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蜘蛛ですが、なにか? 作者:馬場翁
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293 エルフの里攻防戦③

「若葉さん、だよな? これはどういうことなんだ!? シュンに何をした!?」

 大島くんが叫んでくるけど、今その山田くんにナニかをした容疑者を締め上げるところだからちょっと待ってておくれ。

「白さん、僕らは本当に何もしてないよ」

 吸血っ子の首根っこ掴んで真相を洗いざらい話させようとしていたところに、まさかの鬼くんの弁護が発動!

「俊がそこに転がっているハーフエルフに何かして、いきなり苦しみだしたんだ。状況からして俊が何らかのスキルを使って、その副作用でも出たんじゃないかな?」

 鬼くんの冷静な指摘に、吸血っ子が乗っかってうんうんと頷いている。
 怪しい。
 若干吸血っ子の目が泳いでるのが、めちゃくちゃ怪しい。

「まあ、シュンにスキルを使わせる原因を作ったのはソフィアさんだけどね」

 ここにきてまさかの鬼くんの手のひら返しに、吸血っ子がグルンッという擬音が聞こえてきそうな勢いで鬼くんの方を振り向く。
 その顔には「信じられないこいつ、バラしやがった!」とでかでかと書いてある。
 やっぱ犯人はオメーじゃねーか!

「ソフィアさんの操るゾンビがそこのハーフエルフに致命傷を与えた。その治療を俊がしたけど、次の瞬間俊が苦しみだした。僕の目から見るとこんなところかな」

 鬼くんの端的な状況説明。
 うむ、実にわかりやすい。
 ん? 治療したら苦しみだした?

「ちなみに、僕の目に間違いがなければ、そこのハーフエルフの治療は間に合わなかったはずだ。どう見ても致命傷だったからね。いくら俊の魔法能力が優れていようと、あのタイミングで救えるわけがない」

 んん?
 あれ? つまり山田くんのすぐ隣で気を失っているハーフエルフは死んでたってこと?
 けど、普通に呼吸してるし、ただ単に気を失ってるだけだよね?
 ということはだ、山田くんが慈悲のスキルを使って死者蘇生をしたってことか?

「俊がやったことは、死者蘇生か? そりゃ、そんな能力、代償もなしに発動できるはずがないじゃないか。どんな代償なのかは知らないけれど、俊がそれだけ苦しんでるのも納得だよ。叶多、それを僕らのせいにしないでほしいね」

 吐き捨てるように、いまだ気丈に剣を構えている大島くんにそう言う鬼くん。
 その目には混乱しつつも、状況を整理しようとする理性の光がある。
 何とかこの状況を打破できないか、必死に考えているみたい。

 けど、私はそれを気にしてる余裕がないのだよ。
 冷や汗ダラダラですわ。
 山田くんがぶっ倒れたのって、ある意味私のせいじゃね?
 だって、慈悲使ってぶっ倒れたって、それ絶対禁忌カンストしたからだよね?
 慈悲の代償は禁忌のレベルアップ。
 それだけなら苦痛も何もない。
 禁忌がカンストしなければ。
 私も体験したけど、あの胸糞悪さは今でも忘れないわ。
 うん。
 気を失っても仕方ないね。

 そんでもって、禁忌のレベルが上がるように、わざと山田くんの前で死体をこさえたこともある犯人がこの中にいる。
 私だ!
 そう、山田くんが禁忌カンストしたのは、私のせいなのだ!
 最後のダメ押しは吸血っ子の仕業だけど、その前の仕込みは私がしていたというこの事実。
 ヤベー、吸血っ子のこと責められねー。

「それにしても叶多。俊が気を失っただけで騒ぎすぎじゃないかな?」

 私がこの事実をどう隠し通すか悩んでいると、都合のいいことに鬼くんが話題を変えてくれる。

「俊はまだ生きている。死んでいない。そしてここは戦場だ。死んでいてもおかしくない。だっていうのに、どうして気を失う程度でそこまで慌てふためくんだい? まさかとは思うけど、君、死ぬ覚悟もなく、失う覚悟もなくここに立っているんじゃないだろうね?」

 ビリビリとした威圧感が鬼くんから迸る。
 その威圧感に圧倒されたのか、少し離れたところで争っていた帝国軍とエルフ軍の動きが止まる。
 既に生のないゾンビですら、恐怖するかのように動きを止めた。
 その威圧感を真正面から受け止める羽目になった大島くんは、汗を滝のように流しながら震えている。
 頭からバケツの水をひっかぶったかのように、冗談みたいな量の汗が浮かび上がっている。
 ガクガクと震える体。
 むしろよくまだ立っていられると思うくらいだわ。

「もしそんな半端な覚悟でこの場に立っているのだとしたら、ガッカリだよ。真実も知らず、覚悟もなく、それなのに自分たちが正義だと思い込んでこんなところにいるのかい? それは滑稽を通り越して怒りすらわいてくるほどだ。僕のかつての友人がこんな愚物だと思うと、不愉快極まりない」

 鬼くんが、らしくなく嫌悪感を隠そうともせず相手を罵る。
 その怒りは、威圧感で誤魔化しているけれど、どこか嘘くさい。
 まあ、かつての親友が相手だからいろいろと思うところがあるのかもしれない。
 その相手、大島くんはというと、鬼くんの威圧にあてられて半分意識が飛んでる。

「叶多。最初で最後の警告だ。武器を下して投降しろ。でなければ、たとえかつての親友だろうと、僕は切る。それが覚悟というものだ」

 そんな気サラサラないだろうに、鬼くんは威圧感たっぷりに宣言する。
 それが止めだった。
 大島くんの足からフッと力が抜け、その場にへたり込んでしまう。
 既に彼我の戦力差はイヤというほど理解させられていて、理性よりも先に本能で屈服させられちゃってる。
 そりゃ、ムリってもんですわー。
 今大島くんが味わっている絶望感は、かつて私がアラバと初遭遇した時のものに似てるんじゃなかろうか?
 絶対に勝てないと、気配だけで知らしめる。
 それだけの実力差があるんだから。

 大島くんが戦意喪失でリタイア。
 山田くん、先生、ハーフエルフは昏倒している。
 残ったのは、ハイリンス、黒だけ。
 うん。
 この場はもう鬼くんと吸血っ子に任せちゃっていいな。
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