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番外編 ティアーズ・フォー・ティアナ 第26話 始まりの戦士
ポトポト…。

雨上がりのように、微かに降り落ちる液体に…人々は傘をさしながら、歩いていた。傘の下で、表情を恐怖に歪ませて。

早くこの場から離れたいのだが、走ったりして、刺激したら…殺される。

ビルだった瓦礫や、高い塔はへし折られ…そこに吊された何百人という人の死骸。

小雨のように感じた滴は、死体から流れる血だった。

生臭さが、街中に漂っていたが、逃げることは出来ない。

ここは、檻の中。

人々は、空を飛び回る人面鳥の群に、飼われていた。

「畜生!」

人面鳥が、入って来れないくらい狭い防空壕の中で、勇者ダラスは、自らの無力さに怒っていた。

「ぎゃー!」

人の悲鳴がした。誰かが捕獲されたのだ。

ダラスは、防空壕から顔を出し、空を見た。

「今は、食事の時間じゃないはずだ…」

人面鳥は、1人の中年男を、鋭い爪を突き刺しながら上昇すると、民家の屋根に落とした。

「グェ」

屋根の上でバウンドし転がっていく男を、地面に激突する前にまた捕まえると、再び上空から落とす。それを何度も、繰り返した。

「遊んでやがる!」

ダラスは怒りに身を震わせながら、防空壕の中に入った。

入り口は狭いが、中は六畳くらいの広さがあった。

「ダラス!」

防空壕の中には、十人くらいの女子供と老人がいた。

人面鳥の好物は、子供と女だ。

ダラスは、防空壕の奥に立てかけてあった鋼の剣を手に取った。

「何をする気だ!ダラス!今、お前が出ていっても、どるすることもできんぞ」

ダラスは剣を鞘から出し、状態を確認しながら、

「しかし、市長!今、市民が殺されているんですよ!」

ダラスは、剣を鞘に収め、防空壕から出ようとする。

「剣は、やつらには届かぬ!魔法を使えなくなった我々人間は、やつらには勝てぬ」

白髭を顎にたくわえた市民の言葉に、ダラスは反論した。

「我々は、市民を助ける義務がある」

「そう言って、何人の勇者が死んだと思っておる!」

「死ぬことに、恐れはない」

ダラスは、剣を握り締めた。

「待て!必ず、救世主が現れる。我々人間を救ってくれる者が!」

「そんな戯言…信じられるか!それに、救世主は今、必要なんだ」

ダラスは、防空壕から飛び出した。

先程まで、屋根に叩きつけられていた男が死んだ為、新たな獲物を探しに、人面鳥は…民家やマンションの間を飛び回る。

長い首に、能面の老婆のような顔をキョキョロさせて獲物を探していた。

「ヒィィ」

慌てて逃げようとした少年が、少し下り坂になっている歩道で転んだ。

人面鳥は速く動くものに、襲いかかる性質があった。

少年を見逃す訳がなかった。

先程の人面鳥以外に、マンションの屋上で寝ていた仲間達も目を開け、少年を見つけると、飛びかかってきた。

禿げ鷹のように、群がってくる人面鳥と少年の間に、ダラスが飛び込んでくる。

上空に向けて、突き刺した剣は、一匹の人面鳥に突き刺さすことができた。

しかし、ダラスの動きに気づき、旋回した数匹は、後ろから攻撃しょうとする。

剣を突き刺された人面鳥は、奇声を上げながら、上空に飛び立とうとする。

それを踏ん張って、阻止しているが、背中に向かってくるものには、対応できない。

片手を剣から離し、昔の癖で、手のひらを向け、魔法を使おうとするが…発動できるはずがなかった。

ダラスは仕方なく…剣を離すと、腰を抜かして動けない少年を抱きしめた。

せめて…自分だけに、人面鳥の足の爪が刺さるように。

「ぐぎゃあ!」

その時突然、人面鳥が、断末魔を上げて爆発した。

それも一匹だけじゃない。

近くにいた人面鳥が、風船のように膨らみ、爆発していく。

「ジャスティン、クラーク!この街の魔物を殲滅するわよ」

「はい」

白いマントをつけ、赤い十字架を描いた…修道士のような白の制服に身を包んだ…2人の少年は頷くと、風より早く動き、ダラスの左右を通り過ぎていった。

ダラスがいる道の向こうは、街の外…砂漠につながっているはずだ。

照りつける日差しが、陽炎のように、ゆっくりと街の中を歩いてくる女を揺らめかせる。

「女…」

遠くからでもわかる長い髪と、くびれた肢体が…女であることを示していた。

女に気づいて、人面鳥の群が襲いかかる。

が、女の間合いに入る前に、次々に切り刻まれ、死んでいく。

女は、何もしていない。

ただ歩いているだけだ。

ダラスは、近づいてくる女の姿が確認できるようになって、やっと女の周りのおかしさに気付いた。

「何が…飛んでいる」

姿は見えなかった。それが回転を止め、女の両手におさまるまで、ダラスの目ではとらえることができなかった。

「トンファー…」

それだけではない。

美しいブロンドと、砂漠を渡ってきたはずなのに…まったく焼けていない、透き通るような白い肌。

そして、真珠のような白い鎧。

「ホワイト…ナイト」

ダラスは知っていた…いや、知らない者などいない。魔物と戦う者なら、誰もが知り、憧れる戦士。

「ティアナ・アートウッド」

「さあ…いこうかしら」

ティアナは笑った。

いつのまにか、ダラスがいる道に面したマンションや民家の上に、人面鳥が集まり、奇声を発しながら、ティアナを威嚇する。

もうダラス達に目もくれない。

ティアナは、両腕を胸元でクロスさせた。すると、装着されていたトンファーも、クロスされ…一本の剣に変わる。

ライトニングソード。

ティアナはそれを右手で掴むと、叫んだ。

「モード・チェンジ」

一瞬にして、マンションの屋上…人面鳥の群の中に、出現すると、舞うように無駄なく、人面鳥達を斬り裂いていく。

斬られた人面鳥の傷口から、電気がスパークし、破裂する。

その頃には、ティアナは別の場所に移動しており、また別の屋上で火花が飛ぶ。そして、次の屋根…。

それは、数秒の出来事だった。

ダラスには、まったく見えなかった。

ただ周りにいた人面鳥が、あっという間に、全滅したのはわかっていた。

ティアナは剣を振るいながら、街全体を駆けずり回った。

この街に巣くう魔物をすべて退治するのに、そう時間はかからなかった。



「ポイントを使わなくて、すんだわ」

街の中心部のビルの上で黒いカードを見つめながら、緊張を解いたティアナのそばに、戦いを終えたジャスティンとクラークが、テレポートしてきた。

「僕等は、少し使いましたよ」

ジャスティンは、手に持っていたブーメランを折りたたみ、腰のベルトに装着した。

クラークは、長剣を腰にぶら下げていた。剣を使ったようだが、刃は血で汚れていない。魔法で戦ったようだ。

ティアナは、それを責めるつもりはなかった。個人の自由だ。

特に、クラークは影切りという特殊能力が使えた。

影を切れば、その本体である…あらゆるものを切り裂くことができた。

ただし、限定条件があった。

手から、影は直接でなくても、何かを通じて触れなければいけない。(長剣の理由がそれだ)影と影が重なった所は、切れない。

日が高く、影が小さい昼間より、夕方に強く…だけど、夜は殆ど、使えなかった。

今回の旅は、ティアナの1人旅のはずだったが…弟子みたいなジャスティンが無理やり同行し…その知り合いであるクラークがついてきたのだ。

ティアナには、面識がなかったが…噂は聞いていた。

元々暗殺部隊に所属していたと。

この世界でも、暗殺は人を意味していた。

影切りに、防御魔法は通用しないし、ある程度の接近を要した。

(今回は…あたしか?)

ティアナは、元老院の年寄りの顔を思い浮かべた。

(最近は名を変え…安定者と名乗っているが…)

世界の安定を願う者達。

ティアナも、そのメンバーに抜擢されていた。


「ポイントを回収するわよ」

ティアナはそう言うと、ビルから飛び降りた。

「あっ!はい」

ジャスティンも飛び降りる。

一歩出遅れたクラークを、ティアナは軽やかに地面に着地してから見上げた。

「クラークは、ビルの上をお願い」

「わかりました」

クラークは頷くと、隣のビルへ飛び移った。

「これは…邪魔くさいですね」

ジャスティンは、人面鳥の死骸一匹一匹に、カードをかざしていく。

すると、ディスプレイに表示された数字が増していく。

「わかってるわ。何とか自動回収できるように、思案中よ」

ティアナも死骸から、ポイントを回収しながら、少しため息をついた。


「あのお…あんたらは?」

人面鳥の死骸を避けながら、ダラスはティアナに近づいた。

ティアナは回収を止め、ダラスの方を向いた。

「これは、失礼しました。あたしの名は…」

名乗ろうとしたティアナを、ダラスは手を振りながら止めた。

「ティアナさん…あたしのことは知っている。私は、西ヨーロッパ所属のギルド、ブレイクショットのダラスです」

ダラスは、手を差し出した。

「ブレイクショット!聞いたことがあります。確か…ナインボール…9人の勇者を中心とした集団だと」

ダラスは照れ笑いし、

「そんなに大した集団では、ありませんよ。それに…」

ダラスは、視線をティアナから外すと、

「マジックショック後は…何もできない…役立たずの集まりになってしまった」

ダラスは、人面鳥の死骸より多い…野ざらしの人の死体を見、無念さで全身を震わせた。

「それは、今のこの世界…どこでも同じです」

「世界政府は、何をしてるんですか!対策は!」

ダラスの言葉に答えず、ティアナはカードを持ったまま....ビルやマンションに吊らされた人々の死体に、手をかざした。

すると、吊された人々は消え…いつのまにか、道に引かれたビニールシートの上に、次々と並べられていく。

「これは…魔法!?」

ダラスは、目を見開いた。

ティアナは、ダラスに微笑みかけると、どこからか9枚の銀色のカードを取り出し、ダラスに投げた。

カードの束を受け取ったダラスは、見たこともないカードに驚いた。

「すべて、ある程度のポイントは入っています。これがあれば、あなたも魔法が使えます」

「魔法が使える!?」

ダラスは、一枚のカードを束から抜いた。

「まだ試作品ですが…カードの使い方に関しては、0のボタンを押したら、ガイダンスが流れるので、聞いて下さい」


「ポイントの回収終わりました」

ジャスティンが、ティアナに駆け寄ってくる。

「じゃあ…いきましょうか」

ティアナは、ダラスに背を向けた。

「ティアナさん!」

まだ理解できず、去ろうとするティアナを、ダラスは呼び止めた。

ティアナは振り返り、

「あと8枚は、あなたのお仲間に…」

そう言うと、頭を下げ、また歩き出した。

「あんたは、一体…」

「この人々の供養と…この辺りの治安は、頼みましたよ。ダラスさん」

ティアナとその隣を歩くジャスティン。

クラークは、もう…街の出口で待っていた。



街から去っていく三人の後ろ姿を見送るダラスの後ろから、先程まで隠れていた人々が、ゾロゾロとどこからか出てきた。

「ダラス。あの人達は一体…」

ダラスの隣に立った市長に、ダラスは…また陽炎の中に融けていく3人を見つめながら、

「救世主ですよ。多分」




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