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蜘蛛ですが、なにか? 作者:馬場翁
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S11 エルフの娘

 父上に呼び出された。
 それも、俺とカティアの二人が。
 何の要件なのか分からず、二人で首を傾げる。

「もしかしてだけどよ、婚約の話じゃねえか?」
「は?誰の?」
「だから、俺と、お前」

 突拍子もないカティアの言葉に次の言葉が思いつかない。

「いや、ないだろ」
「まあ、俺たちとしちゃないけどな。周りから見たらどうよ?同じ歳で家柄も近い男女。しかも本人同士の仲も良さそう。じゃあ今のうちに婚約しとくかって話になってもおかしくねえだろ」

 そう言われると、あながちありえない話じゃないかもしれない。
 俺も王族の一員だし、カティアは由緒ある公爵家の令嬢。
 釣り合いは取れてる。

「けど、お前はそれでいいのか?」
「いい訳無いだろ。男と結婚なんか想像もできねえよ。けど、いつかはそういうことになるんだろうし、覚悟は決めとかなきゃならないだろ?」
「お前、一応そういうこと考えてんだな」
「失礼な。けど実際問題、どこの誰とも知れないやつよりかはお前が婚約者のほうがやりやすいけどな。俺の事情を知ってるし、いざとなればちょっとばかし体裁は悪いが、両者合意で婚約破棄できるしな」

 そういう手もあるのか。
 婚約者なんて、今まで考えたこともなかったけど、俺も王族の一人なんだから、いつそういう話が来てもおかしくはなかった。
 それなら、お互い意識することもないカティアが婚約者になるというのは、逆に都合がいいかもしれない。
 ただ一点を除いて。

「お前、それでスーはどうするつもりだ?」
「あ」

 そう。
 妹のスーは俺に近付く奴を許さない。
 カティアはこの頃少しだけ気を許してきてるけど、俺と婚約なんて話になったらどうなるかわからない。

「そうなると、俺、あの子に殺されるかもしれん」
「それは流石に言いすぎだろ」
「…十分あり得ると思うがなー」

 スーはちょっとアレな子に育ってきてるけど、そこまではないだろう。

 そうこうするうちに待合室に一人の男性と、もう一人、小さな女の子が入室してきた。
 俺とカティアは入室してきた二人を見て、口をポカーンと開ける。
 入室してきた二人の耳は、人間のそれより長かった。

「お初にお目にかかる。この度、エルフの親善大使としてこの国に厄介になることになった、ポティマス・ハァイフェナスという。二人を呼びつけたのは私だ。以後よしなに」

 その男、エルフのポティマスは淡々とした口調で自己紹介した。
 エルフに会うのは初めてだ。
 エルフがいるということは知っていたけど、こうして実物を見ると、やっぱりここは異世界なんだなという実感が湧く。

「ふむ。持っているな」

 何か、居心地の悪い感覚とともに、ポティマスは目を細める。

「オカ、この二人は持っている。あとは君の領分だ」
「はいはーい。わかりましたよぉー」
「では私はこれで失礼する」
「ごくろうさまですぅー」

 そのままポティマスは部屋をさっさと出て行ってしまう。
 残された俺とカティアは呆然とするしかできない。
 こちらの自己紹介をする暇もなく、あっと言う間に去っていってしまった。
 どうしたらいいのか分からずに、残った小さい女の子に視線を向ける。

「ふむふむぅー。では自己紹介いたしますぅー。今の(・・)名前はフィリメス・ハァイフェナスですぅー。以後よろしくですぅー」

 カティアと二人、顔を見合わせる。
 こんな小さな女の子に自己紹介されても、そのあとどうしたらいいのかわからない。

「先生自己紹介されたら自分も名乗るのが礼儀だと思うのですよぉー。そこらへんどうなんですぅー?」
「失礼しました。この国の第4王子、シュレイン・ザガン・アナレイトと申します」
「アナバルド公爵家が長女、カルナティア・セリ・アナバルドと申します」

 女の子に促されて慌てて自己紹介をする。

「うんうん。王子様と公爵様ですかぁー。いいわぁー。萌えるぅー」

 俺はその言葉に固まる。
 さっきからの妙に癖のある喋り方といい、その言動といい、知っている人物とかぶる。
 それは横にいたカティアも同じらしく、目を見開いている。

「まさか、岡ちゃん!?」
「先生にちゃん付けはいけませんよぉー?けど正解ですぅー」

 そこにいたのは、前世で俺たちの担任だった、岡ちゃんこと岡崎香奈美先生だった。

 岡ちゃんの愛称で呼ばれるこの先生は、かなり残念な人だった。
 学生の頃にハマった漫画のキャラの口調を真似していたら、それが素の口調になってしまったり。
 戦国漫画の影響で歴史系に強い大学に進学したり。
 逆光源氏計画を立案して学校の教師になったり。
 かなり残念な先生だった。
 ただ、その残念さが逆に生徒には受け、人気は高かった。

「で?先生なんでこの国に?」
「それは二人がいるって知ったからですよぉー。結構話題になってるんですよぉー?とんでもない天才がアナレイトに複数生まれたってぇー」

 俺たちは久しぶりに出会えた恩師に、日本語で語りかける。
 すでに前世の名前は教えていた。
 カティアの名前を聞いた瞬間目を見開いて、次の瞬間「萌えるぅ」とかほざいてたけど。

「わざわざ俺たちに会いに?」
「それだけが目的じゃありませんけどねぇー。先生これでも先生ですからぁー。やっぱり生徒の安否くらいは確認しとくべきだって思うんですよぉー。まぁー、生まれ変わってる時点で安否も何もないんですけどねぇー」

 冗談めかして言う先生だけど、その志は立派だと思う。
 俺なんかこの世界で生きることにしか意識がいってなかった。
 他のクラスメイトを探そうなんて、考えもしなかった。

「この世界は日本と違って危険ですからねぇー。保護できるなら早くしたほうがいいのですよぉー」

 それも、考えたことなんてなかった。
 魔物なんかもいることだし、考えてみれば当たり前のことなのに、俺は自分が安全だから、他のクラスメイトも安全なのだと、勝手に思い込んでいた。

「それじゃあ、先生は俺たちを保護しに?」
「いえいえー。二人は立場的にそうホイホイ連れて行っていいわけじゃありませんからねぇー。基本本人が希望する場合のみエルフの里にて保護してますぅー」
「ということは、もう何人か見つけてるんですか?」
「はいー。エルフの里に12人、接触が成功したその他の生徒は二人を合わせて5人ですぅー。あと2人ほどは所在の確認も出来てますので、後で会いに行きますぅー」

 うちのクラスには25人の生徒がいた。
 ということは、あと6人、行方が分かっていないということだ。
 けど、逆に言えば、あと6人しか行方がわからない生徒がいないってことにもなる。
 この広大な世界の中で、それだけの数の生徒を見つけ出すのは、かなり大変だったに違いない。

「先生、俺たちのために、そこまでしてくださってたんですね」
「先生としての務めですぅー。それに、大体の生徒は人族領域で人族として見つかってますからぁー。言うほど大変ではありませんでしたねぇー」

 それでも、先生が相当な労力を割いていただろうことは明らかだ。
 俺は再度、先生に頭を下げた。

「まあー、積もる話もありますけどぉー、先生ももうすぐこの国の学校に入学しますぅー。その時にまた詳しい話をしましょうー」

 俺とカティアももうすぐその学校に通うことになる。
 新しい生活は、すぐそこまで迫っていた。
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