挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
蜘蛛ですが、なにか? 作者:馬場翁
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

510/521

過去編㉓

本日二話目
 ギュリエは行動を起こしていた。
 龍が星のエネルギーを持ち逃げするなどということは、ギュリエにしても想定外のことだった。
 同族のあまりにもあまりな行動に、開いた口がふさがらなくなったほどだ。
 しかし、起きてしまったことは仕方がない。
 そして、このままでいけばサリエルがその身を犠牲にするだろうことは想像に難くなかった。
 サリエルは「それが私の使命ですので」とか言って進んで身を捧げるに違いないという確信があった。

 それに対して、ギュリエは自分こそがその役目を全うすべきだと、主張した。
 龍である自分が、同族の責任を負うべきだと。
 しかし、サリエルはそれに首を横に振った。
 それはギュリエのことを案じて、というわけではない。
 もっと現実的な問題。
 すなわち、ギュリエの力では、失われたエネルギー分を補うには足りないという事実。
 ギュリエも神ではあるが、サリエルに比べればその力は圧倒的に劣る。
 星一つのエネルギーを賄うには、到底足りない。
 星を救うには、サリエルが犠牲になるほかなかった。

 それは理解している。
 しかし、納得はできない。
 サリエルは人類のために戦い続けた。
 人類のために働き続けた。
 その結末がこれだと、納得ができるはずもなかった。

 ギュリエは考える。
 どうすればサリエルを救えるのか。
 一緒に他の星に逃げる。
 サリエルがそれに是と答えるはずがない。
 サリエルに星を、人類を見捨てる選択肢があるはずがない。
 であれば、星を救うほかにサリエルを救う方法もないということ。
 そのためには、他の神を頼るしかない。

 この星にいる神は、サリエルと龍。
 龍はギュリエを残し、星を去っていった。
 元よりこの件で龍を頼ることはできない。
 となれば、星の外、宇宙にいる龍以外の神を頼る必要がある。
 とは言え、それは難しいことでもある。
 今回の件には龍が深く関わっている。
 龍は宇宙でも一大勢力を築いている。
 その龍が関わった案件に、首を突っ込む神は少ない。

 もちろん皆無というわけではない。
 龍と敵対している勢力もあり、そこに助けを求めれば事態は動く。
 しかし、それは諸刃の剣でもある。
 何せ、ギュリエ自身が龍なのだ。
 ギュリエがその場で殺されるだけならばまだいい。
 下手をすればサリエルのいる星に攻勢を仕掛けられることすら考えられる。
 そして、龍と敵対しているということは、龍と同等以上の大勢力だということ。
 それが動くということは、敵対している龍を刺激することでもある。
 それも、ついさっき処理を終えたばかりの星で何事かをされれば、龍も黙って見ていることはできない。
 最悪、二勢力がぶつかる事態となる。

 では、天使はどうか?
 これも、当てにはできない。
 天使は与えられた使命に忠実に従う種族。
 例外もいるにはいるが、ほぼ話が通じることはない。
 これまたギュリエが殺されるだけならばいいが、はぐれ天使であるサリエルも標的にされかねない。
 そして、天使もまた龍に対抗する勢力。
 天使を呼び込めば、やはり龍を刺激することになる。

 そして、現在の神々の勢力バランスは非常に危うい均衡を保っている。
 ふとしたきっかけで大勢力同士の争いが起これば、そこから戦火が燃え広がることも考えられた。
 そうなった場合、真っ先に被害を受けるのはサリエルのいる星だ。
 なるべく神々の勢力バランスを刺激しないようにせねばならない。

 以上のことから、頼るのはいずれの勢力にもくみしない野良の神。
 そして龍を刺激してもいいように、龍でも迂闊には手出しできない神。
 その上、こんな頼みを聞いてくれる酔狂な神でなければならない。
 そんな厳しい条件をクリアする神が、いた。



『ずいぶんとまた、それは面白そうなことになっていますね』

 そして、ギュリエはその神との対面を果たしていた。
 その状況を対面したと言えるのかは、微妙だったが。

 どこまでも見通せない闇。
 そこに、ギュリエはいた。
 相手の姿は見えず、ただ声だけが聞こえてくる。
 ギュリエは確かにその神に向かって転移をしたはずだった。
 その神の居場所だけは、ギュリエも知っていたのだ。
 なぜならば、その神は絶対に手を出してはいけないと周知されていたのだから。

 曰く、最終の神、死神、邪神、絶対矛盾……。
 数多の呼び名を持ちながら、真名を知られることのない神。
 どの勢力にも属していない野良の神でありながら、どの勢力も無視しえない強大な力を持った神。

「どうか、お力添えをお願いします。名無しの神」
『ああ、呼び名がないと不便でしょうね。そうですね、私のことはDとでもお呼びください』

 闇の中から、Dを名乗る神の声が響く。
 ギュリエも下位とはいえ神。
 そのギュリエの目が、闇を全く見通せない。
 それどころか、自身の体の感覚すら希薄。
 まるでこの闇に全てを飲み込まれていくかのような錯覚。
 しかし、Dがその気になれば、それは錯覚などではなくなるということをギュリエは感じていた。

 転移した先は、この闇の空間だった。
 空間系の能力により、隔離されたのだろうとギュリエは予想しているが、予想することしかできない。
 術の構成も何も、掴むことはできなかった。
 この空間に捕らわれた瞬間、ギュリエにはできることが何もなくなった。
 それほどの力の差。
 ギュリエにできることは、ただ経緯を語り、助力を乞うことだけだった。
 力の差を考えれば、有無を言わさずに殺されなかっただけマシといえる。

 ギュリエは生まれて初めて感じる、恐怖というものを味わっていた。
 サリエルと出会った時も微かな恐怖を感じたが、これはそんな比ではない。
 龍であるギュリエが、まるで踏み潰される寸前の蟻のよう。
 そしてこの恐怖の出所は、力の差を感じたからだけではない。
 Dと名乗るこの神は、あまりにも得たいが知れないのだ。

 Dに助力を乞うのは、賭けに近い。
 サリエルを救うことができる神の中で、最も条件に合致しているのは確か。
 そして、他のどの神よりも可能性が高いのもまた。
 しかし、乗ってくれるかどうかは未知数。
 Dの行動原理は、「面白そうか否か」。
 それだけ。
 面白そうと思えば、救世主にも破壊神にもなる。
 それがDという存在。

 あまりにも理不尽な存在。
 龍を始め、サリエルや他の神々も、ギュリエの知る限りでは一定の秩序の元動いていた。
 龍が星のエネルギーを持ち逃げした時も、信じられない思いと同時に、納得する気持ちもあったのだ。
 それが龍のロジックであるがために。
 龍らしからぬのはむしろギュリエのほうだという自覚がある。
 龍には龍の考えがあり、それに基づいて行動している。
 そこにはきちんとしたロジックがあるのだ。

 しかし、Dにはそれがない。
 気まぐれに行動を起こし、そこに秩序など存在しない。
 そして質の悪いことに、この神は絶大な力を持っている。
 単騎であるにもかかわらず、龍を始めとした一大勢力が警戒をしなければならないほどの。
 しかし、だからこそ、サリエルを救うことができる。
 その力があり、「面白い」と、そう思わせることさえできれば、この神は動く。

『面白いですね』

 そして、その賭けは成功した。

『いいでしょう。力を貸します。ただし、私が保障するのは星とサリエルの延命まで。その二つが助かるかどうかは、現地の人々に賭けましょう』

 賭けには勝った。
 ただし、それはギュリエの長く苦しい戦いの幕開けでもあった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ