父さん!あたしは…」

「人は生きてこそ…愛し合える。今は縛り付けているだけだ!君も、分かってるはずだ…ロバート…ぐはっ!」

轟の口から、血が吐き出された。

「お父さん!」

倒れそうになる轟を、抱きしめ支えたサーシャに、轟は言った。

「ロバートに変わってくれ…」


サーシャは、轟の目を見…頷いた。

サーシャの体が、光の粒に変わり、弾けると…ロバートに変わった。

「轟隊長…」

ロバートも泣きながら、轟を支える。

「君も分かってるはずだ…このままではいけないと…。サーシャは、君の思い通りにはならない」

轟の言葉に、ロバートは絶句した。

「この子は、正義感が強い。彼女を殺すことに、協力はしない…」

ロバートは目をつぶり、唇を噛み締め…言葉を何とか絞り出した。

「知ってたのですね」

轟は頷き、

「知ったのは…洗礼を受けてからだ」

「…」

「君の師匠は、クラーク・マインド・パーカー…。安定者だからな…」

と言うと、轟は体を大きく痙攣させ、ロバートの腕の中から離れた。

「轟隊長!」

「き、君も分かってるはずだ!真の敵は、魔王ではなく…人間であることを!」

轟の全身に、ヒビが走った。

「この醜い戦いに!巻き込まないでくれ!わが愛する娘を!」

轟は、深々と頭を下げた。

「頼む…。娘を愛してるなら…」

轟の体は崩れ落ち、ただの灰になった。

「轟………隊長……」

ロバートはしばらく、灰の山となった轟を見つめていた。







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