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蜘蛛ですが、なにか? 作者:馬場翁
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少年は夢を見る

夏目健吾視点
 ああ、こりゃ死んだな。
 自分のことだっていうのに、他人事みたいにそんな感想が思い浮かぶ。
 けど、仕方ねえよな。
 だって夢の出来事なんだもんよ。
 これが現実だったら俺だって慌てるけどよお。
 所詮夢の中で死んでも、目が覚めて終わりだ。

 ようやく、このクソみたいな夢も終わりか。
 本当にクソみたいな夢だったな。
 俺が帝国の王子様とか、似合わないにもほどがあるだろ。
 すぐ夢だってわかった。
 だってそうだろ?
 これが夢じゃなくて何だっていうんだ。
 いわゆる明晰夢ってやつだな。

 夢だってわかれば後はやりたい放題だ。
 だって所詮夢なんだからよ。
 何しても俺の夢なんだから、俺の勝手だろ?
 我が儘言い放題、贅沢し放題。
 王子なんだし、周りの連中はほいほい言うこと聞くし、俺にできないことはなかったな。

 まあ、言ってもスマホもテレビもないし、飯は微妙だしでそこまで贅沢って感じじゃなかったんだけどな。
 しょうがねーよな。
 夢の舞台がファンタジー世界なんだから。
 夢の中なのに飯の味がするっておかしいよな。
 ていうか、俺の夢なんだからもうちょっと飯うまくしてくれてもいいだろうが。
 なんでそこらへん融通が利かねーんだよ。
 料理人に文句言っても変わんねーし。
 お母さんの料理が懐かしくなる。
 それだけでもう夢から覚めたいって思うのに、この夢ときたらやたら長々と続きやがる。

 魔物倒してレベル上げるのも最初のほうはゲームみたいで楽しかったけど、途中から飽きてきてたしな。
 ほとんどの魔物は弱いし、かといって強い魔物がいるところに行くのは時間がかかる。
 王子なんて身分だから危険なところには行かせられないってな。
 夢のくせにそんな細かいことこだわるなよ。
 夢なんだから瞬間移動くらいできてもいいだろうが。

 そろそろ本格的に飽きてきたってところでどっかの国の学園に入学。
 そこのこともあんまり期待はしていなかった。
 どうせ楽しいのは最初だけで、新しい環境に慣れればすぐに飽きてくると思っていた。
 が、俺の予想とは裏腹に、そこにはそれまでになかったものがあった。
 正確には、いた。

 そこにはクラスメイトが数人いた。
 まあ、俺の夢なんだからいても不思議じゃねえ。
 けど、山田とか大島とか、普段そこまで仲がいいわけじゃない連中だったのが予想外だ。
 俺の夢だったらまっさきに一成が出てくるだろ、普通。
 なんであいついねえんだよ。
 なんか先生まで出てきて、しかも先生は他の連中がどこにいるのかも知ってるみたいだから、一成のこと聞いてみてもはぐらかされるしよお。

 一成がいないってことには納得ができないけど、それでも知ってる連中がいるなら話は別だ。
 退屈してたこの夢にも楽しみが見出せるかもしれない。
 そんな風に最初は考えていた。
 が、それも最初のほうだけだ。
 学園でのクラスメイト達の中心には、いつでも山田がいる。

 山田の周りには自然と人が集まる。
 それも、純粋に山田のことを慕ってる連中だ。
 俺の周りに集まるのは、俺という個人じゃなくて、帝国の王子という肩書に集まって来る連中だっていうのに。
 山田のところにもそういう連中は近づこうとしてたが、いつも一緒にいる大島が追い返していた。
 おかげであいつは煩わしい権力だとか、それを前提にした付き合いだとかを考えずに、いつも自然体で過ごしている。
 その自然体がまたさらに人を惹きつけ、集める。

 俺はそれを一歩離れた位置から見てるだけ。
 その一歩が、分厚い壁で阻まれている。
 知ってた。
 山田が俺のことを苦手にしてることくらい。
 俺も自分が褒められた性格じゃないことくらい自覚してる。
 一成がいなければ味方よりも敵を作る方が多いってことも。
 一成がいたからこそ、俺はガキ大将みたいに男子の中心にいれたんだってな。
 あいつがいつもフォローしてくれるから、俺は俺らしく振舞うことが許された。
 あいつがいなけりゃ、俺の周りに集まってくるのなんてろくでもないのばっかだ。

 なんで山田のやつはあんなに楽しそうで、俺はこんなに虚しい思いしてんだ?
 なんで夢なのにこんな嫌な思いしなけりゃならないんだよ?
 どうせならもっと楽しい夢見させてくれよ。
 そうだ、どうせ夢なんだ。
 だったら思う存分好き勝手してもいいじゃねえか。
 山田と打ち解けるのなんて今さら無理そうだし、だったらいっそのこと思いっきり反発してやるか。
 どっちがより優れてるのか、試してやろうじゃねえか。

 なんて、意気込んでみたのに全敗。
 俺のプライドはズタズタ。
 どうせ夢だからってどんどんエスカレートして、しまいには暗殺未遂だ。
 それも失敗して無様にもスキルやステータスを奪われるとか。
 我ながら小物臭くて笑える。

 けど、諦めねえ。
 だってこれは俺の夢なんだから。
 願い続ければいつかは希望が叶う。
 そうやって手に入れた新たな力を引っ提げて、リベンジだ。
 若葉さんも協力してくれてるし、今度こそ俺の勝ちだな。

 あれ?
 そういえば若葉さんはいつから俺に協力してくれるようになったんだっけ?
 そこらへんなんか記憶があいまいだが、夢だしそんなもんか。
 夢で場面がいきなり切り替わるとかよくあるしな。
 明晰夢でも夢は夢ってことだな。

 気合を入れて山田と再戦。
 自信満々で挑んだ俺は、あっさり返り討ちにあった。
 おい、マジかよ?
 強すぎだろ、山田。
 お前、俺の夢のくせに何主人公してんだよ。
 代われよ。
 笑える。

 そんで最期は誰かに頭を踏み潰されて終了。
 最後まで小物くせえな、俺。
 ここまで徹底してると笑えてくる。

 けど、ま、これでこのへんてこな夢もようやく覚める。
 クソつまんねえ夢だったけど、こりゃあんま調子に乗りすぎるなっていうメッセージなんかね?
 そうだな。
 目が覚めたらちょっと謙虚さを心掛けるか。
 いっつもいっつも思ったまま行動してばっかだもんな、俺。
 その度に一成に尻拭いさせてばっかだし、反省しねえと。

 とりあえず、目が覚めたらお母さんにおはようって言わないと。
 朝ごはん何かな?
 今から楽しみだ。
 いつもはそんなこと思わないけど、この長い夢を見た後だと懐かしく感じられるだろうな。

 それで、登校したら一成にこの夢のこと話さなきゃな。
 お前なんで出てこねーんだよって文句言ってやらなきゃ。
 何言ってんだこいつって一成の顔が思い浮かぶ。

 そうだ、山田にもこの話しよう。
 お前夢の中だとマジで勇者でかっこよかったってな。
 あいつ、俺のこと嫌ってるけど、これを機に少しは仲良くなれたらいいじゃん。
 一成がいればきっと一歩踏み込める。
 山田はいきなりそんな話されても困るだろうけどな。

 ああ。
 早く目が覚めねえかな。
 戻るんだ。
 現実に。
 覚めるんだ。
 早く、覚め……。
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