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蜘蛛ですが、なにか? 作者:馬場翁
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過去編⑫

「我が国は国際エネルギー機構から脱退することを宣言する」

 世界の数々の国々が参加する国際サミットにおいて、もはや何度目かになるかわからない宣言がなされた。
 国際エネルギー機構は石油や石炭などの、いわゆるエネルギー資源を取り扱う国際機構で、これまではそれら資源の産出国を中心に据えられてきた。
 その役割は円滑なエネルギー資源のやり取りを実現するというもので、供給国と需要国の交渉を規定によってスムーズにしていた。

 しかし、ここに来て国際エネルギー機構から脱退する国々が急増。
 国際エネルギー機構からの脱退ということは、石油や石炭などの資源をいらないと宣言するようなものだというのにもかかわらず。

 ポティマス・ハァイフェナスがMAエネルギー理論を発表してから、この宣言をする国が増えた。
 そのほとんどが中小国家であり、エネルギー施策に少なくない負担を強いられている国々だったが、中には困窮していない大国まで含まれている。
 宣言をした国々は等しくMAエネルギーによってエネルギー問題を解決させ、石油や石炭などの資源が必要なくなったのだ。

 MAエネルギーは最初こそその存在を疑問視する声が大きかったが、いざ実際に論文に記された方法を試してみると、本当にどこからともなくエネルギーが湧いて出てくるのだ。
 しかも、それによる環境の変化はなし。
 これまで石油や石炭を燃やして排出されていた大気汚染物質もなければ、放射能もない、大規模な発電施設も必要ないときた。
 装置さえあれば誰でも手軽にエネルギーを手に入れることができる。
 しかもその装置は小型のものであれば持ち運びができるほど小型。
 大型のものでも大型トラックで移送が可能なほどの大きさ。
 一家に一台置いておけるほどだ。

 そんな手軽な装置で、これまで高い金を払って得ていたエネルギーが簡単に手に入るのだ。
 発展途上国は我先にと食いついた。

 ダズドルディア国大統領は宣言をした国の代表を見て眉間に皺を寄せた。
 彼はこうなることを予見していた。
 しかし、それでも自国においてMAエネルギーを取り扱うことには頑として首を縦に振らなかった。
 そのせいで彼の支持率は急落しているが、意見を変えようとは考えていない。

 無から生み出される夢のエネルギー。
 そんなものは存在しない。
 そこにあるのであれば、どこかからそのエネルギーを持ってきているはずなのだ。
 そのどこからかが問題であり、そして本当にそのエネルギーに害はないのかということもまた問題なのだ。
 何せ未知のエネルギーだ。
 人体にどんな影響があるのかわかったものではない。
 併せて発表された人体進化方法も、はたして本当に安全なものなのか。
 大統領は、それを確認する義務があると思っている。
 それが確認されない限りは、どんなに便利で人々がこがれようとも、自国で解禁する気はなかった。

 しかし、それは自国だからこそ。
 他国がそれらを推奨するのを止めることはできない。
 働きかけることはできるが、最終的に決めるのは他国の政治家たちだ。
 大統領は再三にわたってその危険性を訴えてきたが、それを聞き入れてくれたかどうかは、現状が物語っている。
 たとえ危険かもしれなくとも、その危険に直面しない限り人は危機感を持つことができない。
 見えない危険に怯えるよりも、目の前の便利さを取る。
 ましてその便利さが、世界を一変させうるほどのものであればなおさらだ。

 もちろんすぐに飛びついた国々ばかりではない。
 石油や石炭の産出国は逆に最大の外貨獲得手段を失うこととなり、MAエネルギー反対論を強硬に訴えている。
 余裕のある先進国も静観する構えを取っている国が少なくない。

 それでも、世界の流れは傾いてきている。
 それというのも、MAエネルギーの危険性が証明されないからだ。
 使っても使っても尽きることなく、そして無から生み出せる。
 しかも今のところ不具合は出てこない。
 まさに夢のようなエネルギー。
 逸早くMAエネルギーを取り入れた国は瞬く間に発展していっている。
 それを指をくわえて見ているだけというのは、なかなかに我慢できるものではない。

 そして世論もまたMAエネルギー肯定に傾いてきている。
 MAエネルギーを使った人体進化法。
 全ての能力が底上げされ、何よりも寿命が延びるというそれを望む人間は多い。
 しかし、その施術を受けるには、MAエネルギーが必要なのだ。
 国がMAエネルギーの使用を解禁しなければ、施術を受けることはできない。
 ならば、MAエネルギーの解禁をと願う市民が多くなるのも必然だった。
 この傾向は特に先進国で顕著である。

 発展途上国はMAエネルギーに自国の発展の希望を託し、先進国は人体進化法に惹かれる。
 もはやこの流れを止める術はない。
 大統領とて、いつまでもダズドルディア国を止めていられるとは思っていない。
 任期はまだあるとはいえ、それも確実ではないのだ。
 罷免されることだってあり得る。

 大統領は嘆息する。
 わかっているのだろうか?
 この二つの論文を発表したのが、ポティマス・ハァイフェナスだということを。
 非道な人体実験を繰り返し、国際指名手配を受けている犯罪者だということを。

 そしてもう一つ。
 大統領には気がかりなことがある。
 それは、二つの勢力がMAエネルギーに対して否定的だということ。

 一つは龍。
 直接人間に干渉されなければ、向こうから接触してくることは稀な龍が、積極的に宣言しているのだ。
 MAエネルギーには手を出すなと。
 あの龍がだ。
 その時点で嫌な予感しかしない。

 そしてもう一つはサリエーラ会。
 会長であるサリエルがMAエネルギーに否定的な意見を出している。

 いずれも人間の常識の範囲外にある生物からの警告。
 これを無視するのは得策ではないと大統領は考える。
 しかし、それでも世界の流れは止まらない。
 止められない。

 この時、もっと無理にでも、それこそ軍事力に頼ってでも止めていればと、大統領は深く後悔することになる。
 しかし時間が巻き戻ることはない。
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