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蜘蛛ですが、なにか? 作者:馬場翁
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S8 スキル大全

 俺は目の前にある本に目が釘付けになる。

「どうです?すごいでしょう」

 そうドヤ顔で言うのは、叶多ことカティア公爵令嬢だ。
 あの鑑定の義の日から、カティアは度々俺のところに遊びに来るようになった。
 最初は叶多と呼んでいたんだが、それだと不自然だということで、今の名前を呼ぶように言われた。
 カルナティア、愛称でカティアだ。

 けど、カティアの方は俺のことを相変わらず俊と呼ぶ。
 シュレインなんだからシュンと呼んでも違和感はあんまりない、ということで、強引にそのままでいくことにしたらしい。
 別に俺はそれでも構わないんだけど、困ったことに周りの目には愛称で呼び合う俺とカティアは、相当仲が良さそうに見えるらしい。
 仲がいいのは事実なんだけど、今やカティアは女の子だ。
 そういう意味での仲がいいという捉え方も一部にはされてしまうわけだ。

 その一部の筆頭、妹のスーは俺とカティアの間に陣取っている。
 カティアが遊びに来るたびにものすごい形相で睨みつけたあと、俺とカティアの間に割って入るのだ。
 その度にカティアはひきつった苦笑を浮かべた。
 理想の兄になろうと目指しはしたけど、どうしてこうなった…。

「公爵家が保有するスキル大全ですわ。ここまで詳細なものは市井の間では出回っていないはずです」

 その本には、判明しているスキルの詳細が事細かに書かれていた。
 効果はもちろんのこと、習得条件に至るまで網羅している。
 まるで攻略書みたいだ。

 ちなみに、カティアの口調は日本語とこの世界の人族語でだいぶ雰囲気が変わる。
 男口調の日本語に対して、人族語は貴族として相応しい口調を叩き込まれたせいでお嬢様っぽい喋り方だ。
 中身を知っているだけに、最初はそのギャップに吹きそうになったけど、今はもう慣れた。

「すごいな。これさえあればスキルを取りたい放題じゃないか」
「そうでもありませんわ。時間は有限ですもの。優先的に取得すべきスキルを決めて、それに限り有る時間を有効に使わなければなりませんわ」

 俺は興奮気味にページを次々めくる。
 知っているスキルもあれば、知らないスキルもある。
 知らないスキルで効果が高そうなものがあると、ついつい手が止まった。

「俊とスーは基本ステータススキルをすべて取得済みでしたわよね?でしたら、早いうちにそれを伸ばしておくべきですわ」

 基本ステータススキルとは、生命、魔量、強力などに代表される、ステータスを単純に底上げするスキルだ。

「基本ステータススキルは、レベル10になるとスキル進化しますの。効果が一段階上がり、その上レベルアップ時に成長補正が付くようになりますわ。私たちはまだ魔物と戦うことはありませんので、当分レベル1のまま。レベルが上がる前にこれらの成長補正が付くスキルを取得しておけば、後々大いに役立ってくれるはずです」

 俺たちのレベルはまだ1だ。
 レベルは魔物に限らず、生物を殺すことによってのみ上昇する。
 俺たちはまだ魔物と戦う許可、というか、外に出る許可ももらえていないので、当分レベルが上がることはない。

 それでも、ステータスは成長や訓練で徐々に伸びていく。
 ただ、劇的に変化するのは、やはりレベルアップした時だろう。

「できれば2回スキル進化させておきたいところですが、それはさすがに高望みが過ぎるかもしれませんね」

 スキルはレベル10になると進化したり、派生スキルを取得したりと、いろいろな恩恵がある。
 ただ、高レベルになるほど、次のレベルまでに必要な熟練度も多くなっていくので、なかなかレベル10まで上げるのは大変だ。

「剛毅や城塞、韋駄天まで進化すればだいぶステータスの上がり方も変わってきますしね。そこまで進化させられれば御の字。その前段階には是非とも到達しておきたいところですわね」
「そうだな。けど、経験値とか熟練度の稼ぎがよくなるスキルがないのは意外だな」

 RPGとかだと成長のお供として重宝される、経験値増加などのスキルはなかった。

「ええ。それに、気づきました?」
「ああ」

 俺はスキル大全に載っているスキルを一通り見て、カティアが何を言いたいのかわかった。
 スーは俺と一緒にスキル大全を覗き込んでいたけど、それに気付かなかったらしい。
 不思議そうな、そして、俺とカティアが通じ合っているのに不満そうな顔をしている。

「生産系のスキルがない」
「それどころか、スキルというものは全て戦闘用のものしかありません」

 そう、1冊の本にまとまるだけの量のスキルがありながら、生産系などのいわゆる非戦闘系のスキルが一切存在していなかった。
 応用すれば生産系としても使えそうなスキルはあったけど、それらは全て、戦闘スキルの副次的な効果でしかない。
 これだけの規模のスキルがありながら、それだけ偏った内容のスキルしかないのは違和感があった。

 それは、多分日本でゲームをやったことのある俺とカティアだからこそ気付けた違和感だ。
 この世界に元々住む人たちは、スキルとはそういうものと思い込んでいるはずだ。

「まるで、戦いのための世界みたいだ」

 ボソリと呟いた自分の声に、自分で少し恐怖した。
 何かを殺さなければレベルの上がらない世界。
 戦闘系しかないスキル。
 本当に、世界が戦いを奨励しているかのようだ。

「これは、まだ一部にしか知れ渡っていませんが、魔王軍が急速に軍備を拡張しているそうですわ」
「それは…」
「いつか戦いになるかもしれません。それまでに、できる限り強くなっておきましょう」

 俺はカティアのその言葉に、無言で頷くしかできなかった。
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