挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
蜘蛛ですが、なにか? 作者:馬場翁
94/499

S12 学園

 この国には学園というものがある。
 元の世界では学校に通うのが当たり前だったけど、この世界ではむしろ、学校に通うことのほうが少ない。
 学校に通えるのは、貴族などの特権階級か、一部の裕福な平民、もしくはよほど才能に恵まれた人間か。

 俺の場合王族であるため、学園に通うのは問題ない。
 スーもそれは同じで、公爵令嬢であるカティアも条件はクリアしている。
 俺たち3人は揃って学園に入学することに決まっていた。

 学園では元の世界の学校のように、一般的な勉強を教える。
 それと同時に、戦うための授業も受ける事になる。
 むしろそっちのほうがメインだ。
 このダズトルディア大陸は人族の領域となってるけど、他の大陸だと未だに魔族や魔物との戦いが激しい。
 ダズトルディア大陸にも魔物は生息しているし、戦える人材はいくらいても足りないくらいだ。
 なので、学園では戦いについて学ぶことが多い。

 俺とスー、カティアの3人は学園の入学式が行われる会場にいた。
 周りを見回せば今年入学する生徒たちが席に座って式が始まるのを待っている。
 この学園は近隣では最大の規模を誇るので、他国からも大勢の子供が入学しに来る。
 中には亜人などもちらほら見られる。
 そんな生徒たちを見回すと、サッと視線をそらされたり、逆にジッと見つめられたりする。
 時々チラチラと視線を感じるし、ヒソヒソと噂をする声が聞こえてくる。

「あそこにいるのが、この国の王子だってよ」
「天才って言われてるらしいが、パッと見そんな強そうには見えないな」
「どうにかしてお近づきになれないかな?」

 色々と言われてるけど、聴覚強化のせいで全部まる聞こえなんだよな。
 ものすごく居心地が悪い。

「おはようございますぅー」

 その空気をぶち破って、のほほんとした声が俺の耳に届く。
 振り向いた先には予想通り岡ちゃんこと、エルフのフィリメスがそこにいた。

「おはようございます。先生が生徒ってなんか変な感じですね」
「先生はもう一回青春を味わうみたいでワクワクしますよぉー」

 先生はそのまま俺の横に腰を下ろす。
 反対側に座っていたスーが睨みつけるように先生に視線を送る。
 睨みつけるようにというか、普通に睨んでいた。
 そういえば、スーと先生は初対面だった。

 次の瞬間、背筋に怖気が走った。

「妹ちゃん。次に先生に殺気を放ったらぁー、殺しますよぉー?」

 笑顔で言う先生。
 口調はいつも通りののほほんとした感じ。
 けど、その目は一切笑っていない。
 スーもその迫力に気圧されている。

 俺とカティアはそんな先生の姿に驚いていた。
 岡ちゃんの愛称で呼ばれるくらい、先生は愛嬌のある人だった。
 本気で怒るようなことはない、親しみやすい先生だった。
 間違ってもこんな、恐ろしい底冷えするような殺気を見せるような人じゃなかった。

「びっくりしましたぁー?けど、この世界じゃこのくらいしないと生きていけませんよぉー。エルフは人族より成長が遅いのでぇー、小さくてよく舐められますけどぉー、先生に喧嘩を売るなら死ぬ覚悟をしてからにしてくださいねぇー?」

 さらっと死ぬ覚悟なんて言葉を出すあたり、先生は俺たちの想像もできないような体験をしてきたのかもしれない。
 俺はこっそりと、コツコツ上げてきた鑑定を先生に行使する。

『鑑定が妨害されました』
「シュンくん、レディのプロフィールを無断で見るのは感心しませんー」

 鑑定失敗の結果が出るのと、俺の頭が何かに殴られるのはほぼ同時だった。

「先生覗き魔に生徒を育てた覚えはありませんよぉー」

 どういう原理かわからないけど、先生は俺の鑑定を妨害、察知して、反撃に出たらしい。
 それも、俺が全く反応できない方法で。
 そのやりとりだけで、俺では先生に勝てないことがわかってしまった。

「すいません。つい気になって」
「うん。悪いことしたら謝るのが一番ですぅー。けど、次に許可なく鑑定とかしようものならぁー、もうちょっと痛い目に遭ってもらいますからねぇー?」
「はい。肝に銘じておきます」

 本当に。
 この人相手に下手なことはしないほうがよさそうだ。

「けど先生、それほどの実力をお持ちなら、学園に通う必要はないんじゃないですか?」

 俺はふとそんな疑問を抱いた。
 実際、俺やスー、カティアは鍛えてはいるけど、実戦を経験したことはない。
 だからこそ、この学園でしっかりと基礎を完成させるという目的がある。
 けど、先生は話しぶりやその実力から、既に実戦経験を積んでいるように見える。
 今更この学園で学ぶことなんかあるんだろうか?

「ありますよぉー。この学園で学ぶことはたくさんありますぅー。けどぉ、それは半分建前でぇー、しばらくはこの国を活動の拠点にしたいからですねぇー」
「それなら尚更学園なんかには通わない方が…」
「先生の言う活動というのはぁー、元生徒の搜索じゃありませんー」
「え、じゃあ、何を?」
「それはまだ秘密ですけどぉー、後の捜索は他のエルフに任せますぅー」

 先生の衝撃の発言に、俺は固まる。
 前に会った時、先生はまだ6人の生徒が見つかっていないと言っていた。
 それを放り出してまで、先生は一体何をしようというのか。

「薄情に思われるかもしれませんけどぉー、捜索はここらが限度なんですよぉー。後探していないところはぁー、魔族領域とか前人未到の地とかしか残っていませんしぃー、正直生き残ってるとも思えないですしねぇー」
「な!?」
「先生、それマジで言ってる?」
「マジもマジの大マジですぅー。こういう災害救助は初動が大事なんですぅー。先生生まれ変わってから最善は尽くしましたぁー。けどぉー、半数も見つかればいいほうだと思ってたくらいですよぉー?それを大幅に上回ったんですから成果としては上々ですぅー」
「けど」
「じゃあ残り6人君が探します?どうやって?君の足で探すの?見つかると思う?」

 急に普通に喋りだした先生に、勢い込んでいた俺の気持ちが、まるで鷲掴みにされたかのように萎縮させられる。
 それを見た先生は、重いため息を吐く。

「さっきも言いましたがぁー、先生最善は尽くしましたぁー。ここから先の最善はぁー、見つかった元生徒がこの世界でしっかりと生きていけるようにすることだと思うのですぅー。だからぁ、先生この学園で色々学んでぇ、同時に色々活動したいんですよぉー」
「わかり、ました」

 心の底から納得できたわけじゃないけど、先生は確かに最善を尽くしてくれたんだろう。
 それに、その活動に全く貢献してない俺が、横から意見を言っていいはずがなかった。
 多分、先生本人こそが、一番辛い気持ちなのだろうから。

「すいません。出しゃばったことを言いました」
「シュンくんは間違ったことは言ってませんよぉー。ただぁ、間違ってなくても正解じゃないことなんてぇ、世の中いっぱいありますからぁー」

 その後、入学式が行われた。
 正直、内容は全く入ってこなかった。
 だから、隣のスーと、さらに隣のカティアがどんな顔をしていたのか、俺は見逃していた。
活動報告に質問回答コーナーを更新しました
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ