第6話 デパート
彼女と僕の毎日は、朝の散歩をして海草の朝食をバスタブの中で食べることから始まった。
「海でも毎日海草だったの?」
「そうですよ」
「飽きないんだね」
「美味しいですから」
彼女の食事は、朝も昼も夜も海草中心だったけど、僕が買ってくる果物も少し食べた。
あまり食べ過ぎると、翌日にお腹を壊してしまう。
それでも、果物は大好きで特にイチゴが気に入っていた。
ある時、イチゴの乗ったショートケーキを試しに食べたら、やっぱりお腹を壊した。
野菜も少しだけなら食べられるようになっていた。
不思議なことにお酒は身体にあったらしくビールのロング缶1本は日課になっている。
便器に座ってバスタブの中で美味しそうにビールを飲む彼女を見ているのは楽しかった。
「今日はどこに行く?」
僕は便器に座ってコーヒーを飲みながら彼女に訊いた。
「あの・・・・」
「ん?」
「ブラジャーが欲しいんです」
貝殻のブラジャーを先日の海で失くしてしまった彼女に僕はブラジャーを買ってあげた。
女性物の下着を一人で買いに行く勇気もないし、水の中で使うのだから水着が良いだろと思った。
それでも、そうとう恥ずかしかった。
季節的にデパートの水着売り場はまだ開設していない。
しかたなくスポーツ用品売り場を探すが競泳用には上下が分かれているものは無かった。
「すいません。ビキニはないでしょうか?」
「ここはスポーツ用品売り場なので」
「あ、そうですね。娘が海外に旅行に行くのでプレゼントしたくて」
僕は苦しい嘘をついた。
絶対に変なオジサンだ!
このオヤジに関わりたくない!
女性店員の声が聞こえるようだった。
「どうもすいません」
僕は逃げるように売り場を後にした。
どこかに水着は売っていないかと思案しながら街を歩いているとコスプレショップが目についた。
店先に飾られている戦隊者のヒロインのコスチューム。
ブラジャーにミニスカート姿のマネキン。
僕は周りの気配を気にしながら、一気に店の中に入りそのコスチュームを買った。
店員の顔も憶えていない位にアセッた。
彼女は僕が買って帰ったハート形の真っ赤なブラ(?)を喜んだ。
でも、やっぱし彼女も恥ずかしかったみたいだ。
「デパートに行こうか?」
「ショッピングですね」
「そう、ショッピング」
「エコバックはありますか?」
「持ってないよ」
「まったく。エコバックは必需品ですよ」
彼女は時々テレビで仕入れた知識を僕に披露してくれた。
ピックアップトラックで彼女とのドライブも毎日の日課になっていた。
少し離れた公園や高いタワー、動物園にも行った。
動物園では白熊が彼女を見つけると、しきりに吼えていたので慌てて逃げた。
人混みや繁華街は、彼女の正体がバレては大変な騒ぎになるので避けていた。
「いいかい、絶対に尾ヒレジャンプをしちゃ駄目だよ」
デパートの駐車場で車椅子に乗り換えた彼女に言った。
「はい、大丈夫です」
「絶対だよ」
「絶対ですね」
ニコニコと笑う彼女は分かっているのだろうか?
彼女を下着売り場に連れて行くと、店員が出てきて説明を始めた。
売り場いっぱいの下着は目のやり場に困る。
平日の午前中は空いているせいもあって店員はアレコレと品物を持って来ては説明をした。
「サイズはCぐらいですか?」
店員の質問の意味が分からない彼女は僕を振り返った。
振り返らないで欲しかった。
店員があからさまに嫌な顔をした。
若い車椅子に乗った女の子とオジサンが下着売り場に居るだけでも不審なのに、バストのサイズをオジサンに確認してはいけない。
「試着しますか?」
店員は僕を見ないように彼女に尋ねた。
「いや、いいです」
僕は変だとは思ったが直ちに断った。
彼女を試着室に入れるのは危険だし、僕が一緒に試着室に入る訳にもいかない。
「適当に2,3枚下さい」
彼女は僕が何故そんなにアセッているのか分からなくて不満そうだったが理由は後だ。
とりあえず今は下着を買って、一刻も早くこの場を立ち去らなくてはいけない。
デパートから戻った彼女はバスタブの中でファッションショーを始めた。
「これはどうでうか?」
「いいんじゃない」
一つ見せる度に僕はその場を立ち去る。
「どうぞー」
彼女に呼ばれて、バスルームに入る
「これは?」
「いいんじゃない」
その日は、一番気に入ったブラジャーで晩酌を交わした。
しかし、ピンクのレース付きブラをした女の子と便器に座ってビールを飲むのは不思議な気分だ。
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